

皮膚のかゆみを放置すると、リンパ腫リスクが一般人の15倍になることを知っていますか。
シェーグレン症候群(SJS/SjS)は、1933年にスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレン(Henrik Sjögren)が発表した論文が名前の由来となった自己免疫疾患です。「乾く病気」と呼ばれますが、実態はそれだけにとどまりません。
免疫システムが、本来外敵を攻撃するはずのリンパ球を自分自身の涙腺・唾液腺・全身の外分泌腺に向けて誤発射し続ける状態が続きます。その結果、腺組織が慢性的に破壊されていくのです。これが基本です。
日本国内における公式推計患者数は約7万人ですが、軽症で未受診の方を含めると潜在的な患者数は10〜30万人とも言われています。つまり「気づいていないだけ」の人が相当数いるということですね。
発症には著しい性差があり、男女比は約1対17と、圧倒的に女性に多い疾患です。発症のピークは40〜60歳代で、女性ホルモンのバランスが変化しやすい時期と重なっています。同じ年代の女性が原因不明のかゆみや乾燥に悩んでいるなら、SJSの可能性を一度は検討する価値があります。
シェーグレン症候群は大きく2種類に分かれます。
| 種類 | 概要 | 割合 |
|---|---|---|
| 一次性(原発性)SJS | 他の膠原病を合併しない単独発症 | 約60% |
| 二次性(続発性)SJS | 関節リウマチ・SLEなど他の膠原病に合併 | 約40% |
さらに一次性SJSは、症状が涙腺・唾液腺にとどまる「腺型(約70%)」と、全身臓器に及ぶ「腺外型(約30%)」に細分されます。かゆみを引き起こしやすいのは、この腺外型です。
2015年1月からシェーグレン症候群は国が定める「指定難病(第53番)」に認定されました。重症度基準を満たす患者は医療費助成を受けられるため、受診・診断を早期に進めることが金銭的な観点からも重要です。
参考:指定難病としてのシェーグレン症候群の概要・診断基準について詳しく解説されています。
シェーグレン症候群のかゆみは「1種類ではない」という点が、対処を難しくする最大の理由です。部位ごとに原因が異なり、それぞれに対応した対処が必要になります。
まず最も多いのが皮膚乾燥(ドライスキン・皮脂欠乏性皮膚炎)によるかゆみです。約半数以上の患者に皮膚乾燥がみられ、かゆみを伴うことがあると報告されています。通常の乾燥肌と似ていますが、原因は皮脂腺を含む外分泌腺全体が免疫攻撃を受けているためで、一般的な保湿だけでは根本解決になりません。
次に目のかゆみ(ドライアイによる眼症状)があります。涙腺の分泌低下により眼球表面が乾燥し、目がごろごろする・かゆい・痛いといった症状が出ます。重症化すると角膜や結膜が傷つき、視力低下につながるリスクもあります。痛いですね。
もう一つ、見落とされがちなのが皮膚血管炎によるかゆみや発疹です。SJSでは皮膚の小型血管に白血球破砕性血管炎が起こることがあり、紫斑・紅斑・潰瘍・指先の変色が現れることがあります。これは「乾燥」とは別の免疫炎症が原因です。
「かゆい部位」によって原因が異なり、対処法も変わります。これが条件です。市販の保湿剤だけで解決しようとすると、血管炎や重症ドライアイのリスクを見落とす可能性があるため、専門医への相談が欠かせません。
顺天堂大学病院の情報は、症状の種類ごとに医療機関での治療法が詳しく記載されています。
順天堂大学病院:膠原病・リウマチ内科 シェーグレン症候群の症状と治療
「もしかしてSJSかも」と思っても、どこに行けばいいかわからないという方は少なくありません。診断の流れを知っておくと、受診がスムーズになります。
現行の診断基準(厚生省基準、1999年改訂)では、以下4項目のうち2項目以上を満たすとシェーグレン症候群と診断されます。
| 項目 | 検査内容 |
|---|---|
| ①組織検査 | 口唇小唾液腺または涙腺の生検でリンパ球浸潤を確認 |
| ②唾液分泌検査 | ガムテスト・サクソンテストで分泌量低下を証明 |
| ③涙液分泌検査 | シルマーテストで分泌低下+ローズベンガル試験で角結膜障害を確認 |
