

多くの人が健康のために「果物や野菜をたっぷり食べればビタミンは十分」と考えていますが、ビタミンB12に関しては、その常識が大きな落とし穴となります。結論から申し上げますと、一般的な果物や野菜にはビタミンB12は全く含まれていません。
この事実は、特に植物性食品中心の食生活を送るベジタリアンやヴィーガンの方々、そして美容や健康のためにフルーツ中心の生活をしている方々にとって衝撃的な情報かもしれません。なぜなら、ビタミンB12は植物自体が生成する栄養素ではなく、土壌や腸内に存在する「微生物(細菌)」によって作り出されるものだからです。
かつて、農薬や化学肥料が使われていなかった時代の野菜には、土壌中の細菌が付着していたり、虫食いの部分に微量のビタミンB12が含まれていたりすることもありました。しかし、現代の清潔で管理された農業環境で生産される野菜や果物は、洗浄の過程でこれらの細菌が取り除かれるため、ビタミンB12の含有量は「0(ゼロ)」となります。
インターネット上には「アボカドやバナナにビタミンB12が含まれる」といった誤った情報が散見されますが、文部科学省の食品成分データベースを確認しても、これらにはビタミンB12は含まれていません。この誤解は、おそらく他のビタミンB群(葉酸やビタミンB6など)と混同されているか、あるいは「体に良いもの=全ての栄養が入っている」というイメージからくるものでしょう。
また、「発酵食品なら植物性でもビタミンB12が摂れる」という説も注意が必要です。納豆や味噌、醤油などの発酵食品には、製造過程で菌が関与するため微量のB12が含まれることがありますが、その量は極めて微量であり、1日に必要な摂取量を満たすには現実的ではない量(例えば納豆なら何十パックも)を食べなければなりません。
さらに注意すべきは、「シュードビタミンB12(偽ビタミンB12)」の存在です。スピルリナやクロレラといった藻類の一部には、ビタミンB12に似た化学構造を持つ物質が含まれていますが、これらは人間の体内でビタミンとして機能しないばかりか、本物のビタミンB12の吸収を阻害する可能性さえ指摘されています。
つまり、「果物や野菜を食べているからビタミンB12は大丈夫」という認識は、知らず知らずのうちに重度の欠乏症を招くリスクがあるのです。まずは「果物からは摂れない」という事実を正しく認識し、適切な供給源を知ることが、皮膚の健康を守る第一歩となります。
ビタミンB12とは?効果や多く含まれている食べ物などを医師が解説 | クリニックフォア
上記のリンクでは、ビタミンB12が野菜や果物にほとんど含まれていない事実と、菜食主義者が注意すべき点が医師によって解説されています。
皮膚のかゆみというと、乾燥やアレルギー、湿疹などを思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、保湿をしても薬を塗っても治まらない、あるいは皮膚の表面には何も異常がないのにかゆみを感じる場合、それはビタミンB12不足による神経障害が原因かもしれません。
ビタミンB12は「神経のビタミン」とも呼ばれ、末梢神経の傷を修復し、正常な機能を維持する重要な役割を果たしています。具体的には、神経細胞の軸索を包んでいる「髄鞘(ずいしょう)」という保護膜の生成を助けています。電気コードに例えるなら、銅線を守るゴムの被覆カバーのようなものです。
体内のビタミンB12が不足すると、この髄鞘の修復が追いつかず、神経が剥き出しの状態に近づきます。すると、わずかな刺激でも神経が過敏に反応し、脳に誤った信号を送ってしまいます。これが、「チクチクする」「虫が這うような感じがする」「焼けるような感覚」といった異常感覚や、原因不明のかゆみとして現れるのです。これを「末梢神経障害性掻痒(そうよう)」と呼ぶこともあります。
さらに、ビタミンB12は免疫機能や炎症物質の制御にも関わっています。
以下に、ビタミンB12不足が皮膚トラブルを引き起こす主なプロセスをまとめました。
特に、高齢者や胃の手術を受けた方、極端な偏食をしている方は、ビタミンB12の吸収能力が低下しているため、リスクが高まります。皮膚科でステロイド外用薬を処方されても改善しない場合、内側からの神経ケア、つまりビタミンB12の補給が必要なケースが少なくありません。実際、医療現場では、難治性の皮膚炎や末梢神経障害に対して、活性型ビタミンB12製剤(メコバラミン)が処方されることがあります。
