乳房再建の費用と保険適用|インプラントや高額療養費を解説

乳房再建の費用と保険

乳房再建の費用と保険のポイント
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保険適用で負担減

インプラントも自家組織も保険適用。高額療養費制度で月額負担は約8〜9万円程度に抑えられます。

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術式の違いと費用

シリコンは手術が2回必要な場合が多く、自家組織は入院期間が長め。総額と休業期間のバランスが重要です。

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意外なケア出費

術後の皮膚のかゆみ止めや保護テープ、専用下着などの「維持費」は原則自己負担となります。

乳房再建の費用相場と保険適用の基礎知識

 

乳房再建手術を検討する際、最も気になるのが費用の問題ですが、現在は多くの再建方法が健康保険の適用となっています。かつては人工乳房(シリコンインプラント)による再建は自費診療扱いでしたが、2013年および2014年の保険収載により、現在では「自家組織」を用いた再建も「インプラント」を用いた再建も、標準的な治療であれば保険診療として受けられるようになっています。

 

参考)乳房再建の費用

保険適用ということは、窓口での支払いが原則として3割負担(現役世代の場合)で済むことを意味します。費用の目安として、手術単体の点数だけで見た場合、インプラントによる再建手術(ゲル充填人工乳房を用いた乳房再建術)は約30万〜40万円程度の医療費がかかりますが、3割負担であれば窓口支払いは10万円前後となります。一方、患者さん自身の背中やお腹の組織を移植する「自家組織再建(皮弁法)」は、手術の難易度が高く時間もかかるため、医療費総額は100万円〜150万円近くと高額になりますが、こちらも保険適用となるため、3割負担での窓口支払いは30万〜50万円程度と試算されます。

 

参考)【乳がん】乳房再建の費用は高額!がん保険で備えるのもひとつの…

ただし、これらはあくまで「手術手技料」や「材料費」などの概算であり、実際には全身麻酔の費用、入院基本料、検査料、薬剤料などが加算されます。特に入院期間の長さは費用に直結します。インプラント再建は入院期間が数日〜1週間程度と比較的短い傾向にありますが、自家組織再建は術後の安静や組織の定着を確認する必要があるため、2週間前後の入院が必要になることが一般的です。また、個室を選択した場合の「差額ベッド代」や、入院中の食事代(標準負担額)は保険適用外となり、全額自己負担となる点には注意が必要です。

 

参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E4%B9%B3%E6%88%BF%E5%86%8D%E5%BB%BA

ここで重要なのが、乳房再建には「一次再建(乳がんの手術と同時に行う)」と「二次再建(乳がんの手術が終わってから後日改めて行う)」というタイミングの違いがあることです。一次再建の場合、乳腺外科での乳がん切除手術と形成外科での再建手術の費用が合算されます。二次再建の場合は、再建手術単独の費用として計算されますが、インプラント法を選択した場合は、皮膚を伸ばすための「ティッシュ・エキスパンダー(組織拡張器)」を入れる手術と、半年〜1年後にそれを「永久インプラント」に入れ替える手術の合計2回の手術が必要になることが多く、その都度入院・手術費用が発生します(最近では一次一期的再建といって1回で済むケースもありますが適応は限られます)。

 

参考)乳がんで切除された乳房の再建は保険適用されない? 治療法によ…

一般社団法人 日本創傷外科学会
参考リンク:創傷外科や乳房再建に関する専門的なガイドラインや、市民向けの公開講座情報が掲載されており、治療の質や安全性についての理解が深まります。

 

高額療養費制度と3割負担で自己負担はいくら?

前述の通り、3割負担でも数十万円の支払いが発生する可能性がありますが、日本の公的医療保険には「高額療養費制度」という強力なセーフティネットが存在します。これは、1ヶ月(1日から月末まで)にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、所得に応じた一定の限度額を超えた分が払い戻される制度です。

 

参考)乳房再建手術の費用はいくらくらいですか?高額療養費制度は使え…

一般的な収入の現役世代(年収約370万〜770万円、区分ウ)の方であれば、1ヶ月の自己負担限度額は「80,100円+(医療費総額-267,000円)×1%」という計算式で算出され、概ね8万円〜9万円程度になります。つまり、窓口で30万円や50万円を支払ったとしても、後から申請すれば限度額を超過した分が戻ってくるため、実質的な手術・入院費用の負担は約9万円程度で済む計算になります。

ただし、この制度にはいくつかの落とし穴とテクニックがあります。まず、「月またぎ」の入院には注意が必要です。高額療養費は「暦月(1日から末日まで)」ごとに計算されるため、例えば月末に入院して翌月の初めに退院した場合、入院期間が2つの月にまたがってしまい、それぞれの月で限度額まで支払う必要が出てくる可能性があります。可能な限り、手術と入院が同一月内に収まるように日程調整を行うことで、費用の総額を抑えられる場合があります(ただし、手術室の空き状況やがん治療の優先度によるため、必ずしも希望通りにはいきません)。

