エピペンの使い方と動画
エピペンの打ち方と練習用トレーナーの確認
エピペンはいざという時に患者自身、あるいは保護者や教職員が迷わずに使用できなければなりません。しかし、緊急時はパニックになりやすく、頭で分かっていても手が動かないという事態が想定されます。そのため、動画で流れを確認するだけでなく、練習用トレーナーを使って「筋肉の記憶」として動作を定着させることが非常に重要です。
まず、エピペンの基本的な持ち方ですが、必ず利き手で「グー」の形に握りしめます。この時、親指をペンの上部(青い安全キャップ側)にかけてはいけません。緊急時に誤って親指で押し込んでしまい、自分の指に針が刺さる事故を防ぐためです。しっかりと円筒状の本体を握り込むことが、正確な操作の第一歩となります。
具体的な手順は以下の通りです。この手順は、多くの医療機関や公式ガイドラインで推奨されている「確認動作」を含んでいます。
- ケースから取り出す
携帯用ケースのフタを開け、エピペン本体を取り出します。透明な窓から薬液が変色していないか一瞬で確認する癖をつけておくと良いでしょう。
- 青い安全キャップを外す
本体をしっかり握ったまま、上部の「青い安全キャップ」を真っ直ぐ上に引き抜きます。このキャップがロック解除の役割を果たしており、外さない限り針は絶対に出ません。「青は空(上)へ」と覚えるとスムーズです。
- オレンジ色のニードルカバーを太ももに当てる
先端の「オレンジ色のニードルカバー」を、太ももの前外側(ズボンの縫い目あたり)に向けます。「オレンジは太もも(下)へ」と覚えます。注射部位は大腿部の前外側が筋肉量が豊富で、神経や血管を傷つけるリスクが低いため推奨されています。
- 強く押し付ける(スイングまたはプレス)
太ももに対して垂直になるように構え、カチッというクリック音がするまで強く押し付けます。服の上からでも注射可能です。小児などで体が動いてしまう場合は、しっかりと足を固定する必要があります。推奨されている動作としては、少し距離をとって振り下ろすように打つ方法(スイング)と、皮膚に当ててから押し込む方法がありますが、確実に作動させることが最優先です。
- 数秒間保持する
カチッという音がしても、すぐに離してはいけません。薬液が完全に筋肉内に注入されるまで、しっかりと押し付けたまま保持します。以前は10秒と言われていましたが、現在の最新のエピペンガイドラインでは「3秒」待つことが推奨されています。
エピペンサイト(ヴィアトリス製薬株式会社) - 正しい使い方と動画
※製造販売元による公式の使用手順動画や、PDFのガイドブックがダウンロードできます。最も信頼できる一次情報です。
練習用トレーナーは、針も薬液も入っていないリセット可能なデバイスです。医師から処方時に使い方の指導を受ける際に使用されますが、学校や保育所などの施設関係者向けには、メーカーから貸出が行われることもあります。定期的に「キャップを外す」「押し付ける」「保持する」という一連の動作を練習し、カチッという音と感触に慣れておくことで、本番での恐怖心を和らげることができます。
参考)練習用トレーナーの無償貸与|教職員・保育士・救急救命士の皆様…
エピペンを打つタイミングとアナフィラキシー症状
エピペンを使用するタイミングの判断は、多くの保護者や教育関係者が最も不安に感じる点です。「まだ軽症かもしれない」「もう少し様子を見よう」という迷いが、手遅れを招く原因となります。基本原則は「迷ったら打つ」です。エピペン(アドレナリン)は、アナフィラキシーショックが起きてから30分以内に投与することで最大の効果を発揮すると言われています。
アナフィラキシーとは、アレルゲンを摂取した後、短時間(数分~数十分)のうちに全身に現れる激しいアレルギー反応のことです。特に皮膚症状だけでなく、呼吸器や循環器、消化器などに症状が現れた場合、あるいは複数の臓器に症状が出ている場合は緊急性が高いと判断します。
主な判断基準となる症状は以下の通りです。これらが一つでも強く出ている、あるいは進行が早い場合は使用を躊躇してはいけません。
- 呼吸器の症状(緊急度:高)
- 喉が締め付けられる感覚、声がかれる(嗄声)。
- 犬が吠えるような咳(犬吠様咳嗽)。
- ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音(喘鳴)。
