

かさぶたをしっかり乾かすと、治癒が約2倍遅くなる場合があります。
「痂皮」と書いて「かひ」と読みます。日常生活ではほとんど使わない言葉ですが、これは医療・看護の現場でよく使われる専門用語で、一般的に言う「かさぶた」のことです。
痂皮の医学的な定義は、皮膚が損傷を受けたときに傷口の表面から染み出た血漿・炎症細胞・壊死組織・血液成分などが固まってできた組織のことを指します。英語では「crust(クラスト)」と表現されます。傷口から出た体液や血液が空気に触れて乾燥・凝固し、板状や膜状に固まったものが痂皮です。
厳密には、痂皮の中にも種類があります。血液が主成分のものを「血痂(けっか)」、滲出液(しんしゅつえき)が固まったものを「漿液性痂皮(しょうえきせいかひ)」、膿が固まったものを「膿痂(のうか)」と分類されます。日常でいう「かさぶた」は主に血痂を指します。
つまり「かさぶた=痂皮」と理解すればOKです。
痂皮という言葉は、「痂皮性膿痂疹(かひせいのうかしん)」などの皮膚疾患名にも使われます。これはいわゆる「とびひ」の一種で、厚い黄色~茶色のかさぶたが患部に張り付くことが特徴です。とびひには水ぶくれができる「水疱性膿痂疹(すいほうせいのうかしん)」と、このかさぶたができる「痂皮性膿痂疹」の2種類があります。
看護roo!|痂皮(かひ)の定義と役割について詳しく解説されています
かさぶたが治りかけになると強いかゆみを感じる、という経験は誰にでもあると思います。これは体の中で「ヒスタミン」という物質が分泌されるためです。
皮膚が傷つくと、体は傷を修復しようとして免疫反応を起動させます。この過程で「肥満細胞(マスト細胞)」と呼ばれる細胞が活性化し、ヒスタミンを大量に放出します。ヒスタミンはさまざまな細胞のレセプター(受容体)に結合し、血管を拡張させたり白血球を集めたりして、傷の修復を促します。
問題は、このヒスタミンが皮膚の神経にも作用してしまうことです。
日本医科大学形成外科の医師によると「ヒスタミンが神経に作用してかゆみを感じさせるわけですが、それは結果的に出てしまう副産物に過ぎない。傷を治すために、かゆみが必要なわけではありません」とのこと。つまり痂皮のかゆみは、傷を治そうとする過程で「副作用的に」生じてしまうものなのです。
また、かゆみと痛みはほぼ同じ神経が担っており、弱い痛みが結果的にかゆみとして感じられるという側面もあります。
かゆみが出ているということは、傷が治りかけている証拠でもあります。
しかしだからといって、かゆいから掻いていいわけではありません。掻くことで皮膚の角質層が破壊され、炎症がさらに悪化してかゆみを増幅させるという「かゆみの悪循環」が起きてしまいます。この悪循環が繰り返されると、「痒疹(ようしん)」と呼ばれる慢性的な皮膚疾患に発展することもあります。
大正健康ナビ|アトピー性皮膚炎における「かゆみと掻破の悪循環」のメカニズムが詳しく解説されています
「傷はよく乾かした方が早く治る」と思っていませんか? 実はこの考え方は、現在の医学では否定されています。
かつては「傷を消毒して乾燥させ、痂皮(かさぶた)をつくることが治癒を促す」という考えが主流でした。しかし近年、皮膚のメカニズムが詳しく解明され、この常識は大きく覆されています。
現在の医学的な結論は「痂皮は創傷治癒の観点からは不要、あるいは有害になりうる」というものです。
その理由はこうです。かさぶたは細菌を通してしまう構造を持っており、傷が深い場合にはかさぶたの下で細菌が増殖して感染を起こすリスクがあります。また徳島大学の研究資料でも「痂皮(カサブタ)は表皮化を遅延させ、感染を助長する可能性がある」と記されており、現在は「創面の適度な湿潤環境を保つ」処置が推奨されています。
これが「湿潤療法(moist wound healing)」と呼ばれる治療法で、現在は世界的な標準ケアとなっています。
湿潤療法の基本は以下の通りです。
| 従来のケア(乾燥療法) | 現代のケア(湿潤療法) |
|---|---|
| 消毒して乾かす | 流水で洗い流す(消毒しない) |
| ガーゼを当てる | 創傷被覆材やラップで覆う |
| 痂皮(かさぶた)を形成させる | 痂皮を形成させない |
