掻痒症の薬と原因や種類に効果的な対策の塗り薬と飲み薬

掻痒症の薬

掻痒症の薬と治療のポイント
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薬の種類と使い分け

抗ヒスタミン薬とステロイドの違いを理解し、症状に合わせて適切に選択することが重要です。

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治らない原因の特定

薬が効かない場合は、内臓疾患や神経系の原因が隠れている可能性があり、専門的な治療が必要です。

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保湿と高齢者の対策

皮膚のバリア機能を高める保湿ケアと、高齢特有の副作用リスクを避けた薬選びが鍵となります。

皮膚掻痒症(ひふそうようしょう)は、発疹などの目に見える異常がないにもかかわらず、皮膚にかゆみが生じる疾患です。単なる乾燥肌だと思って放置していると、睡眠障害や生活の質の低下を招くだけでなく、背後に重大な病気が隠れていることもあります。治療の基本は「薬物療法」と「スキンケア」の両輪で行われますが、自己判断で市販薬を使い続けても改善しないケースが少なくありません。ここでは、掻痒症に使われる薬のメカニズムから、意外と知られていない副作用、そして治りにくい難治性のかゆみに対する最新の治療アプローチまで、専門的な知見を交えて詳しく解説していきます。

 

掻痒症の薬の種類と抗ヒスタミン薬やステロイドの効果

 

掻痒症の治療において、まず第一選択となるのが「かゆみを止めること」と「炎症を抑えること」です。しかし、患者さんがよく混同してしまうのが、「抗ヒスタミン薬(飲み薬)」と「ステロイド(塗り薬)」の役割の違いです。これらを正しく理解し、症状の段階に合わせて使い分けることが、早期回復への近道となります。

 

1. 抗ヒスタミン薬(飲み薬)の役割と進化
皮膚のかゆみの多くは、体内のマスト細胞から放出される「ヒスタミン」という物質が、知覚神経にある受容体に結合することで発生します。抗ヒスタミン薬は、この結合をブロックすることでかゆみを抑えます。

 

  • 第1世代抗ヒスタミン薬:

    古くからある薬で、効果は強力ですが、脳内への移行性が高く、眠気や口の渇き(抗コリン作用)といった副作用が出やすいのが特徴です。現在では、どうしてもかゆみで眠れない場合などに限定して使われる傾向にあります。

     

  • 第2世代抗ヒスタミン薬:

    現在、皮膚科で最も一般的に処方されるタイプです。第1世代の欠点であった眠気などの副作用が軽減されており、効果の持続時間も長いため、日中の服用に適しています。フェキソフェナジンアレグラ)やオロパタジン(アレロック)、ビラスチン(ビラノア)などが代表的です。

     

日本皮膚科学会:皮膚瘙痒症診療ガイドライン2020(皮膚科医向けの治療指針が詳細に記載されています)
2. ステロイド外用薬(塗り薬)の適応と限界
ステロイド外用薬は「炎症」を強力に抑える薬です。アトピー性皮膚炎や湿疹のように、皮膚が赤く腫れて炎症を起こしている場合には劇的な効果を発揮します。

 

しかし、「皮膚掻痒症」の初期段階では、目に見える炎症がないことが多いため、ステロイド外用薬の効果は限定的な場合があります。かゆみがあるからといって漫然とステロイドを塗り続けると、皮膚が薄くなる(皮膚萎縮)などの副作用が出るリスクがあります。掻き壊して湿疹ができている部分にはステロイドを、乾燥している部分には保湿剤をと、塗り分けることが重要です。

 

薬の種類 主な作用 適している症状 代表的な成分名
抗ヒスタミン薬 ヒスタミンの働きをブロック 全身のかゆみ、蕁麻疹 フェキソフェナジン、ロラタジン
ステロイド外用薬 炎症を鎮める 赤み、腫れ、掻き壊しによる湿疹 ベタメタゾンヒドロコルチゾン
抗アレルギー薬 アレルギー反応を抑制 慢性的なかゆみ、鼻炎の併発 トラニラスト、ケトチフェン

また、外用薬にはステロイド以外にも、「クロタミトン」や「ジフェンヒドラミン」などを配合した非ステロイド性のかゆみ止めクリームも存在します。これらはステロイドほどの抗炎症作用はありませんが、軽いかゆみに対しては比較的安全に使用できるため、症状の程度を見極めて医師が処方します。

 

掻痒症の薬で治らない原因と内臓疾患の独自の治療法

一般的な抗ヒスタミン薬や保湿剤を使用しても、まったくかゆみが治まらないことがあります。これを「難治性掻痒症」と呼びます。実は、かゆみには「皮膚で起こるかゆみ(末梢性)」と、「脳や神経が感じるかゆみ(中枢性)」の2種類があり、通常のかゆみ止めは前者にしか効かないことが多いのです。ここでは、あまり一般には知られていない内臓疾患由来のかゆみとその特殊な治療薬について深掘りします。

 

