ステロイド外用薬の強さ一覧
ステロイド外用薬強さ一覧と5段階ランクの分類
皮膚科で処方されるステロイド外用薬や、薬局で購入できる市販薬には、明確な「強さのランク」が存在することをご存知でしょうか。これは、薬の作用(抗炎症作用)の強さに応じて、I群(最強)からV群(弱い)までの5段階に分類されています。
医師は、患者さんの「年齢」「症状の重さ」「塗る部位」を総合的に判断して、このランクの中から最適な薬を選択します。大人の体幹部など皮膚が厚い場所には強めのランクを、赤ちゃんや顔などの皮膚が薄い場所には弱めのランクを選ぶのが基本原則です。
以下に、各ランクの名称と代表的な成分・製品名をまとめました。特にI群とII群は効果が非常に強力であるため、市販薬としては販売されておらず、医師の処方箋が必要になります。
| ランク(群) | 強さの目安 | 主な特徴・用途 | 代表的な処方薬(成分例) |
|---|---|---|---|
| I群:Strongest | 最も強い | 重症の湿疹や苔癬化(厚くなった皮膚)に使用。専門医の厳密な管理が必要。 | デルモベート(クロベタゾール)ダイアコート |
| II群:Very Strong | 非常に強い | 体幹部の重い炎症などに広く使われる。市販はされていない。 | アンテベートフルメタリンデロンDP |
| III群:Strong | 強い | 体幹部の湿疹に一般的。市販薬で入手できる最強ランク。 | リンデロンV(ベタメタゾン)フルコートFボアラ |
| IV群:Medium | 中程度 | 顔や首、子供の皮膚トラブルによく使われる。穏やかな作用。 | ロコイドキンダベートアルメタ |
| V群:Weak | 弱い | 非常にデリケートな部位や、赤ちゃん、眼の周りなどに限定的に使用。 | プレドニンコルテス |
市販薬(OTC医薬品)を購入する際は、パッケージに「ストロング」や「マイルド」といった表記があるか確認しましょう。例えば、「リンデロンVs」や「フルコートf」はIII群(ストロング)に該当し、充分な効き目が期待できますが、長期連用には注意が必要です。逆に、顔周りのちょっとした荒れには、IV群相当のマイルドな市販薬を選ぶのが無難です。
「強ければ強いほど早く治って良い」と考えがちですが、必要以上に強い薬をデリケートな部分に塗ると副作用のリスクが高まります。逆に、厚い皮膚に弱い薬を塗り続けても効果が得られず、かえって治療期間が長引いてしまうことがあります。ランク一覧を理解し、適切な強さを選ぶことが治療の第一歩です。
ステロイド外用薬の強さのランク分類について(第一三共ヘルスケア) - 各ランクの定義や成分名が詳しく解説されています
ステロイド外用薬強さ一覧に基づく部位別の吸収率
ステロイド外用薬の効果や副作用のリスクを考える上で、ランクと同じくらい重要なのが「経皮吸収率(けいひきゅうしゅうりつ)」です。実は、私たちの皮膚は部位によって厚さやバリア機能が全く異なり、薬の成分がどれくらい体内に浸透していくかが大きく変わります。
一般的に、ステロイド外用薬の吸収率は、前腕(腕の内側)を「1.0」とした場合の倍率で比較されます。この数値を知ると、なぜ「顔に強いステロイドを塗り続けてはいけないのか」や「手荒れには強い薬が必要なのか」が論理的に理解できるようになります。
以下は、主な部位別のステロイド吸収率の比較データです。
- 陰嚢(いんのう):42倍
- 体の部位で最も吸収率が高い場所です。非常にデリケートなため、強いランクの薬を使うと副作用が出やすく、原則として弱いランク(IV群〜V群)の薬を慎重に使用します。
- 頬・下顎(顔面):13倍
- 顔の皮膚は薄く、腕の10倍以上も薬を吸収します。そのため、顔にはMedium(IV群)以下のランクが選ばれることが多く、Strong(III群)以上を使う場合は短期間に留めるのが鉄則です。
- 頭皮:3.5倍
- 頭皮も吸収が良い部位ですが、毛穴が多く薬が浸透しやすい特徴があります。ローションタイプなどがよく処方されます。
- 前腕(内側):1.0倍
- 基準となる数値です。
- 手掌(手のひら):0.83倍
