

かゆみが慢性的に続く方の多くが、末梢血流の悪さを見落としたまま保湿クリームだけで対処しています。
カリクレイン錠10単位は、バイエル薬品が販売していた「循環系作用酵素製剤」です。主成分は「カリジノゲナーゼ(kallidinogenase)」というタンパク質分解酵素で、新鮮な豚の膵臓から抽出・生成されます。
この薬がどのように働くのかというと、血液中の「キニノーゲン」という物質を「キニン」という強力な血管拡張物質に変換することで、末梢の毛細血管を広げ、血液の流れを良くする仕組みです。薬の中では珍しく、「カリクレイン・キニン系」に直接作用できる唯一の薬剤として長年評価されてきました。
効能・効果として承認されていた疾患は以下のとおりです。
「かゆみ」との関係も見逃せません。皮膚のかゆみは、必ずしもアレルギーや乾燥だけが原因ではありません。末梢血流が低下すると皮膚への酸素・栄養の供給が滞り、老廃物が蓄積します。このような状態では皮膚のバリア機能が落ち、わずかな刺激でもかゆみを感じやすくなってしまいます。血管を広げる作用を持つカリクレイン系の薬は、こうした「血行不良が原因のかゆみ」に対しても根底から働きかけることができる薬でした。
つまり、表面を保湿しても治らないかゆみは、血流の問題かもしれません。
参考:カリクレイン錠10単位の基本情報(副作用・成分・効能)
日経メディカル|カリクレイン錠10単位の基本情報
カリクレイン錠は2019年1月にバイエル薬品から「販売中止のお知らせ」が公表され、経過措置満了日は2020年3月末日と設定されました。1951年に国内流通が始まり、約70年にわたって医療現場で使われ続けた薬の終焉です。
重要なのは、販売中止の理由が「安全性に問題が発覚したから」ではないという点です。これはよく誤解されますが、危険だから回収・中止になったわけではありません。
販売中止になった背景には、複数の要因が重なっています。
① 原薬(有効成分)の製造・調達の困難化
カリジノゲナーゼは「新鮮な豚の膵臓」から抽出する生物由来製剤です。製造には特定の設備と原料の安定確保が必要で、製造コストが高い一方で、薬価(国が定める価格)は年々引き下げられていきます。製造コストと薬価のバランスが崩れると、メーカーとして製造継続が難しくなります。
② ジェネリック医薬品の普及による先発品の役割縮小
同じカリジノゲナーゼを成分とするジェネリック品(後発品)が1990年代以降に普及し、カリクレイン錠(先発品)の処方量は徐々に減少していきました。カリクレイン錠が1錠10単位なのに対し、後発品には25単位・50単位という規格もあり、用量の自由度と薬価の安さでジェネリックが主流になっていきました。
③ 後発品メーカーでも供給不安が連鎖
先発品が消えた後、後発品にも波乱が続きます。東菱薬品工業(沢井製薬から発売)のカリジノゲナーゼ錠についても「規格に適合した製品の確保ができない」として供給困難が公表されました。日医工のカリジノゲナーゼ錠25単位・50単位も「諸般の事情」により販売中止となっています。
これらが重なり、「カリクレイン=もう手に入らない」という誤解が広まりました。在庫切れが多いということです。
参考:カリジノゲナーゼ錠「サワイ」供給困難のお知らせ
東菱薬品工業|カリジノゲナーゼ錠25単位/50単位「サワイ」の供給に関するお詫び(PDF)
結論から言えば、カリクレイン錠の成分「カリジノゲナーゼ」は今も入手可能です。ただし、選択肢が減っているのは事実です。
現在も流通している代表的なカリジノゲナーゼ製剤は以下の通りです。
| 製品名 | メーカー | 規格 | 区分 |
|---|---|---|---|
| カルナクリン錠25・50 | 三和化学研究所 | 25単位・50単位 | 先発品 |
| サークレチンS錠25 | 日本臓器製薬 | 25単位 | 先発品 |
| カリジノゲナーゼ錠「各社」 | 複数 | 25単位・50単位 | 後発品 |
カリクレイン錠(1錠10単位)と、後継の先発品カルナクリン(1錠25・50単位)では、1錠あたりの有効成分量が異なります。カリジノゲナーゼとして1日30~60単位が目安だったカリクレインに対し、カルナクリンは1日30~150単位まで対応できます。これが条件です。
