

IL-17阻害薬を使い始めると、かゆみが消えるどころか一時的にカンジダ感染でかゆみが増える人が約3%います。
乾癬によるかゆみや皮膚の炎症に悩んでいる人は、「塗り薬を変えても良くならない」「生活の質が下がっている」という状況に陥りやすいです。そのような重症の状態に対して登場したのが、IL-17阻害薬をはじめとする生物学的製剤です。まずは、この薬がどんな仕組みで効くのかを理解しておきましょう。
IL-17(インターロイキン17)とは、体の免疫細胞が分泌するタンパク質(サイトカイン)の一種です。乾癬の皮膚では、Th17細胞というリンパ球が大量のIL-17Aを放出し、表皮角化細胞を異常に増殖させます。正常な皮膚のターンオーバーは約28〜40日かかりますが、乾癬では4〜5日と極端に短縮されてしまいます。その結果として赤みや鱗屑(うろこ状の皮膚)、そして強烈なかゆみが生じるのです。
IL-17阻害薬は、このIL-17というサイトカインそのもの、あるいはその受容体に直接結合して炎症のシグナルを遮断します。つまり根っこにある炎症の原因を標的にする薬です。これが基本です。
従来の塗り薬(ステロイド外用薬、ビタミンD3外用薬)は皮膚の表面に働きかけるのに対し、IL-17阻害薬は皮下注射で体内に投与し、全身の免疫シグナルを調整します。効果の速さも異なり、IL-17阻害薬は投与後わずか6〜8週間でPASI90(皮膚症状が90%改善)を達成するケースも多く、他の生物学的製剤と比較して最も効果発現が早い部類に入ります。
IL-17にはIL-17AからIL-17Fまで6種類のサブファミリーがあり、乾癬に関わるのは主にIL-17AとIL-17Fです。薬によって、IL-17A単体を狙うものと、ILー17AおよびIL-17Fの両方を同時に阻害するものがあります。それが4つの薬剤の違いにつながっています。
| 薬剤名 | 標的 | 投与方法 | 自己注射 |
|---|---|---|---|
| コセンティクス(セクキヌマブ) | IL-17A阻害 | 皮下注 | ✅ 可 |
| トルツ(イキセキズマブ) | IL-17A阻害 | 皮下注 | ✅ 可 |
| ルミセフ(ブロダルマブ) | IL-17受容体A阻害 | 皮下注 | ✅ 可 |
| ビンゼレックス(ビメキズマブ) | IL-17A+IL-17F阻害 | 皮下注 | ✅ 可 |
つまり4剤すべて皮下注射で、自己注射が可能です。通院頻度を抑えられる点も大きなメリットといえます。
参考:IL-17阻害薬の適応と作用機序の詳細(日本リウマチ学会ガイドライン)
乾癬性関節炎・強直性脊椎炎に対するIL-17阻害薬の使用ガイドライン – 日本リウマチ学会
4剤はいずれもIL-17系を標的にしていますが、それぞれ微妙に仕組みと適応疾患が異なります。ここが薬選びの重要なポイントです。
① コセンティクス(一般名:セクキヌマブ)
コセンティクスは2016年に乾癬治療薬として日本で承認された最初のIL-17阻害薬です。IL-17Aそのものに結合して活性を中和します。導入期(最初の5週間)は毎週注射し、その後は4週間に1回の投与に移行します。完全ヒト型抗体であるため、中和抗体(薬の効果を弱めてしまう抗体)が生じにくい点が特長です。
適応疾患は尋常性乾癬・乾癬性紅皮症・膿疱性乾癬・乾癬性関節炎・強直性脊椎炎・X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎・化膿性汗腺炎と非常に幅広いです。生物学的製剤の中で唯一6歳以上の小児にも適応があります。これは使えそうです。
② トルツ(一般名:イキセキズマブ)
トルツもIL-17Aを標的にしますが、導入期(最初の12週間)は2週間に1回、維持期は4週間に1回の投与です。効果発現が早く、投与開始から数週間で皮膚症状の改善が実感できるケースが多いとされています。12週で効果不十分の場合は投与間隔を短縮できる柔軟性があります。
適応はコセンティクスとほぼ同様で、尋常性乾癬・乾癬性関節炎・強直性脊椎炎・化膿性汗腺炎などに対応しています。
③ ルミセフ(一般名:ブロダルマブ)
ルミセフは他の3剤と仕組みが異なります。IL-17というサイトカイン自体ではなく、IL-17が結合する受容体(IL-17受容体A)をブロックします。この特性から、IL-17A・IL-17A/F・IL-17C・IL-17Eなど複数のIL-17ファミリーのシグナルをまとめて遮断できます。受容体を狙う薬はルミセフだけです。
維持期は2週間に1回と投与間隔がやや短いですが、皮膚症状に対して非常に高い有効性を持つとされています。
④ ビンゼレックス(一般名:ビメキズマブ)
