ロイコトリエンb4の作用とかゆみへの影響を徹底解説

ロイコトリエンb4の作用とかゆみへの影響を徹底解説

ロイコトリエンb4の作用とかゆみの深い関係

抗ヒスタミン薬を飲んでも、あなたのかゆみが全然治まらないのは、ロイコトリエンb4が原因かもしれません。


この記事でわかること
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ロイコトリエンb4とは何か?

アラキドン酸から生まれる炎症性物質で、nM(ナノモル)レベルの超低濃度でも強力にかゆみを誘発することがわかっています。

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なぜ抗ヒスタミン薬が効かないのか?

アトピー性皮膚炎などのかゆみはヒスタミン非依存性のルートが主役。ロイコトリエンb4はBLT1受容体を介した別経路でかゆみを起こします。

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食事でできる対策とは?

EPAを含む青魚(サバ・イワシなど)の摂取が、ロイコトリエンb4の産生を抑制し、かゆみの改善につながることが研究で示されています。


ロイコトリエンb4とは?アラキドン酸と5-リポキシゲナーゼの関係

ロイコトリエンb4(LTB4)は、体内の細胞膜に含まれるアラキドン酸を材料として合成される炎症性の脂質メディエーターです。「脂質メディエーター」とは、炎症やアレルギー反応を伝えるシグナル物質のことで、ホルモンのように体のあちこちに指令を出す役割を持っています。


産生の流れをざっくり説明します。まず細胞膜のリン脂質からホスホリパーゼA2(PLA2)という酵素によってアラキドン酸が切り出されます。次に、5-リポキシゲナーゼ(5-LOX)がそのアラキドン酸の5位の炭素を酸化し、不安定な中間体LTA4が作られます。さらにLTA4水解酵素という酵素が水分子を加えることで、最終的にロイコトリエンb4が完成します。


この反応経路が活発になるのは、おもに好中球好酸球マスト細胞肥満細胞)・マクロファージといった白血球系の細胞が刺激を受けたときです。つまり、アレルギー反応や感染・外傷などで免疫細胞が活性化するたびに、ロイコトリエンb4も大量に作られます。


ロイコトリエンb4の特徴的な点は、nM(ナノモル)という非常に低い濃度でも強力に生理作用を発揮することです。nMとはどのくらいかというと、1リットルの水に1マイクログラム以下の物質しか入っていない状態のイメージです。それほど微量でも好中球を強力に引き寄せ、炎症部位に集合させる走化性因子として働きます。


つまりLTB4はアラキドン酸が出発点です。


産生ステップ 関与する酵素・物質 ポイント
①アラキドン酸遊離 ホスホリパーゼA2(PLA2) 細胞が刺激を受けると始動
②5位炭素の酸化 5-リポキシゲナーゼ(5-LOX)+ FLAP 白血球系細胞に多く発現
③LTA4の生成 5-LOXによる中間体 不安定で単独では作用なし
④LTB4の完成 LTA4水解酵素 白血球以外の細胞でも産生可能


参考:ロイコトリエンB4受容体の生理・病態における役割(日本生化学会)。LTB4の産生経路・受容体構造・疾患との関連が詳しく解説されています。


ロイコトリエンB4受容体の生理・病態における役割 – 生化学(日本生化学会)


ロイコトリエンb4の作用:かゆみを直接引き起こすメカニズム

ロイコトリエンb4がかゆみを起こすルートは、ヒスタミンとは根本的に異なります。これが重要なポイントです。


LTB4は皮膚の感覚神経に存在するBLT1受容体(高親和性LTB4受容体)に結合し、直接的にかゆみシグナルを神経へ伝えます。さらに、かゆみの伝達に重要な役割を果たすTRPV1受容体(熱やカプサイシンにも反応するセンサー)にも関与することが、研究で報告されています。つまりLTB4はかゆみ神経を2方向から刺激する構造を持っているのです。


