

麹菌の種類によって皮膚への効果は正反対になります。同じ「麹菌」でも、選ぶ種類を間違えるとかゆみが悪化するリスクがあるので注意してください。
麹菌の代表格である黄麹菌の学名は、Aspergillus oryzae(アスペルギルス・オリゼー)といいます。この名前には、実は2つの意味が込められています。まず「Aspergillus(アスペルギルス)」はラテン語で「聖水散布器(アスパジラム)」を意味しており、カビの胞子頭の形が球形の器具に似ていることに由来しています。
次に「oryzae(オリゼー)」は、イネの学名「Oryza sativa(オリザ・サティバ)」から来ており、「米に生えるカビ」という意味を持ちます。つまり学名全体で「米に生える聖水散布器型のカビ」という意味になるわけです。
麹菌は日本では「国菌」です。2006年10月12日、日本醸造学会が麹菌を「わが国を代表する微生物」として認定したことによります。国の鳥(キジ)や国の花(桜)に並ぶ、日本唯一の「国菌」称号を持つ微生物なのです。
かゆみが気になる方にとって重要なのが、この「種類による違い」です。学名が異なれば皮膚への作用も異なります。学名だけ覚えておけばOKです。
| 種類 | 学名 | 和名 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 黄麹菌 | Aspergillus oryzae | ニホンコウジカビ | 味噌・醤油・日本酒 |
| 醤油麹菌 | Aspergillus sojae | アスペルギルス・ソーヤ | 醤油(主に) |
| 白麹菌 | Aspergillus kawachii | アスペルギルス・カワチ | 焼酎・発酵美容 |
| 黒麹菌 | Aspergillus luchuensis | アスペルギルス・リュウキュウエンシス | 泡盛・黒酢 |
| 紅麹菌 | Monascus属 | ベニコウジカビ | 紅麹酒・食品着色 |
参考リンク(麹菌の学名・種類の詳細情報)。
麹菌(Aspergillus oryzae RIB40)のゲノム情報・安全性評価 | 製品評価技術基盤機構(NITE)
麹菌(Aspergillus oryzae)のゲノムは2005年に産業技術総合研究所を中心とした国内の産学官連携チームによって解読が完了しています。その結果が、かゆみを含む皮膚トラブルに直結する重要な発見でした。
麹菌のゲノムは約3,800万塩基対(37メガベース)からなり、その中に約12,074個の遺伝子が含まれることが判明しました。この数字は微生物の中では最大級で、近縁種であるAspergillus nigerやAspergillus fumigatusと比較して7〜9メガベースも大きいことが確認されています。人間の遺伝子が約22,000個ですから、カビとしての麹菌が持つ遺伝子の多さは驚くほどです。
これだけ多くの遺伝子を持つ理由が重要です。麹菌は加水分解酵素遺伝子を近縁種よりも特別に多く保有しており、デンプン・タンパク質・脂質を分解する膨大な種類の酵素を生産できます。この酵素産生能力こそが、かゆみ対策に繋がる「セラミド合成促進」「抗炎症ペプチド生産」「腸内環境改善」を実現する仕組みの源泉なのです。
つまり麹菌の「多遺伝子」が条件です。シンプルなカビだと思っていたら、実は非常に高度な生化学的工場だったわけです。この事実を知ったうえで、かゆみ対策として麹を活用するかどうかを判断する価値があります。
参考リンク(麹菌ゲノム解析の詳細と産業利用)。
麹菌のゲノム解析を完了 | 産業技術総合研究所(産総研)
かゆみが繰り返される体質の方にとって、最も注目してほしい麹菌が白麹菌(Aspergillus kawachii、学名は現在Aspergillus luchuensisに統合されています)です。この菌は東洋新薬やファンケルなど複数の研究機関が「皮膚バリア機能の改善効果」を実証しています。
皮膚のかゆみの多くは「バリア機能の低下」が根本原因です。皮膚の角質層にあるセラミドが不足すると、水分が逃げやすくなり、外部刺激に対して過敏になります。この状態がかゆみを引き起こします。