ビンゼレックスは2022年1月に日本で承認された最新のIL-17阻害薬です。IL-17AとIL-17Fの両方を同時に阻害する点が大きな特徴で、これは日本初の試みでした。IL-17Fは単独でも乾癬の病態に関与しているとされているため、両方をブロックすることでより高い効果が期待されています。
第III相試験でも他のIL-17阻害薬と比較して高いPASI90・PASI100達成率が示されており、今まで他の薬が効かなかったケースでも改善が期待できます。維持期の投与間隔は8週に1回と長く、通院の手間を減らしやすいです。
参考:ビンゼレックス(ビメキズマブ)の特徴解説
ビンゼレックス皮下注(ビメキズマブ)の作用機序【乾癬】 – パスメド薬学大学院
IL-17阻害薬は効果が高い分、その副作用についても正確に理解しておく必要があります。特に重要なのはカンジダ感染症と炎症性腸疾患の悪化です。
カンジダ感染症のリスク
IL-17は免疫機能の中で、皮膚や粘膜のカンジダ菌(真菌)に対する防御にも重要な役割を果たしています。そのため、IL-17をブロックすると真菌感染に対する防御力が一時的に低下します。実際に、乾癬のIL-17阻害薬治療を受けた患者の約3%に湿疹様発疹やカンジダ症が生じるという報告があります(2025年のCareNet論文より)。
口腔カンジダ症、皮膚カンジダ症といった形で現れることが多く、投与中は口腔内を清潔に保つ、乾燥を防ぐなどのケアが推奨されています。カンジダ感染症が疑われた場合は抗真菌薬で対処できますが、担当医への早めの報告が条件です。
炎症性腸疾患(IBD)の悪化リスク
IL-17は腸管のバリア機能を守る働きもしています。そのため、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患がある人にIL-17阻害薬を使用すると、病態を悪化させるリスクがあります。IBDの既往がある場合はIL-17阻害薬ではなくTNF阻害薬など別の選択肢を検討するのが原則です。
その他の注意点
感染症(鼻咽頭炎・副鼻腔炎など上気道感染)や、注射部位の反応(赤み・痛み)も報告されています。また、活動性の結核がある場合は使用できないため、投与前に必ず結核の検査が必要です。
IL-17阻害薬を使用できない人の条件を整理すると、「活動性感染症・重篤な結核のある人」「炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)の既往がある人」「真菌感染症が活動性にある人」が該当します。カンジダ症に注意すれば大丈夫です——というわけではなく、自己判断でなく医師への相談を必ず行いましょう。
参考:IL-17阻害薬のカンジダリスクと副作用情報(日本皮膚科学会ガイダンス)
乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス2022年版 – 日本皮膚科学会
IL-17阻害薬は非常に高額な薬です。しかし、適切な制度を知っていれば実際の自己負担はずっと少なくて済みます。ここを知っているかどうかで、数万円単位の差が生まれます。
薬剤費の目安(薬価ベース)
- コセンティクス皮下注150mgペン:約71,469円/回
- コセンティクス皮下注300mgペン:約138,249円/回
- コセンティクス皮下注75mgシリンジ:約40,144円/回
3割負担であればコセンティクス300mgの場合1回あたり約41,000円の自己負担になります。1ヶ月に1回の投与であっても月に4万円超の出費です。痛いですね。
高額療養費制度で自己負担を抑える
高額療養費制度とは、1ヶ月の医療費が一定額(自己負担限度額)を超えた場合に、超過分が返還される公的保険制度です。年齢と所得によって上限は異なりますが、一般的な収入の方(年収目安370万〜770万円)の場合、1ヶ月の上限は約80,100円+超過分の1%です。つまり、薬剤費が月に10万円を超えても実質負担は8〜9万円程度で抑えられます。
さらに、連続して3ヶ月以上高額療養費の支給を受けた場合(多数回該当)は、4ヶ月目以降の上限が約44,400円まで下がります。これは使えそうです。
難病認定でさらに自己負担が下がる場合も
膿疱性乾癬(汎発型)は国の指定難病(難病法の対象疾患)に指定されている場合があります。指定難病に認定されると医療費助成を受けられ、所得に応じた月額上限(最低2,500円〜最大30,000円)で治療を続けることが可能です。
コセンティクス(セクキヌマブ)の場合、マルホ株式会社が費用負担シミュレーターをウェブ上で提供しています。収入・保険区分を入力するだけで実際の自己負担額の目安を確認できます。高額療養費制度の申請方法については加入している健康保険組合または市区町村の窓口に問い合わせるのが確実です。
