

抗ヒスタミン薬を飲んでも、かゆみが全然おさまらないことがあります。
IL-25(インターロイキン25)は、IL-17サイトカインファミリーに属するタンパク質で、正式な別名を「IL-17E」とも呼びます。その受容体(receptor)は「IL-17RB」という分子で、実際にはIL-17RAとIL-17RBが組み合わさったヘテロ二量体として機能します。この受容体複合体は、免疫細胞や上皮細胞のさまざまな場所に発現しており、アレルギー性炎症の"入口"として重要な役割を担っています。
わかりやすく言えば、IL-25は「火災報知器のボタン」、IL-17RBは「そのボタンを受け取るパネル」のようなイメージです。ボタン(IL-25)が押されると、パネル(receptor)が信号を全身に送り、免疫細胞がいっせいに動き出します。つまり、receptor側が存在しなければ、いくらIL-25が出てもかゆみの連鎖反応は始まりません。
IL-17RBはもともとIL-17Bの受容体として発見されましたが、IL-17BとIL-25は同じreceptorを奪い合う競合関係にあることが2015年のCell誌掲載論文でも明らかにされています。これは意外な発見で、IL-17Bが多い環境では逆にIL-25のシグナルが弱まる可能性を示しています。receptor争いが炎症の強弱に影響するということですね。
IL-17RBの発現は好酸球性副鼻腔炎の患者でも高度に認められており(第66回日本アレルギー学会学術大会報告)、アトピー性皮膚炎に限らず幅広いアレルギー疾患に関係します。IL-25 receptorが関与する疾患の範囲はかなり広いということです。
かゆみが止まらない根本的な理由の一つが、IL-25 receptorから始まる「炎症カスケード」にあります。かゆみの発生は単純ではありません。
まず、皮膚バリアが破壊されたり、ダニやアレルゲンが侵入したりすると、表皮の角化細胞(ケラチノサイト)からIL-25が放出されます。このIL-25がIL-17RB(il-25 receptor)に結合すると、「ILC2(2型自然リンパ球)」と呼ばれる免疫細胞が一気に活性化します。ILC2はT細胞のような抗原認識機構を持たないにもかかわらず、IL-5・IL-13・IL-9といったTh2サイトカインを大量に産生します。これがTh2炎症反応の本格的な増幅につながるわけです。
ILC2の活性化は、さらにTh2細胞を呼び込む連鎖反応を起こします。Th2細胞が産生するIL-31は、皮膚の感覚神経に直接作用して「かゆみ」という感覚を生み出します(アトピー性皮膚炎のかゆみにIL-31が非常に重要とされているのはこのためです)。IL-4とIL-13はさらにフィラグリン(皮膚バリアタンパク質)の産生を抑制し、皮膚バリアをさらに弱めます。つまり、IL-25 receptorの活性化が引き金となり、「かゆい→かく→バリアが壊れる→さらにIL-25が出る→かゆみが増す」という悪循環(かゆみ-掻破サイクル)が完成してしまいます。
🔁 IL-25 receptorが起こすかゆみの悪循環(簡易フロー)
| ステップ | 起きること | 主役の分子 |
|---|---|---|
| ① | 皮膚バリア破壊・アレルゲン侵入 | ダニ、花粉など |
| ② | 表皮からアラーミン放出 | IL-25、TSLP、IL-33 |
| ③ | il-25 receptor(IL-17RB)に結合 | IL-25 + IL-17RB/IL-17RA |
| ④ | ILC2が活性化・Th2サイトカイン大量放出 | IL-5、IL-13、IL-9 |
| ⑤ | 感覚神経を直接刺激してかゆみ発生 | IL-31、TSLP |
| ⑥ | バリア機能低下→悪循環 | IL-4、IL-13(フィラグリン抑制) |
2013年にJournal of Experimental Medicine誌に掲載された研究では、IL-25とIL-33によって駆動されたILC2が皮膚炎症を促進することがマウスおよびヒトで確認されています。かゆみの元凶はヒスタミンだけではないということです。
「かゆみ止め」として真っ先に思い浮かぶのが市販の抗ヒスタミン薬ですが、実はIL-25 receptorが引き起こすかゆみには届きにくいという重大な盲点があります。これは多くの人が知らずに損をしているポイントです。