- 手のひらは角質層が厚いため、薬が浸透しにくい部位です。手湿疹などの治療では、吸収率の低さを補うためにStrongest(I群)やVery Strong(II群)といった強力なランクが必要になることが多いです。
- 足底(足の裏):0.14倍
- 体の中で最も皮膚が厚く、薬が効きにくい場所です。中途半端な強さの薬では効果が出にくいため、最強ランクの薬を密封療法(ODT)などで浸透させることもあります。
このように、同じ薬を塗ったとしても、「陰部では42倍の効果(と副作用のリスク)」が出る一方で、「足の裏では0.14倍の効果」しか出ない可能性があります。
この「吸収率の差」こそが、医師が部位ごとに薬のチューブを細かく使い分ける理由です。「足の裏用の薬が余ったから、顔の湿疹に塗ろう」というのは非常に危険な行為ですので、絶対に避けてください。部位に合わせたランク選択が、副作用を防ぎつつ最大の治療効果を得る鍵となります。
ステロイド外用薬の部位別吸収率データ(HOKUTO) - 前腕を1とした場合の各部位の吸収倍率が図解されています
ステロイド外用薬強さ一覧と気になる副作用のリスク
「ステロイドは怖い薬」というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。確かに、ステロイド外用薬は強力な抗炎症作用を持つ反面、不適切な使い方を続ければ副作用のリスクがあります。しかし、副作用の多くは「強すぎるランクの薬」を「長期にわたって」使用した場合に起こる局所的なものがほとんどです。
ステロイド外用薬の強さ一覧を理解していれば、副作用のリスクをコントロールすることができます。ここでは、代表的な局所副作用と、よくある誤解について解説します。
- 皮膚の萎縮(皮膚が薄くなる)
- 長期間の使用により、コラーゲンの産生が抑制され、皮膚がペラペラに薄くなることがあります。特に高齢者の皮膚や、吸収率の高い顔面・首で起こりやすい現象です。血管が透けて見えたり、少しの刺激で内出血しやすくなったりします。
- 毛細血管拡張(赤ら顔)
- 顔面に強いステロイドを長く使い続けると、毛細血管が拡張し、赤みが取れなくなることがあります(酒さ様皮膚炎)。これを防ぐために、顔にはMedium以下のランクを選び、漫然と使い続けないことが重要です。
- 易感染性(感染症にかかりやすくなる)
- ステロイドの免疫抑制作用により、細菌や真菌(カビ)、ウイルス(ヘルペスなど)が繁殖しやすくなることがあります。例えば、水虫(真菌)の痒みにステロイドを塗ると、痒みは止まるものの、菌が増殖して症状が悪化してしまう典型例があります。自己判断で塗る前に、原因が感染症でないか確認することが大切です。
よくある誤解:「ステロイドを塗ると肌が黒くなる?」
「ステロイドを塗ったところが黒く色素沈着した」と心配される方がいますが、これは医学的には誤解であることがほとんどです。皮膚が黒くなるのは、ステロイドの副作用ではなく、「炎症が長引いた結果」として起こる炎症後色素沈着です。むしろ、ステロイドを怖がって使用を控えたり、弱すぎるランクの薬を使って炎症を長引かせたりする方が、結果として色素沈着を残すリスクが高まります。ランク一覧に基づいた適切な強さの薬で、炎症を「短期決戦」で鎮めることこそが、きれいな肌を取り戻す近道なのです。
また、全身的な副作用(糖尿病、骨粗鬆症、成長障害など)は、飲み薬や点滴で大量にステロイドを投与した場合のリスクであり、通常の量の塗り薬であれば、体内に吸収される量はごく微量なため、過度な心配は不要です。
ステロイド外用剤の副作用とリスク(シオノギヘルスケア) - 局所副作用と全身性副作用の違いについて解説があります
ステロイド外用薬強さ一覧の効果を引き出す正しい塗り方
適切なランクの薬を選んでも、塗り方が間違っていては十分な効果が得られません。多くの患者さんが「薄く伸ばしすぎている」か「擦り込みすぎている」傾向にあります。ステロイド外用薬の強さを最大限に活かすための、世界標準の塗り方であるFTU(フィンガー・チップ・ユニット)をマスターしましょう。
1. 塗る量の目安(1FTU)