内臓疾患が引き起こす「全身性」のかゆみ
皮膚に異常がないのに全身が激しくかゆい場合、以下のような内臓の病気が潜んでいる可能性があります。これらの疾患では、血中に「オピオイドペプチド」などのかゆみ誘発物質が増加し、脳に直接かゆみの信号を送ってしまいます。

 

  • 慢性腎臓病(透析患者):

    透析を受けている患者さんの多くが強いかゆみに悩まされます。これは尿毒素の蓄積や、カルシウム・リンの代謝異常が関与しています。

     

  • 肝疾患(原発性胆汁性胆管炎など):

    肝臓の機能が低下し、胆汁の流れが滞ると、ビリルビンなどが血液中に溢れ出し、それが神経を刺激して耐え難いかゆみを生じさせます。

     

  • 糖尿病:

    高血糖による末梢神経障害や、皮膚の乾燥が複合的に絡み合ってかゆみを引き起こします。

     

  • 血液疾患・甲状腺疾患:

    真性多血症や甲状腺機能亢進症なども、全身のかゆみを初期症状とすることがあります。

     

こばとも皮膚科:ナルフラフィン塩酸塩(レミッチ)について(難治性のかゆみに効く特殊な薬の解説)
「中枢性のかゆみ」に効く新しい薬:ナルフラフィン塩酸塩
従来、透析やかゆみを伴う肝疾患の患者さんに対しては有効な治療法が限られていました。しかし、近年登場した「ナルフラフィン塩酸塩(商品名:レミッチ)」という薬が治療を劇的に変えています。

 

この薬は、世界初の「オピオイドκ(カッパ)受容体作動薬」です。簡単に言うと、脳内でかゆみを感じさせるスイッチを「オフ」にするのではなく、かゆみを抑制するシステムを「オン」にする働きがあります。

 

抗ヒスタミン薬が「火事(ヒスタミン)を消す水」だとすれば、ナルフラフィン塩酸塩は「火災報知器(脳のかゆみ感知)の誤作動を正すシステム」のようなものです。これにより、従来の薬が効かなかった患者さんでも、かゆみが大幅に改善するケースが増えています。ただし、この薬は特定の疾患(透析患者や慢性肝疾患など)にのみ保険適応が認められているため、誰でも使えるわけではありませんが、治らないかゆみの原因を突き止める上で重要な選択肢となっています。

 

薬剤性が原因の場合も
意外な盲点として、普段飲んでいる薬が原因でかゆみが出ている「薬剤性掻痒症」もあります。特に、降圧薬(ACE阻害薬など)や鎮痛薬(オピオイド系)、一部の抗生物質などは、副作用としてかゆみを引き起こすことがあります。この場合、薬を変更するだけで嘘のように症状が消えることもあるため、「いつからかゆくなったか」と「新しい薬を飲み始めた時期」を照らし合わせることが、原因特定には不可欠です。

 

掻痒症の薬と併用する保湿剤の選び方と塗り薬の対策

掻痒症治療において、薬と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが「保湿ケア」です。なぜなら、皮膚掻痒症の最大の原因は、皮膚のバリア機能の低下(ドライスキン)にあるからです。健康な皮膚は、角層の水分と油分がバリアとなり、外部の刺激をブロックしています。しかし、乾燥してバリアが壊れると、外部刺激が神経まで届きやすくなり、知覚神経自体が皮膚の表面近くまで伸びてきて過敏になります(C線維の表皮内侵入)。この状態を改善しない限り、いくら高い薬を使ってもかゆみは再発します。

 

保湿剤の3大カテゴリーと使い分け
保湿剤は、ただ塗れば良いというものではなく、肌の状態に合わせて選ぶ必要があります。

 

  1. ヘパリン類似物質(ヒルドイドなど):
    • 特徴: 高い保湿力に加え、血行促進作用、抗炎症作用があります。
    • 適応: 乾燥が強く、粉を吹いているような状態。しもやけの改善などにも使われます。
    • 注意: 血行が良くなるため、赤みが強い炎症がある部位や、出血しやすい傷がある部位には向きません。
  2. 尿素製剤(ウレパール、ケラチナミンなど):
    • 特徴: 角質を柔らかくして溶かす作用(角質溶解作用)があります。
    • 適応: かかと、ひじ、ひざなど、皮膚が硬くガサガサになっている部位。
    • 注意: 刺激が強いため、顔や、掻き壊して傷がある部分に塗ると「しみる」ことがあります。敏感肌の人は注意が必要です。
  3. ワセリン(プロペト、サンホワイトなど):
    • 特徴: 皮膚の表面に油膜を張り、水分の蒸発を防ぐ「保護」の役割がメインです。皮膚への浸透はしません。
    • 適応: 刺激が極めて少ないため、目の周りや唇、傷がある部位にも使えます。
    • 注意: ベタつきが強く、使用感を嫌がる人がいます。また、水分を与える作用はないため、入浴直後など肌が湿っている時に塗るのが効果的です。

