

市販のかゆみ止めを塗り続けると、静脈不全が原因の皮膚炎は逆に悪化して潰瘍になることがあります。
「足がかゆいのは乾燥のせいだろう」と保湿クリームを塗り続けている方は多いですが、そのかゆみが数週間以上続いている場合は要注意です。
慢性静脈不全(CVI)とは、脚の静脈内にある「弁」が機能しなくなり、本来なら心臓へ戻るはずの血液が脚に逆流・滞留してしまう病気です。静脈弁が正常ならば、血液が下がろうとすると弁が閉まって逆流を防ぎます。ところが、加齢・妊娠・長時間の立ち仕事・肥満・過去の深部静脈血栓症(DVT)などによって弁が壊れると、老廃物を多く含んだ血液が足首やふくらはぎに滞り続けます。これを「静脈うっ滞」といいます。
静脈うっ滞が起きると、皮膚を走る毛細血管にも血液が溜まり、真皮層から微小な出血が繰り返されます。その出血に含まれるヘモジデリン(鉄分)が皮膚に沈着し、足首内側の皮膚が茶色〜黒褐色に変色します。さらに、酸素・栄養が不足した皮膚は角化細胞がダメージを受けてバリア機能が低下し、外部の刺激に過敏になります。これが「かゆみ」の正体です。
つまり、原因は皮膚そのものではなく、その下の静脈にあるということですね。
かゆみが出やすい部位は、くるぶし周辺・すねの下部・ふくらはぎの内側が代表的で、重力の影響で血液が最も滞りやすい箇所と一致しています。かゆみと同時に次のような症状が出ていれば、慢性静脈不全のサインである可能性が高いと覚えておきましょう。
これらが複数当てはまるなら、かゆみ止め薬でなく静脈の検査が先決です。
参考:慢性静脈不全症の症状・診断・治療について詳しくまとまっています。
静脈うっ滞が長期間続いた結果として起きる皮膚のトラブルを総称して「うっ滞性皮膚炎」と呼びます。足首周辺に茶色い色素沈着が現れ、強いかゆみが生じ、皮膚がカサカサとうろこ状に剥がれるのが典型的な見た目です。
一般的な湿疹と違う大きな問題点は2つあります。1つ目は、かゆみ止めや保湿剤を塗っても根本の原因(静脈うっ滞)が残る限り、症状がいつまでも繰り返されること。これは厄介ですね。2つ目は、皮膚の色素沈着が一度生じると、静脈不全を治療しても完全に消えにくいという点です。ヘモジデリンが組織に染み込んでしまうため、色が残ってしまいます。
放置するとどうなるか、段階ごとに整理します。
| 段階 | 主な症状 | 状態 |
|---|---|---|
| 初期 | むくみ・だるさ・こむら返り | 生活習慣改善で回復できるケースも |
| 中期 | かゆみ・湿疹・皮膚の茶色変色 | 圧迫療法+医療的処置が必要 |
| 後期 | 皮膚潰瘍・瘢痕形成・感染リスク | 治りにくく手術が必要になることも |
特に注意が必要なのが「かゆくて搔く→皮膚が傷つく→潰瘍になる」という悪循環です。静脈不全が根底にある潰瘍は皮膚の血行が悪いため、ごく浅い傷でも治りにくく、感染しやすい状態が続きます。通常の切り傷が1〜2週間で治るのに対し、静脈うっ滞性潰瘍は数ヵ月単位で治療を要するケースも珍しくありません。むくみが長期間続くと、ふくらはぎに瘢痕組織が形成されて永久に硬くなることもあります。
かゆみが長引いている、皮膚が変色している、という段階で専門医を受診することが大切です。
参考:うっ滞性皮膚炎の原因・治療法について血管外科専門医が解説しています。
静脈不全の治療で最初に行われるのが圧迫療法です。基本が圧迫療法ということです。
弾性ストッキングや弾性包帯を足に装着することで、足に溜まっている血液を外側から物理的に押し戻します。イメージとしては、マヨネーズのチューブを下から押して中身を絞り出すような感覚です。これだけでもむくみ・かゆみ・皮膚潰瘍の症状が改善することがあります。
圧迫療法の効果を最大限に引き出すには、使い方にいくつかのルールがあります。
日本静脈学会によれば、慢性静脈不全による難治性潰瘍の治療に使う弾性ストッキングは、1着あたり最大28,000円まで療養費として支給を受けられる制度があります。弾性包帯なら1巻あたり14,000円が上限です。ただし医師の指示書が必要なので、勝手に購入しても適用外になる点に注意が必要です。
参考:弾性着衣等に係る療養費支給制度の詳細が確認できます。
深部静脈血栓症(DVT)が原因で深部静脈の弁が逆流している場合は、圧迫療法以外に有効な手段がほとんどなく、長期間にわたる弾性ストッキングの着用が求められます。面倒と感じても、継続することが悪化防止に直結します。圧迫を続けることが条件です。
また、脚を心臓より高い位置に上げることで静脈内の圧力を下げる「下肢挙上」も、圧迫療法と組み合わせると効果的です。1日に3回以上、30分を目安として足をクッションや座布団の上に乗せて安静にすることが推奨されています。これをコンスタントに続けることが、症状管理の土台になります。
表在静脈(皮膚に近い静脈)に逆流が生じている場合は、圧迫療法で症状を抑えながら根本原因の静脈そのものを治療することが重要です。逆流を止めることが原則です。
