

目のかゆみが気になって眼科を受診したとき、視力低下や見え方のゆがみも一緒に訴えると、「抗VEGF治療が必要かもしれません」と言われることがあります。しかし、「VEGF(ブイイージーエフ)」という言葉を初めて聞く人がほとんどではないでしょうか。
硝子体注射を受けても、生命保険の「手術給付金」はほぼ出ません。
VEGFとは「Vascular Endothelial Growth Factor(血管内皮増殖因子)」の略称で、血管を新しく作り出すよう促すタンパク質です。本来は傷の修復などに必要な物質ですが、目の中で過剰に増えると「新生血管」という異常な血管を生み出してしまいます。
新生血管はとてももろい構造をしており、簡単に出血したり、液体を周囲に漏らしたりしてしまいます。これが黄斑(視力の中心を担う網膜の部位)に起きると、視界のゆがみや急激な視力低下を引き起こします。
つまり、VEGFが原因です。
このVEGFの働きを薬で直接ブロックする治療が「抗VEGF治療(硝子体注射)」です。目の中の硝子体腔(しょうしたいくう)に極細の針で薬を注射することで、新生血管の活動を抑えます。注射時間そのものは数分で終わり、麻酔の点眼を使うため、多くの患者さんは思ったより痛みを感じないと話します。
なお、目のかゆみを感じている方の中には、アレルギー性結膜炎と網膜疾患の初期症状を混同しているケースがあります。かゆみに加えて「まっすぐな線がゆがんで見える」「中心が暗く見える」という症状がある場合は、早めに眼科を受診することが大切です。
参考:日本眼科学会による抗VEGF治療の概要(対象疾患・治療法・リスクを詳しく解説)
抗VEGF治療 - 日本眼科学会
抗VEGF治療は、現在日本で保険適用が認められている疾患が複数あります。代表的なものが以下の4つです。
| 疾患名 | 症状の特徴 |
|---|---|
| 加齢黄斑変性(AMD) | 視界の中心がゆがむ・暗くなる |
| 糖尿病網膜症(糖尿病黄斑浮腫) | 視力低下・見えにくさ |
| 網膜静脈閉塞症 | 視野の一部が欠ける・出血 |
| 病的近視(脈絡膜新生血管) | 強度近視による視力低下 |
これら4つが基本です。
加齢黄斑変性は、世界的にも高齢者の失明原因上位に入る病気です。日本国内でも患者数が増加傾向にあり、60代以降の方はとくに注意が必要な疾患といえます。
また、日本眼科学会によると、血管新生緑内障や未熟児網膜症に対しても抗VEGF薬を使用することがあります。いわゆる「目のかゆみ」が主訴の方でも、眼底検査で偶然これらの疾患が見つかるケースがあるため、症状が出にくいうちから定期検査を受けることをすすめます。
網膜の状態を確認するには「OCT(光干渉断層撮影)」という専用の検査が有効です。痛みなく10分程度で撮影でき、網膜の断面を詳細に確認できます。眼科受診の際に「OCTを受けたい」と伝えるのも一つの方法です。
「眼球に注射を打つ」と聞くだけで怖くなる方は少なくありません。しかし実際の手順は、以下のように進みます。
痛みよりも「圧迫感」を感じる人が多いです。
治療スケジュールは疾患によって異なりますが、一般的には最初の3か月は「導入期」として1か月ごとに3回連続して注射を行います。その後は「維持期」として、OCT検査の結果を見ながら1〜3か月ごとに追加の注射を継続します。
注目すべきなのは治療の長期性です。川本眼科(名古屋)によると、「注射回数が10回、15回となることも決して珍しくない」とされています。半年で終わるものだと思って始めると、思わぬ負担感につながることがあります。
一方で、すべての方が無期限に注射を続けるわけではありません。T&E(Treat and Extend)法という治療法では注射間隔を徐々に延ばしていき、日本国内の研究(Ichiyama et al., 2019)では3年以上の追跡で約20%の患者が治療終了可能と判定された報告があります。あきらめずに続けることが、視力を守ることにつながります。
参考:抗VEGF治療をいつまで続けるかについての専門医解説
抗VEGF治療はいつまで続けるの?加齢黄斑変性と注射治療のゴール - 久保田眼科クリニック
