

豆腐や納豆で何ともないのに、豆乳を飲むと救急搬送されることがあります。
花粉症の人が生のリンゴやモモを食べたあと、口のなかがイガイガしたり唇が腫れたりする経験をしたことはないでしょうか。これは「花粉食物アレルギー症候群(PFAS:Pollen-Food Allergy Syndrome)」と呼ばれる状態で、かつては「口腔アレルギー症候群(OAS)」とも呼ばれていました。
仕組みはシンプルです。花粉の中に含まれるアレルゲン(アレルギーを引き起こすタンパク質)と、果物や野菜に含まれるタンパク質の形がよく似ているため、免疫システムが「同じ敵だ」と勘違いしてアレルギー反応を起こしてしまいます。これを「交差反応」といいます。
症状の特徴は、食べた直後から15分以内に、食物が触れた口唇・口腔粘膜・咽頭粘膜にムズムズ・イガイガといった刺激感や軽いむくみが現れることです。ほとんどの場合は時間が経てば自然に治まります。ただし、重症化すると蕁麻疹・腹痛・下痢・呼吸困難など全身症状に及ぶことがあり、PFAS患者の約2〜10%でアナフィラキシーが生じるという欧米のデータも報告されています。
つまりPFASが軽症な理由です。ほとんどの症状が口の中だけで収まるのは、原因タンパク質の多くが熱や消化酵素に非常に弱く、胃に届く前に壊れてしまうからです。
最近、増加傾向が数字でも示されています。国立成育医療研究センターの2025年発表の研究では、17歳青少年の11.2%がPFASを発症しており、原因食品として最も多かったのはリンゴ(45.1%)、次いでキウイ(41.2%)、パイナップル(39.2%)でした。花粉症の増加に伴い、PFASも確実に増えているといえます。
これは意外ですね。花粉症は近年ずっと増えていますが、そのぶん「果物を食べると口がかゆくなる」人も同時に増えているわけです。
国立成育医療研究センター|花粉食物アレルギー症候群(PFAS)の17歳における有症率に関する研究報告(2025年)
PFASで注意すべき重要なポイントは、「どの花粉に感作されているか」によって、反応しやすい食品がまったく変わるという点です。以下に代表的な組み合わせをまとめます。
| 花粉の種類 | 飛散時期 | 関連する原因食品 |
|---|---|---|
| シラカンバ・ハンノキ(カバノキ科) | 1〜6月 | リンゴ、モモ、ナシ、サクランボ、イチゴ、大豆(豆乳)、キウイ、ヘーゼルナッツなど |
| スギ・ヒノキ | 2〜5月 | トマト |
| オオアワガエリ・カモガヤ(イネ科) | 4〜10月 | メロン、スイカ、トマト、ジャガイモ、キウイなど |
| ヨモギ(キク科) | 6〜11月 | セロリ、ニンジン、ピーナッツ、キウイ、香辛料(マスタード)など |
| ブタクサ(キク科) | 6〜11月 | スイカ、メロン、キュウリ、バナナなど |
スギ花粉症の人がリンゴでかゆみを感じないのは、スギとリンゴの交差反応は弱いためです。逆に、シラカンバ花粉症の人はリンゴやモモに強く反応しやすくなります。
また、花粉症にかかっている年数が長いほど、また花粉に対するIgE抗体の値が高いほど、PFASを合併しやすいことが報告されています。長年花粉症に悩んでいる方は特に注意が必要です。
花粉症患者の約16.8%がPFASを発症しているというデータもあります。花粉症の人が10人いたら、1〜2人はリンゴやモモなどで口のかゆみを経験している計算です。これは無視できない数字です。
なお、シラカンバ花粉症と関連するPFASでは、成人女性に多く見られる傾向があることも専門家から指摘されています。自分の花粉症の種類と照らし合わせて、どの食品に注意すべきかを把握しておくことが第一歩です。
日本小児アレルギー学会|アレルギーガイドライン2021 第14章 花粉-食物アレルギー症候群(治療の基本・原因食品の分類)
PFASの治療の第一歩は「原因となる食物を除去すること」です。ただし、これは「一生その食品を食べられない」という意味ではありません。加熱調理で状況が大きく変わることが多いのです。これが基本です。
PFASの原因アレルゲンの約9割は「PR-10(病態関連タンパク質グループ10)」や「プロファイリン」という、熱に非常に不安定なタンパク質によるものです。これらは60〜70℃以上に加熱するとタンパク質の構造が壊れ、アレルゲンとしての活性を失います。つまり、生のリンゴでは症状が出ても、アップルパイや加熱したリンゴジャムなら食べられる場合がほとんどです。缶詰やゼリー、コンポートなどの加工品も同様に、摂取できるケースが多いと報告されています。
ただし、例外があります。注意が必要です。原因アレルゲンが「LTP(脂質移送タンパク質)」や「GRP(ジベレリン結合タンパク質)」である場合、これらは熱にも消化酵素にも強く、加熱しても分解されにくいため、火を通した食品やジュースでも症状が出ることがあります。LTPはヨモギ花粉症から発症するケースが多く、GRPはスギ・ヒノキ花粉症の人に関連します。割合としてはPFAS全体の約1割と少数ですが、症状が重くなりやすいため見逃せません。
加熱すれば安心というわけではないということですね。自分の原因アレルゲンの種類を把握することが、安全な食生活の鍵になります。
また、生の果物をスムージーにして大量に飲む場合にも注意が必要です。液体のため胃酸で薄まりにくく、アレルゲンが消化されないまま腸から吸収されやすくなることが指摘されています。「少量なら症状が出ないのに、スムージーを飲んだら全身に症状が出た」というケースが報告されているのはこのためです。
