

IL-23阻害薬は「年3〜4回の注射だけでかゆみがほぼ消える人が約6割いる」という事実、知っていましたか?
「乾癬のかゆみは皮膚の問題」と思っている方は少なくありません。しかし実際には、免疫システムの誤作動が根本原因です。乾癬では、免疫細胞から放出される炎症性サイトカインの一つ「インターロイキン-23(IL-23)」が過剰に働き、Th17細胞を活性化します。活性化したTh17細胞はさらに「IL-17A」というたんぱく質を大量に放出し、皮膚の細胞増殖速度を異常に速めます。
通常、皮膚のターンオーバーは約28〜40日サイクルですが、乾癬の患者さんではこれが4〜5日と極端に短くなります。角質層が未熟なまま積み重なり、銀白色のかさぶた(鱗屑)と赤い盛り上がり(紅斑)が生じ、強いかゆみを伴うのです。
IL-23阻害薬はこのカスケードの「上流」にあるIL-23を直接ブロックする薬剤です。つまり根本となる炎症のスイッチを切る、というアプローチです。これがIL-23阻害薬の特徴といえます。
| 比較項目 | IL-23阻害薬(p19) | IL-17阻害薬 | TNF阻害薬 |
|---|---|---|---|
| ターゲット | IL-23のp19サブユニット | IL-17A・Fなど | TNF-α |
| 炎症への介入タイミング | 上流(原因側) | 下流(症状側) | 下流(症状側) |
| 真菌感染リスク | 低い | やや高い | やや高い |
| 炎症性腸疾患との相性 | ◎(適応あり) | △(悪化リスクあり) | ◎ |
IL-17阻害薬は腸管のバリア機能に影響する点でリスクがある一方、IL-23阻害薬は炎症性腸疾患にも適応が広がっています。つまり乾癬と腸の炎症を同時に抱える方には特に有利な選択肢になりえます。
乾癬とIL-23・IL-17の関係をわかりやすく解説(まつもと皮膚科クリニック)
現在、日本で乾癬に保険適用されているIL-23阻害薬は大きく2世代に分けられます。第1世代は「ステラーラ」、第2世代は「トレムフィア」「スキリージ」「イルミア」の3剤です。違いを理解することが薬を選ぶ第一歩です。
ステラーラ(一般名:ウステキヌマブ) は2011年から使われている最も歴史の長いIL-23阻害薬です。IL-23だけでなくIL-12も同時に阻害するため、「IL-12/23阻害薬」と呼ばれます。初回投与は点滴で行い、以後は12週ごとに皮下注射します。バイオシミラー(後発品)も登場し、費用が抑えやすくなったのも特徴です。
トレムフィア(一般名:グセルクマブ) は2018年登場。IL-23のp19サブユニットのみをより精密にブロックする「第2世代IL-23阻害薬」の1つです。維持投与は8週ごとで、掌蹠膿疱症への適応も持ちます。2025年には潰瘍性大腸炎・クローン病への適応も追加されました。
スキリージ(一般名:リサンキズマブ) は2019年登場。維持期には12週(3ヵ月)ごとに1回の皮下注射で済む、投与間隔の長さが最大の魅力です。乾癬性関節炎・膿疱性乾癬・乾癬性紅皮症・クローン病・潰瘍性大腸炎と適応が広く、臨床試験ではクローン病においてウステキヌマブに対して優越性が示されています(SEQUENCE試験)。
イルミア(一般名:チルドラキズマブ) は2020年登場。スキリージと同様に維持期は12週ごとの投与です。現時点では尋常性乾癬のみへの適応に限られています。
| 商品名 | 一般名 | ターゲット | 維持投与間隔 | 自己注射 | 主な適応疾患 |
|---|---|---|---|---|---|
| ステラーラ | ウステキヌマブ | p40(IL-12/23) | 12週ごと | 可 | 尋常性乾癬、乾癬性関節炎、クローン病、潰瘍性大腸炎 |
| トレムフィア | グセルクマブ | p19(IL-23) | 8週ごと | 不可 | 尋常性乾癬、乾癬性関節炎、膿疱性乾癬、掌蹠膿疱症、潰瘍性大腸炎、クローン病 |
| スキリージ | リサンキズマブ | p19(IL-23) | 12週ごと | 不可(皮膚適応) | 尋常性乾癬、乾癬性関節炎、膿疱性乾癬、掌蹠膿疱症、クローン病、潰瘍性大腸炎 |
| イルミア | チルドラキズマブ | p19(IL-23) | 12週ごと | 不可 | 尋常性乾癬のみ |
「自己注射できないなら通院が大変では?」という疑問はもっともです。スキリージ・イルミアは3ヵ月に1回の通院で済むため、結果として他の治療法より通院負担が少ないケースがほとんどです。仕事が忙しい方や自己注射が怖い方には特に向いています。
乾癬の治療法を徹底解説・IL-23阻害薬の特徴比較(日野皮フ科医院)
「どのくらい効くのか」は、かゆみで悩む方が最も気になるポイントです。乾癬の改善度合いは「PASI(乾癬面積重症度指数)」という指標で測ります。PASIスコアが90%以上改善することを「PASI90達成」、完全に消えることを「PASI100(皮疹クリア)達成」と表現します。