薬価の面でも興味深いデータがあります。カルナクリン50単位は1錠あたりの薬価がカリクレイン錠の約2倍程度なのに、有効成分の量は5倍です。コスト面でも後継薬に軍配が上がります。
ただし、品薄状態は続いており、近くの薬局に在庫がないケースもあります。かかりつけ医に「カリジノゲナーゼ製剤で処方してほしい」と伝えたうえで、薬局に事前確認するのが確実な方法です。
参考:カルナクリン錠の製品情報・効能効果
三和化学研究所|カルナクリン錠50製品ページ
「なぜ血流改善薬でかゆみが改善するの?」と疑問に思う方は多いでしょう。そこにはしっかりとした生理的なメカニズムがあります。
皮膚のかゆみは、単なる「肌の乾燥」だけでなく、皮膚内部の毛細血管の状態に大きく依存しています。血流が低下した状態が続くと、皮膚の角化細胞がダメージを受け続けます。老廃物が皮下に蓄積し、皮膚のバリア機能(外部の刺激を防ぐ盾)が失われ、外からの少しの摩擦や温度変化でもかゆみ物質(ヒスタミンなど)が放出されやすくなります。
これは「うっ滞性皮膚炎」と呼ばれる状態に近く、下肢静脈瘤などを持つ方でよく見られます。足のかゆみがなかなか治らない場合、皮膚科よりも血管の問題を先に解決する必要があるケースがあります。
冬になると脚のかゆみや乾燥が悪化するのも同じ理由です。寒さで末梢血管が収縮し、皮膚表面への血流が低下すると、老廃物が滞ってかゆみ物質が皮膚で作用しやすくなります。
カリジノゲナーゼ(カリクレイン系薬)はこうした末梢の微小循環を改善し、毛細血管の血流を回復させる作用があります。「かゆみの薬」として一般に語られることはありませんが、血流障害が原因のかゆみには有効なアプローチとなります。
血流改善だけが条件ではありません。並行して、以下のセルフケアも組み合わせることで効果的です。
かゆみが慢性的に続く場合、血管外科や循環器内科への受診も視野に入れましょう。皮膚科で湿疹と診断されても改善しないかゆみは、血流の問題が原因の可能性があります。
参考:足のかゆみと静脈血行障害の関係
アキ循環器・血管外科クリニック|足がかゆい・足の湿疹について
カリジノゲナーゼ製剤の供給不安が続く中、「薬に頼らず末梢循環を底上げする方法はないか?」という視点は、今の時代に非常に重要です。
薬が一時的に入手できないとき、あるいは副作用が心配な方に向けて、医学的根拠のある生活習慣のアプローチをまとめました。
🍎 食事から血管を拡張させる成分を取り入れる
ヘスペリジン(柑橘類の皮・ポリフェノール)は、毛細血管を強化しなやかにする作用が研究されています。みかんや温州みかんの薄皮ごと食べることが最も手軽な摂取法です。また、ニコチン酸(ビタミンB3)も末梢血管拡張作用があり、サバやマグロなどの青魚・レバーに多く含まれます。
💊 OTCで入手できるビタミンE製剤の活用
ビタミンE(トコフェロール)は末梢の毛細血管を広げる作用があり、「ユベラ」などの市販薬(第3類医薬品)として薬局・ドラッグストアで処方箋なしに入手できます。カリジノゲナーゼほど強力ではありませんが、更年期の冷えや肩こり、軽度の血行不良には一定の効果が期待できます。
🫖 漢方薬という選択肢
「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」は、血行を改善し冷えや更年期症状に用いられる代表的な漢方薬です。カリジノゲナーゼが処方できない場合に、漢方専門医や内科医が代替として選択することがあります。市販品(第2類医薬品)として購入可能で、ツムラやクラシエなどのブランドから入手できます。
⚠️ やってはいけないこと
皮膚のかゆみに対してステロイドの市販薬を長期使用すると、皮膚が薄くなり血管が透けて見える「皮膚萎縮」を引き起こすリスクがあります。特に下肢に使う場合は注意が必要です。1週間以上使っても改善しない場合は、皮膚科または血管外科への受診を優先させましょう。
薬で根本を治しながら、生活習慣で維持するのが理想です。どちらか一方だけに頼らないことが、長期的なかゆみ改善の鍵となります。
参考:うっ滞性皮膚炎と血行障害の関係
東京血管外科クリニック|うっ滞から起こる皮膚疾患