脂漏性湿疹の赤ちゃんケア
脂漏性湿疹の赤ちゃんケアと原因:ホルモンの影響
赤ちゃんの肌トラブルの中でも、生後間もない時期に多くのママやパパを悩ませるのが「脂漏性湿疹」です。特に頭皮や眉毛、おでこ周辺に黄色っぽい脂ぎったかさぶたができたり、カサカサしたフケのようなものが付着したりするのが特徴です。「私が妊娠中に脂っこいものを食べたせい?」「お風呂に入れなさすぎ?」と自分を責めてしまう保護者の方もいらっしゃいますが、決してそうではありません。
主な原因は、お母さんから受け継いだホルモン(特にアンドロゲンなどの性ホルモン)の影響です。生後3ヶ月くらいまでの赤ちゃんは、このホルモンの影響で一時的に皮脂腺の働きが非常に活発になります。大人のように毛穴が発達していないため、分泌された大量の皮脂が皮膚表面に詰まり、そこで炎症を起こしてしまうのです。
また、私たちの皮膚に普段から存在している常在菌の一種である「マラセチア菌(真菌)」も深く関係しています。マラセチア菌は皮脂をエサにして増殖する性質があり、過剰に分泌された皮脂によって菌が増えすぎると、皮膚が刺激されて湿疹が悪化してしまいます。つまり、「皮脂の過剰分泌」と「常在菌のバランス」という2つの要素が重なって起こる、生理的な現象に近いものなのです。
- 発症しやすい時期: 生後2週間〜3ヶ月頃
- 主な症状: 黄色いかさぶた、フケ、赤み、脂っぽい匂い
- 場所: 頭皮、眉毛、おでこ、耳の裏、脇の下など皮脂腺が多い場所
この時期を過ぎるとホルモンの影響が薄れ、逆に乾燥肌へと移行していくことが多いため、脂漏性湿疹は「期間限定」のトラブルとも言えます。しかし、放置すると痒みが強くなったり、「脂漏性皮膚炎」として慢性化したりすることもあるため、適切なケアで清潔を保つことが非常に重要です。
日本皮膚科学会:脂漏性皮膚炎Q&A(皮膚科の権威ある学会による解説)
脂漏性湿疹の赤ちゃんケアと洗い方:泡とオリーブオイル
脂漏性湿疹のケアにおいて、最も重要なのが毎日の「洗い方」です。皮脂が詰まっているからといって、ゴシゴシと力任せに洗うのは絶対にNGです。赤ちゃんの皮膚はラップ1枚分ほどの薄さしかなく、摩擦による刺激でバリア機能が壊れ、さらに炎症が悪化してしまいます。基本は「たっぷりの泡」で、汚れを包み込むように落とすことです。
特に頭皮にべっとりと張り付いた「頑固なかさぶた(乳痂)」の処理にはコツがいります。無理に爪で剥がそうとすると、下の皮膚まで傷つけて出血したり、そこから雑菌が入って「とびひ」になったりするリスクがあります。ここで役立つのが、食用のオリーブオイルやベビーオイルを使った「オイルパック」という手法です。
頑固なかさぶたを取るオイルパックの手順
- 入浴の30分〜1時間前に、かさぶたが気になる部分にオリーブオイル(またはベビーオイル)をたっぷりと塗ります。
- 指の腹で優しく馴染ませ、かさぶたをふやかします。蒸しタオルを少し当てるとより効果的です。
- 時間が経ってかさぶたが浮いてきたら、お風呂で石鹸を使ってオイルごとしっかりと洗い流します。
ここで非常に重要な注意点があります。それは、「塗ったオイルは必ずきれいに洗い流すこと」です。「オイルで保湿したままの方がいいのでは?」と思うかもしれませんが、脂漏性湿疹の原因となるマラセチア菌は油分を好みます。時間が経って酸化したオイルが皮膚に残っていると、かえって菌の温床になり、炎症を悪化させる原因になります。
洗い方のポイントは以下の通りです。
- 洗浄剤: 弱酸性または低刺激のベビー用泡ソープを使用します。