かゆみは「痛み」の軽いバージョンではなく、独立した感覚であり、QOL(生活の質)を著しく低下させます。「たかがかゆみ」と放置せず、栄養不足のサインである可能性を疑ってみることが大切です。
アトピー性皮膚炎の原因と治し方:食べ物やサプリメント | THクリニック
上記のリンクでは、かゆみの原因となるヒスタミンのメカニズムや、ビタミンB12を含む栄養素が皮膚の炎症や神経にどのように作用するかについて詳しく説明されています。
果物や野菜にビタミンB12が含まれていない以上、私たちは意識的に特定の食品を選んで食べる必要があります。ここでは、効率よく摂取できる食品をランキング形式で紹介し、特に植物性食品を好む方にとっての「救世主」となる食材についても深掘りします。
まずは、100gあたりのビタミンB12含有量が多い食品ランキングを見てみましょう。
※数値は文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」を参照しています。
| 順位 | 食品名 | 含有量 (μg/100g) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 1位 | しじみ(水煮) | 68.4 μg | 圧倒的な含有量。味噌汁の具として最適。 |
| 2位 | 牛レバー(生) | 52.8 μg | 吸収率も高い動物性食品の王様。 |
| 3位 | あさり(水煮) | 64.0 μg | 日常的に使いやすい貝類。鉄分も豊富。 |
| 4位 | 焼きのり(アマノリ) | 57.6 μg | 植物性食品の中で唯一の実用的な供給源。 |
| 5位 | さんま(生) | 16.0 μg | 青魚は血液サラサラ効果も期待できる。 |
このランキングで注目すべきは、4位にランクインしている「海苔(のり)」です。
多くの海藻類(わかめ、昆布など)のビタミンB12含有量はゼロに近いか、人間に利用できないタイプのものですが、私たちが普段おにぎりや海苔巻きで食べている「アマノリ(スサビノリ)」や「岩のり」には、人間が利用できる活性型のビタミンB12が豊富に含まれていることが研究で明らかになっています。
これは、植物性食品を中心とする食生活を送る人にとって非常に重要な事実です。「果物や野菜にはない」と述べましたが、海苔は広い意味での「海の野菜」として、唯一の例外的な存在と言えます。
焼き海苔1枚(約3g)には約1.7μgのビタミンB12が含まれています。成人の1日の推奨摂取量は2.4μgですので、焼き海苔を1日2枚食べるだけで、推奨量の大部分をカバーできる計算になります。
ただし、注意点もあります。「味付け海苔」や「韓国海苔」も同様にビタミンB12を含みますが、塩分や油分が添加されているため、過剰摂取には気をつける必要があります。また、青のり(アオサ)にも含まれていますが、料理のトッピング程度では摂取量が少なくなってしまいます。
魚介類、特に貝類の内臓部分には高濃度のビタミンB12が蓄積されています。しじみやあさりの味噌汁は、汁に溶け出した栄養素を無駄なく摂れるため、非常に理にかなった調理法です。レバーが苦手な人や、毎日魚料理を作るのが大変な人は、朝食に焼き海苔を取り入れたり、あさりの水煮缶をスープやパスタに使ったりすることで、手軽に不足を解消できるでしょう。
ビタミンB12が多い食べ物・食品ランキング!1日の摂取目安量 | BASE FOOD MAGAZINE
上記のリンクでは、食品ごとの詳細なビタミンB12含有量ランキングや、植物性食品から摂取したい人向けの海苔や海藻類の活用法が紹介されています。
ここまで「果物にはビタミンB12が含まれていない」という事実をお伝えしましたが、だからといって「果物を食べる意味がない」わけではありません。むしろ、ビタミンB12の効果を最大限に引き出すためには、果物の摂取が不可欠なのです。その鍵を握るのが、果物に豊富に含まれる「葉酸(ようさん)」です。
ビタミンB12と葉酸は、体内で「造血のビタミン」としてペアで働きます。この2つは協力して赤血球の形成を助けるだけでなく、DNAの合成や細胞の修復においても密接に関係しています。どちらか一方が欠けても、正常な細胞分裂が行われず、正常な赤血球が作られない「悪性貧血」や、神経細胞の修復遅延によるかゆみ・しびれの原因となります。