抗ヒスタミン薬は、肥満細胞が放出するヒスタミンがH1受容体に結合するのをブロックします。じんましんや花粉症の「パチッと出て、しばらくすると引く」タイプのかゆみには効果的です。ところがアトピー性皮膚炎のように、IL-25 receptorを介してILC2やTh2細胞が活性化し、IL-4・IL-13・IL-31といったサイトカインが皮膚の神経に直接作用して生じるかゆみは、ヒスタミン以外の経路で発生しています。結論は「ヒスタミン経路ではないかゆみ」には抗ヒスタミン薬は効きにくい、ということです。
実際、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024では、「抗ヒスタミン薬単剤での治療効果を検証したメタ解析では有意な効果が確認されていない」とされており、抗炎症外用治療の補助としての位置づけにとどまっています。
また、2型炎症によるかゆみは「末梢感作」と「中枢感作」という2段階の感作機序を経てどんどん悪化します。末梢では皮膚の感覚神経が過敏になり(神経線維の過増殖)、中枢では脊髄や脳のかゆみ処理回路が低い刺激でも反応するようになります。これが慢性かゆみの正体です。軽い刺激でも強くかゆい、という状態はここから来ています。
💡 このような「非ヒスタミン性のかゆみ」が疑われる場合、皮膚科専門医に相談の上、IL-4/IL-13受容体を標的とした生物学的製剤(デュピクセント:一般名デュピルマブ)や、JAK1阻害薬(ウパダシチニブ、アブロシチニブ)といった治療選択肢を検討することが、現在のガイドラインに沿ったアプローチです。確認すべきは「ヒスタミン経路かどうか」です。
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024(日本皮膚科学会)|抗ヒスタミン薬の位置づけと生物学的製剤の推奨が記載
IL-25 receptorを正面から狙う治療戦略は現在も急速に進化しています。意外ですね。
現状、日本で承認済みの薬剤でIL-25 receptor経路を間接的にブロックできるものとして注目されているのがテゼペルマブ(商品名テズスパイア)です。テゼペルマブはTSLP(胸腺間質性リンパ球産生因子)を直接標的とする抗体薬ですが、TSLPはIL-25・IL-33と並ぶ三大「上皮アラーミン」の一つです。TSLPが遮断されることで、IL-25 receptorシグナルを含む2型炎症全体を上流から抑えられます。つまり「上流を断てば下流も止まる」という発想です。
一方、IL-25あるいはIL-17RB(il-25 receptor)を直接ブロックする抗体薬の開発も進んでいます。Google Patentsにも抗IL-25抗体の特許が多数登録されており、250分超のt1/2(半減期)を持つ高親和性ヒト化抗IL-25抗体の研究が報告されています。IL-17RBのうち好酸球性副鼻腔炎での高発現が確認されており(第66回日本アレルギー学会)、鼻副鼻腔炎・喘息・アトピー性皮膚炎を同時にカバーする「アトピックマーチ」への一括アプローチとして研究者の期待が高まっています。
さらに2024〜2025年にはスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)のグループがNature Immunology誌にTuft細胞(房状細胞)のIL-17RBに関する研究を発表しました(Feng X et al., 2025)。この研究では、腸管のTuft細胞が発現するIL-17RBがIL-25の過剰な「バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)」を抑制し、ILC2の過剰活性化を防ぐ「ブレーキ役」を担っていることが判明しました。これはil-25 receptorが単純に「悪役」ではなく、文脈によっては炎症を鎮める方向にも働くことを示す意外な発見です。
| 薬剤・アプローチ | 標的 | IL-25 receptor経路への効果 | 主な適応 |
|---|---|---|---|
| デュピルマブ(デュピクセント) | IL-4Rα(IL-4/13受容体) | 下流シグナルを遮断 | アトピー性皮膚炎、喘息 |
| テゼペルマブ(テズスパイア) | TSLP | 上流から3大アラーミン全体を抑制 | 重症喘息 |