- 呼吸が苦しい、胸が苦しい。
- 循環器の症状(緊急度:高)
- 唇や爪が白・青白くなる(チアノーゼ)。
- 脈が触れにくい、不整脈。
- 意識がもうろうとする、ぐったりして反応が鈍い。
- 血圧低下による立ちくらみや失神。
- 消化器の症状
- 繰り返す嘔吐。
- 激しい腹痛。
- 持続する下痢。
- 皮膚・粘膜の症状
- 全身の蕁麻疹(じんましん)。
- 皮膚の赤み、強いかゆみ。
- まぶたや唇の腫れ。
アナフィラキシーガイドライン(日本アレルギー学会)
※専門医による詳細な診断基準や治療ガイドラインが掲載されており、症状の重症度判定(グレード分類)について深く理解するために役立ちます。特に注意が必要なのは、一度症状が治まったように見えても、数時間後に再び症状が現れる「二相性反応」のリスクがあることです。また、過去に重篤なアナフィラキシーを起こしたことがある人は、微量の摂取でも急激に症状が悪化する可能性があります。皮膚のかゆみだけであれば抗ヒスタミン薬の内服で様子を見ることもありますが、咳が出始めたり、お腹を痛がったりした時点で、それは全身反応(アナフィラキシー)へと進行しているサインです。「声が出しにくい」「喉がイガイガする」という訴えは、気道がむくんで塞がりかけている危険な兆候ですので、即座にエピペンを用意してください。
参考)https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento282_05_210722_siryo3.pdf
エピペン使用後の救急車と副作用の対応
エピペンを注射したからといって、それで全てが解決するわけではありません。エピペンに含まれるアドレナリンの効果は一時的(約10分~15分程度)であり、あくまで病院に到着するまでの時間を稼ぐための「補助治療剤」です。したがって、エピペンを使用したら、直ちに救急車(119番)を要請する必要があります。
119番通報をする際には、以下の点を明確に伝えてください。
- 「アナフィラキシーショックを起こしていること」
- 「エピペンを使用したこと」
- 「現在の患者の意識状態と症状」
救急隊が到着するまでの間、患者の体勢管理も重要です。基本的には、血流を脳や心臓に保つために、仰向けに寝かせて足を高く上げる「ショック体位」をとらせます。絶対に立たせたり、歩かせたりしてはいけません。急に立ち上がると血圧が急激に低下し、致命的な状態になる恐れがあります(「心停止」のリスクがあります)。ただし、嘔吐がある場合は窒息を防ぐために顔を横に向け、呼吸が苦しそうな場合は上体を少し起こすなど、症状に合わせた柔軟な対応が必要です。
また、エピペン使用後にはアドレナリンの薬理作用による副作用(身体反応)が現れることがありますが、これは薬が効いている証拠でもあります。パニックにならず、以下の症状が出る可能性があることを理解しておきましょう。
- 動悸(心臓がドキドキする)
- 手の震え
- 顔面蒼白
- 冷や汗
- 頭痛
これらは通常、一過性のものであり、アナフィラキシーによる生命の危機に比べれば許容される反応です。「震えているから失敗したのではないか」と不安になる必要はありません。
使用済みのエピペンは、医療廃棄物として扱われます。決して一般のゴミ箱に捨ててはいけません。針が出た状態(オレンジ色のカバーが伸びた状態)になっているはずですので、そのまま救急隊員に渡すか、医療機関へ持参してください。これにより、医師が「確実に投与されたこと」を確認でき、その後の治療方針決定の助けになります。
参考)エピペン(アナフィラキシー補助治療剤)|東京都江戸川区の葛西…
エピペンの保管方法と期限切れの確認
エピペンの品質を維持し、いざという時に確実に作動させるためには、日頃の適切な保管と管理が求められます。エピペンは温度変化や光に敏感な薬剤です。
適切な保管条件:
- 温度管理: 15℃~30℃での保存が推奨されています。冷蔵庫に入れてはいけません(冷えすぎると器具の作動不良や薬液の変質を招く恐れがあります)。逆に、夏の車内や直射日光の当たる窓際、暖房器具の近くなど、高温になる場所も厳禁です。
- 遮光: 薬液は光によって分解されやすいため、必ず付属の携帯用ケースに入れて保管してください。
