

結論から言うと、少なくとも「歯磨き粉に入っているラウリル硫酸ナトリウム(SLS)=発がん性がある」と断定できる根拠は、現在の主要な整理では支持されていません。歯科クリニックの解説でも、発がん性はない(または心配しすぎなくてよい)という趣旨でまとめられています。特に、神戸北野Nデンタルクリニックの解説では「結局のところ発がん性はないと報告されています」としつつ、別のリスク(刺激など)を切り分けて説明しています。
参考:歯科クリニックによるSLSの発がん性と刺激の整理
一方で、ネット上では「発がん性がある」「危険」といった強い断定が拡散されやすく、検索上位でも“発がん性”が大きく見出し化されがちです。こうした情報の多くは、①刺激性(皮膚・粘膜が荒れる)と②発がん性(癌の原因になる)を同じ“危険”として混同している点が問題です。SLSは確かに“刺激になりうる成分”として論じられることはありますが、それをそのまま“発がん性”へ飛躍させるのは別問題です。
ここで大事なのは「ゼロか100か」で決めないことです。たとえば、SLSを含む歯磨き粉でも問題なく使える人がいる一方、口内炎ができやすい人や粘膜が弱い人には合わない可能性がある、という“相性”が現実的な落としどころになります。つまり発がん性を怖がって全否定するより、「刺激が出る体質か」「乾燥・かゆみが悪化していないか」で判断するほうが、肌トラブルに悩む人には役に立ちます。
SLSは発泡剤・洗浄剤として優秀で、泡立ちがよく、口腔内に成分を広げやすいという“使い心地”のメリットがあります。その一方で、「洗浄力が強い=必要なうるおいまで奪う」方向に働くことがあり、皮膚や粘膜が弱い人だと乾燥やヒリつき、荒れの要因になりえます。神戸北野Nデンタルクリニックも、発がん性は心配しすぎなくてよい一方で、皮膚・眼・口の中への悪影響は少なからずあり得る、と切り分けています。
参考:発がん性と刺激性を分けて考える視点
さらに、レビュー論文でも、SLSは“口腔・歯周のメリット”と“副作用になり得る点”が両方ある(いわば Yin and Yang)として整理されています。たとえば、プラークコントロールや口臭への有用性が示唆される一方、口腔の創傷治癒が遅れる可能性、再発性アフタ性口内炎(口内炎が繰り返す状態)との関連などが論点になります。
参考:SLSの利点とリスクを整理したレビュー(全文)
意外と見落とされるのが「泡立つ=磨けた気になる」問題です。泡が多いと爽快感が強く、短時間で歯磨きを終えがちになりますが、歯垢は“時間と当て方”で落ち方が大きく変わります。刺激が気になる人ほど、泡の強い製品で“強く短く磨く”癖がつくと、粘膜・歯肉にも負担が増えやすいので注意が必要です。
「口内炎ができやすい」「口の中が乾く」「唇や口角が荒れやすい」タイプの人は、SLSが合わないケースがあります。レビューでは、SLSが再発性アフタ性口内炎のリスク指標になり得ること、SLSフリー歯磨剤のほうが潰瘍の痛みや治癒期間などの面で改善が見られる可能性があることが触れられています。
参考:SLSと再発性アフタ性口内炎の整理
皮膚のかゆみに悩んでいる人がこのテーマを調べる背景には、実は「口の中だけの問題ではない」事情もあります。口腔内が荒れていると、辛いもの・酸っぱいもの・アルコール系洗口液などでさらに刺激が積み重なり、睡眠の質が落ち、全身のかゆみの体感が増幅することがあります(かゆみはストレスで強く感じやすい)。つまり歯磨き粉の選択は、直接の発がん性よりも「刺激の連鎖を止める」観点で見直す価値があります。
