

「人工皮膚はどれも肌にやさしい」は思い込みで、素材によってかゆみの原因になります。
人工皮膚(人工真皮)とは、皮膚が欠損した部位に貼付して真皮の再生を促す医療材料です。一般的に「コラーゲンスポンジ層」と「シリコーンフィルム層」の二層構造をとっており、この構造が体へのなじみやすさに大きく影響します。
コラーゲン層は、皮膚を再生させるための足場として機能します。真皮の主成分の約70%はコラーゲンで構成されており、その性質に近い素材を用いることで、体の細胞が侵入しやすくなります。これが基本です。
シリコーンフィルム層は、外からの細菌や汚れをブロックしながら、内側の水分蒸発を防ぐ役割を担います。つまり、コラーゲンで「再生」を促し、シリコーンで「保護」するというのが二層構造の考え方です。
ただし、この二層構造でも「かゆみ」が起きる場合があります。理由のひとつは、コラーゲン素材の由来と処理方法にあります。ウシやブタの真皮・腱由来のコラーゲンには、処理が不十分だと抗原性(アレルギーを引き起こす性質)が残ることがあるためです。シリコーンも同様に、一部の人では赤みやかゆみを引き起こすことが報告されています。
| 素材 | 主な役割 | かゆみリスクの要因 |
|---|---|---|
| コラーゲンスポンジ | 再生の足場・細胞侵入の促進 | 動物由来の抗原性、処理不十分な場合 |
| シリコーンフィルム | 外部保護・水分保持 | ごく稀にシリコーンアレルギー |
| ハイドロゲル | 水分保持・柔軟性・電子機能付与 | 架橋剤や添加物への反応 |
かゆみが起きやすいかどうかは「素材の種類」だけでなく、「どのような前処理がされているか」にも大きく左右されます。素材だけで判断しないことが重要です。
参考:人工皮膚(コラーゲン膜)の基礎知識(J-STAGE)
現在、日本国内で医療機関に流通している人工皮膚(人工真皮)の代表的な製品には、「テルダーミス」と「ペルナック」があります。どちらも二層構造ですが、コラーゲンの由来と処理法が異なります。
テルダーミス(アルケア株式会社)は、仔牛(ウシ)の真皮由来のアテロコラーゲンを原料としています。アテロコラーゲンとは、抗原性をもつ「テロペプチド」という部分をプロテアーゼ処理によって除去したコラーゲンのことです。抗原性が大幅に低減されているため、アレルギー反応やかゆみが起きにくい設計になっています。
ペルナック(グンゼメディカル株式会社)はブタの腱由来コラーゲンを同様にアテロコラーゲン処理して使用します。動物の種類は異なりますが、どちらも「抗原性を取り除く処理」が施されています。これが条件です。
注目すべきなのは2024年に登場した「テルダーミスAgプロテクト」です。シリコーン膜に銀(Ag)を配合することで、銀イオンの抗菌効果が加わりました。感染による二次的なかゆみや炎症を防ぐ効果が期待できます。これは使えそうです。
素材の由来(ウシかブタか)よりも、アテロコラーゲン処理がされているかどうか、さらに抗菌機能が付与されているかどうかがかゆみ対策の観点では重要です。医師や医療スタッフに確認するポイントとして覚えておけばOKです。
参考:テルダーミスAgプロテクト発売情報(アルケア株式会社)
アルケア株式会社「コラーゲン使用人工皮膚〈テルダーミスAgプロテクト〉発売のご案内」
「人工皮膚を貼ったらかゆくなった」という体験には、いくつかの異なるメカニズムが関わっています。原因を正確に理解することで、対策も変わります。
まず考えられるのが「接触性皮膚炎(かぶれ)」です。これは、人工皮膚の素材そのものか、製剤中の添加物が皮膚に接触し、炎症を起こすことで発生します。刺激性のものとアレルギー性のものがあり、アレルギー性の場合は初回は症状が出なくても、2回目以降に突然かゆみが生じることがあります。意外ですね。
次に、シリコーンに対するアレルギーがあります。一般的にシリコーンは生体適合性が高く、アレルギーは非常に稀とされていますが、ゼロではありません。縮合型シリコーンに含まれる錫ベースの硬化剤が反応の引き金になるケースがあります。全体的な頻度は低いものの、該当する場合は即座に医師に相談する必要があります。
また、貼付部位の「低酸素状態」も、かゆみを悪化させる要因として近年の研究で注目されています。延世大学(韓国)の研究グループが2026年2月に報告した研究では、人工皮膚モデル内で低酸素環境に置かれた細胞がかゆみ関連因子(IL-31などのサイトカイン)を急激に放出することが確認されました。皮膚の深部の酸素供給が妨げられると、かゆみが激化するということです。
さらに日常的なリスクとして、貼付後の皮脂・汗の蓄積があります。素材が皮膚に密着しすぎると、蒸れた環境で雑菌が繁殖し、かゆみや炎症の原因になります。これはシリコーン系の製品全般に共通する問題です。
