

ステロイド外用薬を長く塗るほど、肌に優しくなる。
ステロイド外用薬は、湿疹やアトピー性皮膚炎によるかゆみを抑える上で世界中の皮膚科医が標準治療として採用している薬です。ところが、使い方を誤ると「皮膚萎縮」という副作用が生じることがあります。
皮膚萎縮が起きるメカニズムはシンプルです。ステロイドには細胞の増殖を抑制する作用があり、長期間塗り続けると皮膚の厚さのほとんどを構成している膠原線維(コラーゲン)が減少します。その結果、皮膚が薄くなり、表面にちりめん状の細かいしわが寄ったり、下の静脈が透けて見えたりといった変化が現れます。
これが基本的な仕組みです。
症状として現れるのは主に次のような変化です。
- 皮膚表面に細かいしわが目立つ
- 皮下の血管が青く透けて見える
- 皮膚をつまむと紙のように薄い感触がある
- 痛みやかゆみはほとんどなく、本人が気づきにくい
「痛みやかゆみがない」という点が重要です。つまり、知らないうちにじわじわと皮膚が薄くなっていく可能性があります。
注意が必要なのは「強いステロイドを長期間連続して塗った場合」が主なリスクです。弱いステロイドや、強いものでも使用量が少ない場合には皮膚萎縮は見られない、と神奈川県皮膚科医会の資料でも明示されています。使い方次第で大きくリスクが変わるということですね。
参考:ステロイドの副作用の詳細(神奈川県皮膚科医会)
https://www.kanahifu.org/skindisease/steroid.html
皮膚萎縮のリスクを考えるとき、ステロイドの「強さ」だけに注目しがちです。しかし実際には塗る場所(部位)によって薬の吸収率が数十倍も異なり、これがリスクの大きさを左右します。
| 部位 | 前腕内側を1とした場合の吸収率 |
|------|-------------------------------|
| 足の裏 | 0.14倍 |
| 手のひら | 0.83倍 |
| 腕・脚(基準) | 1.0倍 |
| 背中 | 1.7倍 |
| 頭皮 | 3.5倍 |
| おでこ | 6.0倍 |
| 顔(頬・あご) | 13倍 |
| 陰部 | 42倍 |
出典:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024(日本皮膚科学会)
つまり顔は腕の13倍も吸収しやすい。これは驚くべき数字です。
かゆみを感じやすい顔やデリケートゾーンに、体幹向けに処方された強めのステロイドをそのまま塗るのは大きなリスクがあります。日本皮膚科学会のガイドラインでも、顔には原則としてミディアムクラス(Ⅳ群)以下のステロイドを使用するよう定められています。
ステロイドの強さは5段階に分類されています。
- Ⅰ群(ストロンゲスト):デルモベート など
- Ⅱ群(ベリーストロング):ジフルプレドナート など
- Ⅲ群(ストロング):ベタメタゾン吉草酸エステル など
- Ⅳ群(ミディアム):ロコイド、アルメタ など
- Ⅴ群(ウィーク):プレドニゾロン など
強さが高いランクは効果が高い分、副作用も出やすい、という原則があります。
また、弱いランク(Ⅳ群など)であっても、顔に何ヶ月・何年と漫然と塗り続けた場合は皮膚萎縮や毛細血管拡張が起きる可能性があります。強さだけで安心するのは危険です。
参考:部位別吸収率と正しい使い方(シオノギヘルスケア)
https://www.shionogi-hc.co.jp/hihushiruwakaru/steroid-column/07.html
ステロイドによる皮膚萎縮が起きた場合、回復できるのかどうかは多くの方が気になるポイントです。結論から言えば、大半の皮膚萎縮は一過性であり、ステロイドを中止すれば徐々に回復します。ただし、老人では回復が遅くなる傾向があるとも報告されています。
しかし、1つだけ例外があります。
それが「皮膚萎縮線条(ひふいしゅくせんじょう)」です。医学的には「線状皮膚萎縮症」とも呼ばれ、ストレッチマーク(肉割れ)と同じ構造の変化です。ステロイドを長期使用すると、皮膚内部のコラーゲン線維が断裂し、赤紫色の線が現れ、やがて白くなって凹んだように残ります。日野皮フ科医院の解説によれば、「皮膚萎縮線条は元に戻すのが極めて困難」とされており、通常の皮膚萎縮とは別格のリスクです。
皮膚萎縮線条の特徴をまとめると以下のとおりです。
- 妊娠線・肉割れと同様の構造的変化
- 赤紫色のすじ→白色の陥凹した線として残る
