抗真菌薬の塗り薬の副作用
抗真菌薬の塗り薬の副作用で起こる接触性皮膚炎の症状
抗真菌薬(水虫薬やたむし薬、カンジダ治療薬など)は、一般的に副作用が少ないとされる外用薬ですが、決してゼロではありません。最も頻度が高く、かつ治療の妨げとなるのが、薬そのものが肌に合わずに起こる「接触性皮膚炎(かぶれ)」です 。
参考)水虫治療は医療用の抗真菌薬(塗り薬)がベストでデメリットはか…
多くの患者さんが、この副作用の初期症状を「水虫や真菌の症状が悪化した」と勘違いしてしまいます。真菌による痒みと、副作用による痒みは非常に似ていますが、発生するタイミングや皮膚の様子に違いがあります。
- 刺激性接触皮膚炎
- タイミング: 薬を塗った直後から数時間以内。
- 症状: ピリピリとした刺激感、熱感、すぐに現れる赤み。
- 原因: 薬の有効成分や、基剤(アルコールや添加物)が、傷ついた皮膚にしみて刺激を与えています。特に皮膚がジュクジュクしている場合や、ひび割れている場合に起こりやすい現象です 。
- アレルギー性接触皮膚炎
- タイミング: 薬を使用し始めてから数日~数週間後。あるいは以前使っていた薬を久しぶりに使った時。
- 症状: 塗った場所と一致する強い赤み、激しい痒み、小さな水ぶくれ(小水疱)、ジクジクとした浸出液。
- 特徴: 「自家感作性皮膚炎」と呼ばれる全身への散布疹を引き起こすこともあります。
厚生労働省のデータや添付文書によると、抗真菌薬の塗り薬による副作用の発現率は概ね1%~2%程度と報告されていますが、局所の発赤やそう痒感(かゆみ)は比較的よく見られる症状です 。
参考)医療用医薬品 : ラミシール (ラミシールクリーム1%)
もし、薬を塗り始めてから「今までとは違う種類の痒み」を感じたり、「塗った範囲に合わせてクッキリと赤くなる」ような変化が見られた場合は、副作用としての接触性皮膚炎を疑う必要があります。この状態で「菌がまだ死んでいないからだ」と誤解して、さらに薬を大量に塗り込んだり、回数を増やしたりすることは逆効果です。炎症を起こしている皮膚にさらに刺激物質を塗ることになり、症状は急速に悪化してしまいます。厚生労働省による医薬品副作用被害救済制度の対象にもなりうるため、異常を感じたら直ちに使用を中止し、水で洗い流すことが重要です。
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 (PMDA) による、薬剤性接触皮膚炎の患者向けガイドです。
抗真菌薬の塗り薬の副作用と間違えやすい症状の悪化
抗真菌薬を使用中に症状が悪化した場合、それが「薬の副作用(かぶれ)」なのか、それとも「真菌(カビ)の勢いが増している」のか、あるいは「全く別の皮膚病(湿疹など)」なのかを見極めることは、専門医でも慎重に行う必要があります 。しかし、いくつかのチェックポイントを知っておくことで、ある程度の予測を立て、適切な行動(受診や休薬)を取ることができます。
参考)外用抗真菌薬による接触皮膚炎の回避と生じた際の対処法 (薬局…
副作用と真菌悪化の見分け方チェックリスト比較項目 薬の副作用(かぶれ)の可能性が高い 真菌(水虫・カンジダなど)の悪化の可能性が高い 境界線 薬を塗った範囲と一致して、境界がくっきり赤くなる 境界は堤防状に盛り上がり、徐々に外へ広がる 痒みの質 塗布後に激しい痒みや灼熱感(ヒリヒリ)がある ムズムズとした持続的な痒み、温まると痒くなる 広がり方 塗った場所に限局する、または全身に飛び火する 環状(リング状)に広がり、中心部は治癒傾向を示すことが多い 経過 薬を塗るたびに悪化する 薬を塗ると一時的に落ち着くが、再発する 特に注意が必要なのが、「病型(タイプ)」の誤認による悪化です。
