

かゆみを掻いて解消しようとすると、潰瘍になって入院が必要になることがあります。
強皮症(全身性強皮症)は、皮膚や内臓が徐々に硬くなる原因不明の自己免疫疾患で、膠原病のひとつに分類されます。国の指定難病(難病番号51番)に指定されており、令和6年度時点で日本国内の受給者証所持者は27,017名にのぼります。軽症者や未診断の人も含めると、実際の患者数はこの数倍以上と推定されています。
この病気の特徴は、「血管障害」「自己免疫異常」「線維化(コラーゲンの過剰増殖)」の3つが絡み合って起きる点にあります。男女比は1:12で、30〜50代の女性に特に多く見られます。
では、なぜかゆみが生じるのでしょうか?
強皮症では皮膚の構造そのものが変化します。皮膚の断面を顕微鏡で観察すると、コラーゲンからなる線維組織が通常よりもはるかに増殖していることがわかります。その増殖した線維組織に汗腺が取り囲まれ、萎縮してしまうのです。汗腺が正常に機能しなくなると、皮膚は極度に乾燥しやすくなります。これが「かゆみ」の直接的な原因です。
つまり、かゆみが原因です。乾燥した皮膚はバリア機能が低下し、外部からの刺激に対して過敏になります。衣類が触れるだけでもかゆみや痛みを感じる患者さんも少なくありません。
病気の進行ステージとしては、まず「浮腫期」(指がこわばって腫れる時期)、次いで「硬化期」(皮膚が厚く硬くなる時期)、そして「萎縮期」(皮膚が薄くなる時期)と移行していきます。かゆみは特に硬化期から萎縮期にかけて強く現れることが多いです。
参考:強皮症の皮膚変化のメカニズム・治療について詳しく記載されています。
強皮症の治療-皮膚科学会の2016年の診療ガイドラインを参考に(宇多野病院)
「皮膚が乾燥してかゆい」という状態は、多くの人が経験する一般的な症状です。そのため、強皮症のかゆみも最初は「ただの乾燥肌」「季節のせい」と見過ごされることが非常に多いです。実際、前述の闘病体験者のはるさんも、かゆみが出た当初は「ストレスによるものだと思い込んでいた」と述べており、皮膚科に通っても一向に改善しなかったという経緯があります。
では、強皮症のかゆみはどこが違うのでしょうか?
一般的な乾燥肌のかゆみは、保湿ケアによって比較的早く改善します。一方、強皮症のかゆみは、保湿だけでは追いつかないことが多いです。これは皮膚の構造変化が根本にあるためです。以下の点が強皮症のかゆみの特徴として挙げられます。
特に注意が必要なのは、強皮症の初期症状の一つである「レイノー現象」との関連です。強皮症患者の約90%がレイノー現象から発症するとされており、かゆみがある時期にレイノー現象も気になるようであれば、専門医の受診を検討すべき状況です。
また、全身性強皮症では「顔やまぶた、手、足の皮膚にかゆみのない赤い斑点があらわれる」ケースもあります。かゆみのある湿疹と、かゆみのない斑点が混在することで、診断がより複雑になることも少なくありません。
かゆみが長期化しているなら要注意です。
参考:強皮症の初期症状やレイノー現象との関係についての詳しい情報が確認できます。
全身性強皮症とは?(埼玉川越リウマチ・膠原病内科クリニック)
かゆみを感じると、無意識に掻いてしまうのは自然な反応です。しかし強皮症の患者にとって、これは非常に危険な行動になり得ます。
強皮症では血管障害が起きており、末梢循環(手足の先の血の巡り)が著しく低下しています。健康な人であれば、掻いてできた小さな傷は数日で自然に治癒します。ところが強皮症の患者の場合、傷を修復するのに必要な血流が不足しているため、わずかな掻き傷が慢性的な「皮膚潰瘍」へと発展してしまうリスクが格段に高いのです。
強皮症の診療ガイドラインにも、「小さな傷でもきちんと手当てをする」ことが日常生活の注意事項として明記されています。また「特に潰瘍が現れた際には自己処置をせず、主治医に処置してもらうことが大切」とも明示されています。
