

乾燥した褥瘡に亜鉛華軟膏を塗ると、かゆみが悪化することがあります。
亜鉛華軟膏は、主成分として酸化亜鉛を20%配合した、油脂性基剤(白色ワセリンベース)の外用薬です。医療現場では長年にわたって使われてきた信頼性の高い塗り薬で、赤ちゃんから高齢者まで幅広く処方されます。
亜鉛華軟膏が褥瘡に対して発揮する作用は、大きく3つに整理できます。
| 作用 | 具体的な働き |
|---|---|
| 🛡️ 皮膚保護作用 | 患部を白い膜で覆い、便・尿・汗などの刺激から皮膚を守る |
| 💧 収れん・乾燥作用 | ジュクジュクした滲出液を吸収し、患部を適度に乾燥させる |
| 🔵 消炎作用 | 穏やかに炎症を鎮め、上皮化(皮膚の再生)を促す |
この3つの作用が組み合わさることで、褥瘡初期の「発赤・びらん・浅い潰瘍」の段階において、患部を守りながら自然治癒を助ける効果が期待できます。つまり「皮膚をそっと保護しながら、ジュクジュクを乾かす薬」というイメージです。
ステロイドのような即効性や強い抗炎症作用はありません。しかし副作用が極めて少なく、長期使用にも適しているのが特徴です。
日本褥瘡学会のガイドラインでも、発赤・水疱・びらん・浅い潰瘍のある創に対し、「酸化亜鉛(亜鉛華軟膏)など創面保護効果の高い油脂性基剤外用剤を用いてもよい」と記載されています(推奨度C1)。
軟膏の塗り方についても重要なポイントがあります。褥瘡ガイドラインでは「外用薬はたっぷりと、厚さ約3mm程度塗布」し、「1日1回以上の塗布」を行うと明示されています。薄く伸ばすのではなく、「皮膚が白く隠れるくらい」しっかり盛るのが基本です。
参考:日本褥瘡学会が公開している褥瘡の治療情報(外用剤の選び方と使用例)
https://www.jspu.org/general/cure/
亜鉛華軟膏は多くの褥瘡ケアで役立つ薬ですが、「使い方を誤ると逆にかゆみが増す」という落とし穴があります。これはあまり知られていない重要な注意点です。
酸化亜鉛には水分を吸収して患部を乾燥させる性質があります。この作用は滲出液(ジュクジュク)が多い褥瘡では頼もしい効果を発揮します。しかし、すでに乾燥傾向にある褥瘡や皮膚に使うと、必要な水分まで吸い取ってしまい、乾燥が過剰に進むのです。
乾燥が進むと、皮膚のバリア機能が低下します。その結果、かゆみ・ひりつき・カサカサ感が生じやすくなります。これが「亜鉛華軟膏を塗ったらかゆくなった」という経験の原因のひとつです。
使う前に次のポイントを確認することが大切です。
巣鴨千石皮ふ科の資料によると、「患部の滲出液の量が少ないと亜鉛華軟膏では乾燥が進み過ぎ、かゆみなどが生じる場合がある」と明記されています。症状に合わせた使い分けが重要です。
また、亜鉛華軟膏は感染防御作用を持ちません。もし患部が赤く腫れ、膿・悪臭・熱感などを伴う場合は、感染が疑われます。その場合は自己判断で亜鉛華軟膏を継続するのではなく、早めに医療機関を受診して適切な抗菌薬軟膏への切り替えを相談しましょう。
かゆみが強い時に亜鉛華軟膏を重ねて塗るのは禁物です。かゆみの原因をまず確認することが先決です。
参考:亜鉛華単軟膏の効能・注意点に関する医師解説(巣鴨千石皮ふ科)
https://sugamo-sengoku-hifu.jp/medicines/zinc-oxide-ointment.html
褥瘡の治療では、傷の進行段階(ステージ)によって使う薬が変わります。亜鉛華軟膏を「どのステージに使うか」を理解しておくことが、ケアの質を高めるうえで非常に重要です。
| 褥瘡ステージ | 状態の目安 | 亜鉛華軟膏の適応 |
|---|---|---|
| ステージⅠ(発赤) | 皮膚が赤いが破れていない | ✅ 適応(保護・摩擦軽減) |
| ステージⅡ(びらん・水疱) | 皮膚が破れ、ジュクジュク・水ぶくれ | ✅ 適応(保護・収れん) |
| ステージⅢ(皮下組織損傷) | 深い潰瘍、黄色い膿や滲出液が多い | ❌ 別の薬(抗菌作用・肉芽形成促進薬)が必要 |
| ステージⅣ(筋・骨に至る損傷) | 骨・腱が見えるほど深い | ❌ 専門的治療が必要 |
ステージⅠ・Ⅱが亜鉛華軟膏の主な出番です。この段階では、患部を尿・便・汗などの刺激から守り、びらんを乾かして上皮化を促すのが目標となります。
