

生物学的製剤を使えばリウマチの炎症は即座に完全解消される、とほとんどの方が思い込んでいますが、実はヒュミラ(アダリムマブ)でも国内臨床試験で副作用として11.3%にかゆみが報告されています。
生物学的製剤とは、化学合成ではなく遺伝子組み換え技術や細胞培養技術を用いてつくられた薬剤です。体の中にある抗体や受容体と同様の構造を持つタンパク質でできており、炎症を引き起こす特定の分子だけをピンポイントで標的にできることが最大の特徴です。
通常のリウマチ治療では、まずメトトレキサート(MTX)などの従来型抗リウマチ薬で3〜6か月治療を行います。それでも寛解(症状がほとんどない状態)に至らない場合に、生物学的製剤の追加が検討される流れとなっています。つまり、いきなり最初から使う薬ではない、というのが原則です。
生物学的製剤が登場したのは日本では2003年。以来、約20年以上にわたって多くのリウマチ患者さんの「痛み・腫れ・関節破壊」を抑えてきた実績があります。これは大きな安心材料ですね。
使い始めると、約7割の患者さんが寛解または低疾患活動性の状態になるとされています。7割という数字は、薬局で買える市販の痛み止めの効果とは次元が異なる水準です。すべての剤型が注射製剤(点滴または皮下注射)であることも覚えておきましょう。
| 分類 | 標的 | 代表的な製剤 |
|---|---|---|
| TNF阻害薬 | 炎症性サイトカイン(TNF) | レミケード、エンブレル、ヒュミラ、シンポニー、シムジア、ナノゾラ |
| IL-6阻害薬 | 炎症性サイトカイン(IL-6) | アクテムラ、ケブザラ |
| T細胞共刺激分子調節薬 | T細胞(免疫細胞) | オレンシア |
参考:日本リウマチ学会による生物学的製剤の基本情報と使い方(令和5年1月更新)
生物学的製剤|関節リウマチ – rheuma-net.or.jp
現在リウマチ治療に使える生物学的製剤のうち、最も種類が多いのがTNF阻害薬です。TNF(腫瘍壊死因子)は関節の炎症を引き起こし、骨や軟骨を破壊する破骨細胞を活性化する主犯格の物質です。このTNFを直接ブロックすることで、炎症の根を断ちます。
インフリキシマブ(レミケード®) は日本初の生物学的製剤で、2003年承認。唯一の点滴専用製剤で、投与は2時間かかりますが、効果の発現が早く、数日以内に炎症の改善を実感できる場合もあります。メトトレキサートとの併用が必須です。BeSt試験では、発症2年以内の早期患者でMTXと組み合わせることで、5年後に58%がバイオフリー寛解(生物学的製剤なし)を維持できたという画期的な結果が出ています。
エタネルセプト(エンブレル®) は週1〜2回の皮下注射です。中和抗体が産生されにくい性質があるため、長期間使っても効果が落ちにくい点が強みです。半減期が短く体から早く抜けるため、高齢者や安全性を重視したい方に使われることが多いです。
アダリムマブ(ヒュミラ®) は2週に1回の皮下注射で、欧米で最も使用頻度の高いTNF阻害薬です。生物学的製剤の中で唯一、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)との同時開始が保険で認められています。そのため、関節破壊の進行が早いと予想されるケースで診断直後から用いることができます。
ゴリムマブ(シンポニー®) は月1回の皮下注射で、4週間間隔なので通常の外来受診時に合わせて打つことができます。自己注射が承認されていないため、受診のたびに医師や看護師が注射します。月1回だけ受診すれば治療が完結するというのは、生活スタイルへの負担が少なくて助かります。
セルトリズマブ ペゴル(シムジア®) は、Fc領域(抗体の末端部分)を持たない特殊な構造で、胎盤通過が極めて少ないことが特徴です。妊娠を希望する方や妊娠中の方でも継続しやすい選択肢として、日本リウマチ学会ガイドラインでも言及されています。
オゾラリズマブ(ナノゾラ®) は2022年12月に承認された最新の製剤で、「ナノボディ」技術を用いた4週に1回の皮下注射です。従来の抗体製剤より分子が小さく、炎症部位への移行がより速いとされています。これは使えそうです。
参考:各製剤の投与方法・承認年・針の太さなど詳細な一覧
生物学的製剤 – 東京女子医科大学 膠原病リウマチ痛風センター
TNF阻害薬以外の生物学的製剤として、IL-6阻害薬とT細胞共刺激分子調節薬があります。つまり、同じ「生物学的製剤」でも狙う標的がまったく異なるということです。