| ④血液検査(自己抗体) | 抗SS-A/Ro抗体または抗SS-B/La抗体が陽性 |
血液検査では、シェーグレン症候群に特徴的な抗SS-A抗体・抗SS-B抗体を確認します。抗核抗体の陽性率は70〜90%に達するとも言われており、検査値として非常に重要な指標です。
受診すべき診療科は、内科・リウマチ科・膠原病内科が一般的な窓口です。乾燥症状だけが気になる場合、最初に眼科(ドライアイ)や歯科口腔外科(ドライマウス)を受診し、そこからSJSを疑って専門科へ紹介されるケースも少なくありません。かゆみや皮膚症状が主体の場合は皮膚科への相談も有効です。
つまり、かゆみが続くときは「乾燥肌」と自己判断せず複数科を横断的に相談することが条件です。指定難病の医療費助成を受けるには診断確定が必要なため、早期受診・早期診断が実質的な経済的メリットにも直結します。
診断基準の詳細な解説はこちら。
SS-info.net:シェーグレン症候群の診断基準と治療の解説
シェーグレン症候群のかゆみへの対処は「部位別」「重症度別」に分けて考えることが重要です。残念ながら現状ではSJSを根治させる治療法はなく、対症療法が中心となります。
皮膚のかゆみ・乾燥(ドライスキン)への対処として、医療機関では外用剤のヒルドイド(ヘパリン類似物質含有)や白色ワセリンが処方されます。ヘパリン類似物質は皮膚の水分蒸発を防ぎ、血行促進・抗炎症の3つの作用を持つため、単純な保湿剤より高い効果が期待できます。市販品では「ヒルマイルド」などにヘパリン類似物質0.3%配合の製品があります。ただし、皮膚炎や血管炎が疑われる場合は自己判断での外用剤使用は避け、皮膚科への受診が先決です。
目のかゆみ(ドライアイ)への対処は段階的に行います。
口のかゆみ・乾燥(ドライマウス)への対処では、唾液分泌を促進する薬剤(セビメリン塩酸塩・ピロカルピン塩酸塩)が使われ、約60%の患者に有効とされています。これは使えそうです。人工唾液(サリベート®)や口腔用保湿ジェル(オーラルバランス®など)を日常的に使うことで、口内の乾燥かゆみ・灼熱感を和らげられます。
日常生活でできる対策として最も効果的なのが環境の湿度管理です。空気が乾燥する冬場は特に、加湿器で室内湿度を50〜60%に保つことでドライアイ・ドライスキンの悪化を防げます。マスクの着用は口腔内の加湿に有効です。入浴後5分以内に保湿剤を塗ることも、皮膚バリア機能の維持に効果的です。保湿が基本です。
参考:MSDマニュアルはシェーグレン症候群の日常対処法から医療治療まで網羅的に解説されています。
「かゆいだけだから」と放置を続けることが、最も避けるべき行動です。シェーグレン症候群のかゆみは、より深刻な病態への「警告サイン」である可能性があるからです。
2025年の研究では、シェーグレン病(SjD)患者は一般集団と比較して非ホジキンリンパ腫(NHL)の発症リスクが15.36倍(スペイン多施設共同前向き観察研究)という数字が示されました。別の研究では33倍という報告もあり、SJS患者の約5%が実際に血液疾患(悪性リンパ腫・原発性マクログロブリン血症)を合併するとされています。
リンパ腫発症リスクが高い「警戒サイン」を押さえておくことは、かゆみをおさえるのと同じくらい重要です。
さらに見落とされがちな独自視点として、「かゆみのある皮膚を繰り返し掻くことで生じる皮膚バリアの破壊」が悪循環を生む点が挙げられます。SJSの皮膚はもともと皮脂分泌が低下しており、傷つきやすい状態にあります。掻くことで細菌・真菌感染(カンジダなど)が皮膚から侵入しやすくなり、口腔内では口角炎・真菌感染(カンジダ性口内炎)のリスクも増加します。「かいてはいけない」とわかっていてもかゆみが続く場合、それは単なる意志の問題ではなく、医療的介入が必要なサインです。
10〜20年の長期経過を見ると、約半数の患者に何らかの新しい病変や検査値異常が現れるというデータがあります。早期の定期受診・検査が、将来の健康リスクを大きく左右します。定期受診が原則です。
リンパ腫リスクに関する最新研究はこちらに詳しく掲載されています。
CareNet:シェーグレン病患者、リンパ腫発症リスクが15倍以上に上昇(2025年8月)