腎機能障害の原因
腎機能障害の主な原因となる生活習慣病
腎機能障害、特に慢性腎臓病(CKD)の最大の原因は、私たちの日常生活に潜んでいます。具体的には、糖尿病と高血圧が二大原因とされ、これらが原因で透析導入に至るケースが非常に多いのが現状です 。
- 糖尿病性腎症: 血糖値が高い状態が続くと、腎臓のフィルター役である糸球体の毛細血管が傷つき、機能が低下します 。日本の透析導入原因の第1位がこの糖尿病性腎症です 。
- 腎硬化症: 高血圧が長く続くと、腎臓の血管に動脈硬化が起こり、血流が悪くなって腎臓が硬くなります 。これにより、ろ過機能が徐々に失われていきます。
- 肥満・脂質異常症: これらも腎臓に負担をかける要因です 。特に内臓脂肪が増えると、腎臓の働きを悪化させる物質が分泌されることがわかっています。
- 高尿酸血症(痛風): 尿酸が腎臓に蓄積し、腎機能障害を引き起こすことがあります 。プリン体を多く含む食事やアルコールの過剰摂取は注意が必要です 。
これらの生活習慣病は、初期段階では自覚症状がほとんどないため、気づかないうちに腎臓へのダメージが進行していることが少なくありません。塩分の過剰摂取、喫煙、運動不足といった生活習慣の乱れが、これらの病気を引き起こし、結果として腎機能障害へとつながる悪循環を生み出します 。
腎臓病と生活習慣病の関係については、以下のリンクで詳しく解説されています。
腎機能障害によるかゆみのメカニズムと対策
腎機能が低下すると、なぜ耐え難いかゆみが生じるのでしょうか。その主な原因は、体内に蓄積した「尿毒素」と呼ばれる老廃物です 。腎臓のろ過機能が落ちることで、本来尿として排出されるべき物質が血液中や皮膚に溜まり、神経を刺激してかゆみを引き起こすのです 。
さらに、腎機能障害は皮膚の乾燥を招きやすいことも、かゆみを悪化させる一因です 。腎臓の機能低下により、汗腺や皮脂腺の働きが弱まり、皮膚のバリア機能が低下してしまうのです。
このつらいかゆみを和らげるためには、多角的なアプローチが必要です。
かゆみ対策のポイント
| 対策 | 具体的な方法 | ポイント |
|---|---|---|
| スキンケア | 保湿剤(クリームやローション)をこまめに塗る 。特に、入浴後など皮膚が水分を失いやすいタイミングが効果的。 | 熱いお湯や長時間の入浴は避け、石鹸でゴシゴシ洗わないように優しく洗うことが大切です 。 |
| 食事療法 | 体内の尿毒素を増やさないため、医師や管理栄養士の指導のもとで食事療法を徹底する 。 | たんぱく質やリンの制限が中心となります。 |
| 薬物療法 | かゆみを抑えるための抗ヒスタミン薬やステロイド外用薬、中枢性のかゆみを抑える内服薬(ナルフラフィン塩酸塩など)が使用されることがあります 。 | 医師に相談し、自分に合った薬剤を処方してもらうことが重要です。 |
| 生活習慣の見直し | 衣類は木綿などの肌触りの良い素材を選ぶ。爪を短く切り、掻きむしりによる皮膚のダメージを防ぐ。 | 物理的な刺激を減らすことも、かゆみの連鎖を断ち切るために有効です。 |
透析患者さんのかゆみは、透析方法を工夫すること(長時間透析など)で改善する場合もあります 。
腎機能障害を見逃さないための初期症状
腎臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、機能がかなり低下するまで自覚症状が現れにくいのが特徴です。しかし、注意深く観察すると、体はいくつかのサインを発しています 。かゆみは、実は病気がかなり進行してから現れる症状であり、それ以前の初期症状を見逃さないことが極めて重要です 。
⚠️注意すべき初期症状リスト
- 尿の変化: 夜間の頻尿、尿の色が濃い・薄い、尿が泡立つ(タンパク尿のサイン) 。特に尿の泡立ちが続く場合は要注意です。
- むくみ(浮腫): 足首や顔(特にまぶた)がむくむ。夕方になると靴がきつくなる、靴下の跡がなかなか消えないといった症状が現れます 。これは体内の余分な水分や塩分を排出できなくなるために起こります。
- 貧血症状: 腎臓は赤血球を作るホルモン(エリスロポエチン)を分泌しています。機能が低下するとこのホルモンが減少し、めまい、立ちくらみ、動悸、息切れといった腎性貧血の症状が出ます 。
- だるさ・倦怠感: 老廃物が体内に溜まることで、疲れやすさや体のだるさを感じやすくなります 。
