フェニトイン血中濃度高い時のかゆみ原因と中毒症状の対処法

フェニトインの血中濃度が高いと現れる症状

フェニトイン中毒と皮膚症状の要点
⚠️
かゆみは過敏症のサイン

単なる副作用ではなく、重篤なDIHS(薬剤性過敏症症候群)の初期症状である可能性があります。

😵
20μg/mL以上で中毒

血中濃度が20を超えると眼振やふらつきが現れ、40を超えると意識障害のリスクが高まります。

📉
低栄養時の「隠れ中毒」

血液検査の数値が正常範囲でも、アルブミンが低いと実際の作用が強く出てしまうため注意が必要です。

フェニトイン(商品名:アレビアチン、ヒダントールなど)は、てんかん発作のコントロールに非常に有効な薬剤ですが、「治療域」と呼ばれる安全に効果を発揮する範囲が非常に狭い薬として知られています。

 

通常、フェニトインの有効血中濃度は 10~20μg/mL とされています。この範囲を超えて血中濃度が高い状態になると、神経系を中心としたさまざまな中毒症状が現れます。しかし、患者さん自身が最初に異変として自覚しやすいのが、皮膚の「かゆみ」や「発疹」です。

 

ここでは、血中濃度が高い場合に起こりうる具体的な症状と、特に見逃してはいけない皮膚トラブルとの関連性について詳しく解説します。

 

フェニトイン血中濃度が高い場合のかゆみと皮膚症状

フェニトインを服用している方で「最近、体がかゆい」「発疹が出てきた」と感じる場合、それは単なる乾燥肌や一時的な湿疹ではない可能性があります。フェニトインは他の薬剤に比べて、皮膚粘膜への副作用が現れやすい特徴があります。

 

特に注意が必要なのは、血中濃度の上昇に伴う肝機能障害によるかゆみと、薬剤性過敏症によるかゆみです。

 

  • 肝機能障害による全身のかゆみ

    フェニトインは肝臓で代謝される薬剤ですが、血中濃度が過度に高くなると肝臓に負担がかかり、肝機能障害を引き起こすことがあります。肝臓の機能が低下して黄疸(おうだん)の初期段階になると、ビリルビンという物質が体内に蓄積し、これが全身の強いかゆみを引き起こします。この場合、皮膚に発疹がなくても「体の内側からかゆい」と感じることが特徴です。

     

  • DIHS(薬剤性過敏症症候群)の兆候

    最も警戒すべきは、DIHS と呼ばれる重篤な副作用です。これは単なる薬疹とは異なり、全身の臓器に影響を及ぼす全身性の反応です。血中濃度が高い状態でリスクが上がると言われていますが、投与量が正常でも個人の体質(アレルギー)によって発症します。

     

    DIHSの初期症状チェックリスト:

    • 38度以上の発熱が続く
    • 全身に広がる赤い発疹やかゆみ
    • 首やわきの下のリンパ節が腫れる
    • 顔のむくみ

    これらのかゆみや発疹は、服用を開始してから 2週間~6週間後 という比較的遅い時期に現れるのが特徴です。「飲み始めは大丈夫だったから薬のせいではない」と自己判断するのは非常に危険です。かゆみを伴う発疹が出た場合は、中毒域に達しているかどうかにかかわらず、直ちに医師に相談する必要があります。

     

DIHS(薬剤性過敏症症候群)の症状と経過についての詳細解説|こばとも皮膚科
(リンク先では、DIHSの発症時期や特徴的な症状、再燃するリスクについて専門的な解説がなされています)

フェニトイン血中濃度が20μg/mLを超えた時の中毒症状

かゆみなどの皮膚症状とは別に、フェニトインの血中濃度が治療域の上限である 20μg/mL を超えると、濃度依存的に神経系の中毒症状が現れます。これらの症状は、血中濃度がどの程度高いかによって、出現する症状の深刻度が変わってきます。

 

以下の表は、血中濃度と現れる症状の目安をまとめたものです。

 

