

食物アレルギーによるかゆみを抑えるために、お子さんの食事から「怪しい食べ物」をすべて取り除いていませんか? 実は、原因食物を完全除去し続けると、アレルギーが治りにくくなるというデータがあります。
子どもが食後に体をかきむしる、顔が赤くなる、じんましんが出る――そんな症状を見て「食物アレルギーかもしれない」と感じる親御さんは多いはずです。しかし、アレルギーかどうかを血液検査(特異的IgE抗体検査)だけで断定することはできません。血液検査で陽性を示しても、実際には食べても症状が出ない子どもが相当数いることが、国内の複数の研究で示されています。
つまり「血液検査陽性=食べてはいけない」ではないのです。
日本小児アレルギー学会のガイドライン(2021年版)でも「感作(特異的IgE陽性)だけで除去しない」と明記されています。正確な診断には、食物経口負荷試験(Oral Food Challenge、以下OFC)が不可欠です。OFCとは、アレルギーが疑われる食品を医師の監督のもとで実際に少しずつ食べてみる検査で、現時点で食物アレルギーを確認する最も確実な方法とされています。
かゆみやじんましんといった皮膚症状の多くは食物アレルギーと関連しており、正確な診断なしに食物除去を続けると、子どもの栄養が偏ったり、給食や外食の制限が必要以上に厳しくなったりする問題が生じます。適切な診断こそが、かゆみを根本から抑える第一歩です。
参考:食物アレルギーを正確に診断し、必要最小限の除去を行う重要性について記載されています。
日本小児アレルギー学会 アレルギーガイドライン2021 第9章 食物経口負荷試験
OFCは基本的に以下の流れで進みます。まず問診・採血などの事前評価を経て、試験日を設定します。当日は医師・看護師の管理のもとで原因食物を段階的に摂取し、一定時間(30分〜1時間程度)ごとに様子を観察します。これが基本です。
具体的な量の目安を見てみましょう。たとえば鶏卵の場合、「少量」の試験では全卵0.1〜1.5g(ゆで卵にすると米粒1〜2粒程度)から始め、「日常摂取量」の確認では最終的にゆで卵1個分(約50g)を目標とします。ゆで卵1個は大人の親指の第一関節ほどの大きさのイメージです。牛乳の場合は3〜5mL(ペットボトルキャップ半分以下)から開始し、最終的に200mL(コップ1杯分)を目指す流れです。
摂取は1回で行う場合と、2〜3回に分割する場合があり、患者の状態やリスクに応じて医師が判断します。試験中は院内で待機するため、半日〜1日かかることが多いです。長時間になるので、お子さんの好きな本やおもちゃを持参すると、待機中の不安を軽減できます。
試験中に皮膚のかゆみ・じんましん・嘔吐など何らかの症状が出た場合は「陽性」と判定されます。その場合はすぐに医療スタッフが対応し、必要に応じてエピネフリン(アドレナリン)の投与など緊急処置が行われます。安全を担保した環境だからこそ、試験を行う意味があります。
参考:食物経口負荷試験の具体的な手順・総負荷量の目安・当日の注意事項について詳しく書かれています。
食物アレルギー研究会 食物経口負荷試験の手引き2023(PDF)
2022年4月の診療報酬改定により、OFCの保険適用範囲が大幅に拡大されました。これは大きなメリットです。改定前は「9歳未満、年2回まで」に限られていた保険算定が、現在は「16歳未満、年3回まで」に変更されています。
費用の目安は次の通りです。
| 負担割合 | 1回あたりの自己負担目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 2割(就学前の場合) | 約2,000円 | 小児医療費助成の対象になる場合あり |
| 3割(就学後の場合) | 約3,000円 | 自治体の助成制度を確認 |
| 入院を伴う場合 | 別途入院費が加算 | DPC対象病院は全年齢層で算定可能 |
住む自治体によっては、小児医療費の無料化・助成の対象になることもあります。窓口での実際の支払いはゼロになるケースも珍しくないため、事前に市区町村の窓口や担当クリニックに確認しておくとよいでしょう。確認は1回の電話で完結します。
なお、保険適用には施設側の基準があります。「小児科を標榜している」「小児食物アレルギーの診断・治療経験が10年以上ある医師が在籍」「緊急時の対応体制が整っている」という3つの条件を満たした医療機関だけが算定できる仕組みです。つまり受診先の選択も重要です。
受診できる施設は「食物アレルギー研究会」の公式ウェブサイトで施設検索ができます。地域ごとにリストが公開されており、近くの対応クリニックを効率的に探せます。
OFCの当日を安全かつ正確に行うために、事前の準備が非常に重要です。準備不足は試験の中止につながることもあります。
まず薬の中止ルールを確認してください。抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬(ザイザル、アレジオン、クラリチンなど)は試験の3日前から内服を中止します。ステロイドの内服薬は14日前から中止が必要な施設もあります。これらの薬はアレルギー症状を抑える作用があるため、飲んだまま試験を行うと「症状が出なかった=食べられる」と誤って判定されるリスクがあります。薬が結果を誤魔化してしまうのです。
ただし、吸入ステロイド・点鼻薬・点眼薬・外用薬(塗り薬)は原則として中止不要とされています。アトピー性皮膚炎のお子さんが毎日使っている保湿剤やステロイド外用薬は試験当日も使用を続けて問題ありません。
次に体調管理の注意点です。
当日の朝食は可能な限り控えめにするよう指示される施設がほとんどです。胃の中が空の方が試験食品の影響を正確に評価できるためです。また、当日は「試験に使う食品」を自分で持参するよう求められる場合もあります。ゆで卵、牛乳、うどんなど、事前に施設から指定された形状・量で準備しておきましょう。
参考:試験前日・当日の注意事項と中止すべき薬のリストが分かりやすくまとめられています。
OFCを受けた後が、じつはかゆみ対策の本番です。試験の結果が「陰性(症状なし)」だった場合、食べられると確認された量を自宅でも継続的に摂取することが推奨されます。週2〜3回(1日1回)、試験で確認した量の食品を、ホットケーキや汁物など加熱調理に混ぜて摂取し続ける方法が一般的です。
これが意外に見落とされがちな重要ポイントです。
「食べられた」からといって全量解除・完全フリーにするのではなく、「試験で確認した量を超えない範囲」で継続摂取することが耐性獲得への道となります。試験後に自己判断で量を増やすのは危険です。食べたことのない量の摂取は、次回のOFCで医療機関で確認してからにするのが原則です。
一方、試験結果が「陽性(症状あり)」だった場合も、必ずしも完全除去に戻るわけではありません。症状が出た量より少ない量なら安全に摂取できるケースもあり、部分的な除去解除を指導されることもあります。6か月〜1年後に再度同量のOFCを行い、経過を見ていく流れになります。
アトピー性皮膚炎によるかゆみが強い場合、スキンケア(保湿剤の塗布)を継続してバリア機能を整えておくことも重要です。皮膚が荒れた状態では食物アレルギーが悪化・新規発症しやすくなるという「二重暴露仮説」が現在では広く支持されており、毎日の保湿管理がアレルギー予防にもつながります。
日々のケアに使いやすい保湿剤としては、「ヒルドイドソフト軟膏」や「ワセリン」など、低刺激・無香料のものが推奨されます。コストを抑えたい場合はジェネリックの「ヘパリン類似物質クリーム」も有効です。どれを使うかは担当医に相談して選んでください。
参考:試験後の家庭での食べ方・段階的な除去解除の考え方が解説されています。
食物アレルギー研究会 治療・管理(主に耐性獲得を目指す小児の場合)