

実は水いぼを1個取り除いても、潜伏中のウイルスで翌月また新しく出てきます。
水いぼは正式名称を「伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)」といい、ポックスウイルスの一種である伝染性軟属腫ウイルス(MCV:Molluscum contagiosum virus)が皮膚に感染して起こるウイルス性疾患です。子どもの5〜10%が感染するとされており、特に免疫が未発達な幼児・学童期に多くみられます。
見た目の特徴は、直径2〜10mm程度のドーム状に盛り上がった小さなブツブツで、光沢があり、中央がおへそのようにくぼんでいる(臍窩:さいか)のが典型的な姿です。体幹・四肢・脇の下・デリケートゾーンなどに現れやすく、少ないときは数個ですが、放置すると受診時に60個以上に増えているケースも珍しくありません。
「かゆみはないはず」と思っている方も多いのですが、実は状況によってかゆみが生じます。通常の水いぼは痛みもかゆみもないことが多いのですが、以下の状況ではかゆみが現れやすくなります。
- 水いぼ周囲に炎症が起きたとき(免疫が反応しているサイン)
- 乾燥肌やアトピー性皮膚炎で皮膚のバリア機能が低下しているとき
- 引っかいて皮膚に傷がつき、二次的な湿疹が発生したとき
つまり、かゆみが出てきたというのは必ずしも悪化ではなく、体の免疫がウイルスを攻撃し始めているサインの可能性もあります。しかし、その段階で強くかき壊してしまうと、ウイルスが周囲に広がり、さらに水いぼが増えてしまうリスクがあるため注意が必要です。かゆみを感じたら要注意です。
特に乾燥肌やアトピー性皮膚炎のお子さんは、皮膚のバリア機能が低下しているため水いぼに感染しやすく、かゆみもより強く出やすい傾向があります。爪を短く切って清潔に保つことが、感染拡大を防ぐ最初のステップになります。
日本小児皮膚科学会「みずいぼ」公式Q&A(水いぼの基本情報と感染対策について)
「伝染性軟属腫の治療ガイドライン」を調べている方に知っておいてほしい、重要な事実があります。現時点において、伝染性軟属腫の診療ガイドラインは日本では公式に存在しません。これは関東中央病院の日野治子先生(皮膚科特別顧問)も明言されており、「多くの医師が治療の判断基準となる明確な指針を要望している」のが現状です。
ガイドラインが存在しないことがそのまま問題につながっています。同じ水いぼでも、あるクリニックでは「すぐに摘除すべき」と言われ、別のクリニックでは「様子を見ましょう」と言われる——このような経験をした保護者の方は多いのではないでしょうか。どちらが正しいか、は一概に言えません。
ただし、一定の指針となるのが4学会(日本臨床皮膚科医会・日本小児皮膚科学会・日本皮膚科学会・日本小児感染症学会)の統一見解です。これは平成22年(2010年)に公表されたもので、学校保健安全法の観点から作成されています。主な内容は以下のとおりです。
| 項目 | 統一見解の内容 |
|------|--------------|
| 登校・登園 | この疾患のために学校を休む必要はない |
| プール参加 | プールの水ではうつらないので入ってよい |
| 共用物品 | タオル・浮輪・ビート板の共用は避ける |
| 治療方針 | 長期間を要するため、周囲への感染を考慮し治療を検討する |
「水いぼがあるとプールに入れない」という認識は根拠がない、ということですね。多くの施設が今もプール禁止の対応をとっていますが、4学会の見解上は入浴・プールともに問題なく、ラッシュガードなどで患部を覆う配慮があればなお安心です。
ただし、この統一見解は「出席の可否」に関するものであり、「治療方針」そのものを定めたものではないことも押さえておく必要があります。治療を「する・しない」の判断は、医師と保護者・患者が個別に話し合って決めるのが現状の原則です。
日本皮膚科学会「皮膚の学校感染症とプールに関する統一見解」(4学会の公式見解PDFへのリンクページ)
水いぼの治療には複数の選択肢があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。かゆみを抑えながら早く治したいという場合には、どの方法が自分に合っているかを理解した上で医師に相談することが大切です。
① 摘除法(鑷子による除去)
最も確実な方法とされているのが、トラコーマ鑷子(せっし)という特殊なピンセットで水いぼをひとつずつつまみ取る摘除法です。摘除された部分のウイルスは直接取り除かれるため、治療効果は高いとされています。ただし、痛みを伴うのが最大のデメリットです。
痛みを軽減するために、局所麻酔薬(リドカイン)を含む「ペンレステープ18mg」を貼付してから処置を行う方法があり、2012年に「伝染性軟属腫摘除時の疼痛緩和」としての適応が保険承認されました。麻酔が効くまで30分〜1時間の待機が必要ですが、痛みを大幅に軽減できます。これは使えそうです。
注意点は、潜伏期間が14〜50日あるため、一度きれいに取り除いても潜伏していたウイルスが数週間後に新しい水いぼとして出現することがあるということです。複数回の通院が必要になることを、事前に理解しておく必要があります。
② 液体窒素(凍結療法)
マイナス196度の液体窒素を使って水いぼを凍結させる方法です。摘除ほど確実ではないものの、直接ウイルスにダメージを与えることができ、1〜2週間おきに繰り返すことで効果が上がります。保険適用で受けられます。
③ 外用薬(塗り薬)
