

コルチゾールは、1日の中で値が大きく変わる(早朝に高く、夕方〜夜間に低い)という日内変動を持つホルモンです。
そのため「基準値」と言っても、朝の採血での基準範囲と、夜間(深夜)に評価したい場面では、見ている前提がそもそも違います。
さらに重要なのが、コルチゾールはストレスで上がりやすい点で、採血前の緊張・痛み・睡眠不足・発熱などでも解釈がぶれやすいことです。
ここで「夜の基準値」を誤解しやすいポイントを、先に短く整理します。
臨床の現場では、朝の評価は「早朝空腹時、30分臥床安静後」のように条件をそろえることが推奨されています。
参考)https://www.kchnet.or.jp/for_medicalstaff/LI/item/LI_DETAIL_577400.html
逆に「夜の値」を見たい時は、日内変動の底に近いタイミングで評価するために、深夜睡眠中(23〜24時)の採血を複数日に行う、といった考え方が示されています。
要するに、夜のコルチゾールは“高い/低い”の単純な話ではなく、「本来低い時間帯に、どの程度まで下がれているか」を見にいく検査、という色合いが強いのです。
参考)デキサメタゾン抑制試験
血中(血清・血漿)コルチゾールの基準値は、検査会社・測定法・施設で幅があり、同じ「μg/dL」でも丸ごと比較できない場合があります。
たとえば、ある検査案内では午前(7.07〜19.6 μg/dL)と午後(2.96〜9.77 μg/dL)で参考値が分けて記載されており、朝と午後で前提が違うことが明示されています。
また別の検査案内では、血漿コルチゾールの基準値(μg/dL 3.7〜19.4)が示され、日内変動が大きいことや、採血は十分な安静後が望ましいことが説明されています。
そして、夜の評価でしばしば参照されるのが「深夜は低くなるべき」という発想です。
実際に、深夜睡眠中(23〜24時)に厳密に安静が保たれれば 5 μg/dL以下となる、という説明も見られます。
ただし、この種の“深夜の目安”は、採血条件がそろっていることが前提で、夜更かし・不眠・採血への緊張があると「下がりきらない」方向に寄る可能性があります。
参考)コルチゾール 〈血漿〉|腎・副腎皮質|内分泌学検査|WEB総…
ここで、皮膚のかゆみに悩む人が陥りがちな落とし穴があります。
「夜にかゆい」→「夜はコルチゾールが低いはず」→「自分はコルチゾールが低すぎるのでは」と短絡しがちですが、夜のかゆみはコルチゾール“低下そのもの”だけでは説明できません。
参考)睡眠障害と皮膚疾患、夜間のひっかき行動は睡眠ステージと関連|…
夜のかゆみは、炎症や皮膚バリア、体温、発汗、寝具、睡眠段階でのひっかき行動など複数の要因が絡み、ホルモンはその一部として関係し得る、という位置づけで考える方が安全です。
血液検査は1回測定が基本になりやすく、日内変動を“形”として把握しにくい、という現実があります。
そのため、日内変動パターンを見る目的で、起床時・昼・夕方・深夜など複数回の唾液採取で評価する説明がされている医療機関もあります。
また、コルチゾールは朝高く夜低い日内変動があるため、唾液で測る場合は採取タイミングに大きな制約がある、という注意喚起も公的研究機関の解説で触れられています。
「夜の基準値」を知りたい人ほど、実は“夜単発の数値”よりも、「朝から夜までの落ち方(リズム)」が論点になることが多いです。
参考)唾液コルチゾール検査とは - 北摂・箕面船場の自費診療まにわ…
夜に下がるはずのコルチゾールが下がらない(夜間の非抑制)という話は、不眠や抑うつに関連して語られることがあり、「覚醒が落ちない」状態の一部として捉えられることがあります。
参考)2016年7月7日−8日に行われた日本睡眠学会 第41回定期…
ただし唾液検査は、採取手順(飲食・歯磨き・採取時刻)で結果がぶれ得るので、実施するなら医療機関の指示に沿って条件をそろえるのが前提です。
参考)ストレスホルモンを測る
皮膚のかゆみが強い人にとっての実務的なポイントは、「夜にかゆいから夜に測る」ではなく、次のように目的を決めることです。
血中コルチゾールの解釈には同時のACTHが不可欠、という説明もあり、単独値だけで結論を出さないことが強調されています。
夜間にかゆみが増大する傾向について、炎症性皮膚症患者では夕刻に血中コルチゾールが最低になることが一因になり得る、という趣旨の解説が報告されています。
つまり、夜にかゆみが強い人は「夜にコルチゾールが高い」よりも、むしろ“夜に低下する生理”が背景にある場合もあり、ここが直感と逆になりやすい点です。
加えて、睡眠中のひっかき行動は睡眠ステージ(浅いノンレム、レムなど)と関連する可能性がある、という指摘もあり、かゆみはホルモンだけでなく睡眠の質そのものにも影響されます。
ここから、かゆみ対策を「コルチゾール一点張り」にしないための、現場寄りの視点をまとめます。
「意外と知られていない」寄り道として、かゆみには皮膚の表面環境(pH)や、特定の分子(TSLP、IL-31など)が関与し得ることが研究報告で述べられています。
ストレスと睡眠が乱れると、掻く行動が増え、皮膚バリアが壊れ、さらにしみる・かゆい、という悪循環に入りやすく、結果として“夜の不快”が固定化しやすいのが厄介なところです。
そのため、夜のコルチゾールを気にする人ほど、「かゆみ→不眠→ストレス→翌日もつらい」という連鎖を断つ対策(皮膚ケア+睡眠衛生+必要なら受診)を同時に進めるのが現実的です。
参考)睡眠障害(不眠症)の治療方法|銀座心療内科クリニック
夜の数値が気になる場合でも、実際に結果を左右するのは「採血条件(安静か、緊張していないか)」で、早朝評価では30分臥床安静後に採血する、という具体的な条件が示されています。
この“条件依存”の発想を夜にも応用すると、夜に採血する日(または唾液採取する日)は、直前の行動ログを残すだけで解釈がかなりクリアになります。
特に皮膚のかゆみがある人は、かゆみそのものがストレス反応や睡眠の分断を招き得るため、数値だけでなく症状の時間帯を「見える化」するのがコツです。
おすすめは、難しい分析ではなく、次のような“そのまま診察で使える”記録です。
このログがあると、「夜のコルチゾールが高い/低い」よりも、日内変動が崩れているのか、かゆみ主導で睡眠が崩れているのか、どの仮説が有力かを医療者側が整理しやすくなります。
また、コルチゾールの評価ではACTHなど他の情報も重要とされるため、記録+必要な検査をセットで相談する方が、遠回りに見えて結果的に近道です。
必要に応じて、論文・学術系の補強として「かゆみの発症機構」研究のPDFも参考になります(皮膚pHやTSLP、IL-31など、かゆみの分子機構の話が出ます)。
かゆみの分子機構(TSLP、IL-31、皮膚pHなど)について:難治性“かゆみ”の発症機構解明と予防・治療法開発の研究基盤構築(PDF)
夜の検査や日内変動の前提(朝高く夜低い)を医療機関の解説で確認したい場合。
コルチゾールの日内変動(早朝高く夕方〜夜間低い)と検査の背景:慶應義塾大学病院 KOMPAS:デキサメタゾン抑制試験