

かゆみをがまんしてかき続けると、喘息が悪化することがあります。
好酸球(こうさんきゅう)とは、白血球の一種です。血液中の白血球全体のうち通常1〜3%を占め、体内に侵入した寄生虫や細菌を攻撃する役割を担っています。ところがこの好酸球は、本来は無害なアレルゲン(花粉・ダニ・食物など)を「敵」と勘違いして過剰に反応することがあります。これが「好酸球性炎症」です。
好酸球が活性化すると、内部の顆粒から「ロイコトリエン」「IL-4(インターロイキン4)」「IL-13(インターロイキン13)」といった炎症性物質(サイトカイン)を大量に放出します。これが問題の核心です。IL-4とIL-13は気道の炎症(=喘息の原因)を引き起こすと同時に、皮膚のバリア機能を低下させて強烈なかゆみを引き起こします。つまり「かゆみ」と「喘息」は別々の病気ではなく、同じ炎症物質が引き起こしている「一つながりの炎症反応」なのです。
これを覚えておけばOKです。
好酸球はほとんどが皮膚・気管支・肺・消化管などの組織に存在しており、血液中に回っている好酸球は全体の1%未満に過ぎません。なので、血液検査の好酸球数が「正常範囲内」であっても、組織の中では炎症が進行している可能性があります。
| 炎症物質 | 主な作用部位 | 引き起こす症状 |
|---|---|---|
| IL-4 | 皮膚・気道 | かゆみ、気道炎症、IgE産生促進 |
| IL-13 | 気道・皮膚 | 気道リモデリング、皮膚バリア低下、かゆみ |
| ロイコトリエン | 気道 | 気管支収縮、喘鳴(ぜーぜー) |
| IL-5 | 骨髄・血液 | 好酸球の分化・増殖・活性化 |
気管支喘息患者さんとアトピー性皮膚炎(かゆみをともなう慢性湿疹)の合併率は、10歳以下の子どもでは65%という研究報告もあります。これは非常に高い割合です。成人喘息でも14.3%の合併率が確認されており、かゆみに悩む人が「実は喘息も抱えている」というケースは珍しくありません。
参考:気管支喘息患者におけるアレルギー性鼻炎・アトピー性皮膚炎の合併率(東北大学リポジトリ)
https://tohoku.repo.nii.ac.jp/record/21677/files/KJ00002359423.pdf
「自分の喘息が好酸球性炎症によるものかどうか」は、2つの検査で見分けることができます。一つは血液検査による血中好酸球数、もう一つは呼気NO(一酸化窒素)値です。
血中好酸球数の目安は以下の通りです。
- 300/μL以上:好酸球性炎症が強い状態(喘息増悪リスクが高い)
- 150〜300/μL:好酸球性炎症が中程度
- 150/μL未満:好酸球性炎症は低レベル
喘息患者さんの血中好酸球数の中央値は約220/μLとされており、これは喀痰(かくたん)中の好酸球比率3%に相当します。痰の中に好酸球が3%以上あると「好酸球性気道炎症あり」と判断されます。痰の検査は病院での手順が煩雑なため、血液検査の好酸球数で代替するのが現実的です。
呼気NO値については、日本人成人の健常値上限はおよそ37ppbとされています。22ppb以上で喘息の可能性が高く、35ppb以上であれば喘息と診断する目安になります。数値が高いほど「好酸球性炎症が気道で活発に起きている」サインです。
意外ですね。
重症喘息患者の実に73%が、この好酸球による2型炎症を有しているというデータがあります。「重症化した喘息=ほぼ好酸球が関与している」と考えてよいほどの高い割合です。
参考:好酸球と喘息の関係を詳しく解説(葛西よこやま内科・呼吸器内科クリニック)
https://www.kasai-yokoyama.com/blog/好酸球とは何か?【喘息】【COPD】/
かゆみをかき続けることで皮膚の炎症が悪化し、そのたびに好酸球が活性化されます。好酸球が放出する「TGF-β(トランスフォーミング増殖因子β)」というサイトカインは、傷ついた組織を修復しようとする一方で、気道の壁を徐々に分厚く・硬くしてしまう「気道リモデリング」を引き起こします。これは非常に重大な問題です。
気道リモデリングが進行すると、発作がない平常時でも気道が狭く固まった状態になります。こうなると、あらゆる喘息治療薬の効きが悪くなり、呼吸機能の低下が加速します。「喘息なのに薬が効かなくなってきた」と感じている方の多くで、このリモデリングが進行している可能性があります。
痛いですね。
