プロプラノロール作用機序心臓
プロプラノロールβ受容体遮断の仕組み
プロプラノロールは非選択的β遮断薬として、心臓に存在するβ1受容体と気道や血管に存在するβ2受容体の両方を遮断する薬剤です。交感神経が興奮すると、ノルアドレナリンやアドレナリンといったカテコールアミンが分泌され、これらの物質がβ受容体に結合することで心拍数の増加や心筋収縮力の増強が起こります。プロプラノロールはこのβ受容体においてカテコールアミンと競合的に拮抗し、交感神経の作用を遮断することで心臓の過剰な働きを抑制します。
参考)プロプラノロール(インデラル) – 内分泌疾患治…
この受容体遮断作用により、運動時のように心臓が過度に働く状態を防ぐことができます。心臓のβ1受容体が刺激されると心拍数が早くなり、心筋の収縮力も強まりますが、プロプラノロールがこの受容体を遮断することで、心臓の酸素需要を減少させ、心筋への負担を軽減します。
参考)インデラル(プロプラノロール)の作用機序:狭心症・不整脈治療…
β1受容体は主に心臓、消化器、脂肪組織に分布しており、その刺激により心拍数増加、心筋収縮力増加、脂肪分解などが起こります。一方、β2受容体は肺臓、肝臓、骨格筋血管などに分布し、気管支拡張や血管拡張作用を持つため、プロプラノロールのようにβ2受容体も遮断する薬剤を使用する際には、喘息患者への投与が禁忌となります。
参考)プロプラノロール - Wikipedia
神戸きしだ内科クリニック - プロプラノロールの作用機序について詳しく解説
プロプラノロール心拍数と血圧への影響
プロプラノロールによるβ受容体遮断は、心拍数の減少と血圧の低下をもたらします。心拍数が減少すると心臓の拡張時間が長くなり、左心室が充分に拡がり切ってから次の収縮が始まるため、一回拍出量が増加し、結果的に心拍出量が改善される効果があります。この作用により、心臓の負荷が軽減され、心筋酸素消費量も減少します。
参考)<サイドメモ>心不全治療薬としてのβ遮断薬 – …
血圧低下のメカニズムは複数の要因が関与しています。心拍出量に対する抑制作用、レニン分泌抑制作用、末梢血管抵抗減少作用などが高血圧症患者において認められており、さらに中枢神経系への作用や交感神経末梢からのノルアドレナリン遊離減少作用も示されています。これらの複合的な作用により、本態性高血圧症の軽症から中等症の患者に対して降圧効果を発揮します。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00061195.pdf
心不全患者においては、プロプラノロールを含むβ遮断薬が長期的に予後を改善することが大規模臨床試験で示されています。左室駆出率が低下した心不全患者において、β遮断薬は死亡率を34〜44%も減少させる効果があり、心拍数に関わらず効果が認められます。
参考)https://www.jhfs.or.jp/topics/eletter/2015_4.pdf
| 作用 | 効果 | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| 心拍数減少 | 拡張時間の延長 | 一回拍出量の増加、心拍出量の改善 |
| 心筋収縮力抑制 | 心筋酸素消費量の減少 | 狭心症の症状緩和 |
| 血圧低下 | 心臓への負荷軽減 | 高血圧症の管理 |
| レニン分泌抑制 | 血圧調節系の正常化 | 長期的な血圧コントロール |
プロプラノロール不整脈と狭心症への効果
プロプラノロールは様々なタイプの不整脈治療に使用されます。期外収縮(上室性、心室性)、発作性頻拍の予防、頻拍性心房細動における徐脈効果、洞性頻脈、新鮮心房細動、発作性心房細動の予防など、幅広い不整脈に適応があります。β遮断薬は心臓の刺激伝導系に作用し、心室レートを減少させることで不整脈をコントロールします。
参考)https://new.jhrs.or.jp/pdf/education/koredakewa15.pdf
狭心症に対しては、心拍数と心筋収縮力を抑制することで心筋の酸素需要を減少させ、狭心症発作を予防します。心臓が過度に働くと酸素が不足し、胸痛などの症状が現れますが、プロプラノロールはこの心臓の働きすぎを改善することで狭心症の症状を和らげます。狭心症患者に対しては通常1日30mgから投与を開始し、効果が不十分な場合は60mg、90mgと漸増します。
参考)高血圧・狭心症・不整脈・片頭痛治療薬「インデラル錠10mg(…
β遮断薬は心房細動を伴う心不全患者においても使用されますが、その効果は洞調律の患者と比較してやや異なります。洞調律では心房機能を回復させる効果がありますが、心房細動ではその効果が少ないという報告があります。それでも心室レートのコントロールには有効であり、症状の改善に寄与します。
SBSクリニック - インデラルの不整脈・狭心症への効果について
プロプラノロール交感神経抑制と臨床応用
プロプラノロールの交感神経抑制作用は、心血管系疾患以外にも多様な臨床応用があります。甲状腺機能亢進症では、甲状腺ホルモンの過剰分泌により交感神経が過度に刺激され、動悸、振戦、発汗などの症状が現れますが、プロプラノロールはこれらの症状を緩和します。甲状腺ホルモンそのものの分泌を直接抑えるわけではありませんが、交感神経の過度な刺激による苦痛を和らげる点で重要な役割を果たします。