| 治癒が遅い・傷跡が残りやすい | 治癒が早い・傷跡が残りにくい |
湿潤療法のポイントが条件です。白色ワセリンを傷口に薄く塗ってから市販の創傷被覆材(キズパワーパッドなど)で覆うだけで、家庭でも実践できます。
かさぶたが既にできてしまった場合でも、その上から被覆材で密閉すると浸出液がたまってかさぶたが徐々に柔らかくなり、自然に除去されていきます。
ぎふスキンケアクリニック|かさぶたができた傷への湿潤療法の実際の処置方法が解説されています
かさぶた(痂皮)がかゆくなると、つい掻いてしまいがちです。しかしこの行為が、かゆみをさらに悪化させる深刻な悪循環を生み出します。
掻くことで皮膚の表面にある角質層が傷つくと、皮膚バリア機能が低下します。すると外からの刺激が入りやすくなり、ヒスタミンがさらに放出されてかゆみが強まります。強まったかゆみでまた掻く、さらにバリアが壊れる、という悪循環のサイクルが繰り返されます。
これは単純にかゆいというだけで終わらない場合があります。
この悪循環が続くと、「痒疹(ようしん)」という皮膚疾患に発展することがあります。痒疹とは、強いかゆみによって皮膚を掻き続けることで炎症が悪化し、硬い結節(こぶのようなもの)や丘疹が皮膚に形成される病気です。痒疹になると、強いステロイド外用薬や抗ヒスタミン薬による本格的な治療が必要になります。
日本皮膚科学会の「痒疹診療ガイドライン2020」では、痒疹の治療には「強い炎症を抑えないと悪循環の鎖を断ち切れない」と明記されており、弱めの自己処置では対処できないケースが多いことが示されています。
かゆみを感じたときの応急対応として「冷やす」という方法があります。氷嚢や保冷剤をタオルに包んで患部に当てることで、かゆみを引き起こしている神経の興奮を一時的に抑えることができます。体感温度を下げるだけでヒスタミンの作用が和らぐため、これはすぐに実践できる有効な対処法です。
かゆみには必ず原因があります。
もりはら皮ふ科クリニック|痒疹の悪循環のメカニズムと治療法が詳しく解説されています
痂皮(かさぶた)は単なる擦り傷だけにできるわけではありません。日常的にかゆみを感じやすい人が見落としがちな「痂皮が形成されやすい皮膚疾患」を把握しておくことが、適切なケアへの近道です。
まず代表的なのは「アトピー性皮膚炎」です。皮膚バリア機能が慢性的に低下しているため、かゆみで掻き壊した患部に痂皮が繰り返し形成されます。治りかけても掻いてしまうことで再び悪化するサイクルが起きやすく、早期に皮膚科での管理が必要です。
次に「とびひ(伝染性膿痂疹)」の痂皮性タイプです。黄色ブドウ球菌やA群溶血性連鎖球菌が原因で、厚い黄色~茶色のかさぶたが患部に張り付きます。虫刺されやあせものかき壊しから広がることが多く、特に夏の小児に多く見られますが、大人でも免疫力が低下していると発症します。このタイプは人にうつる感染症であることも覚えておきましょう。
「水痘(水ぼうそう)」も全身に痂皮が形成される疾患です。感染症予防の観点から、日本では「すべての発疹が痂皮化(かさぶた化)している」ことが登園・登校再開の目安とされています。
「乳痂(にゅうか)」は赤ちゃんの頭皮や顔にできる黄色いかさぶた状のものです。これは乳児脂漏性皮膚炎によるもので、頭皮・おでこ・眉毛に出やすく、無理に取り除こうとすると皮膚を傷つけてしまいます。
ここで一つ独自の視点を加えると、「かゆみの感じやすさ」は皮膚の乾燥状態と神経の過敏性に強く左右されます。実は乾燥した皮膚では、本来は表皮と真皮の境界部に存在すべき神経線維(C線維)が表皮内に侵入してきてしまい、わずかな刺激でも強烈なかゆみを感じやすくなるのです。
これはつまり、痂皮ができてからケアするのではなく、皮膚を常に保湿してバリア機能を維持することが、かゆみを生まれにくくする根本的な予防策になるということです。
保湿が基本です。
日常的なかゆみ対策として、入浴後3分以内に保湿剤を塗ること・40℃以下のぬるめのお湯に浸かること・綿素材の肌着を選ぶことが皮膚科で推奨されています。これらは痂皮の原因となるかゆみの誘発自体を減らすための習慣として、非常に効果的です。
済生会|痂皮性膿痂疹を含む伝染性膿痂疹の症状・原因・治療法が詳しく解説されています