トシリズマブ(アクテムラ®) は世界初の抗IL-6受容体抗体製剤で、日本生まれの薬です。IL-6はTNFと同様に炎症を起こすサイトカインで、関節リウマチの病態において特に重要な役割を担います。アクテムラ最大の特徴は、MTXなしの単独療法でも高い有効性が証明されている点です。MTXが副作用などで使えない患者さんに非常に有用な選択肢になります。また、生物学的製剤の中で最も継続率が高いとされており、これはアクテムラに対する中和抗体の産生が2〜3%と極めて少ないためです。臨床的寛解・構造的寛解・機能的寛解の3つすべてを目指せる薬剤です。
サリルマブ(ケブザラ®) は2週に1回の皮下注射のIL-6阻害薬です。アクテムラと同じくIL-6受容体を標的としており、2018年より国内で使用可能となっています。
アバタセプト(オレンシア®) は生物学的製剤の中で唯一、サイトカインではなくT細胞を標的とする薬剤です。T細胞はリンパ球の一種で、関節リウマチの炎症を促進し、骨を壊す破骨細胞の分化にも関与します。他の生物学的製剤と比べて副作用プロファイルが異なるため、感染リスクが懸念される方にも選択されやすい特徴があります。また、AVERT試験では抗CCP抗体(ACPA)を正常化できることが示され、早期RAへの応用が期待されています。
これらの薬剤間に「どれが一番強い」という優劣はありません。どの製剤が効くかは個人差があるため、3か月程度使用して効果不十分であれば別の製剤に変更するという方針が標準的です。自分に「ピッタリ合うものを探す」という感覚が近いですね。
| 製剤名(商品名) | 投与経路 | 投与間隔 | MTX必須? |
|---|---|---|---|
| トシリズマブ(アクテムラ) | 点滴 or 皮下注 | 4週(点滴)/ 2週(皮下) | 不要(単独療法も可) |
| サリルマブ(ケブザラ) | 皮下注 | 2週間間隔 | 不要 |
| アバタセプト(オレンシア) | 点滴 or 皮下注 | 4週(点滴)/ 週1回(皮下) | 不要 |
参考:生物学的製剤の作用機序・単独療法の有効性に関する詳しい解説
生物学的製剤一覧・特徴 – 湯川リウマチ内科クリニック
生物学的製剤を使う上で、副作用の知識は絶対に欠かせません。知っておけば対処できますが、知らないと深刻化してしまうリスクがあります。
最も重要な副作用は感染症です。過去に行われた106件の研究を分析した論文によれば、感染症の副作用は従来のリウマチ薬と比較して生物学的製剤で約1.3倍高いことが示されています。特に細菌性肺炎・結核・帯状疱疹・蜂窩織炎(皮膚の深い感染症)・腎盂腎炎には注意が必要です。このため、投与前に胸部X線・CT・結核の血液検査・肝炎ウイルス検査などを行うことが義務づけられています。投与前の検査は面倒に感じるかもしれませんが、安全のための必須ステップです。
皮膚症状も見逃せません。ヒュミラ(アダリムマブ)の国内臨床試験382例では、かゆみが11.3%、注射部位紅斑が21.7%、発疹が16.0%に認められたと報告されています。点滴製剤では「インフュージョンリアクション」と呼ばれるアレルギー反応として発熱・皮膚のかゆみ・血圧低下・呼吸困難が投与中または投与後早期に起こることがあります。特にレミケード(インフリキシマブ)で注意が必要とされています。
生物学的製剤で免疫機能が下がると、帯状疱疹ウイルスも再活性化しやすくなります。帯状疱疹が発症すると、強烈な皮膚のかゆみや痛みが現れます。前駆症状として発疹の2〜3日前から特定の部位にかゆみ・しびれ・灼熱感が出ることがあり、早期に気づくことで重症化を防げます。
| 注意すべき副作用 | 主なサイン | 対応 |
|---|---|---|
| 細菌性感染症(肺炎等) | 発熱・咳・ふるえ | 早急に受診 |
| 帯状疱疹 | 片側のかゆみ・皮膚の灼熱感 | 早期受診で抗ウイルス薬 |
| 注射部位反応 | 赤み・かゆみ・腫れ | 多くは自然軽快 |
| インフュージョンリアクション | 発熱・かゆみ・呼吸困難 | 点滴を一時停止・医師に報告 |
帯状疱疹が心配な場合は、生物学的製剤を開始する前に帯状疱疹ワクチン(シングリックス:不活化ワクチン)の接種を検討することが推奨されています。生きたウイルスを含む弱毒生ワクチンは生物学的製剤使用中に接種できないため、開始前にかかりつけ医に相談しておくのが安全です。