マルホ株式会社:保湿剤の塗り方と使用量の目安(FTUなどの具体的な塗り方が図解されています)
効果を最大化する「FTU」という塗り方
多くの患者さんは、保湿剤の塗布量が圧倒的に足りていません。「薄くのばす」のではなく、「乗せる」感覚が必要です。ここで推奨されるのが「FTU(フィンガーチップユニット)」という単位です。

 

チューブタイプの軟膏やクリームの場合、大人の人差し指の先から第一関節まで出した量(約0.5g)が、大人の手のひら2枚分の面積を塗る適量です。

 

これを肌に点々と置き、手のひらを使って優しく、皮膚のシワに沿って塗り広げます。塗った後、ティッシュペーパーを乗せても落ちない程度、あるいは皮膚がテカる程度が、十分な量が塗れているサインです。

 

入浴後5分以内は、皮膚の水分量が急速に失われる「過乾燥」のリスクが高まる時間帯です。体を拭いたら、パジャマを着る前に、まず保湿剤を塗る習慣をつけるだけで、薬の効果は何倍にも高まります。

 

掻痒症の薬における高齢者の注意点と副作用の対処法

高齢になると、皮膚の皮脂分泌量や角層の水分保持能力が低下し、ほぼすべての方に「老人性皮膚掻痒症」のリスクが生じます。しかし、高齢者の治療には、若年層とは異なる特別な配慮が必要です。加齢に伴う腎機能や肝機能の低下により、薬の代謝が遅れ、副作用が強く出やすくなるからです。

 

高齢者が注意すべき抗ヒスタミン薬の副作用
最も警戒すべき副作用は「インペアード・パフォーマンス(認知機能や判断力の低下)」「転倒」です。

 

第1世代の抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミンなど)は、脳内のヒスタミン受容体もブロックしてしまい、眠気だけでなく、ふらつきや排尿障害(おしっこが出にくくなる)、便秘、口渇などを引き起こすことがあります(抗コリン作用)。

 

高齢者の場合、この「ふらつき」が夜間のトイレ時の転倒や骨折につながり、そのまま寝たきりになってしまうリスクさえあります。また、認知機能の低下を「認知症が進んだ」と誤解されてしまうケースも報告されています。

 

そのため、高齢者の治療ガイドラインでは、脳への影響が少ない「第2世代抗ヒスタミン薬」の使用が強く推奨されています。医師に処方を依頼する際は、「車の運転をする」「夜トイレに起きる」といった生活スタイルを伝え、眠気の少ない薬を選んでもらうことが重要です。

 

日本老年医学会:高齢者の安全な薬物療法ガイドライン(高齢者が避けるべき薬のリストなどが掲載されています)
漢方薬という選択肢
西洋薬の副作用が心配な場合や、慢性的な乾燥が原因の場合、漢方薬が非常に有効な選択肢となります。漢方では、皮膚の乾燥を「血(けつ)の不足」や「潤いの不足」と捉えて治療します。

 

  • 当帰飲子(とうきいんし):

    高齢者の乾燥肌に対するファーストチョイスです。皮膚に栄養と潤いを与え、かゆみを内側から改善します。胃腸が弱くない人に適しています。

     

  • 黄連解毒湯(おうれんげどくとう):

    赤みがあり、イライラしてかゆみが強い場合に使われます。熱を冷ます作用があります。

     

  • 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん):

    加齢による水分代謝の衰えや、腰痛、頻尿などを伴う乾燥性のかゆみに用いられます。

     

漢方薬は即効性では西洋薬に劣る場合がありますが、体質(証)に合えば、副作用のリスクを抑えつつ、根本的な体質改善(乾燥しにくい肌作り)を期待できます。

 

日常生活での対策:薬の効果を助ける
高齢者の皮膚は「紙のように薄い」と表現されることもあります。薬の効果を妨げないために、以下の生活習慣を見直すことも治療の一環です。

 

  • 入浴: 熱いお湯(40度以上)は、皮脂を過剰に奪い、かゆみ神経を刺激します。ぬるめのお湯で、長湯は避けましょう。また、ナイロンタオルでゴシゴシ洗うのは厳禁です。泡で手洗いするだけで汚れは十分に落ちます。
  • 衣服: 化学繊維(ヒートテックなどの機能性肌着)やウールは、静電気や摩擦でかゆみを誘発します。直接肌に触れる下着は、刺激の少ない綿(コットン)100%やシルク素材のものに変えるだけで、薬の効き目が変わるほど症状が落ち着くことがあります。
  • 爪の手入れ: かゆくて掻いてしまうのは生理現象で止められません。しかし、爪が伸びていると皮膚を深く傷つけ、そこから雑菌が入ったり、さらにかゆみ物質が出たりします。爪は短く切り、ヤスリで角を丸くしておきましょう。

掻痒症は「たかがかゆみ」ではありません。適切な薬を選び、正しいスキンケアと生活習慣を組み合わせることで、必ず改善の糸口は見つかります。一人で悩まず、皮膚科医と相談しながら、自分に合った治療法を見つけていきましょう。

 

 


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