血中濃度 (μg/mL) 症状のレベル 具体的な中毒症状
10 ~ 20 治療域(正常) 発作が抑制されている状態。副作用は少ない。
20 ~ 30 軽度中毒 眼振(がんしん):目を横に動かすと黒目が細かく揺れる。複視:物が二重に見える。ふらつき:歩くときに足元がおぼつかない。
30 ~ 40 中等度中毒 運動失調:千鳥足になり、まっすぐ歩けない。構音障害:ろれつが回らなくなる。手の震え(振戦)が目立つようになる。
40 ~ 重度中毒 精神機能の低下:強い眠気(傾眠)、ぼんやりする。意識障害、錯乱、幻覚。逆にけいれん発作が悪化することもある。

特に「眼振(がんしん)」は初期のサインです
家族や介護者がチェックできる最も簡単な方法は、患者さんの目の動きを見ることです。「顔を動かさずに、指先を目だけで追ってください」と言って指を左右に動かしたとき、黒目がピクピクと小刻みに揺れるようであれば、血中濃度が20μg/mLを超えている可能性が高いサインです。

 

また、「ふらつき」も高齢者の場合は単なる加齢による足腰の弱りと勘違いされやすいため注意が必要です。急に転びやすくなった、箸がうまく使えなくなったという変化が見られたら、フェニトインの血中濃度が高い状態を疑う必要があります。

 

医療用医薬品 : マイスタン(フェニトイン製剤)の添付文書情報
(リンク先では、公式な添付文書として中毒症状の詳細や、眼振等の症状が現れた際の減量指示について記載されています)

フェニトイン血中濃度が高くなる原因と非線形性の特徴

なぜフェニトインは、これほど血中濃度のコントロールが難しいのでしょうか。その最大の理由は、フェニトインが持つ独特の代謝特性である 「非線形薬物動態(ひせんけいやくぶつどうたい)」 にあります。

 

通常、多くの薬は「飲む量を2倍にすれば、血中濃度も2倍になる」という比例関係(線形)にあります。しかし、フェニトインはそうではありません。

 

  • 代謝酵素がすぐに飽和してしまう

    フェニトインは肝臓の酵素(主にCYP2C9やCYP2C19)によって代謝・分解されますが、この酵素の処理能力には限界があります。

     

    投与量が少ないうちはスムーズに分解されますが、ある一定量を超えると、酵素の処理能力が限界(飽和状態)に達します。すると、わずかに薬を増やしただけで、分解されきれなかった薬が体内に急激に蓄積し、血中濃度が跳ね上がります。

     

    例:

    • 200mg服用 → 血中濃度 8μg/mL(効き目が弱い)
    • 250mg服用(たった50mg増量) → 血中濃度 25μg/mL(一気に中毒域へ

    このように、「少し増やしただけ」で「危険なほど高くなる」 のがフェニトインの怖さです。そのため、投与量の調整は25mg単位や、場合によっては散剤を使ってさらに細かく行う必要があります。

     

    • 薬の相互作用

      他科で処方される薬との飲み合わせも、血中濃度を高くする大きな原因です。

       

      • 抗真菌薬(ミコナゾール、フルコナゾールなど): 水虫やカンジダの治療薬です。これらはフェニトインの代謝を強力に阻害するため、併用するとフェニトイン濃度が急上昇し、中毒を引き起こす代表的な薬剤です。皮膚のかゆみで皮膚科にかかる際は、必ずフェニトインを服用していることを伝えなければなりません。
      • 一部の胃薬(シメチジンなど): これらも代謝を阻害する作用があります。
    • 遺伝的な個人差

      日本人を含む東洋人の一部(数%~十数%)は、フェニトインを分解する酵素(CYP2C19)の働きが生まれつき弱い体質(PM: Poor Metabolizer)を持っています。この体質の人は、標準的な量を服用していても血中濃度が高くなりやすく、少量で中毒症状が出ることがあります。

       

    フェニトイン血中濃度は正常でも中毒になるアルブミン低下

    これは検索上位の一般的な記事ではあまり深く触れられていない、非常に重要な「隠れ中毒」の視点です。

     

    「病院で血液検査をして、フェニトイン濃度は『15μg/mL』で正常だと言われた。でも、ふらつきや眼振がある」
    このようなケースが存在します。なぜでしょうか?
    それは、「血中のタンパク質(アルブミン)不足」 が原因です。