一方、ステージⅢ以降では、壊死組織の除去・感染コントロール・肉芽形成促進など、より積極的な作用を持つ薬剤(ブロメライン軟膏、カデックス軟膏、アクトシン軟膏など)が使われます。亜鉛華軟膏にはこれらの作用がないため、深い褥瘡に使い続けることは治癒を遅らせるリスクがあります。
「薬は合っていれば早く治る、合っていなければ悪化する」のが褥瘡ケアの鉄則です。傷の状態を日々観察し、ステージが変わったタイミングで医師・看護師に相談することが肝心です。
また、周囲の健常な皮膚を保護する目的でも、亜鉛華軟膏(または亜鉛華単軟膏)は有用です。褥瘡周囲の皮膚は非常に脆弱になりやすいため、滲出液や排泄物が付着しないよう、健常皮膚にも薄く塗って保護膜を作る使い方が実際の現場でよく行われています。
参考:褥瘡ステージ別の外用薬・被覆材の選び方(訪問看護向け解説)
https://vn.astelsupport.co.jp/2025/10/03/褥瘡ステージ別!外用薬と被覆材の種類/
亜鉛華軟膏の使い方で「やりがちなNG」があります。正しいケア習慣を知ることは、褥瘡の回復速度に直接影響します。
NG①:毎回全部拭き取ってから塗り直す
「清潔が大事だから」という気持ちから、亜鉛華軟膏を毎回きれいに落として塗り直す方がいます。しかし、亜鉛華軟膏は必ずしも毎回全部落とす必要はありません。ゴシゴシこすって落とす行為自体が摩擦を生み、脆弱な皮膚を傷つけてしまいます。
汚れた部分だけ取り除き、その箇所に追加で塗る方法が推奨されています。「残っている部分は残したまま、足りない部分に補充する」が原則です。
NG②:薄く伸ばして塗る
ワセリンや保湿クリームのように「薄くなじませる」感覚で塗ると、亜鉛華軟膏の保護効果は十分に発揮されません。皮膚が白くなるくらい、厚さ約3mm程度をめどにしっかり盛るのが正しい塗り方です。厚く塗ることで、物理的なバリアとして便・尿・汗の刺激を遮断できます。
NG③:水で洗い流そうとする
亜鉛華軟膏の基剤は油性のため、水やシャワーだけでは落ちません。無理に落とそうとすると皮膚を傷めます。落とすときはオリーブオイルやベビーオイルをコットンや柔らかい布に含ませ、優しく拭き取るのが正解です。その後、泡立てた低刺激石けんで洗い流します。
また、重層法(重ね塗り)も知っておくと役立ちます。かゆみや炎症が強い場合は、まずステロイド外用薬を直接患部に塗り、その上から亜鉛華軟膏をガーゼに伸ばして貼付するという方法が皮膚科の現場でよく使われます。ステロイドを患部にとどめ、かつ滲出液も吸収できるという一石二鳥の方法です。
これらの使い方を守るだけで、亜鉛華軟膏の効果は大きく変わります。意識して実践してみましょう。
参考:亜鉛華軟膏の効果・使い方・落とし方(医師監修/ウチカラクリニック)
https://uchikara-clinic.com/prescription/zinc-oxide-ointment/
外用薬を使っていても褥瘡がなかなか治らない——そんなとき、見落とされがちな原因が「体内の亜鉛不足」です。これは多くの人が意識していない盲点です。
東御市立みまき温泉診療所顧問の倉澤隆平氏は、「褥瘡の主な要因は亜鉛欠乏にある」と断言しています。6年間にわたり施設と病院を行き来した79歳の難治性褥瘡患者が、亜鉛補充療法(プロマック顆粒15% 1g/日)を開始してからわずか約50日でほぼ治癒したという事例が報告されています。
亜鉛は体内で皮膚の再生・修復に欠かせない「酵素の活性化因子」として機能しています。亜鉛が不足すると、以下のような問題が連鎖的に起きます。
日本褥瘡学会が207施設の訪問介護ステーションを対象に行った調査(褥瘡群290名、非褥瘡群456名)では、「低栄養」が褥瘡の発生に最も強く関わっていることが判明しました(Clin Nutr. 2010;29:47-53.)。亜鉛・ミネラル・タンパク質の不足が、褥瘡発症リスクを高めていたのです。
褥瘡患者に必要な亜鉛の量は、1日15〜30mgとされています。しかし、寝たきりの高齢者や食が細くなった方、経管栄養の方では、亜鉛が慢性的に不足しがちです。食事からの摂取が難しい場合は、亜鉛を含む栄養補助食品の活用が選択肢になります。
外用薬だけに頼るのでは不十分なこともあります。「軟膏を塗っているのに治らない」と感じたら、食事内容や栄養状態を見直すことも必要です。主治医や管理栄養士への相談も、積極的に行動してみましょう。
参考:褥瘡治癒における亜鉛補充療法の重要性(看護roo! 日経メディカルAナーシング)
https://www.kango-roo.com/work/5663/