IL-23阻害薬の臨床試験では、PASI90達成率はプラセボ群(偽薬群)の約6倍という結果が乾癬性関節炎のメタ解析で報告されています(academia.carenet、2025年11月)。皮膚症状・かゆみの改善に対して非常に強力な効果を持つことが示されています。
スキリージのフェーズ3試験では、16週時点でPASI90達成率が約70〜80%前後、皮疹がほぼ消える「皮疹クリア(PASI100)」を達成した患者さんも約40〜60%というデータが出ています。つまり「3人に2人はかゆみや皮疹が9割以上改善する」というイメージです。
かゆみが完全に消えるわけではない人もいます。しかし、かゆみで夜も眠れない状態から、日常生活がほぼ気にならない状態へ変わった方が多いことは確かです。効果のスピードについては、IL-17阻害薬の方が早く出やすい傾向がありますが、IL-23阻害薬は長期にわたり効果が安定・持続しやすいという特長があります。
早期治療開始と生物学的製剤の使用歴がない方は、「超反応者(スーパーレスポンダー)」になりやすいという研究もあります(academia.carenet、2025年9月)。つまり、悩んで治療を先延ばしにするほど、薬の効き目が下がる可能性があるということです。早めに専門医へ相談することが大切です。
乾癬性関節炎治療におけるIL-23阻害薬のPASI90達成率メタ解析(ケアネット)
「免疫を抑える薬だから副作用が怖い」という不安は自然なことです。IL-23阻害薬の主な副作用は、注射部位の反応(赤み・腫れ・痛み)、頭痛、疲労感、風邪などの上気道感染症、水虫(皮膚真菌感染症)などです。
重篤な感染症やアナフィラキシーは1〜5%未満で報告されています。ただし、IL-23 p19選択的阻害薬(トレムフィア・スキリージ・イルミア)は、IL-12も同時に抑制する旧来の薬と比べて、ウイルス・細菌への免疫応答を保ちやすい設計です。IL-12は「ウイルス・細菌への免疫応答」や「抗腫瘍効果」に関わるため、IL-12をブロックしないことで安全面でのメリットがある可能性が指摘されています。
注意が必要なのは、投与開始前に結核の検査が必須であるという点です。過去に結核に感染したことがある方(潜在性結核感染症)は、薬の投与によって結核が再活性化するリスクがあるため、事前に適切な予防投薬を行います。また、悪性腫瘍をお持ちの方は主治医と慎重に相談が必要です。
IL-17阻害薬と比べた際の大きなメリットとして、「炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)を悪化させにくい」点があります。IL-17は腸管のバリア機能を維持するのに重要な役割を果たしているため、IL-17阻害薬は腸の炎症を抱える方には使いにくいのです。IL-23阻害薬はこの点で安全です。結論は「慎重に管理すれば比較的安全に長期使用できる薬」です。
IL-23 p19モノクローナル抗体製剤の副作用・投与スケジュール詳細(小金井つるかめクリニック)
IL-23阻害薬は非常に高額です。これはかゆみで悩む多くの方にとって大きな壁に感じられます。しかし実際のところ、「制度を正しく知っているかどうか」で自己負担は大きく変わります。
薬価の参考値として、スキリージ1回(外来通院)の総医療費は約47万5,700円です。3割負担の場合、単純計算で約14万3,000円ですが、高額療養費制度を使えばこれが大幅に下がります。たとえば年収370万〜770万円程度の一般所得区分の方であれば、月の自己負担上限は約8万100円〜となり、さらに「多数回該当」(同じ世帯で高額療養費を1年に3回以上適用)になると上限がさらに引き下がります。
また、見落とされがちなのが「限度額適用認定証」の事前取得です。これを窓口で提示することで、最初から上限額以上を支払わずに済みます。後から申請して払い戻しを待つ必要がなくなるため、家計の一時的な負担も防げます。
さらに、製薬会社による「患者支援プログラム」が各社から提供されている点も知っておくべきです。スキリージならアッヴィのA-CONNECTサービス、トレムフィアならヤンセンファーマの支援窓口など、医療費の相談や情報提供を受けられるサービスが無料で利用できます。これを知らずに「高すぎて諦めた」という方も実際にいます。知っておくべき制度です。
一般的に「生物学的製剤は金持ちの薬」という印象を持つ方もいますが、実際には制度を活用すれば中等度所得の方でも手が届く範囲に抑えられるケースが多いです。かかりつけ医や医療ソーシャルワーカーに相談するのが最初の一歩です。
スキリージの高額療養費制度・治療費早見表(アッヴィ公式サイト)