オクルディンとクローディンの違いを皮膚バリアから理解する

オクルディンとクローディンの違いを皮膚バリアから理解する

オクルディンとクローディンの違いを皮膚バリアから理解する

かゆみを抑えたいなら、保湿よりも先にバリアのどの層が壊れているかを確認する方が大切です。


この記事の3ポイント要約
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クローディンがバリアの主役

タイトジャンクションでバリアを実際に形成するのはクローディン。オクルディンをなくしてもバリアは維持されますが、クローディンがなければバリアは崩壊します。

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クローディン1低下がかゆみを悪化させる

アトピー性皮膚炎の患者では皮膚のクローディン1発現量が低下しており、通常の半分以下になると急激にバリア機能が落ちてかゆみや炎症が悪化します。

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2種のバリアを意識したケアが重要

皮膚には角質層とタイトジャンクションの2重バリアがあります。どちらが崩れているかで対策が変わるため、仕組みを知ることがかゆみ対策の近道です。


オクルディンとクローディンの基本的な違いとタイトジャンクションの構造

「オクルディン」と「クローディン」はどちらも、皮膚や腸などの上皮細胞を繋ぐ構造体「タイトジャンクション(密着結合)」を構成するタンパク質です。名前が似ているので同じようなものだと思われがちですが、その役割と重要度には大きな差があります。


タイトジャンクションとは何かというと、隣り合う上皮細胞どうしの隙間を完全にふさいで「バリア」を作り出す細胞接着の構造体です。ジップロックのように細胞と細胞の間を密着させ、外側からの異物や内側からの水分が無秩序に移動するのを防いでいます。


オクルディンは1993年に京都大学の月田承一郎らのグループが発見したタンパク質で、最初は「タイトジャンクションのバリア形成に不可欠」と考えられていました。しかし後の研究でオクルディン遺伝子を不活性化したマウス(ノックアウトマウス)を作製したところ、そのマウスにも正常に形成されたタイトジャンクションが存在していたことが判明したのです。つまり、オクルディンがなくてもバリア構造そのものは維持されるということですね。


この衝撃的な発見をきっかけに研究が進み、1998年に月田らが新たな膜タンパク質「クローディン」を発見します。クローディンは27種類のサブタイプからなる多遺伝子ファミリーで、分子量は約20〜27kDa(キロダルトン)。4回膜貫通型の構造を持つ小さなタンパク質です。クローディンこそが、タイトジャンクションのストランド(ひも状の基本構造)を実際に形成する中心的な分子であると確認されています。







































項目 クローディン オクルディン
発見年 1998年 1993年
種類数 27種類(サブタイプ) 1種類
分子量 約20〜27 kDa 約65 kDa
TJストランドの構成 主要構成成分(必須) 補助的(なくても形成される)
バリア機能への寄与 中心的・決定的 補助的・調節的
発現場所の特徴 臓器ごとに異なるサブタイプが発現 TJ全体に一様に存在


構造のうえでの違いも重要です。どちらも4回膜貫通型タンパク質ですが、クローディンは幅約3nmという非常に小さな分子で、細胞外に「掌を向けたような構造」を形成します。隣接する細胞のクローディン同士が掌と掌を合わせるようにして結合し、バリアを形作っているのです。オクルディンは約65kDaとクローディンより大きく、TJ全体に一様に存在しているものの、TJストランドそのものに組み込まれているかどうかは今も完全には解明されていません。


つまり、2つのタンパク質の違いはこれが基本です。クローディンがバリアを「作る」役割を担い、オクルディンはバリアを「補助する・安定させる」役割と考えるとわかりやすいでしょう。


参考:クローディン発見の経緯と分子生物学的解析(京都大学)
オクルディンの謎解ける!! クローディンの発見。(京都大学・月田研究室)


クローディンの27種類のサブタイプが臓器ごとに果たす違う役割

クローディンには現在27種類ものサブタイプが存在し、それぞれが臓器や組織ごとに異なる発現パターンを示すのが大きな特徴です。これがオクルディンとの大きな違いの一つでもあります。


皮膚(表皮)では主にクローディン1・4・15・23が働いており、特にクローディン1が主要な役割を担います。血液脳関門(脳への異物侵入を防ぐ関所)では主にクローディン5が発現し、腸管ではクローディン7が中心的な役割を果たしています。胃ではクローディン18、膀胱粘膜ではクローディン4などが確認されています。各臓器で異なるサブタイプが使われているということですね。


