

体表面積の90%以上が赤く剥がれるのに、かゆみより「寒気」のほうが強く出る人が多いです。
「剥脱性皮膚炎」という名前を聞いたとき、多くの人は手や足など部分的に皮膚が剥ける病気をイメージするかもしれません。しかし実際はまったく異なります。剥脱性皮膚炎とは、正式には「紅皮症(こうひしょう)」と呼ばれる状態の旧称であり、現在の医学ではほぼ同義語として扱われています。
医学的な定義では、体表面積の70%以上に広がる紅斑(赤み)と落屑(皮膚のフケ状の剥がれ)が同時に起きている状態を指します。全身の皮膚がヒリヒリと赤くなり、まるで日焼けのひどい版のように皮膚が薄いシート状に剥がれ落ちていくため、画像で見るとその異様さに驚かれる方が多いです。
つまり「皮膚の一部が剥ける」のではなく、「全身が赤く剥がれ続ける」病気です。
実際の症状を画像で確認すると、以下のような特徴が見られます。
国立長寿医療センターのデータによれば、同センターで紅皮症と診断された患者の平均年齢は75歳、男女比は2:1で男性に多い傾向が見られます。ただし、アトピー性皮膚炎由来の「アトピー性紅皮症」は小児・若年層にも発症するため、年齢を問わず注意が必要な疾患です。
MSDマニュアル(家庭版)では、症状として「発熱もよくみられますが、炎症を起こした皮膚から多くの熱が逃げていくため、本人は寒く感じ、悪寒が生じることもあります」と記載されています。
MSDマニュアル(家庭版)— 紅皮症の症状・治療に関する信頼性の高い医療情報
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/17-皮膚の病気/かゆみと皮膚炎/紅皮症
剥脱性皮膚炎(紅皮症)は単独で突然発症する病気ではありません。何らかの「引き金」となる疾患や薬剤が背景にあることがほとんどです。これが原因特定を難しくしている大きな理由の一つです。
紅皮症の原因として最も多いのは皮膚疾患の悪化・拡大で、全体の50〜60%を占めます。そのうち湿疹続発性紅皮症が最多で、皮膚疾患由来の紅皮症の中では55〜75%に達するとも言われています(Wikipedia・紅皮症の項より)。
原因として知られる主な疾患と薬剤を整理すると、以下のようになります。
見落とされやすいのが「薬剤性」です。比較的長期に服用している薬が原因のことが多く、「最近始めた薬ではないから大丈夫」と思い込んでいると発見が遅れます。薬疹かどうかは病歴だけで除外できないことも多く、服用中のすべての薬が疑いの対象になり得ます。
また、アトピー性皮膚炎の既往がある方は特に注意が必要です。かゆみを我慢して掻き続けたり、保湿ケアを怠ったりすることが、湿疹の悪化から紅皮症への移行を招くことがあります。
国立長寿医療センター・磯貝医長による紅皮症の病態と原疾患について、信頼性の高い解説が掲載されています。
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/letter/024.html
かゆみをおさえたいと思っている方にとって、剥脱性皮膚炎のかゆみは「通常の湿疹のかゆみ」とはまったく次元が違います。その理由は、皮膚全体で起きている病態そのものにあります。
まず、全身の皮膚に炎症が起きることで血管が拡張します。体表面積の70%以上を占める皮膚の血管がすべて開いた状態になるため、心臓への負担が急増します。既存の心疾患がある方では、心不全や肺水腫を引き起こすリスクもあります。これが紅皮症が「入院を要する重症疾患」と分類される理由の一つです。
次に、大量の落屑が起き続けます。皮膚の最外層(角層)は「ケラチン」というタンパク質から構成されています。紅皮症では毎日この角層が大量に剥がれ落ちるため、体からタンパク質が継続的に失われます。低栄養状態に陥りやすく、長引くほど体力が奪われます。