かゆみの原因はひとつではありません。素材の問題なのか、蒸れの問題なのか、アレルギーなのかを整理して対処することが大切です。症状が2〜3日で改善しない場合は、自己判断せず皮膚科を受診するのが原則です。
参考:アトピー性皮膚炎の低酸素環境を再現する3Dハイドロゲルモデルの研究(CareNet)
CareNet「アトピー性皮膚炎の低酸素環境を再現する3Dハイドロゲルモデルを開発」2026年1月
かゆみを防ぐためには、素材選びの段階から意識することが重要です。特に敏感肌の方や、アトピー性皮膚炎・乾燥肌を抱えている方は、素材の処理工程まで確認する必要があります。
最初に確認すべきは「アテロコラーゲン処理が施されているか」という点です。先述のように、アテロコラーゲンは抗原性を生み出す部分(テロペプチド)を除去したコラーゲンで、アレルギー反応が起きにくい特徴があります。製品の添付文書や説明書に「アテロコラーゲン」と記載があるかどうかが確認ポイントです。
次に、「抗菌機能の有無」も重要です。2024年に発売されたテルダーミスAgプロテクトのように、銀イオンを配合した抗菌タイプは、細菌の繁殖による二次的なかゆみや炎症リスクを低減できます。感染リスクが高い部位(足や背中など)や、長期間の使用が見込まれる場合は特に検討する価値があります。
また、乾燥肌の方には「保湿機能を保てる素材設計かどうか」も見るべきポイントです。シリコーンフィルム層が適切に密閉を維持できる製品を選ぶことで、皮膚の水分蒸散が防がれ、乾燥由来のかゆみも軽減されます。
加えて、使用中のスキンケア製品との相性にも注意が必要です。貼付部位の周辺に油分の多いクリームやオイルが残っていると、シリコーン素材の劣化を早めるうえ、成分が素材の隙間から皮膚に触れてかゆみを誘発することがあります。使用前に肌をきれいに清潔にしてから貼付することが基本です。
市販の創傷被覆材を選ぶ場合は「ハイドロコロイド素材」も有力な選択肢です。ハイドロコロイドは、傷口の湿潤環境を保ちながら外部の刺激を遮断する機能があり、乾燥によるかゆみを起こしにくい構造になっています。ドラッグストアでも購入できます。
参考:創傷被覆・保護材等一覧(日本褥瘡学会)
日本褥瘡学会「創傷被覆・保護材等一覧(2023年6月版)」
人工皮膚の素材は、従来のコラーゲン+シリコーンという組み合わせから、より生体に近い機能をもつ素材へと急速に進化しています。最新のトレンドを知ることで、将来的なかゆみ対策の選択肢も広がります。
近年とくに注目されているのが「ハイドロゲル素材」を使った人工皮膚です。ハイドロゲルは約98%が水分でできており、人間の皮膚組織に構造が非常に近い素材です。2025年にWIREDが報じた研究では、ハイドロゲルを糸状にプリントして人工組織内に血管を構築する技術(REFRESHシステム)が開発されています。血管が通ることで酸素供給が改善され、前述の「低酸素によるかゆみ」リスクも軽減できる可能性があります。
また、自己修復機能をもつ「電子皮膚(e-skin)」の研究も進んでいます。2025年4月に報告された研究によると、損傷しても10秒以内に自己修復する薄膜ポリマー素材が開発されています。この素材はウェアラブル機器への応用が進んでいますが、将来的には人工皮膚の表面保護層として活用される可能性があります。
スキンケア分野では「熱感応ポリマー×球状ポリマー」を組み合わせた第2の皮膚形成技術が国内でも開発されています。体温で形状が変化し、皮膚の凹凸にフィットするこの素材は、薬剤や保湿成分を長時間かつ均一に皮膚に届ける効果が期待されており、かゆみを起こしにくい次世代のスキンケア素材として注目されています。
| 素材・技術 | 特徴 | かゆみ対策への期待 |
|---|---|---|
| ハイドロゲル(水分98%) | 生体組織に近い柔軟性と保湿性 | 低酸素・乾燥によるかゆみを抑制 |
| 自己修復ポリマーフィルム | 10秒以内に自己修復する薄膜素材 | 破損による外部刺激の侵入を防止 |
| 熱感応ポリマー | 体温でフィットする第2の皮膚 | 均一密着で蒸れ・刺激を軽減 |
| 銀イオン配合シリコーン | 抗菌性を付与した保護層 | 細菌性かゆみ・感染を予防(現在市販) |
かゆみに悩む方にとって、今後の人工皮膚素材の選択肢は確実に増えます。現在の標準素材(アテロコラーゲン系)の正しい使い方を押さえつつ、医師と相談しながら新しい素材の情報をアップデートしていくことが、長期的なかゆみ管理につながります。
参考:血の通う人工皮膚を3Dプリンターで構築(WIRED.jp)
参考:損傷しても10秒以内に自己修復する電子皮膚(WIRED.jp)