- 洗い方: 手のひらでたっぷりの泡を転がすように洗います。ガーゼやスポンジは摩擦が強すぎる場合があるため、ママやパパの「手」が一番の道具です。
- すすぎ: シャワーの水圧を弱めにするか、手にお湯を溜めて、ぬるつきがなくなるまで丁寧に流します。生え際や耳の裏は洗い残しが多いので注意しましょう。
- 温度: お湯の温度は38度〜39度が適温です。熱すぎると必要な皮脂まで奪い、乾燥とかゆみを誘発します。
国立成育医療研究センター:乳児湿疹について(小児医療の専門機関によるケア方法)
脂漏性湿疹の赤ちゃんケアと保湿:ワセリンとローション
「脂漏性湿疹は皮脂が多いから、保湿はしなくていいのでは?」というのは、よくある誤解です。確かに患部は脂っぽい状態ですが、洗顔によって過剰な皮脂と一緒に肌を守るための必要な潤いまで洗い流されていることが多く、洗った直後の赤ちゃんの肌は無防備で急速に乾燥していきます。
皮膚が乾燥すると、体は防衛反応として「もっと皮脂を出して肌を守らなきゃ!」と過剰に反応してしまい、脂漏性湿疹の悪循環に陥ることがあります。また、湿疹ができている肌はバリア機能が低下しており、外部からの刺激に弱くなっています。そのため、入浴後は速やかに保湿ケアを行い、肌のバリア機能をサポートする必要があります。
保湿剤には主に「ローション(乳液)タイプ」と「ワセリン(軟膏)タイプ」があり、症状や部位によって使い分けるのが正解です。
| 保湿剤の種類 | 特徴 | おすすめの部位・用途 |
|---|---|---|
| ローション(乳液) | 水分と油分がバランスよく含まれ、伸びが良い。肌に水分を与える効果が高い。 | 全身、お腹、背中、頭皮(髪の毛がある部分) |
| ワセリン | 油分が主成分で、皮膚の表面に膜を作り水分の蒸発を防ぐ。保護作用が強い。 | かさぶたが厚い部分、口周り、お尻、特に乾燥がひどい部分 |
| クリーム | ローションとワセリンの中間。しっとり感が持続する。 | 特に乾燥しやすい手足の関節部分など |
頭皮のケアには、べたつきにくいローションタイプが適しています。髪の毛がべたつかず、頭皮全体に水分を行き渡らせることができます。一方、耳切れや頬の強い乾燥、ジュクジュクしかけている部分の保護には、外部刺激を遮断する力の強いワセリン(特に純度の高い白色ワセリンやプロペト)が有効です。
保湿剤を塗るタイミングは、お風呂上がり5分以内がゴールデンタイムです。タオルで水分を拭き取ったら、赤ちゃんの肌がまだ湿り気を帯びているうちにたっぷりと塗りましょう。量は「塗った後にティッシュが張り付くくらい」が目安です。
厚生労働省:ヘルスケアラボ・皮膚のトラブル(皮膚バリア機能と保湿の重要性について)
脂漏性湿疹の赤ちゃんケアと受診:病院へ行く目安
自宅でのケア(洗浄と保湿)を続けても症状が改善しない場合、あるいは悪化している場合は、迷わず小児科や皮膚科を受診しましょう。「ただの湿疹で病院に行ってもいいのかな?」と遠慮する必要はありません。早期に適切な治療を受けることで、赤ちゃんのかゆみや不快感を早く取り除くことができ、アトピー性皮膚炎などの他の皮膚トラブルとの見極めも可能になります。
以下のような症状がある場合は、早めの受診をおすすめします。
- 症状の持続: 正しいケアを1週間以上続けても良くならない、または範囲が広がっている。
- 炎症の強さ: 赤みが非常に強い、腫れている、血が滲んでいる。