つまり、ビタミンB12を含む「魚介・レバー・海苔」だけを食べていても、相棒である「葉酸」が不足していれば、その効果は半減してしまうのです。ここで、葉酸を豊富に含む果物の出番です。
相乗効果を高めるおすすめの果物(葉酸が豊富なもの):
効果的な食べ合わせの提案:
最強の組み合わせは、「ビタミンB12源」+「果物(葉酸)」を同じ食事内、あるいは同じ日に摂取することです。
特に皮膚のかゆみに悩む方にとって、この「ニコイチ」の摂取は非常に重要です。細胞の入れ替わり(ターンオーバー)を正常化し、傷ついた神経を修復するためには、B12と葉酸の両方が十分にある状態でなければならないからです。
また、果物に含まれるビタミンCは、鉄分の吸収を助ける働きもあります。ビタミンB12、葉酸、鉄分は「血液の三要素」とも言え、これらが揃うことで全身に酸素と栄養が行き渡り、乾燥に負けない強い皮膚を作ることができます。
「果物にはB12がないから食べない」ではなく、「B12を働かせるために果物を食べる」という意識を持つことが、肌トラブル解決への近道となります。
ビタミンB群の働き、多く含まれる食品を紹介 | 森永製菓
上記のリンクでは、ビタミンB群が互いに助け合って働く性質や、果物や野菜に含まれる葉酸とのバランスの良い摂取の重要性について解説されています。
最後に、多くの記事ではあまり触れられない、しかし極めて重要な「吸収メカニズム」について独自の視点から解説します。いくらビタミンB12と葉酸を食事から摂取しても、それが体内に吸収されなければ意味がありません。実は、ビタミンB12は数あるビタミンの中でも、最も吸収のプロセスが複雑で、難易度が高い栄養素なのです。
食品中のビタミンB12は、タンパク質と固く結合した状態で存在しています。これを引き剥がして吸収可能な状態にするために絶対に必要なのが、「胃酸」です。
このプロセスにおいて、最大の問題となるのが「胃酸不足」と「早食い」です。
ストレスが多い現代人や、加齢によって胃の機能が低下している人、あるいは胃薬(特に制酸剤やH2ブロッカー、PPIなどの胃酸を抑える薬)を長期服用している人は、胃酸の分泌が弱くなっています。すると、食品からビタミンB12をうまく切り離すことができず、そのまま排泄されてしまうのです。これを「吸収不良」と呼びます。
吸収率を高めるための「咀嚼(そしゃく)」の重要性:
ここで鍵となるのが、よく噛んで食べることです。「咀嚼」は単に食べ物を細かくするだけでなく、脳に信号を送り、胃酸の分泌を促す準備運動の役割を果たしています。よく噛むことで唾液と胃液の分泌がスムーズになり、ビタミンB12をタンパク質から切り離す効率が格段に上がります。
特に、ビタミンB12源として紹介した「しじみ」や「海苔」などは、消化吸収を助けるために意識してよく噛む必要があります。忙しいからといって、お茶漬けのように流し込んだり、サプリメントだけで済ませたりしていると、胃酸分泌のスイッチが入らず、吸収効率が落ちてしまう可能性があります。
腸内環境と「手作り」の罠:
また、小腸の環境も重要です。腸内環境が悪化し、悪玉菌が増殖していると、せっかく届いたビタミンB12を悪玉菌が横取り(消費)してしまうことがあります。
最近では「植物性ミルクにB12を添加したスムージー」なども人気ですが、冷たい液体は胃酸を薄め、胃の働きを弱める可能性があります。スムージーにする場合も、噛むように飲むか、温かいスープとして摂取する方が、B12の吸収という観点からは理にかなっています。
対策のまとめ:
「何を食べるか」と同じくらい、「どう食べるか」がビタミンB12の摂取においては決定的に重要です。皮膚のかゆみを改善するためには、高級な食材を探す前に、まずは「よく噛んで食べる」という基本を見直してみるのも、意外な特効薬になるかもしれません。
ビタミンB12 - 「健康食品」の安全性・有効性情報 | 国立健康・栄養研究所
上記のリンクでは、ビタミンB12が胃酸や内因子によって吸収される複雑なメカニズムや、高齢者や胃酸分泌が少ない人が陥りやすい吸収不全について、専門的な知見が記載されています。