現在の主流は「血管内焼灼術(ETA)」という日帰り手術です。細いカテーテルを静脈の中に通し、レーザー(EVLA)または高周波(RFA)のエネルギーで血管内壁を焼いて閉塞させます。焼いて閉塞した静脈は、数ヵ月かけて周囲の組織に吸収・消失します。局所麻酔で行えるため入院は不要で、術後は当日から歩いて帰宅できます。
費用の目安(3割負担)は以下の通りです。
| 治療法 | 費用目安(3割負担・片足) | 特徴 |
|---|---|---|
| 血管内レーザー焼灼術(EVLA) | 約43,000円 | 細い血管にも対応しやすい |
| 高周波焼灼術(RFA) | 約43,000円 | 手術時間が短め |
| グルー血管内塞栓術 | 約53,000円 | 医療用接着材で閉塞、焼かない |
| 硬化療法 | 約14,000円 | 細い静脈瘤・補助的治療に適する |
| ストリッピング手術 | 約31,000円 | 静脈を引き抜く従来法 |
ここで重要なのは、表在静脈の逆流に対して「逆流を止める治療」を行わないと、いくら皮膚科でかゆみ止めを処方されても根本的な解決にはならないという点です。かゆみが強い人はストッキングでの圧迫療法だけでは効果が不十分なケースが多く、血管内焼灼術でしっかり静脈瘤を治すことが必要とされています(こうち静脈ケアクリニック)。
一方、深部静脈が閉塞している方や、手術リスクが高い方、症状が軽度の方には手術が不要な場合もあります。これが条件です。どの治療が自分に合うかは、超音波検査(エコー検査)で静脈の逆流の状態を確認してから判断します。超音波検査は非侵襲的で痛みがなく、外来で10〜20分程度で完了するため、受診のハードルは低いと言えます。
専門医の治療と並行して、自宅での毎日のセルフケアがかゆみの悪化を防ぐ上で重要な役割を果たします。注目したいのが「ふくらはぎの筋ポンプ機能」を意識した習慣です。
ふくらはぎは「第二の心臓」とも呼ばれます。その理由は、ふくらはぎの筋肉が収縮するたびに、深部静脈の血液が心臓方向へ押し上げられるためです。逆に言えば、ふくらはぎをほとんど動かさない座り仕事・立ちっぱなしの状態では、この筋ポンプが機能せず静脈圧が高まります。
すでに静脈不全の診断を受けている人でも、激しい運動は不要です。次の3つを習慣にするだけで、静脈うっ滞の悪化を抑制できます。これは使えそうです。
皮膚ケアとしては、保湿剤を入浴後すぐに塗るルーティンが有効です。皮膚のバリア機能が低下しているため、低刺激の保湿クリームで乾燥を防ぐことでかゆみの誘発を減らせます。ただし、かゆくて皮膚科を受診せずにステロイド外用薬を自己判断で長期使用するのは注意が必要です。市販のステロイド外用剤の使用は1週間を超えないよう製品に明記されており、長期使用は皮膚の菲薄化・毛細血管拡張・感染症誘発といった副作用リスクがあります。静脈不全が根本原因である皮膚炎にステロイドを塗っても、一時的な炎症抑制にとどまるため、かゆみが止まってもそれは「治った」わけではありません。
また、足を高くして寝る工夫も重要です。就寝時に足のほうにクッションや折り畳んだタオルを置き、足首〜ふくらはぎが心臓より15〜20cm高くなるように調整すると、夜間の血液の戻りが改善して翌朝のむくみを軽減できます。
日常生活の中での塩分過多・水分不足・長時間の飛行機・バス移動は静脈圧を高めるため、静脈不全を抱える方はこれらのシーンに意識を向けることも大切です。長時間移動の際は、2時間に1回は立ち上がって歩くか、着席したままでもかかと上げ運動を行いましょう。
参考:梅田血管外科クリニックによる静脈不全・うっ滞性皮膚炎の解説ページです。
「足がかゆいだけで血管外科に行くのは大げさでは?」と感じる方も多いです。意外ですね。しかし、かゆみの原因が静脈不全であれば、適切な科に早めに相談するほど治療成績がよくなります。
静脈不全・静脈瘤の治療に最も適した診療科は血管外科(または心臓血管外科)です。超音波検査による静脈逆流の評価から治療計画まで一貫して対応してもらえます。もし近隣に血管外科がない場合は、皮膚科でも下肢の皮膚炎として初診を受け付けており、必要に応じて血管外科への紹介状を作成してもらえます。
早めの受診が推奨される目安は次の通りです。
赤のサインは「今すぐ受診」、黄色は「早めに受診」が目安です。特に色素沈着が広がり始めているなら急ぐべきです。専門医は超音波検査(エコー)を使って静脈弁の逆流を可視化し、逆流の場所・程度を判定します。この結果を踏まえて「圧迫療法だけで管理するか」「血管内焼灼術が必要か」を判断するため、検査なしで治療法を決めることはできません。
受診時に伝えると診断がスムーズになる情報は次の通りです。
受診からの流れは「問診→超音波検査→診断→治療法の選択→治療開始」というステップになります。初診から実際の治療開始まで2〜4週間程度かかるクリニックが多いため、気になる症状が出たら早めに予約を入れるのが得策です。
参考:静脈瘤手術の費用(保険適用・治療法別)について詳しく紹介されています。
西梅田静脈瘤・痛みのクリニック:静脈瘤手術の費用相場(2025年最新版)

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