

バルプロ酸(例:デパケンR)では、副作用として「体重増加」が記載されており、臨床試験でも体重増加が一定割合で報告されています。具体例として、デパケンR錠のクロスオーバー比較試験(てんかん患者)では、主な副作用として傾眠に加えて体重増加が報告されています。体重増加は「必ず起こる」ものではありませんが、ゼロではないため、開始後~数か月の変化を記録しておく価値があります。
また、添付文書では「食欲亢進」も副作用として挙げられており、体重増加の背景に“食欲の変化”が絡む可能性が示唆されます。つまり「代謝が落ちたから太った」と決めつけるよりも、まずは食欲・間食・活動量・眠気(動きにくさ)など、体重に効く要素が薬の影響で揺れていないかを点検するのが現実的です。特に、眠気やだるさが強いと、運動量が下がり、結果的に体重が増えやすくなる流れもあり得ます。
体重増加を恐れて自己中断すると、てんかん・双極性障害・片頭痛予防など、元の治療目的が崩れるリスクがあります。まずは「体重の増え方(時期・速度)」を把握し、薬の影響か生活要因かを医師と一緒に切り分ける姿勢が重要です。
「太る」という現象は、見た目以上に“体内のシグナル”の結果として起こります。小児てんかん患者を対象にした報告では、バルプロ酸服用で体重増加を認めた症例において、血清インスリン値やインスリン/血糖比の上昇が観察され、さらに体重増加例で食欲亢進が確認されたと紹介されています。こうした所見は、体重増加が単なる気の緩みではなく、食欲や糖代謝の方向性が変わることで進む可能性を示しています。
ここが“あまり知られていない落とし穴”で、体重増加対策を「カロリー計算」だけにすると、途中で疲れて続かないことがあります。むしろ、食欲の波が強い人ほど、行動の設計(先に環境を整える)が効く場面が多いです。たとえば「家に高カロリーのお菓子を置かない」「夜のスマホ時間を固定する」「食事の開始時に汁物やたんぱく質から入る」など、意思決定を減らす工夫が体重維持に直結します。
前述の報告では、体重増加に対して「ゲームは1日1時間以内」といった行動療法を行い、体重増加の増悪を阻止できたとされています。つまり、薬を替える前に“生活の使い方”を調整するだけで、継続可能性が上がるケースがある、というのは希望になる情報です。仕事が忙しい人ほど、完璧な運動計画より「毎日守れる小さな制限」を一つ作るほうが結果が出やすい傾向があります。
参考:体重増加とインスリン・食欲亢進、行動療法の考え方(研究紹介)
https://yuhp-ped.jp/archive/fpe/fpe130912.html
皮膚のかゆみは、乾燥・汗・ストレスでも起こる一方で、薬の副作用の文脈では「見逃したくないサイン」にもなります。バルプロ酸の添付文書では、重大な副作用として重篤な肝障害(劇症肝炎等)や黄疸、脂肪肝などが挙げられており、黄疸関連の説明では“体がかゆくなる”などの症状が患者向け資材にも記載されています。もちろん、かゆみ=肝障害と短絡は禁物ですが、「かゆみ+尿の色が濃い」「白目が黄色い」「だるさや吐き気が強い」などがセットなら、早めに医療機関へ連絡する判断材料になります。
もう一つの観点として、添付文書の「その他の副作用」には発疹(過敏症)も含まれます。かゆみが“蕁麻疹のように盛り上がる”“赤い発疹が広がる”“発熱やリンパ節の腫れがある”といった場合は、単なる乾燥とは扱いが変わってきます。薬疹や過敏症症候群の初期は皮膚症状から始まることもあるため、写真を撮って経過を残し、受診時に見せられるようにすると話が早いです。
体重増加と同時にかゆみが出ていると「太ったから肌が擦れてかゆい」と自己解釈してしまいがちですが、薬の副作用の可能性を一段階は考えておくのが安全です。特に投与開始初期や増量直後の変化は、記録(体重・食欲・睡眠・皮膚症状)を取るだけでも診察の質が上がります。
参考:デパケンR錠の電子添文(体重増加、発疹、肝障害などの記載)
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00061616.pdf
薬の副作用相談は、言い方次第で対応の選択肢が増えます。受診時(または電話相談)に伝えるとよい要点は、次のように“数字と経過”を中心にすることです。
😀 体重:開始前→現在、増加した期間、1週間あたりの増え方
🍚 食欲:空腹感の強さ、間食の増加、夜食の有無、食事の時間帯
😴 眠気:日中の眠気、活動量の低下、運転・仕事への支障
🧴 皮膚:かゆみの部位、発疹の有無、悪化のタイミング、写真
🟡 併発症状:尿の色、黄疸、だるさ、吐き気、発熱など
対策は「我慢」より「設計」が軸です。食欲が上がっているタイプなら、まずは食事の“固定ルール”を作るのが効果的です(例:夕食後は甘い飲料を買わない、夜の間食はヨーグルト等に置換、週2回だけでも散歩を予定に組み込む)。さらに、行動療法が体重増加の増悪を抑え得るという報告もあるため、スマホ・ゲーム・夜更かしなど“食欲が暴れやすい時間帯”を管理する発想は実用的です。
独自視点として、かゆみ対策は「皮膚科的ケア」と「薬の安全確認」を分離して考えるのがポイントです。保湿や入浴法の工夫(熱すぎる湯を避ける、洗いすぎない、保湿剤を入浴後すぐ塗る)で改善するかを見つつ、同時に“黄疸や尿色”など危険サインのチェックをルーチン化すると、不安に振り回されにくくなります。最後に繰り返しになりますが、自己判断での中止は避け、困っている内容を具体化して相談することが、最短で安全な落としどころに近づく方法です。