

かゆいからといって掻きむしると、症状が全身に広がって1か月以上治らなくなることがあります。
「化膿レンサ球菌」という名前は少し聞き慣れないかもしれませんが、「溶連菌(ようれんきん)」や「A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)」といえばピンとくる方も多いでしょう。化膿レンサ球菌とA群溶連菌は同じ細菌を指しており、正式な学名はStreptococcus pyogenesです。
この細菌の最大の特徴は、鎖のようにつながって存在すること。顕微鏡で見ると、球形の菌が数珠つなぎになって見え、それが「レンサ(連鎖)」という名前の由来になっています。健康な人ののどや皮膚表面にも常在していることがある菌ですが、免疫力が低下したり皮膚に傷があったりすると感染症を引き起こします。
実はこの菌は、のどだけでなく皮膚・耳・肺・関節など全身のあらゆる部位に感染を起こす可能性があります。皮膚感染としては「とびひ(伝染性膿痂疹)」「丹毒」「蜂窩織炎」などが代表的です。かゆみが強い症状を引き起こすことでも知られており、特にかゆみに悩む方にとっては知っておきたい菌のひとつです。
感染経路は主に「飛沫感染」と「接触感染」の2つ。感染者のせきやくしゃみで飛んだ飛沫を吸い込んだり、傷口や分泌物に触れることで感染が広がります。飛沫は会話でも1〜2mほど飛ぶとされており、学校や職場などの集団の場では特に注意が必要です。
| 呼び名 | 正式名称 |
|---|---|
| 化膿レンサ球菌 | Streptococcus pyogenes |
| 溶連菌(溶血性レンサ球菌) | A群溶血性レンサ球菌(同じ菌) |
参考:A群溶血性レンサ球菌に関する基本情報(国立感染症研究所)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/340-group-a-streptococcus-intro.html
化膿レンサ球菌が引き起こす症状は、感染する部位によって大きく異なります。最も多いのはのどへの感染で、これを「A群溶血性レンサ球菌咽頭炎」と呼びます。感染後の潜伏期間は通常2〜5日で、その後に突然の高熱(38℃以上)・のどの激しい痛み・倦怠感・リンパ節の腫れなどが現れます。
のどの症状が主体であることが多い一方、普通の風邪と違って咳や鼻水がほとんど出ないのが特徴的です。扁桃腺が赤く腫れ、白い付着物(白苔)が見られることもあります。発熱から1〜2日後には全身に小さな赤い発疹が現れる「猩紅熱(しょうこうねつ)」に移行することもあります。
かゆみに関わる皮膚症状を特に整理すると、以下のとおりです。
これらの症状が重なることもあれば、のどの症状がほとんど出ずに皮膚症状だけが先行するケースもあります。意外ですね。かゆみを伴う皮膚症状が出た場合、ただの湿疹や虫刺されと間違えやすいので注意が必要です。
参考:溶連菌の皮膚症状の詳細(写真で見る子どもの病気)
https://miyake-naika.com/01sindan/shasin-kodomo/kodomo_yourenkin3.html
かゆみがある皮膚症状が出たとき、つい掻きむしってしまうのは自然な反応です。しかし化膿レンサ球菌による感染では、これが症状を大きく悪化させる原因になります。なぜかゆみが出て、なぜ掻くと広がるのかを正しく理解しておくことが大切です。
かゆみが生じる理由は2つあります。1つ目は、化膿レンサ球菌が産生する「発赤毒素(エリトロジェニン毒素)」によるもの。この毒素が皮膚に炎症反応を起こし、神経を刺激してかゆみを引き起こします。2つ目は、とびひのような細菌性の皮膚感染症では、水ぶくれや膿疱が皮膚表面に形成されること。これが破れると浸出液が周辺の皮膚を刺激し、強いかゆみを生じさせます。
掻くと広がる理由はシンプルです。患部の浸出液や膿には大量の化膿レンサ球菌が含まれており、掻いた手で別の皮膚を触れることでそのまま菌が移ってしまいます。痂皮性膿痂疹(とびひの一種)は特にこの経路で広がりやすく、顔・手・足など複数の部位へあっという間に拡大します。これが「とびひ」の名の由来でもあります。
掻かないことが基本です。かゆみが強い場合には、市販の抗ヒスタミン薬(かゆみ止め)を活用することで皮膚を傷つけずに済みます。ただし市販薬での自己対処には限界があるため、かゆみを伴う発疹が複数箇所に広がってきた場合は早めに皮膚科を受診することをおすすめします。
「のどが痛いだけだから」「発疹が少し出ただけだから」と放置すると、後から重篤な合併症が起きることがあります。これが化膿レンサ球菌感染症の怖いところです。
特に注意が必要な合併症として、「急性糸球体腎炎」と「リウマチ熱」があります。