抗VEGF薬は現在複数の種類があり、薬によって費用・投与間隔・効果の特性が異なります。以下の表は主要な薬剤の比較です(2025年5月時点の薬価、3割負担)。
| 薬剤名 | 3割負担の薬価(1本) | 年間最多注射回数 | 3割負担の年間概算費用 |
|---|---|---|---|
| ラニビズマブBS(後発品) | 約22,000円 | 最大12回 | 約31万円 |
| ルセンティス(キット) | 約29,000円 | 最大12回 | 約39万円 |
| ベオビュ | 約37,000円 | 最大8回(nAMD) | 約32万円 |
| アイリーア2mg | 約41,000円 | 最大12回 | 約48万円 |
| バビースモ | 約49,000円 | 最大8.5回(nAMD) | 約44万円 |
| アイリーア8mg(高濃度) | 約55,000円 | 最大8回 | 約46万円 |
薬価の最安と最高で約2.5倍の差があります。
ここで注意が必要なのは、「1本の薬価が高い=年間費用が高い」とは限らないという点です。たとえばベオビュは1本あたりの薬価がラニビズマブBSより高いにもかかわらず、年間の投与回数が最大8回で済むため、年間総費用はラニビズマブBSとほぼ同等の約32万円になります。通院回数も少ないため、時間のコストも下がります。
どの薬を選ぶかは、病状・担当医の判断・通院のしやすさなどを総合して決まります。費用の心配がある場合は「高額療養費制度」の活用を主治医や医療ソーシャルワーカーに相談することで、自己負担の上限を大幅に下げられるケースがあります。
参考:眼科抗VEGF薬の薬価・コスパを詳細に比較した専門記事
眼科 抗VEGF薬 薬価比較・コスパまとめ【2025年】 - めだまにあ
抗VEGF治療(硝子体注射)を受ける際に、多くの方が「保険の手術給付金が出る」と思い込んでいます。これは大きな誤解です。
2017年以降、硝子体注射は「手術」の扱いではなくなりました。
生命保険(民間保険)の「手術給付金特約」は、厚生労働省が定める手術コードに基づいて支払われます。硝子体注射は現在「注射」に分類されているため、一般的に手術給付金の対象外となっています。これは2016年まで給付対象だったものが、2017年以降に変更されたという経緯があります(参考:加齢黄斑変性患者向けの情報サイト「AMD関西」)。
知らないと損ですね。
一方で、すべての保険で給付が出ないわけではありません。加入している保険の契約内容によっては「入院給付金」や「通院特約」が適用されるケースもあります。治療開始前に保険会社に問い合わせて確認するのが確実です。
また、健康保険(公的保険)は適用されますので、3割負担で治療を受けることはできます。さらに医療費が月の上限を超えた場合は高額療養費制度が自動的に適用されます。たとえば70歳未満・標準的な収入の方の場合、月の自己負担上限はおよそ57,600円〜80,100円程度となっています。1か月に複数回注射が必要でも、この金額を超えた分は後から払い戻しを受けられます。
治療費が心配になったら、まず高額療養費制度の活用を検討することが最初の一手です。
目のかゆみを感じると、無意識に手で目をこすってしまう方は多いです。しかし実は、目をこするという行為は抗VEGF治療の効果を台無しにしかねない行動の一つです。
こするのは厳禁です。
目をこすると、網膜への物理的な刺激が加わります。すでに新生血管が形成されている方では、こすることで血管が破れ、出血や浮腫の悪化を招く可能性があります。とくに硝子体注射後は、目の中に薬がしっかり定着するまでの数日間、目元への刺激をできる限り避けることが重要です。
注射後の具体的な注意点は以下の通りです。
目のかゆみそのものが問題な場合、眼科で「抗アレルギー点眼薬」を処方してもらうのが最善の方法です。市販の目薬と違い、防腐剤の量が少ない処方薬を選んでもらうことで、目へのダメージを最小限に抑えられます。花粉シーズンに入る約2週間前から使い始めると、ピーク時の症状を大幅に軽減できると言われています。
かゆみの悩みと目の病気は、実は密接に関連しています。「かゆいな」で終わらせず、気になる見え方の変化があればセットで相談することで、早期発見・早期治療につながります。