チューブ入りの軟膏やクリームの場合、「大人の人差し指の先端から第一関節まで」押し出した量が、約0.5gに相当します。この量を「1FTU(ワン・フィンガー・チップ・ユニット)」と呼びます。- 1FTU(約0.5g) = 大人の手のひら2枚分の面積
これが適量の基準です。例えば、患部が手のひら1枚分の広さなら、第一関節の半分くらいの量が必要です。「ベタベタして気持ち悪い」と感じるくらいが、実はちょうど良い量なのです。ティッシュペーパーが貼り付く程度のしっとり感が目安です。薄く塗りすぎると、炎症を抑えきれずに治療が長引く原因になります。
2. 擦り込まずに「乗せる」
薬を塗るときに、皮膚に浸透させようとしてゴシゴシと擦り込んでいませんか?これは逆効果です。強く擦り込むと、摩擦による刺激で炎症が悪化したり、痒みが増したりすることがあります。- 薬は皮膚の上に「乗せる」イメージで優しく広げます。
- シワに沿って塗ると広がりやすいです。
- 白く残る程度ではなく、全体にテカリが出る程度に広げれば十分です。
3. 回数とタイミング
基本的には1日2回(朝・入浴後)の塗布から開始します。入浴後は皮膚が柔らかくなっており、吸収率が高まるため最も効果的なタイミングです。症状が良くなってきたら、自己判断で急にやめるのではなく、1日1回に減らす、2日に1回にするなど、徐々に回数を減らして(漸減療法)、リバウンドを防ぐのが理想的です。市販薬を使う場合も、5〜6日使用しても症状が改善しない場合は、ランクの選択が間違っているか、ステロイドが効かない別の疾患(真菌感染など)の可能性があるため、漫然と続けずに皮膚科を受診してください。
外用剤の適量「FTU」について(マルホ) - 塗り薬の適量を写真付きで分かりやすく解説しています
ステロイド外用薬強さ一覧と保湿剤の塗る順番の真実
アトピー性皮膚炎や乾燥性湿疹の治療では、ステロイド外用薬と保湿剤(ヘパリン類似物質やワセリンなど)を併用するケースが非常に多くあります。このとき、多くの患者さんが抱く疑問が「どっちを先に塗ればいいの?」という問題です。
これについては、実は「医学的に絶対的な正解(効果に劇的な差が出るという確固たるエビデンス)」はまだ確立されていません。しかし、実用面や副作用防止の観点から、現在多くの皮膚科医が推奨している「推奨の順番」があります。
推奨の順番:【1. 保湿剤】→【2. ステロイド外用薬】
この順番が推奨される最大の理由は、「ステロイドを広げすぎないため」です。- 保湿剤を先に塗る
- 保湿剤は、肌のバリア機能を整えるために、患部だけでなくその周辺や全身など広い範囲に塗る必要があります。
- お風呂上がりなどに、まず広い範囲にたっぷりと保湿剤を塗ります。
- ステロイドを後から塗る
- ステロイド外用薬は、炎症が起きている患部(赤い部分、痒い部分)だけにピンポイントで効かせたい薬です。
- もし先にステロイドを塗ってから、その上から保湿剤を広い範囲に塗り広げてしまうと、どうなるでしょうか?患部に留まっていてほしいステロイド成分が、保湿剤と一緒に正常な皮膚まで引き伸ばされてしまいます。
「正常な皮膚に強いステロイドを塗り広げてしまうこと」は、先ほど解説した「皮膚の萎縮」などの副作用リスクを不必要に高めることにつながります。そのため、「広い範囲のベースメイク(保湿)をしてから、ポイントメイク(ステロイド)をする」と覚えるのが分かりやすく、理にかなっています。
ただし、ジュクジュクした傷口が酷い場合など、保湿剤の使用が刺激になるケースでは、医師の指示に従ってください。また、最近では保湿剤とステロイドがあらかじめ混ざった「混合薬(ミックス)」が処方されることもあります。この場合は、一度に塗れるメリットがありますが、正常な皮膚にもステロイドを塗ることになるため、長期使用の際は医師による経過観察がより重要になります。
ランク(強さ)を気にするだけでなく、「どこに」「どの範囲で」効かせたいかを意識することで、薬の効果を最大限に引き出しながら、副作用のリスクを最小限に抑えることができるのです。
保湿剤とステロイド外用剤の塗る順番について(リンデロンVs) - なぜ保湿剤が先なのか、その理由が解説されています