この多様性が、臓器ごとに「何をどの程度通すか」を細かく制御することを可能にしています。たとえばクローディン15は表面が負に帯電しており、ナトリウムイオンのような正のイオンを選択的に透過させます。一方クローディン10aは表面が正に帯電しており、塩素イオンのような負のイオンを透過させます。これはまるで「門番の種類によって、通る人の種類が変わる」ようなイメージです。


クローディンのサブタイプが異常になると、様々な病気が起きることも確認されています。代表的なものとして、クローディン16の変異は「低マグネシウム血症」という遺伝性疾患の原因となり、クローディン14やクローディン9の変異は遺伝性難聴の原因になることが報告されています。さらにクローディン5のノックアウトマウスでは、血液脳関門のバリア機能が完全に破綻します。これは意外ですね。


かゆみに悩む人との関連でいえば、皮膚で最も重要なのはクローディン1です。大阪大学のグループが2016年にPNAS(米国科学アカデミー紀要)に発表した研究では、クローディン1の遺伝子発現量が通常の半分以下になると、バリア機能が急激に低下することが示されました。しかも、クローディン1を完全にノックアウトしたマウスは、脱水のために生後1日で死に至るという衝撃的な結果も確認されています。


つまりクローディン1は生命維持に直結するほど重要なタンパク質です。オクルディンがなくても生存できますが、クローディン1がなければ生きられないのです。これが2つのタンパク質の「重要度の違い」を示す最もわかりやすい事実でしょう。


参考:クローディン1の発現量とアトピー性皮膚炎(JST)
アトピー性皮膚炎の発症に関わる新たな要因〜クローディン1の量的役割(JST)


クローディンとオクルディンが作る皮膚の2重バリアとかゆみの関係

かゆみを抑えたいとき、多くの人はまず保湿クリームを塗ったり、ステロイド剤を使ったりします。しかし皮膚には2種類のバリアがあり、どちらが崩れているかによって対策が変わることはあまり知られていません。


皮膚の表面に最も近い層は「角質層」です。これは何層にも積み重なった角質細胞と、その間を埋める細胞間脂質(ラメラ構造)で構成されており、外部からの物理的な刺激や乾燥から皮膚を守る「第一のバリア」となっています。一般的な保湿ケアはこの角質層を主なターゲットにしています。


しかし角質層の内側、顆粒層という層にあるのが「タイトジャンクション(クローディン+オクルディン)による第二のバリア」です。タイトジャンクションは生きた細胞と細胞の隙間を分子レベルで塞ぎます。特に顆粒層のSG2細胞の細胞間にのみ集中して存在し、体の内側から水分や電解質が漏れるのを防ぎ、外側からアレルゲンなどの異物が侵入するのを防いでいます。


2つのバリアの大きな違いは、回復スピードです。角質層のバリアが一度壊れると、角質細胞を積み重ねて作り直すために1週間以上かかると考えられています。一方、タイトジャンクションのバリアは常に新生とエンドサイトーシス(取り込み)を繰り返しており、壊れても比較的短時間で再生されます。つまり角質層より回復が速いということですね。


アトピー性皮膚炎はかつて「免疫の異常」が原因だと考えられていました。しかし今日では、皮膚バリア(特に角質層)の機能異常が引き金となり、アレルゲンが侵入して免疫が過剰反応することで発症するケースが多いとわかっています。クローディン1の発現低下→タイトジャンクションバリアの崩壊→アレルゲン侵入→免疫過剰反応→炎症・かゆみという連鎖が起きているのです。


2025年の花王株式会社の研究報告では、敏感肌でクローディン3の発現が低下していることが確認されており、角層より深部にある表皮タイトジャンクションのバリア機能変化が、肌の知覚過敏(ピリピリ感や刺激感)に関与している可能性も示されています。かゆみや刺激感に悩む人にとって、タイトジャンクションの状態は決して無視できない要素です。


参考:皮膚バリアとタイトジャンクションの最新研究
敏感肌における知覚過敏のメカニズムの一因を明らかに(花王株式会社)


オクルディンが「バリアの主役」ではなかった:発見の経緯と研究の転換点

「先に発見されたから重要」とは限らない、というのが生化学研究の面白いところです。オクルディンとクローディンの関係は、まさにその典型例です。


1993年に発見されたオクルディンは、しばらくの間「タイトジャンクションバリアを担う主要分子」という地位を保っていました。しかし1997〜98年頃、オクルディンをノックアウトしたマウスの実験で衝撃的な事実が明らかになります。オクルディンが存在しなくても、タイトジャンクションストランドは正常に形成されていたのです。


