

治りかけた傷をかいてしまうと、治癒期間が最大3週間延びることがある。
創傷治癒過程は、看護師国家試験でも頻出のテーマです。4段階の名称と順序を確実に覚えるために、まず語呂合わせをしっかり押さえましょう。
💡 語呂その1:「止めろ炎増えろ熟成肉」(TikTokでも話題の覚え方)
| 語呂 | 段階名 |
|------|--------|
| 止めろ | 止血期(血液凝固期) |
| 炎 | 炎症期 |
| 増えろ | 増殖期 |
| 熟成肉 | 成熟期 |
これは「止・炎・増・熟」の4文字が頭に入っています。シンプルなので一度聴けば忘れにくく、試験直前の見直しにも便利です。
💡 語呂その2:「早朝は御苑を造成。」(2ブロック型の覚え方)
- 早朝(=創傷)は
- 御苑(血液凝固期・炎症期)を
- 造成(増殖期・成熟期)
「御苑」は皇室の庭園を指す言葉で、「血液凝固+炎症」の2段階をひとまとめに覚えられます。
💡 語呂その3:詳細まで覚えたい人向け「漁港時化で閉鎖 遠洋のマグロ好きで進出 増えるコラム結果肉生成 熟成肉とコーラきて素麺多」
長めですが、各段階で働く細胞名や現象まで一気に覚えられます。各パーツは以下に対応しています。
- 漁港時化(しけ)で → 血液凝固期(止血期)
- 閉鎖 → 創部を一時的に閉鎖
- 遠洋の → 炎症期
- マグロ → マクロファージ
- 好きで → 好中球
- 進出 → 毛細血管の透過性が亢進し滲出液が貯留
- 増える → 増殖期
- コラム → コラーゲン
- 結果 → 血管内皮細胞
- 肉 → 肉芽
- 熟成 → 成熟期
- コーラ → コラーゲン成熟
- 素麺多 → 基底細胞が創面を覆う
細胞の名前まで問われる問題にも対応できる充実した内容です。これが基本です。
参考リンク(語呂合わせの詳細解説)。
看護師国家試験対策まとめ|創傷の治癒過程 覚え方 語呂合わせ(kango-study.com)
語呂を覚えたあとは、各段階の内容を理解しておくことが大切です。丸暗記だけでは試験の応用問題に対応できません。理解を深めることで定着率が格段に上がります。
① 止血期(血液凝固期):受傷直後〜数時間
傷ができると、まず血管が収縮して出血を抑えます。同時に血小板が集まり、フィブリンという網目状のタンパクが形成されます。これが「かさぶた」の原料です。かさぶたは単なる「フタ」ではなく、成長因子を蓄えて次の炎症期への準備をしている大切な構造物です。
② 炎症期:受傷後24時間〜約5日
好中球がまず現場に駆けつけ、細菌を食べて(貪食)排除します。続いてマクロファージが登場し、壊死組織の掃除や成長因子の放出を担います。マクロファージは「指揮者」のような役割です。この段階で発赤・腫脹・熱感・疼痛が現れますが、これは体が正常に機能しているサインです。
③ 増殖期:受傷後3日〜2週間
線維芽細胞が活性化し、コラーゲンを産生して傷の「骨格」を作ります。同時に新しい毛細血管が生まれる「血管新生」も起こり、赤みを帯びた肉芽組織が形成されます。表皮細胞も創縁から中心に向かって増殖し、傷口が塞がっていきます。この時期に「かゆみ」が強くなります。
④ 成熟期:受傷後2週間〜最大2年
コラーゲン線維が再構築(リモデリング)され、細くて弱いⅢ型コラーゲンから、太くて強いⅠ型コラーゲンへ置き換わります。瘢痕(傷あと)が形成され、徐々に赤みが薄れ、組織の強度が高まっていきます。完全に落ち着くまでに半年〜2年かかる場合もあります。
以下の表で4段階の期間と特徴を一覧できます。
| 段階 | 別称 | 期間の目安 | 主な細胞 | 主な現象 |
|------|------|-----------|---------|---------|
| 止血期 | 血液凝固期 | 受傷直後〜数時間 | 血小板 | 血液凝固・かさぶた形成 |
| 炎症期 | — | 24時間〜5〜7日 | 好中球・マクロファージ | 発赤・腫脹・熱感・疼痛 |
