

かゆみを抑えるために市販の抗ヒスタミン薬を飲み続けると、好塩基球の異常を見逃して血液疾患の発見が遅れることがあります。
血液検査の結果表に「Baso」という項目を見たことがある方も多いでしょう。これが好塩基球の略称で、白血球の一種です。白血球には好中球・好酸球・好塩基球・単球・リンパ球の5種類がありますが、好塩基球は白血球全体の0〜2%程度と最も数が少ない細胞です。
実際の基準値は、多くの医療機関で「0.0〜2.0%」または「0〜300個/μL」程度とされています。絶対数で言うと、200個/μLを超えた状態が「好塩基球増多症(好塩基球増加症)」 と定義されます(静脈血基準)。これはちょうど小さな試験管1本分の血液1マイクロリットルの中に、200個以上の好塩基球がある状態です。
好塩基球の細胞内には青色の顆粒があり、この中にヒスタミン・ヘパリンなどの化学物質が蓄えられています。ヒスタミンは血管を拡張させ、皮膚に強いかゆみを引き起こす物質として有名です。つまり好塩基球は、体の中でアレルギー反応の火種を作る役割を担っているわけです。
顆粒球の一種ですね。細胞の役割はそれだけにとどまらず、傷口の修復や、ごく初期のがん細胞を察知して破壊する「免疫監視」にも関わっていることが知られています。好塩基球が増えているということは、体の中で何らかの免疫反応が起きているサインと考えるのが基本です。
なお、好塩基球が基準値より「低い」場合については、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)や急性感染などで減少することがあります。今回のテーマである「高い」場合とは原因がまったく異なるので注意しましょう。
MSDマニュアル家庭版「好塩基球の病気」|好塩基球の役割・増減の原因が医学的根拠とともにまとめられています
好塩基球が高くなる原因は、かゆみが続いているからといってアレルギーだけとは限りません。医学的には以下のような原因が知られています。
① 慢性骨髄性白血病(CML)などの骨髄増殖性疾患
最も重要な原因として挙げられるのが、骨髄の異常による血液疾患です。慢性骨髄性白血病(CML)は、9番染色体と22番染色体の一部が入れ替わった「フィラデルフィア染色体」という異常によって発症します。この疾患では白血球が異常に増殖し、好塩基球の数も著しく増加します。また真性多血症・骨髄線維症なども好塩基球増多を引き起こす代表的な疾患です。好塩基球単独で増加していることはまれで、他の白血球の数値異常と合わさって発見されるケースが多いです。
好塩基球はアレルギー反応の主役の一つです。アトピー性皮膚炎や花粉症、食物アレルギーなどでは、アレルゲンが体内に入ると好塩基球がヒスタミンを大量に放出します。皮膚のかゆみや蕁麻疹はこのヒスタミンが原因です。アレルギー疾患そのものが好塩基球を活性化・増加させることも明らかになっています。つまり好塩基球の増多は原因であるとともに、アレルギーの「結果」でもあるわけです。
③ 甲状腺機能低下症(橋本病など)
甲状腺機能低下症になると、好塩基球が軽度に増加することがあります。これは意外と見落とされがちです。甲状腺ホルモンの不足が免疫系に影響し、好塩基球の産生を増やすと考えられています。甲状腺機能低下症の代表的な疾患には橋本病があり、日本では特に女性に多い疾患として知られています。顕著な増加ではなく軽度にとどまることが多いですが、かゆみや倦怠感が続くときには甲状腺の検査も同時に確認する価値があります。
④ 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)
潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患でも、好塩基球の増加が見られることがあります。腸管で慢性的な炎症が起きると、免疫細胞が過剰反応して好塩基球も巻き込まれます。下痢や腹痛とともにかゆみや皮膚症状が出ている場合は、この可能性も考える必要があります。
⑤ 寄生虫感染・慢性感染症(結核など)
住血吸虫症など寄生虫感染、または結核などの慢性感染症でも好塩基球の増多が見られます。海外渡航後に好塩基球が高くなった場合はこの可能性を念頭に置いておきましょう。これらは日本では頻度は低いですが、除外診断として血液専門医が必ず検討する原因です。
原因の種類がとても幅広いということですね。かゆみが続いているからといって「アレルギーだろう」と自己判断して放置するのは要注意です。
がじゅまる内科クリニック「白血球数の増加」|好塩基球増多を含む白血球増加の原因が医師によって分かりやすく解説されています
「好塩基球が高いとかゆくなる」という話は聞いたことがあっても、なぜそうなるのか、仕組みを理解している人は少ないでしょう。ここを知っておくと、かゆみとの上手な付き合い方が変わってきます。