これは深刻な問題です。
慶應義塾大学病院のKOMPAS情報によれば、「感染が契機となり皮膚潰瘍は悪化する」とされており、潰瘍は悪化すれば入院処置が必要になることもあります。かゆいからといって掻き続けることは、健康な皮膚の人が行うよりもはるかに大きなリスクを伴います。
かゆみへの対応で気をつけたいのは、次の3点です。
「傷が治りにくい」という特性を常に意識することが重要です。かゆい箇所に傷ができてしまったと気づいたら、すぐに清潔に保ち、自己判断で放置せず、早めに主治医へ報告する姿勢が身を守ることにつながります。
参考:皮膚潰瘍の管理と日常生活注意点が詳しく記載されています。
強皮症のかゆみを日常生活の中でできる限り抑えるには、保湿ケアの質と継続性が鍵になります。保湿が基本です。ただし、やり方が不適切だと、効果が十分に得られないことも多いです。
まず押さえておきたいのは「保湿剤を塗るタイミング」です。入浴直後(3〜5分以内)に保湿剤を塗ることで、皮膚に残っている水分を閉じ込め、乾燥を防ぐことができます。時間が経つと皮膚表面の水分が蒸発し、かえって乾燥が進んでしまいます。
強皮症の患者に向いている保湿剤の成分としては、ヘパリン類似物質(ヒルドイドなど)がよく知られています。皮膚の保水力を高める働きがあり、乾燥肌のかゆみに医師が処方することも多いです。市販品では「ヘパリン類似物質配合クリーム」として薬局でも購入できます。ただし強皮症の場合は皮膚の状態が通常の乾燥肌とは異なるため、使用する保湿剤についても主治医の指示を優先させてください。
日常のスキンケアで心がけたいポイントをまとめると、以下のようになります。
室内環境も重要です。加湿器を使い、室内湿度を50〜60%程度に保つことで、皮膚の乾燥を防ぎやすくなります。乾燥する冬の時期だけでなく、夏のエアコン環境でも室内は乾燥しがちです。これは見落とされやすいポイントです。
参考:皮膚の乾燥・かゆみに対するスキンケアの具体的な方法が確認できます。
保湿ケアや生活習慣の改善を続けても、かゆみが長期間治まらない場合や悪化傾向にある場合は、自己対処だけで乗り切ろうとしないことが大切です。
強皮症の治療体制において、かゆみや皮膚の乾燥に対しては、医師の判断によりいくつかの対症療法が行われることがあります。まず、皮膚の炎症が背景にある場合には、ステロイド外用薬(塗り薬)が処方されることがあります。ただし強皮症の特性として、ステロイドの全身投与は腎クリーゼ(急激な血圧上昇と腎機能低下)を誘発するリスクがあるため、内服薬と外用薬とでは扱いが大きく異なります。主治医の指示に従うことが原則です。
また、かゆみの背景に「皮膚硬化の進行」がある場合、それ自体への治療(リツキシマブ、シクロホスファミドなど)が並行して行われることもあります。
日経メディカルの情報によれば、強皮症の難病認定患者数は年々増加傾向にあり、好発年齢は40〜60代で男女比1:8〜10と女性に圧倒的に多いことが示されています。仕事や育児の忙しい世代がかかりやすい病気だということです。
受診の目安として、次のような状況が続く場合には早めの専門医受診が勧められます。
かかるべき科は「リウマチ・膠原病内科」または「皮膚科」です。かかりつけ医に相談して紹介状を出してもらうか、大学病院・総合病院の専門外来を受診するのが確実です。
なお、全身性強皮症は「指定難病51」に認定されているため、一定の基準を満たせば医療費の助成を受けることができます。これは助かる制度です。難病の医療費助成制度の詳細は、住んでいる都道府県の難病相談支援センターや医療機関のMSW(医療ソーシャルワーカー)に問い合わせることで確認できます。
参考:指定難病としての全身性強皮症の詳細・治療法・制度情報が網羅されています。