 

参考)乳房再建の実際

また、「限度額適用認定証」を事前に取得しておくことを強くお勧めします。これを病院の窓口で提示すれば、最初から支払額を自己負担限度額(約9万円+食事代等)で止めることができ、多額の現金を一時的に立て替える必要がなくなります。マイナンバーカードを保険証として利用できる医療機関では、この認定証の手続きなしで限度額までの支払いに自動的に対応してもらえるケースが増えています。

さらに、自家組織再建などで入院が長引き、過去12ヶ月以内に3回以上高額療養費の支給を受けている場合は「多数回該当」という仕組みが適用され、4回目以降の限度額がさらに引き下げられます(一般的な所得区分ウであれば44,400円になります)。抗がん剤治療などで既に高額療養費を利用している方は、この多数回該当により再建手術の費用負担がさらに軽減される可能性があります。

 

参考)【2025年11月更新】がん保険 乳房再建の給付条件|費用と…

注意点として、乳頭や乳輪の再建については、病院や術式によって保険適用の解釈が分かれる場合があります。乳頭を皮膚移植で作る場合は保険適用となることが多いですが、タトゥー(医療用刺青)で色をつける処置は「整容目的」とみなされ自費診療(数万円〜)になる施設もあります。完全に保険だけでカバーできる範囲と、自費になる可能性がある範囲については、事前のカウンセリングで明確に確認しておく必要があります。

 

参考)術後の形成・再建等にかかる保険適用外の費用が高い

インプラントと自家組織の費用比較と選び方

費用の観点から「インプラント(人工物)」と「自家組織(自分の肉体)」のどちらを選ぶべきか悩む方も多いですが、高額療養費制度を利用することを前提とすれば、最終的な患者さんの財布からの持ち出し金額(自己負担額)には大きな差が出ないことがほとんどです。

インプラント再建の特徴と費用構造
インプラント再建は、多くの場合2段階の手術を経ます。1回目で組織拡張器(エキスパンダー)を入れ、数ヶ月かけて皮膚を伸ばした後、2回目でシリコンインプラントに入れ替えます。

 

  • メリット: 手術時間が短く、体への侵襲が少ない。入院期間も短い(数日〜1週間)。新たな傷を作らない。
  • 費用の傾向: 手術が2回あるため、高額療養費の限度額を「2回分」支払うことになるケースが多いです。また、エキスパンダー挿入中の通院(生理食塩水の注入)や、定期検診が長期間必要になります。インプラントは人工物であるため、破損や変形のリスクがあり、将来的に入れ替え手術(メンテナンス)が必要になる可能性があります。この「将来の入れ替え」も、破損や合併症(被膜拘縮など)などの医学的な理由があれば保険適用となりますが、単にサイズを変えたい等の理由は自費となります。

    参考)価格表 – ララ・ブレスト・リコンストラクション…

自家組織再建の特徴と費用構造
お腹や背中の筋肉・脂肪を血管ごと移植する方法です。

 

  • メリット: 温かみのある自然な触り心地が得られ、メンテナンスフリーで一生モノになる。一度の手術で完了することが多い。
  • 費用の傾向: 手術時間が長く(6〜10時間以上)、入院期間も長いため(2週間〜)、医療費の総額(10割分)は非常に高くなりますが、患者負担は高額療養費の上限でストップします。ただし、入院日数が長引く分、食事代や、個室を希望した場合の差額ベッド代の負担はインプラントよりも大きくなりがちです。

    参考)乳がんにまつわる費用~治療費・がん保険の適用・定期検診

選択のポイント
「費用」だけで選ぶのではなく、「ライフスタイル」と「仕上がりへのこだわり」で選ぶべきです。仕事が忙しく長期休暇が取れない方は、入院が短いインプラントが有利ですし、異物反応や将来の入れ替えリスクを避けたい方、放射線治療の既往があり皮膚が伸びにくい方は自家組織が推奨されます。また、最近では「脂肪注入法」という選択肢もありますが、これは多くの場合、保険適用外(自費診療)または臨床研究としての実施となり、100万円単位の費用がかかることがあります(一部、再生医療等安全性確保法に基づく届出を行っている施設での実施に限られます)。

 

参考)再生医療(培養脂肪幹細胞付加脂肪注入)を用いた乳房再建

日本乳癌学会
参考リンク:乳がん治療のガイドラインや、再建手術を含む治療選択のアルゴリズムが詳細に解説されており、標準治療の理解に役立ちます。

 