| 増殖期 | — | 3日〜2週間 | 線維芽細胞・血管内皮細胞 | 肉芽形成・コラーゲン産生・かゆみ |
| 成熟期 | リモデリング期 | 2週間〜2年 | 線維芽細胞→線維細胞 | 瘢痕形成・コラーゲン成熟 |
各段階は「前の段階が完全に終わってから次に移行する」わけではありません。炎症期と増殖期は一部重なりながら進行します。つまり、連続するプロセスとして理解することが正確です。
参考リンク(各段階の看護師向け詳細解説)。
看護における創傷治癒過程とは|段階に合わせた看護、注意点も解説(情報かる・ける)
傷が治りかけるとかゆくなる。これは多くの人が経験することですが、なぜ起きるかを知っている人は少数派です。意外ですね。実は、かゆみは「増殖期」に最も強くなりやすく、体が修復を進めている証拠でもあります。
原因①:ヒスタミンなどの炎症物質
傷ができると、体は肥満細胞(マスト細胞)からヒスタミンを放出します。ヒスタミンは血管を拡張させて免疫細胞を招集する一方、皮膚の感覚神経(C線維)に直接作用してかゆみを発生させます。アレルギーのかゆみと同じメカニズムです。
原因②:新しい神経の刺激
増殖期に線維芽細胞がコラーゲンを産生するとき、周辺の神経線維も再建されます。この新生神経は過敏な状態にあり、わずかな刺激に対しても「かゆい」という信号を脳へ送りやすい状態です。「傷がひきつれるような感覚」と一緒に感じることが多いのも、この神経の再生が理由です。
原因③:乾燥による皮膚バリアの低下
傷口周辺の皮膚が乾燥すると、皮膚バリアが破たんして外部刺激に対する感受性が上がります。乾燥は物理的にも神経を刺激するため、かゆみが増幅されます。かさぶたを作ると内部が乾燥しやすくなり、かゆみが強くなるケースもあります。
つまり、かゆみは体が正常に治癒していることを示すポジティブなサインでもあります。ただし、かゆみへの対応を間違えると治癒が大幅に遅れる危険があります。保湿と冷却が基本です。
参考リンク(傷口のかゆみの科学的解説)。
なぜ傷口が治ると痒くなるのか?仕組みと対処法(AMI薬局コラム)
かゆいから掻く。これは本能に近い行動ですが、治癒中の傷に対してはかなり危険な行為です。「かゆみ‐掻き傷サイクル」という現象があり、掻くことで新たな刺激が生まれ、さらにかゆみが増すという悪循環に陥ります。
掻くと起きること1:増殖期の肉芽組織が傷つく
増殖期に形成される肉芽組織は、細いⅢ型コラーゲンで構成されており、脆くて出血しやすい状態です。掻く動作で肉芽組織を損傷すると、せっかく進んでいた組織の修復がリセットされ、治癒の遅延に直結します。
掻くと起きること2:感染リスクが高まる
指の爪や皮膚には黄色ブドウ球菌などの常在菌が存在します。掻くことで皮膚表面に細かい傷が生じ、そこから細菌が侵入すると炎症期が終わらずに長引きます。慢性難治創になる原因のひとつが、この感染の長期化です。
掻くと起きること3:ケロイドのリスクが上がる
増殖期から成熟期にかけての傷に継続的な物理的刺激が加わると、コラーゲンが過剰産生され、肥厚性瘢痕(傷あとが盛り上がる状態)やケロイドに発展する場合があります。女性ホルモンや体質的因子もケロイドに関与しますが、物理的刺激は自分でコントロールできるリスク因子です。
では、かゆいときはどうすればいいでしょうか?増殖期のかゆみには以下の対応が有効です。
- 冷やす:冷やしたタオルや保冷剤を傷のそばに当てて冷却すると、神経の興奮が落ち着きかゆみが一時的に和らぎます(傷口に直接当てないこと)。
- 保湿する:無香料の保湿クリームで乾燥を防ぐと、バリア機能が回復しかゆみが軽減します。
- 叩く:かゆい部分を軽く叩くことで、かゆみ信号より痛み信号を優先させる「カウンターイリテーション」が働き、一時的なかゆみ緩和になります。
参考リンク(傷あとの成熟期ケアについての詳細)。