タンパク質の喪失が続く、ということですね。
さらに、皮膚のバリア機能が破壊されることで体液や電解質(ナトリウム・カリウム・カルシウムなど)も失われます。これが脱水・電解質異常・悪寒・発熱を引き起こします。「熱が出ているのに本人は寒い」という逆転した感覚が起きるのはこのためです。
かゆみについては、特にウィルソン・ブロック紅皮症の型では「夜間に不眠を来たすほどの激しい掻痒」が記録されており(Wikipedia・紅皮症の項)、掻き破ることで細菌感染(二次感染)が生じてさらに悪化するという悪循環に陥りやすい状態です。
かゆみに対して市販の抗ヒスタミン薬を単独で使い続けても、根本的な炎症が治まらない限り改善は限定的です。かゆみの元凶は「皮膚の広範な炎症」であるため、原因疾患の治療が最優先となります。受診の目安として、かゆみが体の広い範囲に広がり、かつ皮膚が赤くフケ状に剥がれ始めたら、迷わず皮膚科を受診することを強く推奨します。
剥脱性皮膚炎(紅皮症)の治療で最も重要なのは「原因疾患の特定と治療」です。かゆみだけを止めようとしても対症療法にとどまり、根本的な解決にはなりません。
重症度別の治療の流れを整理すると、以下のようになります。
入院が必要なことも多い、が基本です。
また、原因が薬剤と疑われる場合は「すべての薬剤の中止または代替薬への変更」が検討されます。これは医師の判断が必要で、自己判断で薬を急にやめると別の危険が生じることがあります。
乾癬由来の場合は、ステロイド外用に加えて活性化ビタミンD3軟膏、紫外線治療(PUVA療法)、チガソン(ビタミンA誘導体)内服、シクロスポリン(免疫抑制剤)などが選択されることがあります。
皮膚T細胞リンパ腫(菌状息肉症・セザリー症候群)が原因の場合は、リンパ腫に対する専門的な治療が並行して必要です。
日常的なスキンケアとしては、刺激の少ない保湿剤を全身にこまめに塗ることが再発防止に有効です。「かゆいから保湿しなくていい」という考えは逆効果です。保湿ケアが基本です。
かゆみが広範囲・長期化している方向けに、皮膚科専門医への受診案内がわかりやすくまとめられている参考情報です。
https://www.kango-roo.com/learning/8782/
かゆみが全身に広がって皮膚が赤く剥けてきた、という状況で「剥脱性皮膚炎かもしれない」と調べる人は多いです。しかしここで見落とされがちな、非常に重要な「鑑別すべき疾患」があります。それが「疥癬(かいせん)」、特に「過角化型疥癬(ノルウェー疥癬)」です。
過角化型疥癬は、免疫機能が低下した高齢者や長期入院患者に発症しやすい疥癬の重症型で、全身の皮膚が分厚く角化・落屑し、見た目が紅皮症と非常に似ています。国立長寿医療センターの専門医も「湿疹性紅皮症と疥癬の鑑別は必要」と明確に述べています(同センターの紅皮症に関するレターより)。
両者の大きな違いは「感染性」です。ここが重要です。
かゆみの性質にも違いがあります。疥癬のかゆみは「夜間に特に強くなる」という特徴があり(ダニが夜行性のため)、体幹の皮膚の深いところから来るようなかゆみとして表現されることが多いです。一方、剥脱性皮膚炎は全身の皮膚表面が炎症を起こしているためかゆみの質が少し異なります。
ただし、自己判断で見分けることは非常に難しいため、全身のかゆみ+皮膚の剥がれが出た場合は必ず皮膚科で診断を受けることが必要です。
また、もし施設入居中の高齢の家族に「急に全身のかゆみと皮膚の剥がれが出た」という状況があれば、施設スタッフへの早急な報告と皮膚科受診が求められます。感染拡大防止の観点からも時間が重要です。
かゆみの原因を早期に特定するためには、皮膚科専門医による問診・皮膚擦過検査が有効です。市販薬で「なんとなく対処」している時間が長くなるほど、状態が悪化するリスクがあります。