スティーブンス・ジョンソン症候群の症状
スティーブンス・ジョンソン症候群の初期症状と粘膜の異変
スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)は、皮膚疾患の中でも特に緊急性が高く、早期発見が予後を大きく左右する指定難病です 。多くの患者さんが最初に感じる異変は、皮膚のかゆみや発疹ではなく、意外なことに「風邪のような症状」です。高熱、のどの痛み、全身の倦怠感といった症状が先行し、その後に皮膚や粘膜に急激な変化が現れます 。
参考)スティーヴンス・ジョンソン症候群(指定難病38) &#821…
特に注目すべきなのは「粘膜」の症状です。単なる皮膚のかゆみ止めを求めて検索している方でも、以下の粘膜症状が伴っていないかを確認することが非常に重要です。
- 目の異常: 両目の充血、目やにが大量に出る、まぶたが腫れて開かない、涙が止まらない。これらは結膜炎と似ていますが、急速に悪化するのが特徴です 。
- 口の異常: 口唇(くちびる)がただれて出血する、口内炎が多発して食事や水分が摂れないほどの激痛がある。
- その他の粘膜: 陰部や尿道の出口がただれ、排尿時や排便時に激しい痛みを伴うことがあります 。
これらの粘膜症状は、皮膚の発疹と同時、あるいは少し早く出現することがあります。皮膚症状に関しては、初期には蚊に刺されたような赤い斑点(紅斑)が顔や体幹に出現しますが、一般的な湿疹とは異なり、中心部が少し暗い色になったり、水ぶくれ(水疱)を形成したりします 。重要なのは、これらが「かゆい」というよりも「痛い」「焼けるような感覚(灼熱感)」を伴うことが多い点です 。
参考)スティーブンス-ジョンソン症候群(SJS)と中毒性表皮壊死融…
難病情報センター | スティーヴンス・ジョンソン症候群(指定難病38) - 症状の詳細や診断基準について
スティーブンス・ジョンソン症候群の原因となる薬と発症期間
スティーブンス・ジョンソン症候群の最も主要な原因は「医薬品」です。特定の強い薬だけでなく、ドラッグストアで購入できる市販の風邪薬(総合感冒薬)や解熱鎮痛剤でも発症する可能性があるという事実は、あまり知られていません 。
参考)スティーブンス・ジョンソン症候群:どんな病気?薬が原因なの?…
原因となりやすい主な薬剤のカテゴリーは以下の通りです 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/261-1.pdf
- 解熱鎮痛消炎剤(NSAIDs): ロキソプロフェンやイブプロフェンなど、痛み止めとして広く使われている薬。
- 抗生物質(抗菌薬): ペニシリン系やセフェム系、ニューキノロン系など、細菌感染症の治療に使われる薬。
- 抗てんかん薬: カルバマゼピン、ラモトリギン、フェノバルビタールなど。
- 高尿酸血症治療薬: アロプリノール(痛風の治療薬)。
- 総合感冒薬: 複数の成分が含まれている市販の風邪薬。
発症までの期間(潜伏期間)にも特徴があります。薬を飲み始めてすぐに症状が出るアナフィラキシーショックとは異なり、スティーブンス・ジョンソン症候群は、薬の使用開始から「2週間〜1ヶ月」ほど経過してから発症することが多いのです(早い場合は数日、遅い場合は数ヶ月後のこともあります) 。
この「タイムラグ」が診断を難しくします。「1ヶ月前から飲んでいる薬だから大丈夫だろう」という思い込みが、発見を遅らせる原因になります。もし、新しい薬を飲み始めて数週間以内に、高熱とともに皮膚や粘膜の異常を感じた場合は、直ちにその薬の使用を中止し、医師に相談する必要があります。また、マイコプラズマ感染症やウイルス感染が引き金になるケースもあり、薬剤だけが原因ではないことも覚えておく必要があります 。
参考)スティーブンス・ジョンソン症候群 - Wikipedia
PMDA | 重篤副作用疾患別対応マニュアル - 原因薬剤や対応手順の詳細
スティーブンス・ジョンソン症候群の治療法と入院の必要性
スティーブンス・ジョンソン症候群と診断された場合、軽症であっても原則として入院治療が必要となります。これは、病状が数単位で急速に進行し、生命に関わる状態(中毒性表皮壊死融解症:TEN)へと移行するリスクがあるためです 。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2016/162051/201610039A_upload/201610039A0018.pdf
治療の第一歩は、原因と疑われる薬剤を直ちに中止することです。その上で、過剰な免疫反応を抑えるために、以下のような強力な治療が行われます。
- ステロイド全身投与: 副腎皮質ステロイド薬を点滴で投与します。重症例や進行が早い場合には、短期間に大量のステロイドを投与する「ステロイドパルス療法」が行われることが一般的です 。
