

一時的に止まるpafでも、持続性心房細動と脳梗塞リスクは同等です。
paf(発作性心房細動)とは、正式名称を「Paroxysmal Atrial Fibrillation」といい、心臓の不整脈の一種です。心房細動の中でも、発症から7日以内に自然に停止するタイプを指し、医療現場では「パフ」と呼ばれることが多くあります。
心臓は通常、洞結節と呼ばれる場所から電気刺激が始まり、心房→心室の順に規則正しく収縮します。ところがpafでは、洞結節以外の心房内のさまざまな場所から、350〜500回/分という非常に速い電気刺激が不規則に多発してしまいます。その結果、心房は痙攣しているような状態になり、正常なポンプ機能が失われます。
心房細動の種類は大きく4つに分類されます。
- 発作性心房細動(paf):発症から7日以内に自然停止するもの
- 持続性心房細動:7日を超えて持続するが、治療で停止できるもの
- 慢性心房細動:長期間継続し、洞調律に戻りにくいもの
- 永続性心房細動:薬物療法等に抵抗性となり、洞調律の回復をめざさないもの
pafは、この心房細動の「最初期段階」と考えられています。つまり、早期発見・早期治療が最も効果を発揮しやすいフェーズです。多くの心房細動はpafから始まり、放置すると次第に発作の頻度が増え、持続時間が長くなり、持続性、慢性へと進行するとされています。
日本国内の心房細動患者は約80〜130万人と推計されており、潜在患者を含めると100万人を超えるとも言われています。そのうち約半数がpafと言われており、決して珍しくない疾患です。
発見できれば対策が打てます。
参考:発作性心房細動の概要と脳梗塞リスクについて、循環器内科の専門医が詳しく解説しているページです。
pafを診断するうえで、心電図の波形を正確に読み取ることは非常に重要です。pafの心電図には、通常の心電図とは明確に異なる3つの特徴的な所見が現れます。
① P波の消失
通常の洞調律では、心臓の収縮のたびに「P波」と呼ばれる山型の波形が確認できます。P波は心房が正常に収縮している証拠です。ところがpafでは、心房が不規則に痙攣しているため、P波は消失します。これがpaf心電図を見分ける最初のポイントです。
② f波(細動波)の出現
P波の代わりに現れるのが「f波(fibrillation wave)」です。f波は基線が不規則に細かく揺れるような波形で、400〜700回/分という速さで出現します。大きさが小さいため見逃しやすいですが、II誘導やV1誘導で確認しやすいとされています。f波が目立たない場合でも、「P波がなくRR間隔が不整」という条件が揃えば心房細動と判断することができます。
③ RR間隔の不整
RR間隔とは、心電図のR波の頂点から次のR波の頂点までの時間のことで、心拍の間隔を示します。正常な心電図ではRR間隔が一定ですが、pafでは房室結節が心房からの無数の電気刺激を不規則に心室へ伝えるため、RR間隔がバラバラになります。これが「脈の乱れ」として患者本人が動悸として感じることがあります。
この3点セット(P波消失・f波出現・RR間隔不整)が基本です。
pafは発作的に出現する波形のため、非発作時の心電図は全く正常に見えます。そのため、一般的な健康診断や外来での1回限りの心電図検査では見逃されるケースが多くあります。発作のたびに検査に来ることができれば理想的ですが、現実的にはホルター心電図(24時間以上の連続記録)による診断が有効です。7日間の長期ホルター心電図は、24時間のものよりもpafの見逃しが少ないという研究報告もあります。
参考:看護師向けに心電図のAF(心房細動)とPAF(発作性心房細動)の違いをわかりやすく解説しています。
AF(心房細動)とPAF(発作性心房細動)の違いについて - note-nurse.com
pafを理解するうえで最も重要なのは、「症状がないから安全」という思い込みを捨てることです。これは非常に危険な誤解です。
心房細動の自覚症状(動悸・息切れ・胸部不快感・めまいなど)がある患者は全体の約50〜60%にすぎず、残りの約40〜50%は何の自覚症状もないとされています。別の統計では、無症候性の患者が37.7%に達するという報告もあります。
自覚症状がないと、多くの人は「自分は心臓が元気だ」と判断してしまいます。しかし、その間にも心房内での血液のよどみは起きており、血栓が形成されるリスクは確実に高まっています。この血栓が脳に飛ぶと、重篤な心原性脳塞栓症(脳梗塞の一種)を引き起こします。
心原性脳塞栓症は通常の脳梗塞よりも重症化しやすく、後遺症が残りやすいという特徴があります。健康診断の心電図では「正常」と出ていても、発作が起きていない時間帯に検査をしていれば、pafはその場では検出されません。
もう1点、重要な事実があります。「一時的な発作なのだから、持続性のものより安全だ」と考えている方が多いですが、国内外の研究によって、発作性心房細動の脳梗塞リスクは持続性心房細動と同等であることが確認されています。つまり、「すぐ止まるから大丈夫」は医学的には誤りです。
これは痛いですね。
