

「かゆみがひどいだけだと思っていたのに、実は早産リスクのサインだったケースが妊婦の約1〜2%に存在します。」
フィブロネクチン(正式名称:癌胎児性フィブロネクチン、fFN)は、胎盤や卵膜が子宮内膜にくっつくための「生体接着剤」として働くタンパク質です。このタンパク質は受精後20日ごろから絨毛膜トロホブラスト細胞で産生が始まり、羊水や母体血中に高濃度で存在しています。
通常、正常な妊婦では妊娠24週以降35週ごろまで、腟分泌液の中にはほとんど検出されません。これが基本です。ところが、炎症や物理的な刺激によって卵膜が損傷・脆弱化したとき、または子宮収縮が起きているときには、この接着剤が剥がれるようにして腟分泌液中に漏れ出てきます。つまり検出されるということですね。
早産は妊娠22週以降37週未満での分娩を指し、全分娩の5〜10%に見られます。原因としては前期破水、頸管無力症、常位胎盤早期剥離、多胎などさまざまありますが、原因不明のものが約30%を占めるとも言われています。特に24週以前の超早産児は生命予後が厳しく、生存しても脳性麻痺などの後遺症が残るケースが多いことから、できる限り早い段階でリスクを検知することが重要です。
かゆみに悩む妊婦さんにとって意外かもしれませんが、妊娠中のひどいかゆみは皮膚の乾燥だけでなく、「妊娠性肝内胆汁うっ滞症(ICP)」というホルモン変化による肝疾患のサインである場合があります。ICPは自然早産率を上昇させることが知られており、切迫早産と合併するケースも報告されています(J-GLOBAL掲載の事例報告より)。かゆみが強くなってきたら、皮膚の問題と見くびらず産婦人科に相談することが大切です。
頸管腟分泌液中癌胎児性フィブロネクチンの臨床的意義・検査方法詳細(メディエンス WEB総合検査案内)
フィブロネクチン検査は、内診台の上で医師や助産師が専用の綿棒を使って行います。処置そのものは数分で終わり、ほぼ痛みもなく非侵襲的な検査です。流れを確認しておきましょう。
まず、滅菌済みの専用綿棒を後腟円蓋(腟の奥の部分)に挿入し、約10秒間ゆっくりと回転させて分泌液を吸収させます。このとき、腟の表面を強くこすったり、無理な力をかけて綿棒が折れないように注意が必要です。吸収した分泌液は、専用の検体抽出容器の中で綿棒を5回程度かき混ぜて溶かし出します。その後、綿棒を容器から引き抜き、容器に検体濾過フィルターを取り付けて検体保存チューブに濾過液を滴下し、それを提出する形です。
検査方法はEIA法(酵素免疫測定法)で分析され、結果は陽性か陰性かで報告されます。所要日数は検査機関によって異なりますが、施設内で検査できる場合は30分程度、外注検査では2〜4日程度かかります。これは使えそうですね。
保険診療上の注意点として、フィブロネクチン検査(癌胎児性フィブロネクチン定性・頸管腟分泌液)は、次の条件を満たす場合にのみ算定できます:「破水の診断のために妊娠満22週以上満37週未満の方」または「切迫早産の診断のために妊娠満22週以上満33週未満の方」を対象とした場合です。診療報酬点数は204点で、免疫学的検査の判断料が別途かかります。
| 検査ステップ | 内容 | 注意事項 |
|---|---|---|
| ①綿棒挿入 | 専用綿棒を後腟円蓋へ挿入 | 強くこすらない・粘液を混入させない |
| ②回転吸収 | 約10秒間ゆっくり回す | 無理な力をかけると綿棒が折れる |
| ③抽出・撹拌 | 容器内で綿棒を5回程度混ぜる | 精液・血液の混入は検査不適となる |
| ④濾過・提出 | フィルターで濾過し保存チューブへ | 抽出後は4℃で3日以内に分析 |
| ⑤判定 | EIA法で陽性・陰性を判定 | 施設内なら30分・外注は2〜4日 |
ヒト癌胎児性フィブロネクチン(fFN)の採取手順・保存条件の詳細(神奈川県立こども医療センター 検査情報システム)
フィブロネクチン検査は精度が高い反面、検査前の行動によって「偽陽性」が出やすくなることが知られています。偽陽性とは、本当は問題がないのに陽性判定になってしまう状態です。これは厳しいところですね。
最も重要な注意点は、検査前24時間以内に性交渉・内診・膣洗浄・膣用製品の使用を避けることです。性交渉で精液が混入すると、フィブロネクチンが検出されやすくなり、偽陽性につながります。また、同様の理由で内診直後の採取も正確な結果が得られない場合があります。実際、医療機関の採取マニュアルには「検体中に精液が混入しているときは、その検体は使用しない」と明記されています。
採取は必ず「膣部洗浄の前」に行う必要があります。洗浄後に採取してしまうと、分泌液が希釈・除去されて正確な情報が得られなくなるからです。また、子宮頸管部ではなく外子宮口周辺の分泌物や粘液が混入しないよう注意が必要です。