定期的なチェックポイント:
エピペンには「確認窓」があります。ここから薬液の状態を見ることができます。通常は無色透明ですが、もし茶色く変色していたり、沈殿物が見られたりする場合は、薬の効果が低下している可能性があるため、使用期限内であっても新しいものと交換する必要があります。使用期限の管理:
エピペンの使用期限は、本体および箱に記載されています。期限が切れたエピペンは、十分な薬効が期待できないだけでなく、予期せぬトラブルの原因となるため使用してはいけません。しかし、忙しい日常の中で期限を忘れがちになるのが実情です。そこでおすすめなのが、メーカーが提供している「エピペン登録者向けサービス」への登録です。このサービスに登録しておくと、使用期限が近づいた際にメールやハガキでお知らせが届くため、交換忘れを防ぐことができます。
廃棄について:
使用済みだけでなく、期限切れのエピペンも同様に、一般ゴミとして捨てることは法律(廃棄物処理法)および安全上の観点から禁止されています。針が内蔵されているため、ゴミ収集作業員の怪我につながる危険性があるほか、残った薬液が環境に悪影響を与える可能性もあります。必ず処方を受けた医療機関や調剤薬局に返却し、医療廃棄物として処理してもらってください。新しいエピペンを処方してもらうタイミングで古いものを持参するのが最もスムーズです。参考)https://www.epipen.jp/download/EPI_guidebook_j.pdf
エピペン所持者の家族と学校での共有ガイド
最後に、検索上位の記事ではあまり深く触れられていない視点として、「エピペンの所在と使用権限の共有」について解説します。エピペンの使い方は動画で学べますが、「誰が」「どのカバンの」「どこから」取り出すのかという物理的・心理的なシミュレーションが不足していると、現場では数分のロスが生まれます。
1. 物理的な場所の共有:
「カバンに入っている」だけでは不十分です。「黒いリュックの」「一番手前のポケットの」「メッシュの内ポケット」といった具体的な場所を、家族全員や学校の担任教師と共有しておく必要があります。緊急時、本人は話せないかもしれません。第三者がカバンを漁って即座に見つけられるよう、エピペンケースに目立つストラップを付けたり、カバンの外側に「エピペン所持」を示すキーホルダー(アレルギーマーク)を付けたりする工夫が有効です。2. 学校や園での「生活管理指導表」と「アクションプラン」:
学校や保育所では、文部科学省のガイドラインに基づき「学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)」の提出が求められます。これに加え、より具体的な緊急時の動きを定めた「個別のアクションプラン」を作成することをお勧めします。- 誰がエピペンを打つのか?(第一発見者の教職員が打つことが法的に認められています)
参考)https://www.gakkohoken.jp/book/ebook/ebook_R010060/R010060.pdf
- 誰が119番通報をするのか?
- 誰が保護者に連絡するのか?
- AEDが必要になった場合の役割分担は?
3. 心理的なハードルの共有:
家族や教師に対して、「もしもの時は、ためらわずに打ってください。打った結果、アナフィラキシーでなかったとしても責任は問いません」という意思を明確に伝えておくことが、打つ側の心理的ハードルを劇的に下げます。他人(教師など)にとって、生徒の体に針を刺すという行為は極度の緊張を伴います。「空振りでも構わない(命を守る方が優先)」という合意形成が、迅速な投与決断への最後の一押しとなります。日本学校保健会 - アレルギー疾患への対応
※学校におけるアレルギー対応のガイドラインや、教職員向けの研修資料、緊急時シミュレーションの具体例などが豊富に公開されています。また、旅行や遠足、修学旅行などの非日常的なイベントの際は、担任だけでなく、引率する他の教員や保健室の先生ともエピペンの保管場所を再確認してください。バスの中なのか、手持ちリュックなのか、保管場所が流動的になりがちな場面こそ、綿密な共有が必要です。
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