

獲得免疫が強すぎると、体温が平熱でも肌に激しいかゆみが出ます。
自然免疫は、生まれた瞬間から全員が持っている免疫の「常設パトロール部隊」です。病原体が体内に侵入すると、専門的な学習なしにいきなり応戦できる点が最大の特徴で、反応開始までの時間はわずか数時間以内とされています。これは非常に速い対応ですね。
担当する免疫細胞の代表は、マクロファージ・好中球・NK細胞・樹状細胞・好酸球・好塩基球などです。これらの細胞は「パターン認識受容体(PRR)」という感知システムを使い、病原体だけが持つ特有の分子構造を検出して攻撃を開始します。特定の相手を選ばず、幅広い異物に対して即座に対応できるのが強みです。
かゆみとの関係でとくに注目すべきは「好塩基球」です。この細胞は白血球の中でも数が非常に少ない存在ですが、ヒスタミンを放出することでアレルギー性のかゆみを引き起こす側面を持ちます。自然免疫が正常に働いている状態ではかゆみは抑えられますが、なんらかの刺激によって好塩基球が過剰活性化すると、皮膚にかゆみや発赤が生じてしまいます。
つまり、自然免疫はかゆみを防ぐ働きと、かゆみを起こす働きの両方を持つということです。
一方で、自然免疫の記憶については長年「記憶はない」とされていましたが、近年の研究で自然免疫にも「訓練免疫」と呼ばれる一種の記憶機能が存在することがわかってきました。これはDNAを巻きつけるヒストンというタンパク質の変化によるもので、一度活性化された自然免疫は遺伝子が「解けた状態」で保たれ、次の反応が速くなります。意外ですね。
獲得免疫は「後天的に獲得する免疫システム」です。自然免疫では処理しきれなかった病原体に対し、それを徹底分析して特化した対応策を作り上げます。応答開始までに数日かかるのが弱点ですが、一度認識した敵の情報を長期間記憶しておける点が自然免疫との最大の違いです。
担当細胞は主にT細胞とB細胞というリンパ球です。T細胞はさらに「ヘルパーT細胞(指令役)」「キラーT細胞(攻撃役)」「制御性T細胞(ブレーキ役)」に分かれています。B細胞は抗体を産生する役割を担い、自然免疫の援護も行います。
かゆみとの関係で核心になるのが「Th2細胞」と呼ばれるヘルパーT細胞の一種です。アトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー性のかゆみでは、このTh2細胞が過剰に活性化しています。Th2細胞はIL-4・IL-13・IL-31というサイトカイン(情報伝達物質)を過剰分泌し、その結果B細胞がIgE抗体を大量に生産してしまいます。アトピー性皮膚炎の患者では、血清IgE値が500IU/mL以上の高値になるケースが多いとされており、健常者の目安である170IU/mL以下と比べて約3倍以上に達することもあります。
なかでも「IL-31」はかゆみを直接引き起こす物質として注目されており、感覚神経の受容体に作用してかゆみシグナルを脳に送ります。IL-31が多いほどかゆみは強くなる傾向があります。これがかゆみの根本です。
インフルエンザワクチンをはじめとする予防接種が効くのも、この獲得免疫の記憶システムを利用しているからです。あえて弱いウイルス情報を体に入れて、獲得免疫に「敵の顔」を覚えさせることで、本番の感染時に素早く対処できるよう備えます。
アトピー性皮膚炎における自然免疫・獲得免疫の役割と三位一体論を詳しく解説(すみれ皮ふ科クリニック)
自然免疫と獲得免疫は「どちらが上」という関係ではありません。バトンリレーのように連携して機能しています。まず自然免疫が飛び込み、手に負えなくなると情報を伝達して獲得免疫を呼び込む流れです。その橋渡しを担うのが「樹状細胞」です。樹状細胞は自然免疫の一員でありながら、病原体を消化してT細胞に情報提示する「抗原提示細胞」としての役割も持ちます。
下の表で2つの免疫の主要な違いを整理してみましょう。