ある研究では、血中好酸球数が高いほど「経年的な1秒量(肺活量の指標)の低下速度が大きくなる」ことが示されています。特に「持続的な気流閉塞を伴う喘息」の患者さんでは、好酸球数に比例した肺機能低下が最も顕著に見られました。肺機能は一度失うと回復が難しいため、かゆみの治療を後回しにすることは、長期的に大きなリスクを抱えることになります。
かゆみを甘く見てはいけないということです。
かゆみをかくことで皮膚の炎症→好酸球の活性化→気道への炎症波及→気道リモデリングという悪循環が静かに進みます。かゆみを「ただの皮膚症状」として放置せず、根本の炎症を抑えることが、喘息のコントロールにも直結します。
参考:気管支喘息の仕組みと気道リモデリングの解説(みよし呼吸器クリニック)
https://miyoshi-respiratory.com/disease/disease14.html
吸入ステロイドや気管支拡張薬を使っても喘息がなかなかコントロールできない場合、次の選択肢として「生物学的製剤」が検討されます。現在、日本で喘息治療に保険適用されている生物学的製剤は5種類あります。
- 🟡 ゾレア(オマリズマブ):抗IgE抗体。アトピー型喘息に有効。
- 🔵 ヌーカラ(メポリズマブ):抗IL-5抗体。好酸球の増殖を抑える。
- 🟣 ファセンラ(ベンラリズマブ):抗IL-5受容体抗体。好酸球を直接除去する。
- 🟢 デュピクセント(デュピルマブ):抗IL-4/IL-13受容体抗体。かゆみ・喘息・副鼻腔炎に同時対応できる。
- 🔴 テゼスパイア(テゼペルマブ):抗TSLP抗体。好酸球型・非好酸球型の両方に有効。
特に注目なのがデュピクセントです。IL-4とIL-13を同時にブロックするため、気道の炎症だけでなく皮膚のかゆみ(アトピー性皮膚炎)や鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎にも同時に効果を発揮します。アトピー性皮膚炎のかゆみがある重症喘息患者さんには、一石二鳥になり得る選択肢です。
これは使えそうです。
生物学的製剤は月々の薬価が高額なため、高額療養費制度の活用が現実的です。血中好酸球数150/μL以上の患者さんでは、ヌーカラ・ファセンラ・デュピクセントなど複数の選択肢が対象となります。一方、血中好酸球数150/μL未満の場合は、呼気NO値を参考にしながら医師と相談して選ぶ必要があります。
参考:喘息の生物学的製剤についてわかりやすく解説(葛西よこやま内科・呼吸器内科クリニック)
https://www.kasai-yokoyama.com/media/news/1739/
一般的な喘息の生活指導では「ダニ除去・禁煙・感染症予防」が強調されますが、かゆみを持つ人に向けた具体的な喘息悪化防止のアドバイスはあまり語られません。ここでは少し視点を変えて、「かゆみとの向き合い方が喘息コントロールに直結する理由」を整理します。
まず知っておきたいのは、かくという行為そのものが好酸球を活性化させるという点です。皮膚を強くかくと、皮膚細胞が破壊されて「アラーミン(TSLP・IL-25・IL-33)」と呼ばれる警戒シグナルが放出されます。アラーミンは「自然リンパ球2型(ILC-2)」を刺激し、IL-5・IL-13の産生を促します。その結果、骨髄での好酸球産生が増加し、気道への好酸球浸潤が加速するという連鎖が起きます。
つまり「かゆいからかく→喘息が悪化する」という経路が、体の中で実際に機能しているのです。
かゆみを物理的にかかないようにするには、保湿ケアの徹底が基本です。皮膚の乾燥を防ぐことでバリア機能が回復し、アラーミン放出の引き金となる刺激を減らせます。入浴後すぐに保湿剤を全身に塗ること、ウール素材など肌を刺激する衣類を避けること、室温・湿度を一定に保つことが有効とされています。
かゆみが強い夜間は特に注意が必要です。
また、気温の急変(特に冷気)は喘息にとっても刺激になりますが、乾燥した冷気は皮膚からの水分蒸発も加速させます。就寝前に加湿器を使い、室内湿度を50〜60%に保つことで、かゆみと喘息発作のリスクを同時に下げることができます。
日々のかゆみ管理を「喘息の予防行動」として捉えると、治療へのモチベーションが変わります。かゆみを放置しないことが、長期的な肺機能の保護にもつながります。かゆみが治まらない日が続くときは、皮膚科だけでなく呼吸器内科やアレルギー科を受診し、好酸球性炎症の全体像を評価してもらうことを検討してみてください。