手術の傷(縫った傷)の治る過程とケア方法(ニチバン アトファイン)
創傷治癒過程の覚え方をマスターしたら、もう一段階理解を深めておきたいのが「一次治癒」と「二次治癒」の違いです。国家試験でも選択肢として登場するため、ここで整理しておきましょう。
一次治癒(一次癒合)
創縁がきれいに揃っており、組織欠損がほとんどない状態で起こる治癒形式です。清潔な手術創や、すぐに縫合された切り傷がこれに当たります。創縁同士が密着しているため、形成される瘢痕組織は最小限で済み、治癒も速やかです。
二次治癒(二次癒合)
組織欠損が大きかったり、感染を伴う開放創に見られる治癒形式です。褥瘡や大きな裂創などがこれに当たります。傷口の底から肉芽組織が盛り上がり、創縁が寄ってくる「創収縮」を経てゆっくりと治癒します。瘢痕も大きくなる傾向があります。
| 比較 | 一次治癒 | 二次治癒 |
|------|---------|---------|
| 創縁の状態 | 整っている(密着) | 離開・組織欠損あり |
| 瘢痕の大きさ | 小さい | 大きい |
| 治癒期間 | 短い | 長い |
| 代表例 | 手術創・縫合創 | 褥瘡・潰瘍・裂創 |
語呂の補足として、一次・二次治癒は「一縫(いっぽう)と二肉(にほん)」と覚えると整理しやすいです。「一縫」は縫合して治るもの、「二肉」は肉芽から治るもの、というイメージです。これは使えそうです。
また、受傷後6〜8時間以内であれば縫合可能とされており、この時間枠を「ゴールデンタイム」と呼びます。12時間以上経過した傷は感染しやすいため、縫合せずに開放創として治療するケースもあります。ゴールデンタイムが条件です。
参考リンク(一次治癒・二次治癒の違いと炎症期の重要性)。
第21回 創傷治癒過程における炎症期の重要性(高岡駅南クリニック)
ここからは、検索上位の記事にはなかなか出てこない切り口です。創傷治癒の語呂を覚えるうえで、「マクロファージ」を特別視することが定着率を大幅に上げる秘訣です。
なぜかというと、マクロファージは4段階すべてにわたって登場する唯一の細胞だからです。言い換えれば、マクロファージを軸に4段階をストーリーとして理解できます。
止血期のマクロファージ
血小板が放出するPDGF(血小板由来成長因子)がマクロファージを創傷部位へ呼び込むシグナルを出し始めます。まだ主役ではありませんが、「招待状」が送られた段階です。
炎症期のマクロファージ
好中球が先乗り隊として細菌を排除したあと、マクロファージが「本隊」として乗り込んできます。好中球よりも大型で、壊死組織・異物・細菌を貪食しながら、TGF-βやVEGFなどの成長因子を分泌します。この成長因子が増殖期のスイッチを入れます。
増殖期のマクロファージ
線維芽細胞と血管内皮細胞に「コラーゲンを作れ」「血管を伸ばせ」という指令を出します。マクロファージが十分に機能しないと、線維芽細胞が活性化されず慢性創傷になることが知られています。
成熟期のマクロファージ
過剰なコラーゲンやマトリックスを分解するMMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)の産生を調節し、リモデリングが過剰にならないようにコントロールします。
つまり、マクロファージを「監督」として語呂の真ん中に据えると「4段階の流れ全体がつながった1本のストーリー」になります。語呂と理解の両方が一体化する、これが最も効率的な覚え方です。
なお、和歌山県立医科大学の研究(2022年)では、皮膚マクロファージのバランス(炎症型M1と修復型M2の比率)が創傷治癒のスピードと瘢痕の質を大きく左右することが確認されています。マクロファージの「2種類の顔」も国試の応用問題に繋がるポイントです。
参考リンク(マクロファージと創傷治癒の最新研究)。
皮膚マクロファージのバランスと創傷治癒(和歌山県立医科大学 プレスリリース)