

インドールとスカトールは、名前だけ聞くと「体臭」「便臭」のイメージが強い成分ですが、香りは“濃度”で別物のように感じ方が変わります。特にジャスミンの香りを語る文脈では、インドールやスカトールは「高濃度では強烈だが、極微量で華やかさと生々しさを与える」成分として紹介されることがあります。
生活の木:ジャスミン(エッセンシャルオイル解説)でも、ジャスミンに含まれる極微量成分としてIndole/インドールやSkatole/スカトールが挙げられ、高濃度では糞尿の香りを持つと説明されています。
さらに香料業界の資料では、インドールは「微量でジャスミンやチュベローズを想起させるフローラル効果を出す」と整理されます。香料専門誌系のプロフィール資料(Indoleのアロマケミカル解説)でも、低濃度で花の放射感・輝き・厚みを与える目的で、ジャスミン/ナルシス/チュベローズ再現に使われてきたことが述べられています。
Perfumer & Flavorist:Indole - An Aroma Chemical Profile(PDF)
つまり、インドール/スカトールは「臭いものを良い匂いにする魔法」というより、現実の花が持つ“青臭さ・動物っぽさ・湿度”を、狙った量だけ加えることで「生花の奥行き」に変換する道具です。なお、スカトールについても「低濃度で花の香り」「香水にも使われる」趣旨の説明があり、植物の香りの一部として扱われることがあります。
スカトール(Wikipedia)
意外なポイントとして、インドールは“花だけ”の話ではなく、香りを「平面的な石けん」から「体温のある花」に寄せるときの支点になりやすいことです。だからこそ、同じジャスミン系でも「透明で清潔」に寄るタイプと、「濃厚で官能」に寄るタイプが分かれ、後者でインドール系のニュアンスが話題になりがちです。
参考(ここが役立つ:ジャスミンに含まれるインドール/スカトールの説明)
https://www.treeoflife.co.jp/library/aromablendlab/essentialoil/201708152725.html
「同じ分子でも濃度で印象が変わる」現象は、香りの世界では珍しくありません。スカトールは典型例で、高濃度では強い糞便臭がある一方、低濃度では花の香りを呈し、香水の香料としても利用されると説明されます。
スカトール(Wikipedia)
この「反転」が起きる理由を、専門家っぽく言えば“用量—反応(dose-response)”で、一般向けに言い換えるなら「鼻が拾う要素が変わる」からです。匂いは単純な足し算ではなく、閾値(感じ始める境界)や、他の香りとのマスキング(覆い隠し)で知覚が組み替わります。口臭・体臭領域のレビューでも、インドールやスカトールは“糞便様のにおい”として言及されつつ、揮発性硫黄化合物とは性質が違うなど、においの出方が一様ではないことが述べられています。
Microbiota and Malodor—Etiology and Management(PMC)
ここで重要なのが「香水に入っている=危険」ではないことと、「肌が荒れている人にとっては別問題」なことの切り分けです。香水は通常、単一成分を嗅がせるのではなく、多数の成分のバランスで“嫌な面”を沈め、“良い面”だけを前に出すように設計されます。香水業界側の一般向け解説でも、インドール系香料が香水に使用されることは珍しくない、スカトールも似た香料として語られる、という整理が見られます。
fragrance.co.jp:香水の誤解、クサいモノとクサい香料は別物
実務的な嗅ぎ方のコツとしては、次の順で判断すると外しにくいです。
・🧾 試す前に「肌に塗る前提か/衣類に付ける前提か」を決める(かゆみがある人は特に重要)
・⏱️ ムエット(紙)→衣類→肌の順で段階を踏む(いきなり肌はリスクが高い)
・🌡️ 暖かい場所(首・耳裏)ほど立ちやすいので、まずは遠い部位から(手首より服が安全な場合も)
皮膚がかゆいときに香水で悪化する典型パターンは、「香りが強いから」ではなく、①アルコール基剤、②香料そのもの、③摩擦や汗、④バリア機能低下の部位に“入ってしまう”ことが重なるケースです。とくに乾燥・炎症があると、普段は問題にならない刺激が“かゆみスイッチ”になりやすくなります。
ここで誤解されやすいのが、「インドール/スカトールが入っているから刺激が強い」と短絡することです。ジャスミン精油の解説では、インドール/スカトールは“極微量成分”として言及される一方、高濃度では強烈な香りを持つとも説明されています。
生活の木:ジャスミン(エッセンシャルオイル解説) つまり刺激の本体は、その成分名というより「製品全体の処方」「肌への乗り方」です。
皮膚のかゆみに悩む人向けに、香水の使い方を“安全寄り”に振るなら、次の優先順位が現実的です。