血液の混入も精度に影響します。検体中に0.1%以上の血液が混入すると、正確な結果が得られない可能性があると報告されています。出血がある場合は必ず担当医師に事前に伝えてください。
妊娠中は「内診後に出血するかもしれないから、検査のタイミングを医師に任せておけばいい」と考えがちです。しかし、実際には患者側からも「昨日、性交渉がありました」「昨日、内診がありました」などの情報を積極的に伝えることが、誤診防止に直結します。情報共有が条件です。
検査結果を正しく理解することが、不安を減らす第一歩です。まず陰性の場合から見ていきましょう。
フィブロネクチンが陰性だった場合、37週未満の早産における「陰性予測値」は69〜92%とされており、陰性であれば「その後14日以内に分娩とならない確率は95%以上」というデータがあります(日本産婦人科学会 産科編ガイドライン 2007年版)。陰性結果の信頼性は非常に高く、さらに一部のデータでは99%以上の精度で早産がないことを予測できるとも言われています。つまり陰性は強い安心材料です。
一方、陽性の場合はどうでしょうか?「胎児フィブロネクチン陽性」の場合、早産の確率は通常妊婦の最大14倍になるという報告があります。しかし、ここで重要な点があります。陽性 = 必ず早産ではありません。切迫早産の症状がある725例を調査した研究では、142例がフィブロネクチン陽性でしたが、そのうち実際に早産になったのは19例(約13%)でした。残りの約87%は早産しなかったということですね。
陽性結果が出た場合、医師はさらなるモニタリング(子宮頸管長の計測、子宮収縮の観察)、必要に応じて子宮収縮抑制剤の投与、または胎児の肺成熟を促すための副腎皮質ホルモン投与などを検討します。「陽性=入院・安静」とは限りませんが、早めに対策を講じられる点が最大のメリットです。
また、フィブロネクチン単独よりも、子宮頸管長の計測と組み合わせることで予測精度が大幅に上がることが知られています。多施設共同研究において、「フィブロネクチン陽性かつ子宮頸管長短縮」は早産の強い危険因子であることが証明されています。両方をセットで確認するのが基本です。
| 結果 | 意味 | その後のリスク |
|---|---|---|
| 陰性(-) | fFN がほぼ検出されない | 14日以内の早産確率は5%以下(安心材料) |
| 陽性(+) | fFN が検出された | 早産リスクは通常の最大14倍(確定ではない) |
早産のリスクを減らすための胎児性フィブロネクチン検査(Cochrane日本語版・システマティックレビュー)
フィブロネクチン検査は万能ではなく、「使える週数」と「使えない状況」があります。この点は見落としがちです。
保険適用となる週数は、破水診断目的では妊娠満22週以上満37週未満、切迫早産診断目的では妊娠満22週以上満33週未満に限定されています。37週以降の正常妊婦でも陽性になることがあるため(正常妊婦での陽性率は妊娠37週以降で約19.4%)、この時期は検査の意義が変わってきます。週数をよく確認するのが原則です。
また、同じ「早産リスク」や「破水診断」を目的とした検査に「腟分泌液中インスリン様成長因子結合蛋白1型(IGFBP-1)定性」があります。厚生労働省の通知では、フィブロネクチン検査とIGFBP-1検査を同時に行っても、どちらか一方のみ算定できる、とされています。つまり両方の費用を同時に請求はできません。
さらに注目したいのが「エラスターゼ」との比較です。エラスターゼは子宮頸管粘液中の白血球エラスターゼを測定するもので、感染が関与する切迫早産の予測に有用とされています。一方のフィブロネクチンは、感染以外(物理的ストレス・卵膜の損傷など)による早産予測にも対応しています。どちらの検査が優先されるかは、担当医の判断によります。
妊娠中のかゆみとの関連で言うと、「妊娠性肝内胆汁うっ滞症(ICP)」が悪化すると自然早産リスクが高まります。ICPで切迫早産治療を行っている患者にフィブロネクチン検査を実施し、早産を回避した症例報告も国内に存在します(J-GLOBAL収録事例)。かゆみがある妊婦さんが切迫早産の症状も感じているなら、肝機能の血液検査とフィブロネクチン検査を両方確認することが有用です。
かゆみが妊娠中期〜後期に強くなり、特に手のひら・足の裏に夜間のかゆみが集中する場合は、ICPの可能性があります。ICPは妊婦の約1〜2%に発症するとされており、発見が遅れると胎児への影響もあるため、皮膚科だけでなく産婦人科にも相談することをおすすめします。早めの相談が条件です。
癌胎児性フィブロネクチン定性の保険点数・算定条件の詳細(シスメックス プライマリケア検索)