

市販のかゆみ止めを塗っても、かゆみが全く引かない。
痒疹(ようしん)とは、強い痒みを伴うブツブツした皮疹(丘疹・結節)が身体の広い範囲に多数現れる皮膚疾患です。虫刺されのように見える小さな盛り上がりから、直径5mm〜2cmほどの硬いしこり(結節)まで、形や大きさはさまざまです。
痒疹には大きく分けて、結節性痒疹と多形慢性痒疹の2種類があります。結節性痒疹は主に四肢(腕や脚)に硬い結節が多発し、掻きむしることでさらに炎症が広がります。多形慢性痒疹は腰や側腹部を中心に浮腫性の赤い発疹が出現し、平均発症年齢は70歳前後とされる中高年に多い疾患です。
この2種類に共通しているのは、「強いステロイド外用薬や抗ヒスタミン薬の内服だけでは治りにくい」という点です。治りにくいということですね。通常の皮膚炎とは異なり、かゆみが長期間にわたって続くケースが多く、10年・30年以上も同じ症状が続いているという患者さんに遭遇することも珍しくないと皮膚科専門医は指摘します。
かゆみが起きると皮膚をかきむしり、傷になり、そこからまた炎症が起きるという悪循環が生まれます。この「掻破→炎症→かゆみ」のサイクルが、痒疹をどんどん慢性化させていきます。つまり掻くことが症状の長期化につながるということです。
日本皮膚科学会「皮膚科Q&A:痒疹・かゆみ」(痒疹の基礎知識と種類について詳しく解説)
「かゆみは皮膚の病気」というイメージを持つ方がほとんどではないでしょうか。しかし、痒疹の原因として見落とされがちなのが、肝臓をはじめとした内臓疾患です。意外ですね。
肝臓は体内で「胆汁」という消化液を作る臓器です。正常であれば、胆汁は肝臓→胆嚢→十二指腸という経路で腸管に排出され、腸の中で食物の消化を助けます。ところが、肝臓や胆道に障害が起きると、この胆汁の流れが滞ってしまいます(これを「胆汁うっ滞」といいます)。
胆汁うっ滞が起きると、胆汁に含まれる「胆汁酸」が腸管に排出されずに血液中に逆流します。その胆汁酸が血流に乗って全身を巡り、皮膚に到達すると、皮膚の末梢神経を直接刺激します。刺激された末梢神経は脊髄を経由して脳へかゆみのシグナルを送り続ける、これが肝臓由来のかゆみの正体です。
さらに、肝臓病ではセロトニンやオピオイド(モルヒネに類似した物質)のバランスも乱れることが分かっています。体内には「かゆみを誘発するオピオイド(β-エンドルフィン)」と「かゆみを抑制するオピオイド(ダイノルフィン)」が存在し、肝臓病ではこのバランスが崩れてかゆみ誘発方向に傾くとされています。胆汁酸・セロトニン・オピオイドの3つが連携してかゆみを引き起こすということです。
岡山大学皮膚科が2024年に発表した資料によれば、慢性肝疾患をもつ方の約4割にかゆみが確認されており、特に原発性胆汁性胆管炎(PBC)では60%もの患者にかゆみが生じています。PBCは難病指定を受けており、日本国内の推定患者数は約3〜6万人にのぼる疾患です。
岡山大学皮膚科「肝疾患に伴うかゆみとその対策について」2024年(肝疾患とかゆみのメカニズムを医師向けに詳細解説した資料)
「かゆみ止め」として薬局で最もよく販売されているのが、抗ヒスタミン薬です。蕁麻疹や花粉症などのアレルギー系かゆみには確かに有効ですが、肝臓病による痒疹・かゆみにはほとんど効果が期待できません。これは使えそうな情報ですね。
なぜ効かないのでしょうか? その理由はかゆみの「神経回路」の違いにあります。抗ヒスタミン薬は「ヒスタミン依存性」の神経回路に作用します。蕁麻疹のかゆみはヒスタミンという物質が主役ですが、肝臓由来のかゆみは胆汁酸・セロトニン・オピオイドによる「ヒスタミン非依存性」の神経回路で起きています。つまりヒスタミン依存性か否かが鍵です。