例えば、ジュクジュクと皮膚がただれている「びらん型」の患部に、アルコール分を多く含む「液剤(ローション)」タイプの抗真菌薬を塗ると、激しい刺激痛と炎症を引き起こします。これは薬のアレルギーではなく、使い方のミスによる副作用(刺激性皮膚炎)です。この場合は、刺激の少ない「クリーム」や「軟膏」タイプに変更することで解決することがあります 。
参考)https://gifu-min.jp/midori/document/576/saiyouitirann.pdf
また、市販薬(OTC)においては、抗真菌成分以外に「痒み止め(クロタミトン、リドカイン)」や「清涼成分(メントール)」、「殺菌成分」などが配合されている複合剤が多く販売されています。抗真菌成分そのものは大丈夫でも、これらの添加物に反応してかぶれているケースが非常に多いのが実情です 。
「市販薬を使って悪化した」という場合、純粋な抗真菌薬単剤(医療用成分のみの製品)に切り替えるだけで、副作用なく治療できることもあります。抗真菌薬の塗り薬の副作用を避ける正しい塗り方と期間
副作用を最小限に抑えつつ、確実に真菌を退治するためには、「塗り方」と「塗る期間」のバランスが重要です。副作用を恐れて塗る量を減らしすぎれば治りませんし、過剰に塗れば皮膚炎のリスクが高まります。
1. 刺激を避ける正しい塗り方
多くの人がやりがちな間違いが「擦り込む」ことです。薬を皮膚の奥まで浸透させようとして、ゴシゴシと強く擦り込むように塗ると、摩擦によって皮膚のバリア機能が壊れ、薬の刺激を受けやすくなってしまいます。- 優しく広げる: 薬は皮膚の上に乗せるようなイメージで、優しく広げます。
- 広範囲に塗る: 真菌は症状が出ている部分よりも広く潜んでいます。患部を中心に、最低でも半径2cm以上、足白癬(水虫)の場合は足裏全体や指の間まで広く塗るのが基本です 。
- 適量: クリームなら人差し指の第一関節までの長さ(1FTU = 約0.5g)で、大人の手のひら2枚分の面積が目安です。少なすぎると摩擦の原因になり、多すぎるとべたつきによる不快感や衣類への付着を招きます。
2. 期間の目安と「やめ時」の判断
抗真菌薬は即効性があるわけではなく、皮膚のターンオーバー(代謝)に合わせて菌を追い出す必要があります。見た目が綺麗になったからといって自己判断でやめると、角質層の奥に残った菌が再増殖(リバウンド)します。- 最低1ヶ月: 一般的に、症状が消失してからさらに最低1ヶ月(爪白癬の場合は半年~1年以上)は塗り続ける必要があります。
- 副作用が出た場合: 期間の途中であっても、前述のような「かぶれ」の症状が出た場合は、即座に中止しなければなりません。無理に続けると、皮膚が色素沈着を起こしたり、皮膚が肥厚して硬くなったりする後遺症が残ることがあります。
副作用を避けるためには、「入浴後の皮膚が清潔で柔らかくなっている時」に塗るのがベストです。ただし、水分が残っていると薬の浸透が良くなりすぎて刺激になることもあるため、水分をタオルで優しく、しっかりと拭き取ってから塗布してください。
抗真菌薬の塗り薬とステロイドの併用の危険性と注意点
「痒みがひどいから、家にあるステロイド軟膏も一緒に塗ろう」
この自己判断が、抗真菌薬治療において最も危険な落とし穴の一つです。ステロイド(副腎皮質ホルモン)と抗真菌薬の関係は非常に複雑であり、誤った使い方は症状を劇的に悪化させます。なぜステロイド単独使用はNGなのか
ステロイドは免疫反応を抑える薬です。真菌(カビ)がいる場所にステロイドだけを塗ると、皮膚の免疫力が低下し、カビにとっては「天敵(免疫)がいなくなったパラダイス」のような状態になります。その結果、見た目の赤みや痒みは一時的に引くものの、水面下でカビが爆発的に増殖し、数日後に猛烈なリバウンドを起こします。これを「ステロイド皮膚症」や「白癬の誤診による増悪」と呼びます 。参考)https://www.m3.com/clinical/rinshodojo/157745
医師が併用を指示する場合の意図