浦和皮膚科アレルギー科|口腔アレルギー症候群(OAS/PFAS)の治療・食物回避・薬物療法の詳細解説
「豆腐や納豆は食べられるのに、豆乳を飲んだら全身に蕁麻疹が出た」——このような経験を持つ方が一定数います。これはPFASのなかでも特に注意が必要なケースです。
豆腐や納豆は製造工程で高温処理されるため、アレルゲンとなるタンパク質「Gly m 4(大豆PR-10)」が熱で変性・不活化されています。一方、豆乳は加熱の程度が豆腐ほど高くないため、Gly m 4が活性を保ったままになりやすい製品が存在します。さらに液体のため一度に大量を飲み込みやすく、胃酸での希釈や分解が不十分になりがちです。これが豆乳で症状が出やすい原因です。
実際、豆乳入りプロテインを一気に飲んで救急搬送された例が複数報告されています。これは健康志向の人が陥りやすいパターンです。「大豆製品は食べられているから大丈夫」と油断しないことが大切です。
また、普段は症状が軽くても、次のような状況では症状が悪化しやすいことが知られています。
これらは「コファクター(アレルギー増悪因子)」と呼ばれ、単独では問題のない量の食品でも、コファクターが重なることで重篤な反応に発展することがあります。
このリスクを正確に把握したい方は、アレルギー専門医の受診で「特異的IgE検査(Gly m 4など)」を行うことで自分のアレルゲンの種類と感作の程度を確認できます。まず検査が条件です。
もとまち子ども医院(北海道)|豆乳とPFAS・シラカバ花粉症との関係、アナフィラキシーリスクの詳細
PFASに対して現在できる治療の選択肢は、大きく3つに分けられます。それぞれの役割を正確に理解しておくことが、症状をコントロールするうえで重要です。
① 抗ヒスタミン薬(予防内服・症状出現時の内服)
症状が出る可能性がある食品を食べる前に、抗ヒスタミン薬を予防的に内服することで、口腔症状を軽減できると「特殊型食物アレルギーの診療の手引き2015」で推奨されています。症状が出てしまった場合も、効果が速やかに発現するタイプの抗ヒスタミン薬を内服することで症状を和らげることができます。ただし、これは対症療法です。根本的な治療ではありません。
薬を選ぶ際は、最高血中濃度に到達する時間が短い製品が適切とされています。具体的な薬剤の選択は医師に相談することをおすすめします。
② 舌下免疫療法(スギ・ダニ対応)
現在、日本では「スギ花粉」と「ダニ」に対して保険適用の舌下免疫療法が確立されています。費用は初回受診時が約4,000〜5,000円(3割負担)、その後の通院は月2,000〜3,000円程度です。治療期間は3〜5年が目安です。
スギ花粉に対する舌下免疫療法を続けると、スギ花粉症状の67%が改善し、17%が完全に寛解するという調査結果があります。さらに、スギ花粉とトマトの間には交差反応があることから、スギ花粉の舌下免疫療法でトマトへの反応も改善する可能性が期待されています。これは使えそうです。
一方で、シラカンバ花粉に対する舌下免疫療法は日本ではまだ保険適用がなく、PFASの原因食物そのものに対する経口免疫療法も現時点では確立されていません。
③ エピペン®(アドレナリン自己注射)
過去にアナフィラキシーを経験したことがある方、または今後アナフィラキシーのリスクが高いと医師が判断した方には、エピペン®が処方されます。エピペン®は常に携帯し、アナフィラキシーが疑われた場合にすぐ自己注射することで、症状の進行を防ぎ救急搬送までの時間を稼ぐことができます。自己注射後は、症状が一時落ち着いても遅発性のショックが起こることがあるため、必ず医療機関を受診することが原則です。
なお、現状ではPFASに対する根本的な治療法は確立されておらず、自然に治る可能性も低いとされています。しかし、花粉免疫療法のPFASへの応用研究が世界中で進んでおり、将来的な治療法確立が期待されている分野です。
藤田医科大学アレルギーセンター|Q&A「花粉-食物アレルギーは治るか」「舌下免疫療法・皮下免疫療法の研究」
昭和医科大学(呼吸器内科)|PFASのアレルゲンコンポーネント別の治療・診断・注意点の詳細解説
PFASの症状は、花粉が飛んでいない時期でも起こります。これは多くの方が見落としているポイントです。花粉症の季節が終わったからといって、果物や野菜のアレルギー反応が消えるわけではありません。
ただし、花粉の飛散量が多い時期(例えばスギ花粉なら2〜5月)には、体全体のアレルギー反応が高まっているため、同じ食品を食べても症状が強く出やすい傾向があります。花粉が多い時期は特に注意が必要です。
日常生活でリスクを管理するための具体的なポイントをまとめます。
また、花粉症の薬(抗アレルギー薬)をしっかり服用して花粉症そのものをコントロールすることが、PFASの症状の安定にもつながることが示されています。「花粉症の薬を飲んでいたら、果物のかゆみも少し減った気がする」という経験者の声は医学的にも根拠のある話です。
花粉症と食物アレルギーは連動しているということですね。どちらか一方だけを管理するのではなく、両方をセットで考えることが症状の安定につながります。
まずは自分がどの花粉に感作されているかを血液検査(特異的IgE検査)で確認し、それに関連する食品を把握することから始めましょう。アレルギー科・耳鼻科・皮膚科で相談できます。
あおいろ耳鼻咽喉科|花粉と食物アレルギーの関係・花粉症の薬でPFAS症状をコントロールする方法