黄色ブドウ球菌による皮膚の症状
黄色ブドウ球菌によるかゆみや湿疹などの初期症状
黄色ブドウ球菌は、実は健康な人の鼻の中や皮膚にも存在する常在菌の一種です 。しかし、皮膚のバリア機能が低下したり、小さな傷ができたりすると、菌が異常増殖し、かゆみや赤み、湿疹といった様々な皮膚トラブルを引き起こすことがあります 。
初期症状としては、以下のようなものが見られます。
- かゆみやチクチク感: 菌が増殖し、皮膚を刺激することで生じます。
- 発赤(ほっせき): 炎症が起きているサインで、患部が赤くなります。
- 小さなブツブツや水ぶくれ: 毛穴の奥で菌が感染を起こすと、ニキビのような膿を持った発疹(毛嚢炎)や、液体を含んだ水疱ができることがあります 。
特に乳幼児は皮膚のバリア機能が未熟なため、黄色ブドウ球菌による影響を受けやすいです 。最初は軽い発熱やのどの痛みから始まり、口の周りやわきの下などが赤くなることもあります 。これらの症状は他の皮膚炎と似ているため見過ごされがちですが、放置すると症状が広がり、悪化する可能性があるため注意が必要です 。
黄色ブドウ球菌が原因で起こる「とびひ」や「毛嚢炎」とは?
黄色ブドウ球菌が引き起こす代表的な皮膚感染症に「とびひ」と「毛嚢炎」があります。どちらも不快な症状を伴いますが、その特徴は異なります。
とびひ(伝染性膿痂疹)
「とびひ」は、水ぶくれ(水疱)やびらん(ただれ)が特徴的な皮膚の感染症です 。水ぶくれが破れると、中の液体が周囲に広がり、まるで火事の飛び火のように次々と新しい水ぶくれができてしまうことから、この名前が付きました。特に、あせもや虫刺されを掻き壊した傷口から菌が侵入しやすく、夏場に子供たちの間で流行することが多いです。
毛嚢炎(もうのうえん)
「毛嚢炎」は、毛穴の奥にある毛根を包む部分(毛嚢)に黄色ブドウ球菌が感染して起こる炎症です 。見た目はニキビに似ていますが、毛穴を中心に赤く盛り上がり、中心に膿を持った小さな白い点が見えるのが特徴です。悪化して炎症が強くなると、「せつ」や「よう」と呼ばれる、より深くて痛みを伴うおできに発展することもあります 。
これらの症状を以下の表にまとめました。
| とびひ(伝染性膿痂疹) | 毛嚢炎 | |
|---|---|---|
| 主な症状 | 水ぶくれ、びらん、じゅくじゅくしたかさぶた | 毛穴を中心とした赤い盛り上がり、膿 |
| 特徴 | 強いかゆみを伴い、体のあちこちに広がる | 軽い痛みを伴うことがある |
| 好発部位 | 顔、手足など露出部 | 毛の生えている場所ならどこでも |
黄色ブドウ球菌の感染を悪化させないための治療法と市販薬の選び方
黄色ブドウ球菌による皮膚感染症の治療の基本は、抗菌薬を用いて菌の増殖を抑えることです 。皮膚症状が軽い場合は外用薬(塗り薬)で対応できますが、症状が広範囲に及んだり、発熱を伴ったりする場合には、内服薬(飲み薬)や点滴が必要になることもあります 。
市販薬を選ぶ際は、原因菌に効果のある成分が含まれているかを確認することが重要です。しかし、黄色ブドウ球菌の中には、一部の抗菌薬が効かない「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)」という種類も存在します 。市販薬を数日使用しても改善が見られない、あるいは症状が悪化する場合には、自己判断で続けずに速やかに皮膚科などの医療機関を受診しましょう。
専門的な治療法については、以下の参考リンクで詳しく解説されています。
米国感染症学会のガイドラインで推奨されている治療法について解説しています。
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus) – 感染症