一方で、皮膚科医があえて「抗真菌薬」と「ステロイド」を同時に処方したり、混合薬を出したりすることがあります。これには明確な理由があります。- 炎症が強すぎる場合: 痒みや炎症が激しく、掻きむしって二次感染を起こしている場合、まずはステロイドで炎症を鎮火させ、同時に抗真菌薬でカビを叩くという戦術をとります 。
- 副作用の軽減: 抗真菌薬による接触性皮膚炎のリスクが高い患者に対して、予防的に弱いステロイドを併用させることがあります。
併用時の重大な注意点
医師の指示下で併用する場合は問題ありませんが、以下の点に注意が必要です。- 混合の順序: 別々に塗る場合、「どちらを先に塗るか」は医師の指示に従ってください。一般的には、広範囲に塗る抗真菌薬を先に、患部に限局してステロイドを後に塗ることが多いですが、逆の指導もあります。
- 長期連用の禁止: ステロイドを含んだ抗真菌薬(市販薬にも存在します)を、漫然と数ヶ月も使い続けるのは危険です。ステロイドの副作用(皮膚菲薄化、血管拡張)が現れる可能性があるため、症状が落ち着いたらステロイドを抜き、抗真菌薬単独に切り替えるのが治療のセオリーです。
公益社団法人日本皮膚科学会による、皮膚真菌症のQ&Aです。ステロイド誤用のリスクについても触れられています。
抗真菌薬の塗り薬の副作用リスクを高める洗いすぎと基剤成分
検索上位の記事ではあまり触れられませんが、抗真菌薬の副作用(かぶれ)を引き起こす隠れた主犯格として「患部の洗いすぎ」と「基剤成分へのアレルギー」があります。薬の成分そのものは悪くないのに、環境要因で副作用が誘発されているケースです。
1. 「洗いすぎ」が招く副作用の悪循環
真菌感染症の患者さんは「患部を清潔にしなければならない」という意識が強すぎるあまり、石鹸でゴシゴシと過剰に洗ってしまう傾向があります。- バリア機能の崩壊: 強く洗うことで皮脂膜や角質層が削ぎ落とされ、皮膚のバリア機能が極端に低下します。
- 薬剤感受性の上昇: バリアが壊れた無防備な皮膚に薬を塗ると、通常なら問題ない成分までもが刺激物として認識され、接触性皮膚炎を起こしやすくなります。
- 対策: 患部は「泡で優しく包み込むように」洗い、決してナイロンタオルなどで擦らないこと。これだけで、薬がしみる症状が改善することが多々あります。
2. 盲点となる「基剤成分」とラテックス製品
「ラミシール(テルビナフィン)」や「ルリコン(ルリコナゾール)」などの有効成分そのものではなく、クリームや液体にするために混ぜられている添加物(基剤)にアレルギーを起こしている場合があります。- プロピレングリコール (PG): 保湿剤や溶解補助剤として多くの塗り薬や化粧品に含まれますが、これにかぶれる人が一定数います 。
- ラノリン: 羊の油由来の保湿成分で、軟膏基剤によく使われますが、アレルゲンとなることがあります。
- パラベン: 防腐剤として有名ですが、敏感肌の人には刺激になることがあります。
もし特定の製品でかぶれた場合、同じ有効成分でも「クリーム」から「軟膏」へ、あるいは「液剤」へと剤形(タイプ)を変えるだけで、基剤が変わり、副作用が出なくなることがあります。医師に「薬が合わない」と相談する際は、「以前どの薬(商品名とタイプ)を使ってダメだったか」を伝えると、原因物質を特定しやすくなります。
【意外な注意点】コンドーム等のゴム製品への影響
軟膏やクリームタイプの抗真菌薬(特に油脂性基剤を含むもの)は、ラテックス製(ゴム製)のコンドームやペッサリーを劣化・破損させる性質があります 。陰部(いんきんたむし、カンジダ)に軟膏を塗布している期間は、避妊具の強度が低下し、避妊の失敗や感染症予防効果の消失につながるリスクがあります。この事実は添付文書には記載されていますが、意外と知られていません。該当部位に使用する際は、ポリウレタン製を使用するか、治療期間中の性交渉を控える等の対策が必要です。
皮膚科治療における基剤の選択がいかに重要かを解説した専門的な資料です。