痛みを伴う処置を避けたい場合に選ばれることが多いのが外用療法です。40%硝酸銀・水酸化カリウム・イミキモド・サリチル酸ワセリン・ヨード(イソジン)・漢方軟膏「紫雲膏」など複数の種類があります。ただし、いずれも直接切除や凍結療法より確実性は低く、保険適用外のものも多い点は覚えておきましょう。
| 治療法 | 確実性 | 痛み | 保険適用 | 備考 |
|--------|--------|------|----------|------|
| 摘除(ペンレス使用) | ◎ | 中程度 | ○ | 麻酔で痛みを軽減可 |
| 液体窒素 | ○ | あり | ○ | 繰り返し通院が必要 |
| 外用薬 | △ | なし | 一部×(自費) | 時間がかかる |
| ヨクイニン内服 | △ | なし | ✗(水いぼには適用外) | 補助的な役割 |
| 経過観察 | ― | なし | ― | 6か月〜3年が目安 |
④ ヨクイニン内服
ハトムギの皮を除いた種を原料とした生薬で、肌あれ・いぼへの効果があるとされています。ただし、「尋常性疣贅(いわゆるイボ)」に対しては保険適用があるものの、水いぼ(伝染性軟属腫)には保険適用がありません。自費での処方になる場合がほとんどです。エビデンスとしても補助的な位置づけであることを理解しておく必要があります。
かゆみを抑えるための対応としては、上記の治療と並行して、かゆみ止めの抗ヒスタミン薬(内服)や保湿ケアが有効です。かゆみが強い場面での保湿ケアが条件です。皮膚科を受診した際に、かゆみの症状も一緒に相談してみてください。
水いぼのかゆみを放置してかき壊した場合、単に水いぼが増えるだけでは済まないことがあります。掻きこわした皮膚には細菌が侵入しやすく、とびひ(伝染性膿痂疹)を合併することがあるからです。特にアトピー性皮膚炎のお子さんは、かゆみをきっかけに湿疹が大幅に悪化するリスクもあります。厳しいところですね。
日常ケアで特に重要なのは、以下の3つのポイントです。
保湿を徹底する
水いぼは乾燥した皮膚のバリア機能が低下したところから侵入しやすいウイルスです。感染しているお子さんでも、日頃からの保湿ケアを続けることで、新たな感染拡大を防ぐ効果が期待できます。入浴後の保湿は忘れずに行ないましょう。お風呂上がりすぐの3分以内の保湿が原則です。
爪を短く清潔に保つ
かゆみで引っかくことが水いぼの拡大・他の部位への感染の最大の原因のひとつです。爪を短く切り、就寝時には綿の手袋をはめるなどの対策で、寝ている間の無意識の掻きこわしを防ぐことができます。
タオルや衣類の共用を避ける
水いぼはプールの水では感染しませんが、ウイルスが付着したタオル・浮輪・衣類などを介しての感染は起きます。兄弟間でのタオルの共用も避けるとよいでしょう。
また、アトピー性皮膚炎の治療をしっかり行なうことも、水いぼの感染拡大を防ぐ間接的な対策になります。皮膚バリア機能を整えることで、ウイルスが侵入しにくい肌環境を作れるからです。アトピー治療の継続が条件です。
かゆみが強い時期のスキンケアには、低刺激・無香料の保湿クリームが向いています。市販品であれば「ヒルドイド(へパリン類似物質)」を含む保湿剤や、セラミド配合の敏感肌向けローションが皮膚科でも薦められることが多いです。ただし、急に悪化したかゆみや炎症がある場合は、自己判断でケアを続けるのではなく、皮膚科への受診を優先してください。
一之江駅前ひまわり医院「大人も子供もうつる『水いぼ』の症状や治療・日常のケアについて」(保湿ケア・感染対策の具体的な方法を詳しく解説)
多くの解説では「治療方法の比較」に終始していますが、実際にクリニックで多くの症例を診ている医師たちが口を揃えて言うのが、「水いぼは個数が少ないうちに対処するほど楽に終わる」という点です。経験則から言えば明確です。
水いぼの個数は、放置すると指数関数的に増えていく傾向があります。最初に受診した時点で2〜3個だったものが、1か月後には20個、さらに経過観察を続けた結果、60個・80個にまで増えてしまうケースは珍しくありません。個数が増えれば増えるほど、摘除にかかる時間・通院回数・お子さんへの負担がすべて増大します。
さらに重要なのが潜伏期間の問題です。伝染性軟属腫ウイルスの潜伏期間は14〜50日(約2週間〜数か月)とされています。視覚的に確認できるすべての水いぼを一度に取り除いても、すでに皮膚に潜伏していたウイルスが2〜4週間後に新たな水いぼとして現れることがあります。つまり、「一度取ったのにまた出てきた」というのは再感染ではなく、潜伏していたウイルスが出てきただけです。このことを最初から理解していると、治療の見通しが立てやすくなります。
では、どのタイミングで受診すべきでしょうか。以下のどれかに当てはまったら早めに皮膚科を受診することをおすすめします。
- 水いぼの数が5個以上になってきた
- かゆみが出始め、引っかいてしまうことが増えた
- アトピー性皮膚炎や乾燥肌の症状がある
- 兄弟や身近な人に感染が広がっている
「どうせ自然に治る」という考えは間違いではないのですが、自然治癒までの期間は平均6か月〜1年、長い場合は3〜4年かかることもあります。その間、毎日かゆみと戦いながら感染拡大を防ぎ続けるのは、子どもにとっても保護者にとっても大きな負担です。結論は「早めの受診が時間と苦労を節約する」です。
治療方針に迷ったときは、1つのクリニックの意見だけでなく、皮膚科専門医(日本皮膚科学会認定の専門医)に相談することも選択肢のひとつです。皮膚科専門医なら問題ありません。専門医のいるクリニックは日本皮膚科学会のホームページから検索できます。