     

    フェニトインとタンパク結合の仕組み:
    血液中に入ったフェニトインの約90%は、血液中のタンパク質である「アルブミン」と結合して運ばれます。アルブミンにくっついているフェニトインは、いわば「待機中」の状態であり、薬としての作用を発揮しません。

     

    実際に脳に作用したり、中毒症状を起こしたりするのは、アルブミンと結合していない残り10%の 「遊離型(フリー体)」 のフェニトインだけです。

     

    低アルブミン血症のリスク:
    高齢者、腎臓病の方、栄養状態が悪い方、妊娠中の方などは、血中のアルブミン量が低下していることがあります。

     

    アルブミンが少ないと、フェニトインが結合できる相手がいなくなってしまい、結果として 「暴れ回る遊離型(フリー体)」の割合が増えてしまいます。

    • 通常の状態(アルブミン正常):

      総濃度 15μg/mL = 結合型 13.5 + 遊離型 1.5(正常)

    • 低アルブミン血症の状態:

      総濃度 15μg/mL = 結合型 12.0 + 遊離型 3.0(中毒レベル!)

    このように、検査結果の「総濃度」が正常範囲(10~20)に入っていても、「遊離型濃度」が高くなっているため、実際には中毒症状が出ている という現象が起こります。

     

    特に高齢者で「数値は合っているのに、どうも元気がない、ふらつく」という場合は、このアルブミン低下による遊離型の上昇を疑う必要があります。専門的な医師であれば、アルブミン値を加味した補正式を用いて評価したり、直接「遊離フェニトイン濃度」を測定したりして判断します。

     

    抗てんかん薬の血中濃度測定はどのようなときに行うか|てんかん診療ガイドライン
    (リンク先では、低アルブミン血症時における血中濃度の解釈や、遊離型濃度測定の重要性について言及されています)

    フェニトイン血中濃度が高い状態を改善する検査と対処法

    フェニトインによるかゆみや中毒症状が疑われる場合、自己判断での対応は禁物です。適切なステップで対処する必要があります。

     

    1. 絶対に急に服薬を中止しない
    「中毒かもしれない」と怖くなって急に薬を飲むのをやめると、リバウンドによる重積発作(けいれんが止まらなくなる状態)を引き起こす危険性があります。これは中毒症状以上に命に関わる事態です。減量や中止は、必ず医師の管理下で徐々に行う必要があります。

     

    2. TDM(血中濃度モニタリング)の実施
    最も確実なのは血液検査です。フェニトインの血中濃度を測定する検査は TDM(Therapeutic Drug Monitoring) と呼ばれます。

     

    採血のタイミングも重要です。通常は、血中濃度が最も安定している 「次回服用の直前(トラフ値)」 に採血を行います。朝食後服用なら、翌日の朝食前が理想的です。これにより、体内に最低限どれくらいの薬が残っているかを正確に把握できます。

     

    3. 減量スケジュールの調整
    検査の結果、濃度が高いことが判明した場合、医師は投与量を調整します。前述した「非線形性」の特徴があるため、減量する場合も慎重に行われます。「10%減量するだけで、血中濃度が半分になる」ということもあり得るため、微調整を行いながら、再度採血をして確認します。

     

    4. 疑わしい皮膚症状への対応
    かゆみが強い場合や発疹が出ている場合は、皮膚科と連携が必要です。

     

    • 軽度のかゆみ:抗ヒスタミン薬などで対症療法を行いながら、フェニトインを継続、あるいは慎重に減量します。
    • DIHSの疑い:直ちにフェニトインを中止し、別の種類の抗てんかん薬(構造が異なるレベチラセタムやバルプロ酸など)への切り替え(変薬)を行います。DIHSの場合はステロイド治療などの全身管理が必要になることもあります。

    フェニトインは古くからある薬ですが、その使いこなしには専門的な知識が必要です。「かゆみ」や「ふらつき」は体からの重要なサインです。これらの症状を感じたら、我慢せずに主治医に「血中濃度が高くなっている可能性はありませんか?」と相談してみることが、重大な副作用を防ぐ第一歩となります。

     

     


page top