また、SLSは“濃度”と“接触時間”で刺激の出方が変わるタイプの成分として語られます。歯磨き粉は通常すぐ吐き出す前提ですが、ながら磨きで長時間口に溜めたり、すすぎが少なく口腔内に残留しやすい使い方をすると、粘膜が敏感な人には負担が増えます。ここは製品そのものより、使い方の改善で症状が軽くなることも多いポイントです。
症状が強い場合は、次のように“観察→切り替え”で原因を絞るのが現実的です。
✅チェックのコツ(入れ子なし)
発がん性が心配で検索している人でも、実際に困っているのは「かゆみ」「荒れ」「しみる」「口内炎」などの体感であることが多いです。そこで歯磨き粉選びは、恐怖ワードではなく“症状ベース”で組み立てると失敗しにくくなります。神戸北野Nデンタルクリニックも「通常使用で発がん性の心配は過度にしなくてよい」一方で、手荒れや頭皮湿疹、口内炎ができやすい人は避ける選択もあると述べています。
参考:避けるとよい人の方向性
選び方の現実解は「SLSフリーにしたうえで、虫歯予防としてフッ化物(フッ素)配合は維持する」ことです。泡立ちが減ると物足りなく感じますが、泡が少ないほうがブラッシングの当たり方を意識しやすく、結果的に磨き残しが減る人もいます。加えて、SLSが入っていると爽快感で早く終えやすい人は、タイマー(2〜3分)で磨く習慣を作るだけでも口腔内の負担が下がることがあります。
また、刺激が気になる人は「歯磨き後のすすぎ」を見直すと改善することがあります。すすぎを極端に少なくすると成分が残って刺激になる場合があるため、乾燥しやすい・口内炎が出やすい人は、まず“普通に1〜2回しっかりすすぐ”へ戻してみるのも一手です(フッ素残しを狙う場合でも、症状が強い時は粘膜優先が安全です)。そのうえで、改善してきたら少量すすぎへ調整するなど、段階的に最適化するのが無理がありません。
検索上位には「危険成分」「発がん性」など刺激的な言い回しが並びがちですが、皮膚のかゆみで困っている人に必要なのは、もっと実務的な“界面活性剤リテラシー”です。界面活性剤は「悪者」ではなく、用途と濃度と接触部位でリスクが変わる道具で、歯磨き粉のSLSもまさにそれに当てはまります。レビューでも、SLSは有用性(プラーク、口臭、製剤の溶解補助)と副作用(刺激、創傷治癒、口内炎など)を両面から整理しており、“善悪の二択ではない”ことが分かります。
参考:SLSのYin and Yang(利点と欠点)
ここで意外と効くのが、「歯磨き粉の成分を減らす」より先に「刺激の総量を減らす」発想です。たとえば、同じSLS配合でも、①歯磨きの回数を増やしすぎない(磨きすぎで粘膜が荒れる人がいる)、②歯ブラシを柔らかめへ、③歯磨き後に唇周りを軽く洗い流す(口角のかゆみ対策)など、接触時間と摩擦を減らす工夫で“体感”が改善するケースがあります。これは上位記事にありがちな「成分だけで白黒つける」路線より、実際の悩み(かゆみ)に直結しやすいアプローチです。
そして最も大切なのは、症状が続くなら自己判断で引っ張らないことです。口内炎が長引く、口腔内がただれる、舌や唇の荒れが繰り返す場合は、歯科・口腔外科・皮膚科で「接触刺激」「アレルギー」「カンジダ」など別の原因も含めて見てもらったほうが早く解決することがあります。歯磨き粉が原因に見えても、実際には睡眠不足・ストレス・鉄やビタミン不足・口呼吸などが絡んでいることもあるため、“原因の分解”ができる医療の視点は有効です。
(権威性のある参考リンク:SLSの利点・欠点、口内炎・刺激・IARC非掲載の整理)
Sodium Lauryl Sulfateの口腔内への影響を整理したレビュー(全文)
(日本語の参考リンク:発がん性と刺激性を切り分け、口腔乾燥・口内炎の可能性に触れている)
ラウリル硫酸ナトリウムは危険なの?(歯科クリニック解説)