参考:生物学的製剤の副作用と感染症対策について詳しく解説
抗リウマチ薬と生物学的製剤の副作用・治療中の注意点 – chugai-ra.jp
生物学的製剤は効果が高い分、費用がかかることが大きなハードルになります。実際にどれくらいかかるのか、そして負担を減らす方法を整理します。
生物学的製剤の薬剤費は薬の種類や体重・投与量によって異なりますが、10割負担の月額はおよそ8万〜14万円程度です。健康保険3割負担の場合、月あたり2万〜4万円台になるケースが多いとされています。ヒュミラ(先発品)の場合は3割負担で月約36,384円、ゼルヤンツ(JAK阻害薬)は同じく月約47,880円という目安があります。高いですね。
これを下げる第一の手段がバイオシミラー(後発バイオ医薬品)の活用です。バイオシミラーは先発品の特許が切れた後に別のメーカーが製造したもので、有効成分・品質・安全性・効果は先発品と同等とされています。価格は先発品の約70%が原則です。アダリムマブ(ヒュミラのバイオシミラー)であれば月の薬価が79,700円(10割)となり、先発品121,280円と比べて月4万円以上安くなる計算です。年間では13万5,600円以上の削減になる可能性があります。これは使わない手はありません。
第二の手段が高額療養費制度です。同一月に一定の自己負担限度額を超えた医療費は申請することで払い戻してもらえる制度です。例えば年収が370〜770万円の方は、医療費の自己負担上限が月額約80,100円となります。生物学的製剤の費用が上限を超えた場合、超過分は戻ってくるということです。現在加入している健康保険組合やお住まいの市区町村、病院の相談窓口で申請できます。
生物学的製剤を使わない場合のリウマチ直接医療費が年間約25万円であるのに対し、使用する場合は年間約70万円と約3倍に膨れ上がることも事実です。しかし生物学的製剤によってリウマチが寛解を維持できれば、将来の関節手術を回避でき、働き続けることができるという長期的メリットも大きいです。費用対効果の観点からも、担当医と相談しながら費用支援制度をフル活用することが重要です。
参考:バイオシミラーと高額療養費の活用について分かりやすく解説
生物学的製剤の費用について|関節リウマチ – rheuma-net.or.jp
生物学的製剤と並んで近年注目されているのがJAK阻害薬です。両者はリウマチへの効果が似ているように見えますが、仕組み・使い方・注意点が大きく異なります。この違いを知っておくことが、自分の治療について医師と深く話し合うための出発点になります。
最も大きな違いは「何を標的にするか」と「どう使うか」です。生物学的製剤は体の外側(細胞と細胞の間)で炎症の原因物質(TNFやIL-6)を直接ブロックする大きなタンパク質製剤で、すべて注射薬です。一方JAK阻害薬は、細胞の内側に入り込み、複数の炎症シグナル伝達経路を同時に遮断する低分子化合物で、毎日飲む内服薬です。
注射が苦手でかゆみなどの皮膚反応が心配な方にとって、内服薬であるJAK阻害薬は有力な選択肢に見えるかもしれません。しかし現在のリウマチ診療ガイドラインでは、JAK阻害薬よりも生物学的製剤を優先的に検討することが推奨されています。JAK阻害薬は帯状疱疹の発症頻度が生物学的製剤より高い傾向があること、また長期安全性のデータがまだ蓄積途上であることが理由の一つです。
もう一つの独自視点として、「かゆみ」が主訴の方に注目したいポイントがあります。リウマチそのものの症状としての皮膚のかゆみは、疾患の炎症が皮膚にも波及しているサインである場合があります。IL-6阻害薬(アクテムラ・ケブザラ)はIL-6を介した全身炎症をより幅広く抑える特性を持ち、関節外の皮膚症状にも効果が及ぶことがある点で注目されます。ただし、逆に生物学的製剤が皮膚の副作用を引き起こしているケースもあるため、「かゆみが出たとき、それが病気の症状なのか、薬の副作用なのか」を医師と一緒に判断することが非常に重要です。かゆみが出たら放置は禁物です。
薬を選ぶときは「効果・副作用・投与方法・費用・妊娠希望の有無・年齢・合併症」を総合的に担当医と相談することが、結局は最短ルートです。自己判断で薬を中断したり変更したりすると、関節破壊が急速に進行するリスクがあるため、変更を希望する場合は必ず受診時に伝えるようにしましょう。
参考:生物学的製剤とJAK阻害薬の違い・使い分けについて
生物学的製剤とJAK阻害薬|湯川リウマチ内科クリニック