がん保険の給付金は出る?民間保険の確認点

公的保険だけでなく、ご自身で加入している民間の「医療保険」や「がん保険」も、乳房再建の費用をカバーする大きな助けになります。乳房再建手術は、約款所定の「手術」に該当するため、多くの医療保険で「手術給付金」の支払い対象となります。

特に確認すべきは「がん保険」の特約です。商品によっては「乳房再建給付金」や「特定損傷給付金」といった名称で、乳房再建を行った場合にまとまった一時金(50万円や100万円など)が支払われるタイプのものがあります。また、女性疾病特約が付加されている場合、乳房の手術に対して給付金が上乗せされることもあります。

注意が必要なのは、「インプラント再建」の場合の扱いです。インプラント再建は「エキスパンダー挿入術」と「インプラント入替術」の2回手術を行いますが、保険会社によっては「一連の治療とみなして1回分しか給付金が出ない」場合と、「2回それぞれの手術に対して給付金が出る」場合があります。また、「60日間に1回の手術を限度とする」といった制限がある場合、1回目の手術と2回目の手術の間隔によっては2回目が対象外になることも考えられます(通常は半年以上あくので問題ないことが多いですが、確認は必須です)。

また、診断書の発行費用(1通5,000円〜1万円程度)もかかりますので、複数の保険に入っている場合は、1通の診断書(コピー可の場合もある)で請求できるか、保険会社ごとに原本が必要かも確認しましょう。最近では、領収書と診療明細書のコピーだけで簡易請求できる保険会社も増えています。給付金が下りれば、自己負担分(高額療養費適用後の約9万円×回数分)だけでなく、差額ベッド代や術後のケア用品代まで十分に賄えるケースも多く、経済的な不安を大きく解消できます。

 

術後の皮膚トラブルやかゆみにかかる意外なケア費用

乳房再建の費用計算で見落とされがちなのが、退院後に発生する「アピアランスケア(外見のケア)」や「皮膚トラブル」に伴う出費です。特に、皮膚を拡張している期間や術後の傷跡が落ち着くまでの間、多くの患者さんが「かゆみ」に悩まされます。

 

参考)胸の痛み

かゆみの原因と対策費用
術後の乳房は、皮膚が引き伸ばされたり、知覚神経が回復してきたりする過程で、強いかゆみを感じることがあります。また、傷跡をきれいに治すために貼る「サージカルテープ」によるテープかぶれも頻繁に起こります。

 

  • 処方薬: 医師から処方される「ヘパリン類似物質(ヒルドイドなど)」等の保湿剤や、炎症を抑えるステロイド外用薬は保険適用となります。診察代と合わせても数百円〜千円程度で済みます。

    参考)乳房再建手術後における手術後の傷あとケアテープ 「アトファイ…

  • 市販のケア用品: 病院で処方されるテープでかぶれてしまう場合、肌に優しいシリコン系の高機能テープ(例:アトファイン、レディケアなど)を自分で購入する必要があります。これらは1箱1,500円〜2,000円程度で、数ヶ月〜半年以上貼り続けるとなると、トータルで数万円の出費になることもあります。これらは原則として「療養費」とは認められず、全額自己負担となります。​

下着・補整具の費用
再建手術後は、ワイヤー入りのブラジャーが使えない期間が長く、胸を締め付けない「前開き」や「ノンワイヤー」の専用ブラジャーが必要になります。これらは1枚3,000円〜1万円程度と、一般的な下着よりも高価です。また、左右のバランスを整えるためのシリコンパッドやウレタンパッドも必要になることがありますが、これらも基本的には医療費控除の対象外です(医師が治療上必要と認め、証明書を書いた場合は対象になる可能性もゼロではありませんが、稀です)。

 

参考)乳がん⑤-乳癌手術後/外見の変化に対するアフターケア

自治体の助成金制度
ここで朗報なのが、自治体による「アピアランスケア助成金」です。最近では、ウィッグだけでなく、乳房補整具(補整下着や人工乳房)の購入費用を助成してくれる自治体が増えています(例:購入費用の2分の1、上限2万円まで等)。お住まいの地域にこのような制度があるかどうか、役所のホームページやがん相談支援センターで必ず確認してください。

 

参考)SURVIVORSHIP.JP -がんと向きあって-|乳房再…

かゆみや皮膚トラブルは、生活の質(QOL)を大きく下げる要因です。「たかがかゆみ」と我慢せず、皮膚科を受診して薬を処方してもらうことは、結果的に市販薬をあれこれ試すより安上がりで効果的です。再建費用を計算する際は、こうした「術後の肌ケア」や「専用下着」にかかる数万円〜10万円程度の予備費も見積もっておくと安心です。

 

 


乳房再建update: 患者とともに選択するための確かな技術

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