参考:乾癬治療における高額療養費制度の活用について
生物学的製剤に使える高額医療費助成 – 乾癬治療net(日本イーライリリー)
IL-17阻害薬はすべての乾癬・かゆみの患者さんに適しているわけではありません。自分がこの薬の候補になれるかどうかを事前に把握しておくことが、治療選択で後悔しないためのポイントです。
IL-17阻害薬が特に向いている人
まず、「塗り薬・飲み薬・光線療法を試したが効果が不十分」という方が第一候補です。生物学的製剤の使用条件として、既存治療で改善しないことが原則の前提になっています。それが条件です。
皮膚の症状が体の広い範囲に及んでいて日常生活に支障が出ている方や、乾癬性関節炎で関節の痛みと皮膚症状を同時に治療したい方にも向いています。IL-17阻害薬は皮膚と関節の両面に効果が期待できます。また、効果の発現を早めに感じたい方にはIL-17阻害薬がIL-23阻害薬より約2〜3週間早く効き始める点でも優れています。
自分で皮下注射ができる方(または家族のサポートがある方)であれば、4剤すべて自己注射対応のため通院の負担を大幅に減らせます。
IL-17阻害薬が使えない・注意が必要な人
一方、以下のような状態の人はIL-17阻害薬が使えないか、使用にあたって慎重な判断が必要になります。
乾癬とメタボリックシンドロームを合併している人は、IL-17阻害薬やIL-23阻害薬が体重に左右されにくく比較的有効性が安定している一方で、TNF阻害薬(ヒュミラなど)は肥満の影響で効果が弱まることも報告されています。炎症性腸疾患の既往がある方はTNF阻害薬のほうが選択肢として適している可能性が高いです。つまりIL-17阻害薬が合わない人には代替の選択肢があります。
担当医の判断が最も重要ですが、患者側も「自分がどちらのカテゴリに入るのか」を事前に把握して受診に臨むことが、より適切な治療への近道になります。
参考:乾癬とメタボの関係、薬剤選択への影響
IL-17阻害薬の立ち位置をより深く理解するために、同じく乾癬治療に用いられる他の生物学的製剤と比較しておきましょう。それぞれに得意な場面が異なります。
IL-17阻害薬 vs IL-23阻害薬(スキリージ・トレムフィア・イルミアなど)
IL-23阻害薬はIL-17の上流にあるIL-23というサイトカインをブロックします。IL-23が止まるとTh17細胞が活性化されず、IL-17の産生も自然と抑えられます。より根本的な制御に近いといえます。
効果の持続性という点ではIL-23阻害薬が優れており、スキリージ(リサンキズマブ)であれば維持期の投与は3ヶ月に1回で済みます。一方でIL-17阻害薬のほうが効果の発現は早く、早期に皮膚症状・かゆみを改善したいケースに向いています。IL-23阻害薬は炎症性腸疾患のある患者にも使いやすい点が異なります。これが選択の分かれ目です。
IL-17阻害薬 vs TNF阻害薬(ヒュミラ・レミケードなど)
TNF阻害薬は乾癬治療における最初の生物学的製剤で、乾癬性関節炎の骨破壊を抑制するなど関節病変への有効性が高い薬です。ただし、肥満があると効果が落ちやすく、また炎症性腸疾患の既往がある場合は逆にTNF阻害薬が有効で、IL-17阻害薬より適している場合もあります。
直接比較した臨床試験では、皮膚の症状に限っていえばIL-17阻害薬のほうがTNF阻害薬より高いPASI75/90達成率を示しています。一方で、関節症状だけで見ると両者に大きな差はなく、どちらを選ぶかは個々の状態次第です。
| 比較項目 | IL-17阻害薬 | IL-23阻害薬 | TNF阻害薬 |
|---|---|---|---|
| 効果発現の速さ | 🟢 最も早い(6〜8週) | 🟡 やや遅い(9〜10週) | 🟡 早め(10週前後) |
| 投与間隔(維持期) | 2〜4週または8週 | 2〜3ヶ月に1回 | 2〜8週 |
| カンジダリスク | 🔴 高め(約3%) | 🟢 低い | |
| IBD患者への使用 | 🔴 原則禁忌 | 🟢 使用可 | 🟢 適応あり |
| 肥満患者への効果 | 🟢 体重に左右されにくい | 🔴 肥満で効果低下しやすい |
どの薬が「最もいい」というわけではなく、患者さんの状態によって最適な選択肢が異なります。これが原則です。IL-17阻害薬は特に皮膚症状が重い・早期改善を求める患者に強みがあります。担当医と相談しながら、自分の状態に合った薬を選ぶことが最善の道です。
参考:生物学的製剤の比較と効果発現時間に関するデータ
乾癬治療薬の効果発現時間、IL-17阻害薬が最も早く6〜8週間で効果 – CareNet academia(2025年)