

清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)は、漢方の古典『万病回春』に記載されている処方で、体力中等度以上で赤ら顔でときにのぼせがある方の「にきび」「顔面・頭部の湿疹・皮膚炎」「あかはな(酒さ)」などの皮膚トラブルに用いられる漢方薬です。
漢方医学では、体内にこもった熱が上半身にのぼり、皮膚にこもることでニキビや湿疹などの皮膚トラブルが発生すると考えられています。「清上」という名前には、横隔膜よりも上部、特に顔面や頭部にうっ滞した熱を清解させるという意味が込められています。
清上防風湯は、上半身にこもった熱を冷まして赤みを抑えるとともに、膿(うみ)を排出することで、赤いニキビなどの皮膚トラブルを改善していく作用があります。特に、思春期によく見られる脂っぽい肌で赤いニキビがある方に適しています。
清上防風湯には、12種類の生薬が配合されており、それぞれがニキビ治療に適した作用を持っています。これらの生薬が相乗効果を発揮し、ニキビの改善に役立っています。
【清上防風湯に含まれる主な生薬とその効果】
| 生薬名 | ニキビ治療に対する効果 |
|---|---|
| ハマボウフウ (浜防風) | かゆみ・炎症を抑える、抗菌作用 |
| ケイガイ (荊芥) | かゆみ・炎症を抑える、抗菌作用 |
| ハッカ (薄荷) | かゆみ・炎症を抑える、抗菌作用 |
| レンギョウ (連翹) | 炎症・化膿を抑える |
| サンシシ (山梔子) | 熱を冷ます |
| オウゴン (黄芩) | 熱を冷ます |
| オウレン (黄連) | 熱を冷ます |
| センキュウ (川芎) | 血と気の流れを良くし、ほかの生薬の効果を高める |
| ビャクシ (白芷) | 排膿作用、鎮痛作用 |
| キキョウ (桔梗) | 排膿を助ける |
| カンゾウ (甘草) | 抗炎症作用、他の生薬の調和 |
| キジツ (枳実) | 気の巡りを改善 |
これらの生薬のうち、「浜防風」は清上防風湯の名前にも含まれており、発散作用を持つ代表的な生薬です。同様の作用を持つ「薄荷」や「荊芥」なども皮膚疾患への効果が認められています。また、熱を冷まし炎症をしずめる「黄連」「黄芩」「山梔子」、排膿を助ける「桔梗」、血の巡りをよくする「川芎」など、ニキビ治療に有効な複数の生薬が配合されています。
これらの生薬が相乗効果を発揮することで、以下のような効果が期待できます。
清上防風湯は、すべてのニキビに効果があるわけではありません。特定のタイプのニキビと体質の方に効果を発揮します。
【効果的なニキビのタイプ】
【適応となる体質】
漢方医学では「証」という考え方があり、症状だけでなく体質や病気に対する抵抗力を見て処方を決めていきます。清上防風湯は中間証から実証、つまり体力があり赤ら顔でのぼせやすい人にできるニキビに向いている処方です。
一方で、以下のようなニキビや体質には効果が期待できない場合があります。
これらの場合は、他の漢方薬や治療法が適している可能性があります。例えば、体力が低下したときのニキビには「補中益気湯」、月経に伴うニキビには「桂枝茯苓丸加薏苡仁」などが用いられることがあります。
清上防風湯の効果を最大限に引き出すためには、正しい服用方法を守ることが重要です。
【標準的な用法・用量】
服用のタイミングは、食前または食間が推奨されています。食前とは食事を取る30分〜1時間前、食間は食事と食事の間のことで、食後およそ2時間後が目安となります。空腹時に飲むと漢方薬の吸収が良くなり、食事の影響も受けないため効果的です。
ただし、食前や食間に飲むと気持ち悪くなったり、どうしても食前に飲めない場合は食後に飲むようにしましょう。
【治療期間について】
漢方薬は西洋医学の薬剤とは異なり、即効性があるというよりも緩やかに効果を発揮し、体質を改善することで症状を緩和するため、清上防風湯の治療期間は比較的長期にわたります。
効果が出るまでの期間は数日から1週間程度ですが、4週間続けても効果が見られない場合は、ほかの漢方薬や治療法への変更を検討することが推奨されています。
また、症状が改善したからといってすぐに服用を中止するのではなく、体質改善のためにある程度の期間継続して服用することが大切です。
清上防風湯は自然由来の生薬から作られていますが、副作用がまったくないわけではありません。服用する際には以下の点に注意しましょう。
【主な副作用】
これらの症状は続けるうちに慣れることも多いですが、つらい場合は医師に相談しましょう。
【重大な副作用(まれに発生)】
これらの症状が現れた場合は、すぐに服用を中止し、医師の診察を受けてください。
【服用前に医師に相談すべき方】
また、他の薬と併用する場合は、相互作用の可能性もありますので、使用中の薬(一般用医薬品や健康食品も含む)について医師や薬剤師に伝えることが重要です。
清上防風湯は単独で使用することもできますが、西洋医学的なニキビ治療と併用することでより効果的な治療が期待できる場合があります。
【併用可能な西洋医学的治療】
清上防風湯を基本治療として、症状に応じて塗り薬を一緒に使ったり、症状がひどくなった時だけ抗菌剤を服用するなど、状態に合わせた治療計画を立てることができます。
漢方医学と西洋医学の違いを理解することも重要です。西洋医学では、ニキビ菌に対して抗菌薬の塗り薬や内服薬などを処方しますが、ニキビができやすい体質そのものは変えられません。それに対し、漢方薬は炎症を抑えることもできますし、なりやすい体質を改善することも期待できます。
三浦麻由佳医師(皮膚科、美容外科、形成外科専門)によれば、「西洋医学では、ニキビ菌に対して抗菌薬の塗り薬や内服薬などを処方しますが、ニキビができやすい体質そのものは変えられません。それに対し、漢方薬は炎症を抑えることもできますし、なりやすい体質を改善することも期待できます。そういうところがメリットだと思います。まさに『皮膚は内臓の鏡』ということを念頭においた治療ができます。」と述べています。
このように、清上防風湯と西洋医学的治療を適切に組み合わせることで、即効性と体質改善の両方のアプローチが可能となり、より効果的なニキビ治療が期待できます。
清上防風湯のニキビに対する効果は、臨床研究や症例報告によっても支持されています。
2003年に発表された研究では、尋常性ざ瘡(にきび)に対して清上防風湯が著効した症例が報告されています。この研究では、従来の治療では改善が見られなかった患者に清上防風湯を投与したところ、顕著な改善が認められました。
また、日本東洋医学会や日本皮膚科学会のガイドラインにおいても、炎症性ニキビに対して清上防風湯はC1(選択肢の一つとして推奨する)とされており、特に青年でオイリー肌のニキビや、膿が多く尖った隆起が目立つニキビに対して有効であるとされています。
清上防風湯の効果が現れるメカニズムについては、以下のような作用が考えられています。
これらの複合的な作用により、清上防風湯は単に症状を抑えるだけでなく、ニキビができにくい肌質への改善も期待できます。
実際の治療現場では、清上防風湯は特に以下のようなケースで効果を発揮しています。
ただし、すべての患者さんに同じように効果があるわけではなく、個人の体質や症状の程度によって効果の現れ方には差があることも認識しておく必要があります。