

アトピー性皮膚炎は、かゆみを伴う湿疹を主な症状とする慢性的な皮膚疾患です。症状は良くなったり悪くなったりを繰り返し、長期間にわたって持続することが特徴です。診断基準としては、乳児では2ヶ月以上、それ以外の年齢では6ヶ月以上症状が続く場合に慢性と判断されます。
この疾患の名前に「炎」という文字が含まれているように、皮膚の内部で炎症が起こっていることが本質的な問題です。この炎症が皮膚本来のバリア機能を低下させ、強いかゆみを引き起こします。患者さんの多くは「アトピー素因」と呼ばれる遺伝的な体質を持っており、アレルギーを起こしやすい傾向があります。
アトピー性皮膚炎の最も顕著な症状は、強いかゆみを伴う湿疹です。この湿疹には以下のような特徴があります。
これらの湿疹は体の左右対称に現れることが多く、特に関節の内側や顔面など特定の部位に好発します。症状の進行に伴い、皮膚の状態も変化していきます。初期には単なる乾燥や赤みだったものが、掻き壊すことでジクジクとした湿潤状態になり、やがてかさぶたを形成します。さらに症状が長引くと、皮膚は厚くゴワゴワとした状態(苔癬化)になっていきます。
アトピー性皮膚炎の特徴的な点として、「イッチ・スクラッチ・サイクル」と呼ばれる悪循環があります。かゆみによって皮膚を掻くと、皮膚バリア機能がさらに低下し、より強い炎症とかゆみを引き起こすという連鎖です。この悪循環を断ち切ることが治療の重要なポイントとなります。
アトピー性皮膚炎の症状は年齢によって特徴的な違いがあり、好発部位も変化していきます。
乳児期(2歳未満)の特徴:
幼児期・学童期(2〜12歳)の特徴:
思春期・成人期(13歳以上)の特徴:
このように年齢によって症状の出方が変化するため、各年齢層に適した治療やスキンケアが必要となります。また、成長とともに症状が軽快することもありますが、適切な治療を行わないと慢性化し、成人期まで症状が持続することもあります。
アトピー性皮膚炎の根本的な問題の一つに、皮膚のバリア機能の低下があります。健康な皮膚は外部からの異物侵入や内部からの水分蒸発を防ぐバリアとして機能していますが、アトピー性皮膚炎ではこの機能が著しく低下しています。
皮膚のバリア機能を担う主な要素には以下のようなものがあります。
アトピー性皮膚炎では、特に角質細胞間脂質の減少が顕著で、これにより「レンガとモルタル」のような皮膚構造のモルタルに相当する部分が不足した状態になります。その結果、以下のような問題が生じます。
また、アトピー性皮膚炎の患者さんでは、皮膚の保湿に重要なフィラグリンという遺伝子の変異が見られることがあります。このフィラグリンの異常により、天然保湿因子の産生が減少し、皮膚の乾燥がさらに悪化します。
皮膚の乾燥は単なる見た目の問題ではなく、かゆみを増強させ、バリア機能をさらに低下させる要因となるため、適切な保湿ケアがアトピー性皮膚炎の治療において非常に重要です。
アトピー性皮膚炎の最も辛い症状の一つがかゆみです。このかゆみは単なる不快感ではなく、睡眠障害や集中力低下、生活の質の著しい低下をもたらすことがあります。アトピー性皮膚炎のかゆみは、通常の皮膚疾患よりも強く、「耐えられないほどかゆい」と表現されることが多いのが特徴です。
かゆみが生じるメカニズムは複雑ですが、主に以下の要因が関与しています。
アトピー性皮膚炎では「イッチ・スクラッチ・サイクル(かゆみと掻破の悪循環)」と呼ばれる現象が特徴的です。この悪循環は以下のように進行します。
この悪循環は夜間に特に悪化することが多く、睡眠中に無意識に掻いてしまうことで、朝起きると皮膚の状態が悪化していることがよくあります。また、ストレスや発汗、環境の変化などによってもかゆみは増強します。
かゆみ対策としては、以下のようなアプローチが有効です。
かゆみのコントロールはアトピー性皮膚炎の治療において非常に重要で、悪循環を断ち切ることが症状改善の鍵となります。
アトピー性皮膚炎は様々な要因によって悪化することがあります。これらの悪化要因を理解し、適切に対処することが症状のコントロールには欠かせません。主な悪化要因には以下のようなものがあります。
環境的要因:
生活習慣関連:
アレルゲン:
感染:
これらの悪化要因は個人差が大きく、全ての患者さんに同じように影響するわけではありません。自分自身の症状がどのような要因で悪化するかを観察し、記録することが重要です。
また、あまり知られていない特徴として、アトピー性皮膚炎では皮膚の色調変化が起こることがあります。これは「炎症後色素沈着」と呼ばれる現象で、以下のような特徴があります。
さらに、皮膚の色調変化以外にも、長期間のアトピー性皮膚炎による特徴的な変化として以下のようなものがあります。
これらの特徴的な変化は、アトピー性皮膚炎の診断の補助的な所見として役立つことがあります。