医療機関では、皮膚の状態を観察し、必要に応じて皮膚の一部をこすって細菌培養検査を行い、原因菌の種類や効果のある抗菌薬を特定します 。特にアトピー性皮膚炎の患者さんは、皮膚のバリア機能が低下しており、黄色ブドウ球菌が増殖しやすい状態にあるため、症状が悪化しやすい傾向があります 。適切な治療を受けることで、皮膚の状態を改善し、かゆみや炎症を抑えることができます。
黄色ブドウ球菌の皮膚感染を防ぐ意外な予防策と日常生活の注意点
黄色ブドウ球菌は私たちの身近に存在する菌であるため、完全に避けることは困難です。しかし、日常生活でいくつかの点に注意することで、感染のリスクを大幅に減らすことができます。
基本的な予防策は以下の通りです。
- 手洗いと消毒の徹底: 調理や食事の前、トイレの後、外出からの帰宅後など、こまめな手洗いが最も重要です 。アルコール消毒も効果的です。
- 皮膚を清潔に保つ: 汗をかいたらシャワーを浴びるなどして、皮膚を清潔に保ちましょう。
- 傷の適切な処置: 切り傷やすり傷ができたら、すぐに洗浄・消毒し、清潔な絆創膏などで保護します。
- 食品の適切な管理: 黄色ブドウ球菌は食中毒の原因にもなります。食品は10℃以下で保存し、常温で長時間放置しないようにしましょう 。
意外と知られていない感染予防策
一般的な対策に加え、以下のような少し意外な点も感染予防につながります。
- 鼻をいじらない: 黄色ブドウ球菌は鼻の中に常在していることが多いため、むやみに鼻を触る癖があると、手指を介して菌を広げてしまう可能性があります。
- 爪を短く切る: 長い爪の間は細菌の温床になりやすいです。爪を短く清潔に保ち、掻き壊しによる皮膚へのダメージを防ぎましょう。
- タオルの共有を避ける: 家族間でも、タオルやバスタオルの共有は感染を広げる原因となり得ます。特に皮膚に症状がある人がいる場合は、個別のタオルを使用することが推奨されます。
黄色ブドウ球菌とアトピー性皮膚炎の悪化における腸内環境の隠れた関係
一見すると無関係に思えるかもしれませんが、皮膚の健康状態と腸内環境には密接なつながりがあることが近年の研究で示唆されています。特にアトピー性皮膚炎の患者さんにおいては、皮膚表面の細菌バランスが乱れ、黄色ブドウ球菌が異常に増殖していることが多く報告されています 。
黄色ブドウ球菌は、増殖する過程で「凶暴化」し、皮膚のバリア機能を破壊したり、かゆみや炎症を引き起こす毒素を放出したりします 。これにより、アトピー性皮膚炎の症状が悪化するという悪循環に陥ってしまうのです。重症化すると、皮膚の傷口から菌が血液中に侵入し、全身に影響を及ぼす「菌血症」を引き起こすリスクも指摘されています 。
この皮膚の細菌バランスの乱れ(ディスバイオシス)の背景に、腸内環境が関わっている可能性があります。腸内の悪玉菌が増え、腸内フローラのバランスが崩れると、体の免疫システムに異常が生じ、皮膚のバリア機能の低下につながることが考えられるのです。つまり、皮膚の黄色ブドウ球菌をコントロールするためには、体の内側、すなわち腸内環境を整えるというアプローチも有効である可能性があります。
アトピー性皮膚炎と黄色ブドウ球菌の関係については、以下のリンクでより専門的な情報が得られます。
慶應義塾大学医学部による研究で、皮膚表面の細菌バランスの崩れがアトピー性皮膚炎の発症につながることが示されています。
アトピー性皮膚炎の原因は黄色ブドウ球菌 | Science Portal - 国立研究開発法人科学技術振興機構

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