急性糸球体腎炎は、溶連菌感染症にかかってから10〜14日後(約2週間後)に発症することが多い合併症です。顔やまぶたのむくみ・血尿・高血圧などが主な症状で、発症した場合は約1か月の入院が必要になるケースもあります。これは溶連菌を除菌しきれなかった場合や、治療せずに自然治癒に任せた場合に起こりやすいとされています。
リウマチ熱は、関節炎・心臓弁への炎症・皮膚症状・神経症状などが組み合わさって現れる全身性の合併症です。心臓への炎症が後遺症として残ることもあります。欧米ではリウマチ熱の予防のため、10日間の抗生剤内服が標準治療として確立されています。痛いですね。
さらに最も恐れるべき合併症が「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)」です。別名「人食いバクテリア」とも呼ばれ、発症から24〜48時間以内に手足の組織が壊死し、多臓器不全に至ることがあります。国内では毎年400〜500例が報告されており、致死率は約30〜40%という非常に高い数字です。2024年には過去最多の感染者数が記録されました。
合併症のリスクが原則です。症状が軽くても、医療機関で正確な診断を受けることが安全への近道です。
参考:劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137555_00003.html
化膿レンサ球菌感染症の治療の中心は抗生剤(抗菌薬)です。特にペニシリン系薬剤(アモキシシリンなど)が第一選択とされており、過去50年以上使用されても耐性菌が確認されていないことから信頼性が高い薬です。ペニシリンアレルギーがある場合にはマクロライド系抗菌薬が使われます。
ここで多くの人が陥りがちな落とし穴があります。それは「症状が改善したからといって、抗生剤を途中でやめてしまう」という行動です。溶連菌は体の中から完全に除菌されるまでに時間がかかるため、抗生剤を途中でやめると、死にきれなかった菌がまた増え、2週間後に同じ症状がぶり返すことがあります。それだけでなく、前述したリウマチ熱や急性糸球体腎炎などの合併症を引き起こすリスクも高まります。抗生剤の飲み切りが条件です。
通常、治療期間は10日間。1日3回、しっかり飲み続けることが大切です。この10日間という日数はリウマチ熱の予防に必要な期間として科学的根拠があります。途中で症状が良くなっても、必ず最後まで飲み切ってください。
皮膚のとびひに対しては、外用の抗菌薬(塗り薬)が使われるケースもありますが、症状が広範囲に広がっている場合や全身症状がある場合は内服の抗菌薬が処方されます。かゆみが強い場合は、抗ヒスタミン薬が併用されることもあります。
かゆみを抑えるという観点から、治療と並行して以下のセルフケアも有効です。
参考:溶連菌感染症の治療についての詳細(国立成育医療研究センター)
https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/yorenkin.html
医療機関での治療が必要なことは大前提ですが、実は日常のスキンケア習慣が化膿レンサ球菌の感染を未然に防ぐ大きな武器になります。これはあまり語られない視点です。
化膿レンサ球菌が皮膚に感染するには「入り口」が必要です。健康な皮膚表面は細菌の侵入を防ぐバリア機能を持っています。しかし、乾燥・アトピー性皮膚炎・虫刺されなどでこのバリアが崩れると、菌が侵入しやすくなります。これはつまり、「かゆみをしっかり抑えてバリアを守ること」が、感染予防そのものにつながるということです。これは使えそうです。
特に夏の暑い時期はあせもや虫刺されが増え、そのかゆさから無意識に掻いてしまいがちです。子どもだけでなく大人にも同じことが言えます。かゆみをそのままにしておくと、掻き傷→バリア崩壊→化膿レンサ球菌の侵入という負のサイクルに入りやすくなります。
日常的に使えるケアとして、以下のポイントを押さえておきましょう。
アトピー性皮膚炎を持っている方は、皮膚バリアがもともと低下していることが多く、化膿レンサ球菌によるとびひを繰り返しやすい傾向があります。皮膚科で適切なアトピーのコントロールをすること自体が、感染症予防につながります。まずは皮膚炎の管理が先決です。
かゆみを抑えることとバリアを守ることは、同じことということですね。感染症と皮膚ケアを切り離して考えず、日常から取り組むことが大切です。
参考:とびひと皮膚バリアに関する解説(津田沼駅前かめだ皮膚科)
https://tsudanuma-hifuka.com/pediatric-dermatology/%E3%81%A8%E3%81%B3%E3%81%B2/