自覚症状がない場合でも、脈の乱れを自分でチェックする習慣が重要です。手首で脈をとる「検脈」を日常的に行うことで、脈の飛びや不規則さに気づくことができます。心配な場合は、オムロンなどのメーカーが販売している市販の携帯型心電計(医療機器認定を受けているもの)を使用すると、発作時の記録を自宅でとることができます。医療機関への受診の際に記録を持参すれば、診断の大きな助けになります。
参考:心房細動の無症候性の割合など、見落としやすい心房細動の特徴について解説されています。
日本心臓財団 メディアワークショップ:心房細動の無症候性について
pafと診断された場合、最初に行うべき重要な評価が「CHADS2スコア」と呼ばれる脳梗塞発症リスクの計算です。このスコアは、心房細動患者の脳梗塞リスクを簡便に数値化したもので、治療方針を決めるうえで広く使用されています。
CHADS2スコアの内訳は以下の通りです。
| 項目 | 略称の意味 | スコア |
|------|----------|-------|
| うっ血性心不全 | C | 1点 |
| 高血圧 | H | 1点 |
| 年齢75歳以上 | A | 1点 |
| 糖尿病 | D | 1点 |
| 脳卒中・TIA既往 | S | 2点 |
スコアが1点以上であれば、抗凝固薬(血液を固まりにくくする薬)の投与を考慮することになります。スコアが高いほど年間の脳梗塞発症リスクも高くなります。スコア1点の場合でも、年間約2.8%の確率で脳梗塞を発症するというデータがあります。2.8%というと低く聞こえますが、これは100人に約3人が毎年脳梗塞を起こすリスクがあることを意味します。
脳梗塞リスクが確認できたら次のステップへ移ります。
抗凝固薬には現在、「DOAC(直接経口抗凝固薬)」と呼ばれる新しいタイプの薬が普及しており、プラザキサ(ダビガトラン)、イグザレルト(リバーロキサバン)、リクシアナ(エドキサバン)、エリキュース(アピキサバン)などが使用されます。これらは従来のワーファリン(ワルファリン)と比べ、食事制限が少なく、定期的な採血管理が不要という点で服用しやすい特徴があります。
抗凝固療法を適切に続けることで、心原性脳塞栓症の発症を70%以上抑制できるとされています。ただし、抗凝固薬には出血リスクも伴うため、自己判断での中断は絶対に避け、主治医と相談しながら服薬を継続することが重要です。薬を飲み忘れてはいけない点も、特に1日1回タイプのDOACでは注意が必要です。
参考:発作性心房細動に対する抗凝固薬の種類と特徴について詳しく説明されています。
pafに対する根治的な治療として、近年注目されているのがカテーテルアブレーション治療です。薬物療法が症状をコントロールするための治療であるのに対し、カテーテルアブレーションはpafの原因そのものを除去することを目指します。
pafは主に肺静脈周囲の異常興奮(期外収縮)を引き金として発生します。カテーテルアブレーションでは、足の付け根の血管からカテーテルという細い管を心臓内に挿入し、この肺静脈周囲の「電気の伝わり道」を焼灼(または冷却)して、心房細動が起きないようにします。この操作を「肺静脈隔離術」と呼びます。
成功率は高いです。
発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションの治療成績は、継続的に向上しています。現在のデータでは、1回のアブレーション治療で約80〜90%の患者が根治し、再発した場合でも2回目の治療を追加することで最終的に90〜95%の患者で心房細動が抑制されると言われています。
ここで、あまり語られない視点を紹介します。多くの人は「アブレーションで治ったから抗凝固薬はもう不要」と考えがちですが、実際は違います。国立循環器病研究センターの研究によれば、アブレーション後も多くの患者で長期間にわたって抗凝固療法が継続されている実態が確認されています。特に高齢の患者さんや心房のリモデリングが進んでいる場合は、アブレーション後も一定期間(あるいは長期間)抗凝固薬の継続が必要と判断されるケースがあります。
また、カテーテルアブレーションの新世代技術として「パルスフィールドアブレーション(PFA)」も登場しています。これは電気パルスを用いて心房細動の原因部位を治療する方法で、従来の高周波(熱)や冷凍バルーンによるアブレーションとは異なるアプローチです。心筋に選択的に作用するため、周辺の食道や神経などへのダメージが少ないとされており、安全性向上の観点から注目されています。
アブレーション後も主治医との連携が条件です。
発作性心房細動であるpafの段階での治療は、持続性や長期持続性の心房細動に比べて成功率が高く、心臓へのダメージも少ない段階での根治が可能です。「まだ止まっているから様子見」ではなく、早期受診・早期治療が、最終的に最も健康への負担が少ない選択といえます。
参考:カテーテルアブレーション治療の種類・適応・注意点について医師が詳しく解説しています。
心房細動のカテーテルアブレーション治療:適応年齢や注意点 - doctorbook.jp
参考:国立循環器病研究センターによる、心房細動アブレーション後の抗凝固療法に関する研究報告です。
心房細動アブレーション後の抗凝固療法継続についての研究 - 国立循環器病研究センター