

人工甘味料の話題でまず混乱を生むのが、「IARC(国際がん研究機関)」と「JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家委員会)」が“別の問い”に答えている点です。食品安全委員会の整理によれば、IARCは「発がん性の根拠の強さ(ハザード同定)」を示す分類であり、実際の生活でどの程度がんが起きるか(リスクの大きさ)を示すものではありません。
一方でJECFAは、摂取量や暴露も含めて「実際の条件下でどの程度危険か(リスク評価)」を検討し、アスパルテームのADI(許容一日摂取量)0~40mg/kg体重/日を変更する理由はない、と再確認しています。
つまりニュースで「2B」と聞いた瞬間に“即アウト”と考えるのではなく、①分類はハザード、②日常摂取の範囲でどうかはリスク評価、という二段構えで読むのが現実的です。
ここで重要なのは、危険性という言葉が「毒か安全か」の二択で語られがちなことです。しかし評価機関が見ているのは、たとえば「根拠の限界(偶然・バイアス・交絡が排除できるか)」や「用量(どれくらい摂ると何が起きるか)」です。食品安全委員会のQ&Aでも、IARCが根拠の限界を挙げて2Bにしたこと、JECFAはADI範囲内なら懸念はないとしたことが併記されています。
参考)アスパルテームに関するQ&A
ADI(許容一日摂取量)は「一生涯、毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと考えられる量」として整理されています。食品安全委員会は、アスパルテームのADIが0~40mg/kg体重/日であることを示し、JECFAの結論としてこの値を変更しないと説明しています。
さらにJECFAの評価では、世界の推定摂取量(多食者)として「大人≦12mg/kg体重、子ども≦20mg/kg体重」が紹介され、ADIより低いとされています。
「数字だけだとピンと来ない」ので、感覚に落とし込むための見方を提示します。食品安全情報(国立医薬品食品衛生研究所の資料)に引用されたWHOの説明では、ダイエット清涼飲料1缶に200~300mg程度のアスパルテームが含まれる場合、体重70kgの成人がADIを超えるには“他の食品からの摂取がない”前提でも、1日に9~14缶以上が必要という目安が示されています。
参考)https://www.nihs.go.jp/dsi/food-info/foodinfonews/2023/foodinfo202315ca.pdf
もちろん製品ごとに含有量は異なり、ガム・ヨーグルト・ゼリー・卓上甘味料・一部医薬品など複数ソースが重なる可能性もあります。食品安全情報の別添には、アスパルテームがダイエット飲料だけでなく加工食品やガム、医薬品、歯磨き粉など多様な用途で使われ得ることがまとめられています。
ここでの実務的なポイントは2つです。
・「ADIに近いか」を把握するには、①体重、②摂取頻度、③複数食品の合算、の3点が必要です。
・一方で、皮膚のかゆみのような“過敏反応”は、ADIの議論(毒性学的な安全域)と別軸で起きることがあります(後述)。
皮膚のかゆみで悩む人が「アスパルテーム危険性」を検索する背景には、がんなどの長期リスクだけでなく、「食べた直後からの体感症状」があるケースが少なくありません。ここでは、医学的に確立した一般論(ADI・発がん性評価)と、個別に起こり得る過敏反応(アレルギー等)を切り分けて考えるのが大切です。
まず、甘味料がアレルギー様の症状に関与し得るという“症例報告ベース”の話はゼロではありません。皮膚科のコラムでは、スクラロースやアスパルテームなどエリスリトール以外の甘味料でもアレルギー発症の症例報告が学会で言及され、プリックテスト陰性でも好塩基球活性化試験で診断した例があったことが紹介されています。
参考)甘味料によるアレルギー Part 2:院長”はらすす”皮膚ア…
また、J-STAGE等の国内文献情報として「アスパルテーム由来のホルムアルデヒドが原因と考えられる全身性アレルギー性皮膚炎」という報告情報も存在します。
参考)301 Moved Permanently
ただし、ここで注意点があります。症例報告や学会報告は「起こり得る」を示す一方で、「頻度が高い」「一般に危険」とまでは言えないことが多い、という限界もセットで理解する必要があります。食品安全委員会やJECFAの枠組みは主に集団としてのリスク評価であり、個別のアレルギー体質・特異体質は“例外”として別対応が必要になりやすい領域です。
かゆみと関連する可能性を整理すると、主に次のパターンが現実的です。