・🩹 悪化しやすい部位(首、肘内側、膝裏、脇、鼠径部など)には付けない
・👕 肌ではなく衣類の“外側”に1プッシュ未満から試す(吸い込み過ぎに注意)
・🚿 入浴後すぐ、汗をかく直前、掻いた直後は避ける
・🧴 保湿でバリアを整えてから判断する(ただし香水を保湿剤に混ぜない)
「皮膚のかゆみ」自体は原因が幅広く、腎機能や全身状態が関係するタイプ(尿毒症性そう痒など)では、炎症・神経・毒素など複数要因が絡むことがレビューで整理されています。
Have We Just Scratched the Surface? A Narrative Review of Uremic Pruritus(PMC) そのため、かゆみが長引く・夜間に強い・全身に出る・皮疹が増える場合は、香水の工夫だけで粘らず、医療側の評価もセットで考えるのが安全です。
検索上位の記事では「うんちの成分がジャスミンに」「少量なら良い香り」といった見出しが多く、話題性は高い一方で、買う側が迷子になりやすいのが難点です。実際、ジャスミンの香りの説明ではインドール/スカトールが極微量に含まれると触れられますが、製品ラベルで“Indole”“Skatole”とストレートに表記されないことも普通にあります。
生活の木:ジャスミン(エッセンシャルオイル解説)
そこで「成分名が見えないのに、インドールっぽい」と感じるジャスミン香水を見抜く、実用的なチェック項目を置きます。
・🌼 “ジャスミン”“チュベローズ”“オレンジブロッサム”など白い花(ホワイトフローラル)中心か(インドール感が出やすい系統)
・🦊 説明文に「アニマリック」「官能的」「生花」「ダーティ」「肌っぽい」などの語が多いか(“清潔な花”ではなく“生の花”を狙う表現)
・🧴 濃度(EDT/EDP/Extrait)と拡散の強さ(強いほど“合わない日”の刺激が増えがち)
・🧪 ムエットで「花+何か(湿り気、土、動物)」が感じられるか(単なる甘さではない)
なお、インドールはジャスミン油に含まれ、香りに寄与するという資料もあり、花の側がすでに“きれいだけではない要素”を持っていることが示されています。
National Academies:Indole(章)
かゆみがある人向けの「購入前の最短ルート」は、次の2段階が失敗しにくいです。
・🧾 まずはサンプル/少量で、衣類に試す(肌直は最後)
・🕰️ つけた直後ではなく、30分〜2時間後の“残り香”で合否を決める(インドール系は時間で表情が変わりやすい)
検索上位の多くは「臭いのに良い匂いになる」という雑学方向に寄りますが、皮膚のかゆみがある人にとって実用性が高いのは、「香りを変える」のではなく「皮膚と微生物と揮発性物質の関係を壊さない」発想です。皮膚のにおいは汗そのものではなく、汗腺・皮脂腺由来の成分を皮膚常在菌が利用し、さまざまな揮発性物質に変換することで形成される、という整理がされています。
Identification of human skin microbiome odorants(PMC)
ここで意外なポイントは、「香水で上書きする」よりも、肌が荒れている期間は“香りの土台”を整えるほうが、結果として少ない噴霧で満足しやすいことです。肌が荒れて乾燥していると、香りを足しても落ち着かず、掻く→赤くなる→さらに刺激に敏感、のループで“香りを楽しむ余裕”が消えます。皮膚微生物とにおいの関係を扱ったレビューでも、皮膚状態や感染などがにおいの質を変えうることが触れられています。
Microbiota and Malodor—Etiology and Management(PMC)
実践としては、次の「刺激を減らしつつ香りを楽しむ」設計が効きます。
・🧼 洗いすぎを避け、低刺激の洗浄→保湿でバリアを戻す(香水を乗せる“土台作り”)
・👔 直接肌より、髪の毛先・衣類の外側・ハンカチに逃がす(吸い込み過ぎに注意)
・🧊 暑い日や運動日は、インドール系の濃厚フローラルを避け、軽めのタイプにする(汗と混ざると知覚が暴れやすい)
・📌 「今日はかゆみが強い」日は、香水ではなく無香料に切り替える“撤退ルール”を作る
最後に、インドール/スカトールは「毒・悪」ではなく、量と文脈で“花にも体にも存在する分子”として扱われる領域です。スカトールが香料産業で使われること、そして用途・性質が整理された総説もあります。
Skatole: A thin red line between its benefits and toxicity(ScienceDirect)
参考(ここが役立つ:インドールがジャスミン/チュベローズ再現に使われる香料プロフィール)
https://img.perfumerflavorist.com/files/base/allured/all/document/2016/02/pf.9514.pdf