- 免疫グロブリン療法(IVIg): 献血から作られた免疫グロブリン製剤を大量に点滴し、症状の進行を食い止める治療法です。ステロイドの効果が不十分な場合に検討されます 。
- 血漿交換療法: 血液中の原因物質や炎症物質を取り除くために、血液をろ過する治療が行われることもあります。
また、皮膚のケアも非常に重要です。広範囲に皮膚がむけると、やけどと同じように感染症のリスクが高まり、水分やタンパク質が体から失われてしまいます。そのため、熱傷ユニット(Burn Unit)や集中治療室(ICU)での全身管理が必要になることも少なくありません 。眼科的な治療も必須で、癒着を防ぐためのステロイド点眼や眼軟膏の頻回投与、場合によっては偽膜(ぎまく)の除去処置などが行われます 。
参考)治療方法について│【医療従事者専用】SJS/TEN情報サイト…
日本皮膚科学会 | SJS/TEN診療ガイドライン - 最新の治療指針について
スティーブンス・ジョンソン症候群の目の後遺症と生活への影響
スティーブンス・ジョンソン症候群の恐ろしさは、急性期を乗り越えた後にも深刻な「後遺症」を残す可能性がある点です。特にQOL(生活の質)に大きく関わるのが「目」の後遺症です 。
参考)用語辞典│SJS/TEN情報サイト eye.sjs-ten.…
皮膚は再生能力が高いため、跡が残らずきれいに治ることも多いですが、目の粘膜(結膜や角膜)が受けたダメージは不可逆的な変化をもたらすことがあります。
- ドライアイ(重症): 涙を作る細胞が破壊され、重度のドライアイが生じます。常に目が乾き、痛みが続くため、頻繁な点眼が必要になります。
- 視力障害: 角膜が濁ったり、結膜とまぶたが癒着したりすることで、視力が著しく低下することがあります。最悪の場合、失明に至るケースもあります。
- まぶたの変形: まぶたが内側にめくれ込む(内反症)ことで、まつ毛が眼球を傷つけ続ける状態になることがあります 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1a02.pdf
これらの後遺症を防ぐためには、発症急性期の眼科処置がきわめて重要です。皮膚科医だけでなく、眼科医との連携が密に取れる病院で治療を受けることが推奨されます。退院後も長期にわたる眼科通院が必要になることが多く、仕事や日常生活において、遮光眼鏡の使用や定期的なケアが欠かせなくなります。
SJS/TEN情報サイト | 眼科医による解説サイト - 目の後遺症とケアについて
スティーブンス・ジョンソン症候群と普通のかゆみの見分け方
「皮膚がかゆい」という症状は日常的によくあることですが、それが単なる湿疹なのか、スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)の初期症状なのかを見分ける視点は、命を守るために不可欠です。検索上位の記事では症状の羅列が多いですが、ここでは患者さんが自分でチェックできる「感覚的・視覚的な違い」に焦点を当てます。
以下のチェックリストに当てはまる項目が多いほど、SJSなどの重症薬疹を疑う必要があります。
- 「かゆみ」より「痛み」が強いか?
- 一般的なじんましんや湿疹は「かゆみ」が主役です。しかし、SJSの場合は、皮膚がピリピリする、ヒリヒリ焼けるように痛い、触ると痛いといった「疼痛(とうつう)」が先行または並行して現れる傾向があります 。
- 粘膜の「違和感」があるか?
- 皮膚だけでなく、唇がガサガサになる、食事の時に口がしみる、目がゴロゴロする、排尿時にしみるといった症状が同時に起きていないかを確認してください。皮膚疾患で粘膜まで症状が出るものは多くありません。
- ニコルスキー現象はあるか?
- これは少し専門的な見方ですが、赤くなった皮膚を指で軽くこすったときに、薄皮がズルっとむける現象(ニコルスキー現象)が見られる場合、表皮の壊死が始まっている危険なサインです 。絶対に強くこすらず、この傾向が見られたら即座に救急受診が必要です。
- 「爪」や「指先」に変化はないか?
- 爪の生え際が赤く腫れたり、爪が浮いてきたりすることもあります。これも一般的な湿疹ではあまり見られない症状です。
もし、新しい薬を飲み始めて数週間以内に、38度以上の発熱と共に、上記のような「痛みを伴う発疹」や「粘膜のただれ」が出現した場合は、様子を見ずに直ちに医療機関を受診してください。その際、必ず「お薬手帳」を持参し、「いつからどの薬を飲んでいるか」を医師に正確に伝えることが、迅速な診断と治療への鍵となります 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/71/4/71_328/_pdf