| 比較項目 | 自然免疫 | 獲得免疫 |
|---|---|---|
| 備わる時期 | 生まれつき(先天的) | 後天的に獲得 |
| 応答速度 | 数時間以内(速い) | 数日かかる(遅い) |
| 特異性 | 低い(広範囲に対応) | 高い(特定の敵に特化) |
| 免疫記憶 | 基本なし(訓練免疫として一部あり) | あり(長期記憶) |
| 主な担当細胞 | マクロファージ・好中球・NK細胞・樹状細胞 | T細胞・B細胞・形質細胞 |
| かゆみへの関与 | 好塩基球によるヒスタミン放出 | Th2・IgE・IL-31による過剰反応 |
かゆみに悩む人にとって重要なのは、Th2優位の獲得免疫の暴走を抑えることです。これがアトピー性皮膚炎や花粉症によるかゆみの主要なメカニズムだからです。制御性T細胞(Treg)が「ブレーキ役」としてこの暴走を止めますが、腸内環境の乱れや睡眠不足・ストレスによってTreg細胞の機能が低下すると、かゆみが悪化しやすくなります。
かゆみがひどい場合は、皮膚科での血液検査(血清IgE値・特異的IgE抗体・好酸球数)を確認することを検討してみましょう。自分の免疫状態を数値で把握できます。
体内の免疫細胞の約70〜80%は腸内に集中しています。これはコンサートホールに例えると、客席全体のうち6〜8割が腸という一か所に座っているようなイメージです。腸が「免疫の司令部」と呼ばれる理由はここにあります。
腸内環境が乱れて悪玉菌が優位になると、腸のバリア機能が低下し、アレルゲンや有害物質が血中に入り込みやすくなります。そうすると自然免疫が過剰に反応し、さらに獲得免疫のTh2細胞が活性化されて、かゆみが悪化する悪循環に陥ります。腸内環境の乱れは直接かゆみにつながります。
腸内環境を整えるために有効とされる食事成分は次のようなものです。
また、免疫細胞が正常に機能するための体温は36.5度とされています。体温が1度下がると免疫活性は約30〜40%低下するとも言われており、低体温の状態が続くとかゆみが繰り返しやすくなります。湯船に毎日10〜15分つかる習慣を取り入れると、体温維持と腸への血流改善が同時に期待できます。
免疫系の約70%が集中する腸とアレルギーの深い関係について(ヒロクリニック)
かゆみのケアというと、多くの方が「塗り薬でかゆい部分を抑える」という対処法を思い浮かべます。しかし自然免疫と獲得免疫のバランスという観点から見ると、「かゆみが出た後に塗る」だけでは根本的な解決になりにくいことがわかります。結論は、免疫を整える生活習慣が先です。
獲得免疫の過剰なTh2反応を抑えるには、「Th1とTh2のバランスを整える」アプローチが重要です。Th1は細菌・ウイルスへの戦闘を担当し、Th2はアレルゲンへの反応を担当しています。現代の過度に清潔な生活環境では、Th1が働く機会が減り、Th2が相対的に優位になりやすい状態が生じます。これが「花粉症・アトピー・食物アレルギーが増えている」とも関連すると考えられています。
Th1・Th2バランスを保つために意識したい生活習慣を整理します。
また、皮膚科や内科での血液検査では「好酸球数」「血清IgE値」「ビタミンD・亜鉛」を一緒に調べてもらうと、免疫のどこに乱れがあるかが見えやすくなります。数値を把握できれば、食事や生活改善の優先順位をつけやすくなります。これは使えそうです。
かゆみは「皮膚の問題」と思われがちですが、実態は獲得免疫のTh2過剰という全身の免疫バランスの問題です。自然免疫と獲得免疫の違いを理解することで、「なぜかゆくなるのか」が腑に落ち、対策も的確になります。表面だけでなく、免疫の根本から整えていくことが、かゆみとの長いつきあいを変える第一歩になります。
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021:IgE値・Th2・治療方針の根拠(日本皮膚科学会)