また、表皮のケラチノサイト(皮膚の主要な細胞)もLTB4のようなかゆみ因子を放出する能力を持っています。アレルギーや乾燥・刺激によって皮膚バリアが崩れると、ケラチノサイトが自らLTB4をはじめとしたメディエーターを分泌し、かゆみを増幅させるという悪循環が生まれます。


好中球が炎症部位に集まることで、さらにLTB4産生が増え、かゆみが長引く構造になっています。


アトピー性皮膚炎の患者さんでは、実際に皮膚病変部のLTB4値が高値を示すことが報告されています(西日本皮膚科学会誌の研究)。皮膚病変部に小円形細胞が密に浸潤している症例ほど、LTB4が高いことが確認されており、炎症の深さとLTB4の量が連動していることが示されています。


かゆみを起こす物質は複数あります。以下の表に主要なものを整理しました。


物質名 種類 かゆみへの関わり方
ロイコトリエンb4(LTB4) 脂質メディエーター BLT1・TRPV1を介して直接刺激
ヒスタミン アミン H1受容体を介して即時型かゆみ
IL-31 サイトカイン 神経線維の伸長を促し慢性化に関与
サブスタンスP 神経ペプチド ケラチノサイトを刺激しLTB4産生を促す
プロテアーゼ 酵素 皮膚バリア破壊後に関与


LTB4によるかゆみの特徴は慢性化しやすい点です。


参考:皮膚における痒みの発生メカニズム(日本薬理学会誌)。BLT1受容体とTRPV1の関連、ケラチノサイトの役割について詳しく書かれています。


抗ヒスタミン薬が効かないかゆみとロイコトリエンb4の関係

「市販の抗ヒスタミン薬を飲んでも、アトピーのかゆみが全然治まらない」という経験をした方は多いでしょう。これには明確な理由があります。


抗ヒスタミン薬はその名のとおり、ヒスタミンがH1受容体に結合するのをブロックする薬です。即時型アレルギー反応(花粉症食物アレルギーの発疹など)にはよく効きますが、ヒスタミン以外が主役になっているかゆみには効果が限定的です。


アトピー性皮膚炎・腎臓病・肝臓疾患・乾癬・慢性湿疹などのかゆみは、ヒスタミン非依存性の経路が主役であることが多いと知られています。その主要な犯人のひとつがロイコトリエンb4です。


実際、順天堂大学環境医学研究所の研究では「アトピー性皮膚炎等に伴う慢性的なかゆみは、抗ヒスタミン薬などの既存薬が十分に効かないため、メカニズムの解明と新規治療薬の開発が重要な課題となっている」と明記されています。これは厳しいところですね。


LTB4はBLT1受容体に作用しますが、この受容体を直接ブロックする薬(BLT1受容体拮抗薬)は現時点では一般的な市販薬にはありません。かつて炎症性腸疾患・関節リウマチ・乾癬・気管支喘息などを対象にPhase2(第2相臨床試験)まで進んだ薬剤もありましたが、Phase3(第3相)に進んだものは現在のところ存在していません。


慢性的なかゆみには皮膚科専門医への相談が基本です。


かゆみのタイプ別に使われる治療のアプローチを整理してみましょう。



参考:難治性"かゆみ"の発症機構解明と予防・治療法開発の研究基盤構築(順天堂大学環境医学研究所)。抗ヒスタミン薬が効かない慢性かゆみとLTB4・BLT1の関係について詳細が確認できます。


ロイコトリエンb4受容体BLT2の意外な作用:皮膚バリアを守る二面性

ロイコトリエンb4というと炎症・かゆみを悪化させるイメージが強いですが、実は皮膚を守る受容体も持っています。これは意外な事実です。


LTB4には2種類の受容体があります。高親和性のBLT1と、低親和性のBLT2です。BLT1が炎症・かゆみの増悪に関わるのに対し、BLT2は主に皮膚や腸管の上皮細胞に発現し、バリア機能の維持と創傷治癒の促進に重要な役割を果たしていることが明らかになっています。