- 高血圧: 腎機能の低下により、血圧をコントロールする働きが悪くなり、高血圧を発症・悪化させることがあります 。
これらの症状は、他の病気でも見られるため、腎機能障害が原因だと気づきにくいかもしれません。しかし、複数の症状が当てはまる場合や、症状が続く場合は、早めに医療機関を受診し、血液検査(クレアチニン値、eGFR)や尿検査を受けることが大切です。
腎機能障害の進行を抑える食事療法のポイント
腎機能障害の治療において、薬物療法と並行して非常に重要な役割を担うのが食事療法です 。食事療法は、残された腎機能への負担を減らし、病気の進行を遅らせることを目的とします 。基本となるのは「たんぱく質」「塩分」「カリウム」「リン」の制限です。
食事療法の基本要素
- たんぱく質の制限: たんぱく質は体内で分解されると老廃物(尿素窒素など)を生成し、腎臓に負担をかけます。肉、魚、卵、大豆製品などの摂取量を、医師や管理栄養士の指示に従って調整する必要があります。たんぱく質の多い食品にはカリウムやリンも多く含まれるため、たんぱく質制限はこれらの制限にも繋がります 。
- 塩分の制限: 塩分の摂り過ぎは高血圧を招き、腎臓にさらなるダメージを与えます。また、体内に水分が溜まりやすくなり、むくみや心不全の原因にもなります。減塩調味料を使ったり、香辛料や酸味をうまく利用したりする工夫が求められます。
- カリウムの制限: 腎機能が低下すると、カリウムを十分に排出できなくなり、血中のカリウム濃度が高くなります(高カリウム血症)。これは不整脈や心停止を引き起こす危険な状態です。カリウムは生野菜、果物(特にバナナ)、いも類に多く含まれるため、摂取に注意が必要です 。野菜は茹でこぼしたり、水にさらしたりすることでカリウムを減らすことができます。
- リンの制限: リンもカリウムと同様に体内に蓄積しやすくなります。高リン血症は、骨がもろくなったり、血管の石灰化を進めて動脈硬化を悪化させたりします。リンは、たんぱく質の多い食品や、乳製品、加工食品に多く含まれています。
- 十分なエネルギーの確保: たんぱく質を制限すると、エネルギー不足になりがちです。エネルギーが不足すると、体内の筋肉が分解されてしまい、かえって老廃物が増えてしまいます。そのため、糖質や脂質から適切にエネルギーを摂取することが重要です。
食事療法は、病気のステージや個人の状態によって内容が大きく異なります。必ず専門家の指導のもとで行うようにしてください。
慢性腎臓病の食事療法に関する詳しい情報は、以下のリンクも参考になります。
腎機能障害と口腔ケアの意外な関係
あまり知られていませんが、近年の研究で、お口の中の健康状態と腎機能障害の間に、驚くほど深い関係があることがわかってきました 。特に、歯周病菌や虫歯菌といった口腔内細菌が、腎臓病の進行に影響を与える可能性が指摘されています 。
ある研究では、慢性腎臓病の患者さんにおいて、唾液中の虫歯菌が多いグループは、腎機能低下の指標である「蛋白尿」が有意に多いことが発見されました。さらに、殺菌成分を含むマウスウォッシュで口腔ケアを続けたところ、虫歯菌が減少するとともに、蛋白尿も改善する可能性が示されたのです 。
なぜ口腔ケアが腎臓に影響するのか?
- 炎症の連鎖: 歯周病などによって口の中で起きた炎症が、血流に乗って全身に広がり、腎臓を含む様々な臓器に悪影響を及ぼすと考えられています。
- 免疫への影響: 口腔内の細菌が体内に侵入し、免疫システムに異常を引き起こすことで、IgA腎症などの腎疾患を悪化させる一因になる可能性も研究されています 。
つまり、毎日の歯磨きや定期的な歯科検診といった口腔ケアは、単に口の中を清潔に保つだけでなく、腎臓を守ることにも繋がる可能性があるのです。腎機能障害を抱えている方はもちろん、予防の観点からも、以下の点を心がけることが推奨されます。
- 🪥 毎日の丁寧な歯磨き
- 🦷 歯科医院での定期的なプロフェッショナルケア(PMTC)
- ✨ 必要に応じたマウスウォッシュの活用
腎臓の健康を維持するために、今日からお口のケアにも一層注意を払ってみてはいかがでしょうか。この意外な関係性は、腎臓病治療の新たなアプローチとして期待されています。
大阪大学の研究成果として、口腔内の細菌と慢性腎臓病の関係について詳しく紹介されています。
口腔内のむし歯菌量と慢性腎臓病の関係を解明-うがいによる口腔ケアが慢性腎臓病の重症化予防につながる可能性-