- 腋の下・内もも・腰回りなど、皮膚の薄い部位に出やすい
- 一度完成すると自然治癒はほぼ期待できない
これは要注意の副作用です。
通常の皮膚萎縮(薄くなる)とは異なり、「線条」は塗るのをやめても戻りません。レーザー治療などの医療機関での対処が選択肢に入りますが、完全に消えるとは言い切れません。ステロイドを使う部位と期間には、特に慎重な管理が求められます。
参考:ステロイド外用剤の副作用と都市伝説(日野皮フ科医院)
https://hinohifuka.com/illness/atopic-dermatitis/567/
かゆみを抑えたい方の多くが「副作用が怖いから薄く塗る」という行動をとっています。気持ちはわかりますが、これは実は逆効果になります。
薄く塗っても副作用は変わらず、効果だけが落ちます。
ステロイド外用薬の正しい量の目安として、「FTU(フィンガーチップユニット)」という国際的な基準があります。チューブから軟膏を人差し指の先から第1関節まで出した量(約0.5g)を1FTUとし、これで大人の手のひら2枚分(はがき1枚分よりやや大きい面積)に塗るのが適量です。
| 適量 | 対応面積 |
|------|----------|
| 1FTU(約0.5g) | 大人の手のひら約2枚分 |
| 2FTU(約1.0g) | 顔全体または片腕全体 |
| 3FTU(約1.5g) | 片脚全体(大腿部〜つま先) |
「ステロイドの強弱は薬の強さで調整するものであり、塗る量で調整するものではない」というのが現在のガイドラインの考え方です。量が少なすぎると効果が十分発揮されず、炎症が長引き、結果的にステロイドを長期間使い続けるハメになります。
つまり使用期間が延びることで、かえって皮膚萎縮のリスクが上がるという皮肉な結果を招きます。
なお、保湿剤などでステロイドを希釈して塗る方法を試みる人もいますが、研究データによれば、4〜16倍に希釈しても効果はほぼ変わらないとされています。「混ぜれば弱くなる」という考えも誤解です。副作用を下げたいなら、強さのランクを医師に相談して下げてもらうのが正しい対処法です。
参考:FTUとステロイドの塗り方(シオノギヘルスケア)
https://www.shionogi-hc.co.jp/hihushiruwakaru/steroid-column/05.html
かゆみが繰り返す方が陥りやすいのが「症状が出たらステロイドを塗り、消えたらやめる」というリアクティブ(受動的)な使い方です。これだと炎症がぶり返すたびにステロイドを塗り直し、結果的に総使用量が増えて皮膚萎縮リスクが上がります。
これを解決するアプローチがプロアクティブ療法です。
プロアクティブ療法とは、湿疹が一度きれいに治まった後も、週2〜3回のペースでステロイドを継続塗布し、再燃を予防する方法です。九州大学皮膚科学教室の資料でも紹介されており、ステロイドの総使用量を結果的に減らせる点が最大のメリットとされています。
手順をまとめると次のとおりです。
1. 急性期:毎日2回(朝・入浴後)ステロイドを塗り、炎症をしっかり消す
2. 維持期:週2〜3回、症状がなくても塗布を継続する
3. 離脱期:保湿剤のみの日を徐々に増やし、ステロイドの使用頻度を下げる
再燃が起きにくくなりますね。
また、顔のように皮膚が薄く吸収率が高い部位については、ステロイドを使わない選択肢も増えてきました。代表的なものがタクロリムス軟膏(プロトピック®)やデルゴシチニブ軟膏(コレクチム®)です。これらは「皮膚萎縮が起きない」という特性があり、顔や首の湿疹コントロールに活用されています。
かゆみを抑えつつ皮膚萎縮を防ぐには、ステロイドを正しく使い続けることと、非ステロイド系外用薬への切り替えを組み合わせるのが現在の標準的な考え方です。主治医に相談しながら、自分の症状と部位に合った方法を選ぶのが最善策です。
参考:プロアクティブ療法の考え方(九州大学皮膚科学教室)
https://derma.kyushu-u.ac.jp/atopy/docter/16.html
参考:コレクチム軟膏の特徴と皮膚萎縮がない理由(外用薬の選択肢拡大記事・時事メディカル)
https://medical.jiji.com/topics/1994

アトピー意外な治療法『かゆいときは掻く』『ステロイド軟膏の副作用は無視』『保湿剤は使わない』: 花粉症、鼻炎、鼻づまりの治療法も記載 (∞books(ムゲンブックス) - デザインエッグ社)