・じんましん(蕁麻疹):摂取後、比較的短時間で出ることがある。
・湿疹・皮膚炎:特定の成分が引き金になり、繰り返しで悪化することがある。
・「甘味料そのもの」ではなく、飲料・菓子に共存する香料、保存料、着色料、酸味料など別要因の可能性もある(自己判断が難しい)。
受診や自己管理の観点では、次のような“記録”が役に立ちます。
・食べた商品名、量、摂取時刻。
・症状が出た時刻(何分後・何時間後か)。
・皮膚症状の場所(全身、首、腕、顔など)と写真。
・同日に摂取した他の食品・飲料・サプリ・薬。
この手の情報は、原因探索の精度を上げます(特に複数の添加物が絡む場合)。
「2B」というラベルはインパクトが強く、SNSでは“危険の証明”として一人歩きしがちです。しかし食品安全委員会が明確に述べている通り、IARCの分類は「根拠の強さ」を示すもので、現実的な暴露でがんがどの程度起きるかを示すものではありません。
食品安全情報(国立医薬品食品衛生研究所の別添)でも、IARCはハザード同定、JECFAはリスク評価であり、両者の結果を合わせて見る重要性が説明されています。
ここで、検索上位記事でよく見かける論点(メタノール、分解産物、脳腫瘍など)を“整理して”読むコツを示します。食品安全委員会のQ&Aでは、アスパルテームは摂取後に消化管内で分解され、一般的な食品を摂取した後に吸収される代謝物(フェニルアラニン、アスパラギン酸、メタノール)と同じになること、そしてアスパルテームがそのまま全身循環に入ることはない、と説明されています。
つまり「分解して○○になる」こと自体は“危険性の証明”ではなく、量と代謝の文脈で評価する対象です。
一方で、「限られた根拠」「研究の限界」という表現が出てきたら、読み手側が取るべき態度は2つあります。
・断定を避ける:危険/安全の極論より、現時点の合意と不確実性を同時に持つ。
・生活上の最適化に落とす:糖分を減らす目的なら、ノンシュガー甘味料“以外”の選択肢(飲料頻度、味覚の慣れ、食習慣)も併せて設計する。
なおWHOは、体重管理などの目的でノンシュガー甘味料を常用することを推奨しない、というガイドライン上の立場も示しており(条件付き勧告)、リスク評価とは別に「長期的な健康戦略」としての議論がある点は押さえておくと誤解が減ります。
検索上位では「発がん性」「ADI」「WHOのニュース」が中心になりがちですが、皮膚のかゆみで困っている人にとっては、実務として“何をどう避けるか”が最優先になる場面があります。ここでは独自視点として、症状がある人向けに「ラベルの見方」を具体化します(危険性の議論を、日常の意思決定に接続するためです)。
まず大前提として、EUではアスパルテームを含む場合に「フェニルアラニン源」を表示する要請がある、と食品安全情報の別添で紹介されています。
日本の表示は制度が異なりますが、少なくとも「甘味料(アスパルテーム)」のように添加物名が書かれていることが多く、かゆみが続く人は“商品名ではなく成分名”で横断的に追うのが有効です。
かゆみ対策としてのチェック手順は、次のようにすると現場で回ります。
✅ ステップ1:直近1~2週間の「口に入れた甘味料」を棚卸しする
・ゼロ系炭酸、プロテイン、ガム、タブレット、ヨーグルト、ゼリー、のど飴、咳止め、ビタミンのチュアブルなど(別添で用途の幅が示されている)。
✅ ステップ2:「アスパルテーム単独」の日を作るのではなく、いったん“強い候補”をまとめて減らす
・皮膚症状は遅れて出たり、複数要因が重なったりするため、単一要因の実験が難しい。
✅ ステップ3:再導入は“量を固定して”行う
・ADIの考え方は毒性学的安全域の話ですが、過敏反応の探索では「量を固定し、同条件で再現するか」を見ないと判断がぶれます。
✅ ステップ4:症状が強い場合は自己実験を中止して受診
・学会報告レベルでは、プリックテスト陰性でも別検査で診断した例があるため、検査設計は専門家に任せた方が安全です。
そして、意外に見落とされがちなのが「同じ“ゼロ飲料”でも甘味料の組み合わせが違う」点です。食品安全情報の別添でも、アスパルテーム関連の再評価が他の甘味料(アスパルテーム-アセスルファム塩等)と絡んで進むことが示され、現実の製品が“単一成分”でないことを示唆しています。
そのため、かゆみがある人は「アスパルテームだけを悪者にする」より、「特定商品で起きるのか」「複数商品に共通する成分は何か」を淡々と潰す方が早いことがあります。
権威性のある日本語の参考リンク(IARC分類とADIの考え方、国内の見解整理)。
食品安全委員会:アスパルテームに関するQ&A(IARC分類の意味、JECFAのADI再確認、国内摂取量推計の位置づけ)