片頭痛発作の発症抑制にも使用されます。片頭痛予防が可能なβ遮断薬には、プロプラノロール以外にもチモロール、アテノロール、ナドロール、ビソプロロールなどが含まれます。プロプラノロールが片頭痛の予防に効果を示すメカニズムは完全には解明されていませんが、血管の過度な拡張や収縮を抑制することが関与していると考えられています。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=66906
社会不安障害やあがり症に対する効果も報告されています。強い緊張や不安がある場合、身体症状として動悸や振戦が現れますが、プロプラノロールはこれらの症状を沈静化させます。本来は高血圧や不整脈の治療薬として開発されましたが、β受容体遮断作用により心拍数を下げ、血圧を調整することで、緊張時の身体反応を抑える効果があります。
参考)インデラルで改善するあがり症・赤面症・酒さの赤み|その驚きの…
- 甲状腺機能亢進症:動悸、振戦、発汗などの交感神経過剰症状を緩和
- 片頭痛:頭痛発作の予防効果
- 褐色細胞腫手術時:血圧の急激な変動を抑制
- 右心室流出路狭窄:低酸素発作の発症抑制
- 社会不安障害:動悸や振戦などの身体症状を軽減
プロプラノロール作用機序と心臓保護効果
プロプラノロールを含むβ遮断薬には、単に症状を抑えるだけでなく、長期的な心臓保護効果があることが明らかになっています。心筋梗塞後の患者においてβ遮断薬を使用すると予後が改善され、心臓突然死の予防効果も認められます。この心臓保護効果は心拍数減少に依存しており、内因性交感神経刺激作用(ISA)がないβ遮断薬の方が効果的です。
参考)https://www.medsi.co.jp/Download_files/CardiovascularDrugFile2Ep236-241.pdf
交感神経系と神経内分泌系の過剰な活性化は、心不全の進行や心筋障害の悪化に関与しています。プロプラノロールによる交感神経抑制は、これらの有害なメカニズムを遮断し、心臓の機能を保護します。慢性心不全患者において、β遮断薬は左室駆出率を改善し、血中BNP濃度を低下させることが報告されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsma1939/64/1/64_1_65/_pdf/-char/ja
心筋細胞レベルでは、プロプラノロールは膜安定化作用も持ち、心筋の興奮性を抑制します。この作用は不整脈の予防に寄与し、特に心室性不整脈のリスクが高い患者において重要です。また、プルキンエ線維膜電位の抑制作用も報告されており、心臓の刺激伝導系に対する多面的な効果があります。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2002/P200200032/73011900_21400AMZ00630_V100_2.pdf
β遮断薬の心保護作用には、交感神経活性の低下作用とともに心臓迷走神経活性亢進作用も関係していることが示唆されています。この自律神経バランスの改善が、長期的な予後改善に貢献していると考えられます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo1969/31/Supplement2/31_86/_pdf/-char/ja
日本心不全学会 - β遮断薬による予後改善効果の詳細な解説(PDF)
プロプラノロール副作用と使用上の注意点
プロプラノロールは非選択的β遮断薬であるため、β1受容体だけでなくβ2受容体も遮断し、いくつかの副作用が生じる可能性があります。最も重要な禁忌は喘息患者への投与で、β2受容体遮断により気管支が収縮し、喘息発作を誘発または悪化させる危険性があります。気管支拡張に関わるβ2受容体に影響を与えるため、喘息などの既往を持つ方は医師と慎重に相談する必要があります。
主な副作用として、徐脈、頭痛、倦怠感、めまいなどが報告されています。心拍数を抑える作用があるため、過度に心拍数が低下する徐脈が起こることがあり、特に高用量を使用する場合や他の心拍数を下げる薬剤と併用する場合には注意が必要です。また、うっ血性心不全がある患者は禁忌とされており、心臓の収縮能を抑制する作用により心不全を悪化させる可能性があります。
プロプラノロールは肝臓で大部分が代謝される初回通過効果の大きな薬剤であるため、経口投与ではほぼ全量が吸収されるものの、血中濃度は個人差が大きくなります。そのため、投与量は個々の患者の反応を見ながら調整する必要があります。徐放製剤も開発されており、1日1回の投与で効果を持続させることができます。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=61655
- 禁忌:気管支喘息、うっ血性心不全、重度の徐脈
- 主な副作用:徐脈、頭痛、倦怠感、めまい、血圧低下
- 注意が必要な患者:糖尿病患者(低血糖症状をマスクする可能性)
- 薬物相互作用:他の心拍数を下げる薬剤、血圧降下薬との併用時は注意
- 急な中止は避ける:長期使用後の急な中止は反跳現象を起こす可能性
KEGG医療用医薬品データベース - プロプラノロール塩酸塩の詳細情報