白麹菌由来の発酵セラミド(グルコシルセラミド)は、この問題に直接アプローチします。東洋新薬の研究では、白麹菌抽出物の添加によりセラミド量の増加と、皮膚バリア機能に関与する遺伝子の発現量が上昇することが確認されました。また月桂冠総合研究所の2021年の研究では、麹菌が産生する環状ペプチド「デフェリフェリクリシン」に抗炎症・美白作用があることも明らかになっています。
これは使えそうです。かゆみを内側から改善したい場合、白麹菌を使用した発酵食品(焼酎の麹成分など)や、白麹エキス配合のサプリメントを選ぶことが一つの手段になります。成分表示に「白麹菌」「Aspergillus kawachii」「発酵セラミド」が含まれているかどうかを確認してみてください。
参考リンク(白麹菌由来の皮膚バリア機能改善作用の研究)。
白麹菌由来の『発酵セラミド』に皮膚バリア機能改善作用 | 東洋新薬
「麹菌は安全な菌だから、かゆみには関係ない」と思っている方は注意が必要です。実際には麹菌の祖先は毒菌であり、現在も一部の条件下でかゆみを引き起こすリスクがあります。
黄麹菌(Aspergillus oryzae)の祖先は、Aspergillus flavus(アスペルギルス・フラバス)という菌です。この菌は「アフラトキシン」という強力なカビ毒を産生し、肝臓がんの原因になることで知られています。1960年代に欧米の分類学者が「麹菌とA. flavusは同じ種類ではないか」と指摘し、欧米では一時、日本の味噌・醤油の輸入を停止する動きもありました。
現在の麹菌(A. oryzae)はアフラトキシンをほぼ産生しないことが多くの研究で証明されており、千年以上の利用歴史と科学的検証から安全性が確立されています。しかしA. oryzaeはJISの抗カビ効果規格試験菌に指定されるほど「環境中に広く存在するカビ」でもあります。
ここが重要です。麹菌は職業性アレルギー原因菌としても記録されており、日本酒醸造の従事者に気管支喘息を引き起こした症例が報告されています。また麹菌から産生されるα-アミラーゼに感作すると、麹食品にも皮膚のかゆみや即時型アレルギー反応が出ることがあります。
かゆみをおさえたい方が「麹は体にいいから」と大量摂取するのはリスクがあります。特に、すでにカビアレルギーの診断を受けている方や、アスペルギルス属への感作が確認されている方は、麹食品の量と種類に注意が必要です。心配な場合はアレルギー検査(血清特異的IgE検査でAspergillus属を確認)を受けたうえで摂取量を検討することを推奨します。
参考リンク(麹菌のアレルギー原性と職業性疾患の記録)。
コウジカビ(麹菌)の分類・アレルギー原性・安全性 | Wikipedia(参照・副次情報として)
検索上位の記事のほとんどが「麹菌の種類と発酵食品の関係」を解説するにとどまっています。しかしかゆみで悩む方にとって本当に知りたいのは、「どの学名の麹菌を、どのように使えば、かゆみが改善するのか」という具体的な使い分けです。
麹菌によるかゆみ対策は「内側」と「外側」の二重アプローチで考えると効果的です。
🌿 内側からのアプローチ(腸管免疫を経由)
腸内環境の悪化はかゆみを悪化させます。麹菌が産生するオリゴ糖は腸内の善玉菌(ビフィズス菌・乳酸菌)を増やすプレバイオティクスとして機能します。また麹菌発酵大豆培養物(学名A. oryzaeで発酵)は、小児アトピー性皮膚炎患者の臨床試験で皮膚炎スコアの有意な低減が確認されています。腸活を目的として黄麹菌(A. oryzae)を使った味噌・甘酒を日々の食事に取り入れることが、内側からのかゆみ対策として有効です。
🧴 外側からのアプローチ(皮膚バリア強化)
外側からのアプローチには白麹菌(A. kawachii)由来の発酵セラミドが最適です。この成分は化粧品原料としても使われており、「白麹エキス」「発酵セラミド」「グルコシルセラミド(コウジ由来)」と表記された保湿クリームやローションを選ぶことで、乾燥によるかゆみに対応できます。
かゆみ対策に麹を活用する際は、まず自分が「腸内環境型のかゆみ」なのか「皮膚バリア低下型のかゆみ」なのかを把握することが第一歩です。どちらのタイプかわからない場合は、皮膚科や内科でパッチテストや腸内フローラ検査を受けてから選択するのが確実です。
参考リンク(麹菌発酵大豆培養物のアトピー性皮膚炎への有効性研究)。
麹菌発酵大豆培養物によるアトピー性皮膚炎への効果(動物・臨床試験) | 日本モバイルバイオティクス研究所(PDF)