- 浸出液: 黄色い汁(浸出液)が出てジュクジュクしている。これは細菌感染(とびひなど)を起こしている可能性があります。
- 匂い: 酸化した油のような強い匂いや、膿のような嫌な匂いがする。
- 痒み: 赤ちゃんが常に頭や顔をこすりつけている、痒がって機嫌が悪い、夜眠れない。
病院では、症状の程度に合わせてお薬が処方されます。
炎症を抑えるための「ステロイド外用薬」(ロコイドやキンダベートなどの弱いランクのもの)や、かゆみを抑えるための「抗ヒスタミン薬」、マラセチア菌が原因と判断された場合は「抗真菌薬」(ニゾラールなど)が処方されることもあります。
また、非ステロイド系の塗り薬として「亜鉛華軟膏」などが処方されることもあります。これは患部を保護し、炎症を穏やかに鎮める作用があります。医師の指示通りに薬を使い、自己判断で中断しないことが大切です。「ステロイドは怖い」と感じる方もいるかもしれませんが、短期間でしっかりと炎症を抑えてから保湿ケアに移行する方が、結果的に薬を使う総量は少なく済み、肌への負担も軽減されます。
日本小児科学会:こどもの病気Q&A(皮膚のトラブルに関する受診の目安)
脂漏性湿疹の赤ちゃんケア:腸内環境とスキンケアの意外な関係
ここまでは「外側からのケア」についてお話ししてきましたが、最新の研究では「内側からのケア」、特に腸内環境(おなかの状態)が赤ちゃんの肌トラブルと密接に関係していることが分かってきています。
私たちの腸内には何兆個もの細菌が住んでおり、免疫システムの約70%が腸に集中していると言われています。赤ちゃんの腸内細菌叢(フローラ)は、生まれた瞬間から形成され始めますが、このバランスが崩れると免疫機能が不安定になり、皮膚の炎症やアレルギー反応を引き起こしやすくなるという説があります。これを医学用語で「腸脳皮膚相関(Gut-Brain-Skin Axis)」と呼ぶこともあります。
脂漏性湿疹は皮脂のトラブルですが、皮膚の常在菌バランスが崩れることで悪化します。同様に、体の内側の菌バランスも肌の健康状態に影響を与えるのです。
- ビフィズス菌や乳酸菌の重要性:
善玉菌優位の腸内環境は、皮膚のバリア機能を高め、炎症を抑えるサポートをします。母乳育児の場合、お母さんの食事が間接的に赤ちゃんの腸内環境に影響を与える可能性があります。発酵食品(納豆、ヨーグルト、味噌汁など)や食物繊維を意識して摂ることは、巡り巡って赤ちゃんの肌ケアにつながるかもしれません。
- ミルク育児の場合:
最近では、ビフィズス菌やオリゴ糖を配合した「プレバイオティクス」「プロバイオティクス」の粉ミルクも登場しています。肌トラブルが長引く場合、ミルクの種類を検討してみるのも一つの視点です。
- ビタミンB群の不足:
皮脂のコントロールに関わる「ビタミンB2」や「ビタミンB6」が不足すると、脂漏性湿疹が悪化しやすいと言われています。授乳中のお母さんは、豚肉、レバー、緑黄色野菜、青魚などを積極的に摂ることで、母乳を通じて赤ちゃんに必要なビタミンを届けることができます。
もちろん、腸内環境を整えたからといって即座に湿疹が治るわけではありませんが、外側からのスキンケア(洗浄・保湿・薬)と合わせて、内側からのケア(栄養・腸活)を意識することで、再発しにくい丈夫な肌作りを目指すことができます。あまり神経質になる必要はありませんが、「おなかの元気は肌の元気」と覚えておくと、ケアの選択肢が広がるでしょう。
日本静脈経腸栄養学会雑誌:プロバイオティクスとアレルギー疾患(腸内細菌と皮膚疾患の関連性についての学術論文)