市販薬でかゆみをおさえようとしてもおさえられない→かきむしる→皮膚が傷つく→炎症が悪化する、というサイクルに陥るリスクがあります。痛いところですね。岡山大学の資料では、慢性肝疾患患者のかゆみのうち、治療効果が不十分なケースは約57.8%に達するというデータが示されています。
肝臓病のかゆみに対して現在日本で保険適応があるのは、ナルフラフィン塩酸塩(レミッチ®)のみです。これはオピオイドのκ(カッパ)受容体に作用することでかゆみシグナルを脳より手前の脊髄レベルでブロックする仕組みです。これが条件です。
ただし、レミッチ®を使っても「かゆみが100%なくなる」わけではなく、補助療法との組み合わせが必要とされています。ほかにも、腸管での胆汁酸の再吸収を抑えるコレスチラミン(クエストラン®)や、抗結核薬のリファンピシンなどが海外では使われていますが、日本では保険適応外のケースも多く、医師と相談しながら段階的に治療を進めることが基本です。
住友ファーマ「肝臓病のかゆみの特徴」(肝臓病によるかゆみの特徴と市販薬が効きにくい理由を解説)
「自分のかゆみが肝臓からきているのかどうか」は、受診前にある程度セルフチェックできます。以下の5つのポイントが肝臓由来の痒疹・かゆみを疑うサインとして挙げられています。
これら5つのうち、3つ以上当てはまるようであれば、皮膚科だけでなく内科・消化器内科・肝臓内科への受診を検討することが勧められます。早めに受診することが大切です。
注意すべきは、かゆみが出る時点ではまだ黄疸(皮膚や白目が黄色くなる症状)が現れていないことが多いという事実です。肝臓病が進行して黄疸が出るより先に「かゆみ」が現れるケースが少なくなく、「かゆみ=軽い症状」と軽視して放置することで、肝臓の病気を見逃すリスクがあります。
難病情報センター「原発性胆汁性胆管炎(指定難病93)」(かゆみと肝臓病の進行との関係・症状の特徴を詳しく解説)
肝臓由来の痒疹・かゆみに対して、現時点で「これさえすれば完全に治る」という確立された家庭内対処法はありません。しかし、適切なセルフケアによってかゆみを和らげ、悪化を防ぐことは可能です。
かゆみを一時的に鎮める方法として、患部を冷たい水で濡らしたタオルや保冷剤(タオルで包んだもの)で冷やす方法が有効とされています。冷やすことで皮膚表面の神経への刺激が一時的に抑制されます。冷やすことが基本です。ただし、冷やしすぎや直接皮膚に当てすぎると凍傷や乾燥の原因になるため、5〜10分を目安にしましょう。
スキンケアの面では、入浴時にぬるめ(38〜40℃程度)のお湯につかり、石けんの使いすぎやゴシゴシこすりを避けることが大切です。高温のお湯は体温を上げてかゆみを悪化させるためNGです。入浴後は皮膚が乾燥しないよう、5分以内に保湿剤を塗ることを習慣にするとよいでしょう。保湿は必須です。
受診のタイミングについては、「2週間以上、市販薬で改善しないかゆみが続いている」「夜間に眠れないほどのかゆみがある」「背中や全身など広い範囲のかゆみが持続している」のいずれかに当てはまる場合は、皮膚科と同時に内科・消化器内科への受診を検討してください。
肝臓病の検査はシンプルで、血液検査(AST・ALT・γ-GTP・ALP・ビリルビン値などの肝機能検査)と腹部エコー(超音波)検査が基本です。空腹時に採血するだけで多くの情報が得られます。健康診断で「肝機能異常」を指摘されたことがある方は、かゆみとの関連を医師に相談する価値があります。これだけ覚えておけばOKです。
かゆみの本当の原因を特定することが、長く続くつらいかゆみから解放される最短ルートです。皮膚科だけをたらい回しになって改善しない場合、ぜひ内臓から原因を探るという視点を持ってみてください。
住友ファーマ「かゆみと上手につきあうために」(肝臓病のかゆみ・日常生活でのスキンケアと入浴のポイントを具体的に解説)
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