| ネモリズマブ(ミチーガ) | IL-31RA | IL-25下流のかゆみシグナルを遮断 | アトピー性皮膚炎のかゆみ |
| JAK1阻害薬(ウパダシチニブ等) | JAK-STATシグナル | 複数Th2サイトカインの細胞内シグナルを一括遮断 | アトピー性皮膚炎 |
| 抗IL-25抗体(研究段階) | IL-25本体 | IL-17RBへの結合を直接阻害 | 開発中 |
IL-25 receptorの仕組みを理解すると、日常のスキンケアや生活習慣が「なぜ大切なのか」という根拠が見えてきます。これは使えそうです。
最も重要なのは「皮膚バリアを壊さない」ことです。IL-25が放出されるきっかけは皮膚への物理的・化学的ストレスです。バリアが壊れるほどIL-25の分泌量が増え、il-25 receptorを介した炎症カスケードが加速します。入浴時にタオルでごしごしこすると、その刺激だけで表皮からIL-25が放出される可能性があります。洗浄は手で優しく、42℃以上の熱いお湯は避けることが原則です(熱いお湯は42℃以上でかゆみを強めることがガイドラインにも記載されています)。
次に、保湿ケアの重要性もIL-25 receptor経路から説明できます。フィラグリン(皮膚バリアを構成する角層タンパク質)が不足すると、アレルゲンが皮膚に侵入しやすくなり、IL-25の産生が促進されます。保湿剤でフィラグリンをはじめとするバリアを補うことは、IL-25の"点火スイッチ"を押されにくくする予防策として理にかなっています。保湿剤の塗布は1日2回、入浴直後(5分以内)が最も効果的です。
室内環境については、ダニや花粉がIL-25産生の強力な刺激になることが知られています。ダニは温度20〜30℃、湿度60〜80%以上で爆発的に増殖します。室内の湿度を50〜60%に保ち、週2回以上の掃除機がけで寝具や絨毯のダニを減らすことが、IL-25産生を日常的に抑えることにつながります。これが条件です。
また、ストレスとIL-25の関係も近年注目されています。精神的ストレスは神経ペプチドを介して表皮のIL-25産生を増加させることが動物実験で示されています。睡眠不足や強いストレスがかゆみを悪化させるのは「気のせい」ではなく、IL-25 receptorシグナルが実際に増強されているためです。
大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)茂呂研究室|ILC2とIL-25・IL-33の関係を研究する権威ある研究室
「かゆみを我慢すれば免疫が鍛えられる」という考え方が、ごく一部の人々の間で今も残っています。これは大きな誤解です。
IL-25 receptorを介した2型炎症の文脈で言えば、かゆみを我慢することは炎症カスケードを放置することとほぼ同義です。かゆみが発生しているということは、すでにILC2が活性化し、IL-5・IL-13が大量に分泌されている状態です。その状態を放置すれば、神経線維が皮膚内で過増殖し(末梢感作)、さらに低い刺激でかゆみが発生する「過敏化」が進みます。これを「アロニーシス(alloknesis:非かゆみ刺激でかゆみを感じる状態)」と言います。かゆみのサイクルを長引かせると、免疫が鍛えられるどころか、神経が狂ってしまうということですね。
さらに、il-25 receptorシグナルを長期間放置した場合、アトピー性皮膚炎から喘息、アレルギー性鼻炎へと症状が移行・合併する「アトピックマーチ」のリスクが高まります。成人アトピー患者の約30〜40%が喘息を合併しているというデータもあります。かゆみを早期に制御することは、将来の喘息予防にもつながるという意味で、健康上のメリットが非常に大きいのです。
一方で、「IL-25は悪者か?」というと、そうとも言い切れません。腸管内でのIL-25は、寄生虫(蠕虫)に対する防御免疫を担う重要なシグナルでもあります。Tuft細胞(房状細胞)のIL-17RBが、腸内のIL-25量を適切にコントロールしているという2025年の最新研究が示すように、il-25 receptorシグナルは「多すぎると害、適量なら守り手」という両刃の剣です。これが原則です。
IL-25 in allergic inflammation(Immunological Reviews, 2017)|IL-25とIL-17RBのシグナリングとアレルギー疾患の包括的レビュー論文