好塩基球の顆粒の中には、ヒスタミン・ヘパリン・ロイコトリエンなどの化学物質が詰め込まれています。アレルゲンや異物が体内に入ると、好塩基球の表面にあるIgE抗体(免疫グロブリンE)が反応して「脱顆粒」が起きます。脱顆粒とは、顆粒の中身が一気に放出されることです。
放出されたヒスタミンが皮膚の神経末端を刺激すると、「かゆい」という感覚が生まれます。同時に血管が拡張・透過性が上がり、皮膚が赤くなったり腫れたりするのも同じメカニズムです。これが蕁麻疹やアトピー性皮膚炎のかゆみの本体と言えます。
好塩基球はマスト細胞(肥満細胞)とよく似た働きをします。マスト細胞は皮膚や粘膜など「組織の中」に存在しますが、好塩基球は「血液中」を循環しています。両者が連携してアレルギー炎症を引き起こすことが最近の研究で明らかになってきました。これは使えそうですね。
さらに好塩基球はIL-4やIL-13というサイトカイン(炎症性タンパク質)を分泌します。これらは慢性アレルギー炎症を維持・悪化させる物質です。つまりかゆみが長期間続く場合、好塩基球が慢性炎症の維持に関わっている可能性があります。
かゆみを一時的に抑えるだけでなく、好塩基球が増えている「根本原因」に目を向けることが重要です。抗ヒスタミン薬はかゆみを和らげる手段としては有効ですが、あくまで対症療法に過ぎません。原因疾患の治療こそが根本対策です。
厚生労働省「アレルギー総論」(PDF)|好塩基球からヒスタミンが遊離してアレルギー反応が起きる仕組みが詳しく説明されています
「アレルギーが原因で好塩基球が増える」のはよく知られた話ですが、実は逆に「好塩基球の増加がアレルギーをさらに悪化させる」という悪循環があることはあまり知られていません。
好塩基球は炎症局所に集まり、IL-4を大量に分泌します。IL-4はTh2免疫反応(アレルギーに傾いた免疫応答)を促進する物質で、体を「アレルギー体質」に近づける働きがあります。これが繰り返されることで、もともとは軽いアレルギーだったものが慢性化・重症化してしまうのです。
日本における先進的な研究として、烏山・三宅研究室(東京大学)が発表したデータがあります。好塩基球はアトピー性皮膚炎の患者でアレルゲンが侵入する炎症局所に多数集積することが確認されており、「慢性アレルギー炎症を誘導する細胞」として注目されています。かゆみが長引けば長引くほど、好塩基球の関与が深まるということですね。
また、ストレスが続くと免疫バランスが崩れ、好塩基球が活性化されやすい状態になります。これは「ストレスでアレルギーが悪化する」という日常経験に対する生物学的な説明でもあります。具体的な行動として、睡眠の質の改善やストレスの軽減が、かゆみのコントロールにも有効な理由はここにあります。
睡眠不足が続くと、アレルギー症状が悪化するケースは珍しくありません。かゆみを抑えたいなら、免疫を整える生活習慣が条件です。寝る前のスマートフォンの操作を減らし、入浴で体温を上げてから休むなど、シンプルな行動から始めるのが現実的でしょう。
烏山・三宅研究室(東京大学)「免疫反応における好塩基球の役割の解明」|好塩基球が慢性アレルギー炎症を誘導することを示す専門的な研究内容です
血液検査で好塩基球(Baso)の数値が基準値を超えていた場合、まず受診すべき診療科はどこでしょう?実際に迷う方が多い部分です。
まず基本は内科への受診です。かかりつけの内科で全血球算定(CBC)の結果を見てもらい、他の白血球の数値(好中球・好酸球・リンパ球など)も含めて評価してもらいましょう。好塩基球単独の増加であれば、多くはアレルギー疾患や甲状腺疾患が疑われ、それぞれ専門科へ紹介されます。
好塩基球の増加が著明(大幅に基準値を超えている)、または他の血球にも異常がある場合は、血液内科への紹介が必要です。血液内科では、骨髄生検・染色体検査(フィラデルフィア染色体の確認など)・末梢血塗抹標本検査などが行われます。これらの検査で慢性骨髄性白血病などの血液疾患を除外または診断できます。
皮膚のかゆみや蕁麻疹が主な症状であれば皮膚科、甲状腺の腫れや倦怠感・体重増加などの症状があれば内分泌内科も受診候補として考えられます。痛いですね、複数の科にまたがることも多いですが、まず「内科でCBCを相談」が最初の一歩です。
| 主な症状・状況 | おすすめの受診先 |
|---|---|
| かゆみ・蕁麻疹が主 | 皮膚科 or アレルギー科 |
| 倦怠感・寒がり・体重増加 | 内分泌内科 |
| 白血球数全体が高い | 内科 or 血液内科 |
| 好塩基球が200/μL以上 | まず内科、必要なら血液内科 |
| 骨髄系の異常疑い | 血液内科(骨髄生検など) |
好塩基球増多症の治療の基本は、原因疾患の治療が原則です。アレルギーが原因なら抗ヒスタミン薬やステロイド、甲状腺機能低下症なら甲状腺ホルモン補充、血液疾患なら分子標的薬(CMLの場合はイマチニブなど)が選択されます。自己判断で薬をやめたり変えたりするのは避けましょう。
Wikipedia「好塩基球増多」|診断手順・治療の考え方が参考文献付きで整理されています