BLT2を活性化するのは12-HHT(12-ヒドロキシヘプタデカトリエン酸)という脂肪酸です。この物質は、アスピリンなどのNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)を使うとほぼ完全に産生が抑えられることが報告されています。つまり痛み止めを常用することで、知らないうちに皮膚バリア回復の邪魔をしている可能性があるということです。


具体的には、12-HHT/BLT2の経路が皮膚のケラチノサイトで「クローディン4」というタンパク質の発現を高め、細胞間のバリア(タイトジャンクション)を強化します。皮膚バリアが崩れているアトピー患者さんにとって、この経路がうまく機能しているかどうかは非常に重要なポイントです。


なお、BLT2は角膜上皮の創傷治癒にも関与しており、目のかゆみや炎症後の回復にも一定の役割を果たしていることが、順天堂大学の研究で示されています。


BLT1とBLT2の役割は正反対に近いということですね。


受容体 主な発現部位 主な働き かゆみへの影響
BLT1 好中球・好酸球・T細胞・樹状細胞 炎症促進・好中球招集・かゆみ誘発 悪化させる方向
BLT2 皮膚・腸管の上皮細胞 バリア機能維持・創傷治癒促進 皮膚を守る方向


参考:ロイコトリエンB4受容体の生理・病態における役割(日本生化学会)。BLT1・BLT2の違いと皮膚バリア機能への関与が詳しくまとめられています。


ロイコトリエンB4受容体の生理・病態における役割 – 生化学(日本生化学会)


ロイコトリエンb4の産生を抑える食事習慣:EPAとオメガ3の活用

ロイコトリエンb4の産生を抑えるうえで、日常の食事が実は大きな影響力を持っています。これは使えそうです。


LTB4はアラキドン酸(オメガ6系脂肪酸)を材料として作られます。一方、青魚に多く含まれるEPA(エイコサペンタエン酸、オメガ3系脂肪酸)は、アラキドン酸と同じ経路に入り込み、「ロイコトリエンb5(LTB5)」という弱い活性しか持たない物質を作ります。LTB4に比べてLTB5の炎症誘発力ははるかに低いため、EPAを多く摂ることでLTB4の産生を相対的に下げることができます。


日本脂質栄養学会の資料によれば、魚油(EPA・DHA)を6〜8か月摂取した研究で、血清中のLTB4やプロスタグランジン類などの炎症関連物質が有意に改善したことが報告されています。6〜8か月というのは、「毎日サバ缶を食べ続けて半年」というイメージです。


EPAが豊富な食品の目安は以下の通りです。


  • 🐟 サバ(生):100gあたりEPA 約1,800mg
  • 🐟 イワシ(缶詰・蒲焼き):100gあたりEPA 約1,800mg
  • 🐟 アンコウの肝:100gあたりEPA 約3,000mg(トップクラス)
  • 🌿 えごま油・亜麻仁油:α-リノレン酸(体内でEPAに変換可能)を多く含む
  • 🥜 くるみ:植物性オメガ3として摂りやすい


また、EPA代謝物の「レゾルビンE1」がBLT1受容体に作用し、LTB4の炎症促進作用を打ち消す働きをすることも報告されています(大阪大学の研究)。つまりオメガ3は「LTB4の邪魔をする脂肪酸を作るのと同時に、LTB4受容体をブロックする物質まで生み出す」という二重の抑制効果を持つのです。


オメガ3とオメガ6のバランスが条件です。


ただし、魚だけに頼るのが難しい場合は、EPA・DHAのサプリメント(フィッシュオイルカプセルなど)を活用することもひとつの方法です。摂取する前に薬との相互作用がないか確認する、これだけ覚えておけばOKです。血液をさらさらにする薬(ワーファリンなど)を服用中の方は、医師に相談してから始めるのが安全です。


参考:毎日の食卓でできる花粉症対策〜EPAを味方につけて(日本脂質栄養学会)。LTB4とLTB5の違い、EPAの摂取による炎症抑制効果について確認できます。


魚食・オメガ3脂肪酸摂取と妊婦さんのアレルギー – 日本脂質栄養学会