これは「バリアの主役は別にいる」ことを強く示唆していました。月田らはタイトジャンクションの精製法を見直し、試行錯誤の末に「クローディン1とクローディン2」を発見します。この2種のタンパク質を、タイトジャンクションを持たない細胞に導入すると、その細胞間に非常によく発達したタイトジャンクションが新たに形成されることが確認されました。クローディンこそが、ストランド形成の実体だと判明したのです。


では「オクルディンは何をしているのか?」という疑問が出てきます。オクルディンはタイトジャンクションの「最も信頼できるマーカー(目印)」とされており、TJの安定性の維持やシグナル伝達の調節に関与していると考えられています。バリアを直接作るというよりは、バリアの質を保ちながら情報を伝える補助役、というイメージが近いでしょう。


2014年には世界で初めてクローディン(クローディン15)の立体構造が、名古屋大学・大阪大学・東京大学の共同研究グループによって解明されました。大型放射光施設SPring-8を使ったX線解析で、2.4Åという原子レベルの分解能で構造が確定されたのです。これにより、クローディンが「細胞外に掌を向けた構造」をとり、隣り合う細胞間でその掌が向かい合うようにしてバリアを作っていることが、視覚的にも証明されました。


オクルディンが最初に発見されたにも関わらず、実際のバリアの主役はクローディンだった、という事実は、かゆみや皮膚炎の研究にも大きな転換をもたらしました。皮膚のバリア機能改善を目指す新薬・スキンケア開発においても、現在はクローディン1を主要ターゲットとした研究が進んでいます。


参考:タイトジャンクションの分子基盤(帝京大学)
TJ-クローディン研究(帝京大学グループ)


クローディン・オクルディンを味方にするかゆみ対策:独自視点からのアプローチ

皮膚バリアのことがわかったところで、「では実際のかゆみ対策にどう活かすのか」という視点に移ります。ここでは、タイトジャンクションの知識を踏まえた上で、日常的に取り組める実践的な考え方を整理します。


まず最初に知っておきたいのが、タイトジャンクションのバリアは「刺激によって壊れやすい」という事実です。紫外線や酸化ストレスがクローディン1の発現を低下させることが確認されており、日常的な紫外線ダメージが気づかないうちにバリアを弱めている可能性があります。SPF入りの日焼け止めを習慣化するのは、角質層だけでなくタイトジャンクションバリアを守る観点でも意味があるのです。これは使えそうです。


次に、洗いすぎに注意することが重要です。強い洗浄剤や熱いお湯での洗顔・入浴は、角質層の細胞間脂質を過剰に溶かし出すだけでなく、顆粒層のタイトジャンクションに対してもダメージを与えます。38〜40℃程度のぬるめのお湯で洗うことが、タイトジャンクション保護の観点からも推奨されています。


また、腸管のタイトジャンクションにも目を向けることが、かゆみを抑えるうえでの意外な視点です。腸管バリアを構成するオクルディンやクローディンの発現は、腸内細菌叢の状態によっても変化するとされています。腸内環境の乱れがオクルディン・クローディンの発現を低下させ、腸のバリアが弱まることで、アレルゲンが体内に入りやすくなります。腸皮膚相関(gut-skin axis)と呼ばれるこの関係を意識して、食物繊維や発酵食品で腸内環境を整えることも、間接的に皮膚のかゆみ対策につながります。


スキンケア製品を選ぶ際にも、タイトジャンクションへの作用を意識してみましょう。近年は、クローディン1・4の発現を高める天然成分(特定の植物エキスや脂肪酸など)を配合したスキンケアアイテムも研究・商品化されています。乾燥ケアや保湿だけを基準に選ぶのではなく、「タイトジャンクションバリア強化」という観点で成分表を確認してみることをお勧めします。


最後に、かゆみが続く場合は皮膚科での受診を前提として、クローディン1の発現量低下が原因となっているアトピー性皮膚炎に対しては、タイトジャンクションを標的とした新しいアプローチの薬剤研究も進んでいます(科研費プロジェクト:22K20915)。免疫抑制を伴わない新しい作用機序の治療薬として、クローディン1の発現調整を狙った薬剤が開発されつつあります。知識を持って受診することが、より適切な治療選択につながるでしょう。


参考:タイトジャンクションに注目したアトピー性皮膚炎治療研究
タイトジャンクションに注目したアトピー性皮膚炎治療リード化合物の探索(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)