

生の果物を食べると口がかゆくなるのに、ジャムなら平気——そんな経験はありませんか?
プロフィリンとは、植物の細胞骨格を形成する分子量約14kDa(キロダルトン)の低分子タンパク質で、ほぼすべての植物に含まれています。イネ科やキク科の花粉にとくに多く存在し、同時にメロン・バナナ・トマト・セロリなど多種多様な食物にも含まれています。
花粉症の人がこのプロフィリンに感作(免疫が「敵」と認識した状態)されると、花粉と構造が似た食物のプロフィリンに対しても免疫系が誤って反応します。これが「交差反応」と呼ばれる仕組みです。
つまり原因は食物そのものではなく、花粉が先です。
たとえば、イネ科の花粉症がある場合、メロン・スイカ・バナナで口がかゆくなることがあります。キク科の花粉症がある場合は、さらにセロリ・クミン・コリアンダーなどのスパイス類にも反応が出ることが知られています。口や喉がかゆくなったり、イガイガする症状(口腔アレルギー症候群:OAS)として現れることがほとんどで、花粉症の患者さんが特定の食物を食べることで起こるこの病態を「花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)」と呼びます。
「口の中だけ」という症状が特徴です。
PFASはこれまで軽症と考えられてきましたが、患者さんの約1〜2%の確率でアナフィラキシーショックに至る可能性があると報告されており、油断は禁物です。
食物アレルギー診療ガイドライン2021|花粉-食物アレルギー症候群の定義と治療の基本について掲載
プロフィリンによるアレルギーは、感作している花粉の種類によって、反応しやすい食物が変わります。以下の代表的な組み合わせを知っておくと、日常の食事管理がしやすくなります。
| 原因花粉 | 反応しやすい食物の例 |
|---|---|
| イネ科(カモガヤ等) | メロン・スイカ・バナナ・トマト・オレンジ |
| キク科(ブタクサ・ヨモギ) | メロン・スイカ・バナナ・セロリ・クミン・コリアンダー |
| カバノキ科(シラカバ・ハンノキ) | リンゴ・モモ・洋ナシ・大豆(豆乳)・ヘーゼルナッツ |
この表で重要なのは、「一人の患者が複数の原因食物を持つことが多い」という点です。たとえばイネ科花粉症の場合、メロンだけでなくスイカやバナナにも注意が必要になります。メロン1つを避けるだけでは不十分なことがあります。
花粉ごとに「関係する食物グループ」を把握することが基本です。
また、プロフィリンは多くの植物に共通して存在するため、一度プロフィリンに感作されると、複数の花粉・食物にまたがって反応する「多感作」の状態になりやすい点も特徴です。アレルゲンコンポーネント特異的IgE検査(後述)を受けることで、自分がどの花粉に感作されているか、そしてどの食物グループに注意すべきかを具体的に把握することができます。
日本アレルギー学会|口腔アレルギー症候群の原因食物と花粉の対応関係について解説
「生のリンゴを食べると口がかゆいのに、リンゴジャムは全然平気」——これはプロフィリンアレルギーの患者さんが最もよく経験する、不思議でいて、実は理にかなった現象です。
プロフィリンは熱・酸・消化酵素に対して非常に不安定なタンパク質です。加熱調理(70〜80℃程度)でアレルゲンとしての立体構造が壊れ、免疫が「花粉と同じものだ」と勘違いしなくなります。
これは使えそうです。
具体的には、以下のような調理・加工の方法が有効です。
ただし、すべての人・すべての食物に当てはまるわけではありません。プロフィリン以外のアレルゲン(熱に安定なLTPや貯蔵タンパク質など)が関与している場合、加熱しても症状が出ることがあります。とくにモモやナッツ類では、LTPというより重篤な症状を引き起こしやすい成分が関与することがあるため、注意が必要です。
「加熱すれば大丈夫」は全員に当てはまりません。
たとえば、大豆由来のPFASでは豆腐・納豆・醤油・味噌は比較的安全ですが、豆乳は大豆のアレルゲンタンパク質を多く含むため注意が必要とされています。加熱の有無だけでなく、加工・発酵の程度によっても反応が異なります。
自分がプロフィリン主体のアレルギーなのかどうかを確認するには、「アレルゲンコンポーネント特異的IgE検査」(血液検査)が役立ちます。検査を受けた後に医師と一緒に「食べてよいもの・避けるもの」のリストを作成しておくと、日常生活の管理がぐっと楽になります。
食物アレルギーの診療の手引き2023(食物アレルギー研究会)|プロフィリンの熱安定性と食物除去の考え方について記載
「果物を食べると口がかゆい」という症状があっても、通常の血液検査(粗抗原に対する特異的IgE検査)ではアレルギーが検出されないことがあります。これは、粗抗原の中にプロフィリンが少量しか含まれていない場合があるためです。
見逃されやすい、というのが正直なところです。
そこで有効なのが「アレルゲンコンポーネント特異的IgE検査」です。これは、アレルゲンを構成するタンパク質の種類ごとに特異的IgE抗体を測定する検査で、従来の検査よりも精度の高い診断が可能になります。
この検査でわかる主な情報は次のとおりです。
検査費用は、保険診療の場合は13項目まで約5,000円(3割負担)が目安です。結果は通常1週間程度で出るため、次回の受診時に詳しい説明を受けることができます。
アレルギー専門医を受診するのが条件です。
また、アナフィラキシーの既往がある場合、または豆乳・スパイスなど重篤な症状を引き起こしやすい食物でアレルギーが出たことがある場合は、アドレナリン自己注射薬(エピペン®)の携帯が推奨されます。いざというときのために、処方を検討することをアレルギー専門医に相談してみましょう。
日本アレルギー学会|アレルゲンコンポーネントの測定意義と診断精度の向上について詳解
プロフィリンによるかゆみや口腔症状の根本原因は、食物そのものではなく「花粉への感作」にあります。そのため、食物を避けるだけでなく、花粉症の治療を積極的に進めることが、長期的な改善につながる重要な選択肢です。
花粉症の免疫療法(アレルゲン免疫療法)とは、原因となる花粉アレルゲンを少量から体内に取り込み、免疫を徐々に慣らすことでアレルギー反応を抑制していく治療法です。現在、スギ花粉とダニに対する舌下免疫療法が保険適用で受けられます。
治療期間は3〜5年程度が目安です。
花粉症に対する舌下免疫療法を受けた患者さんを対象にした調査では、「改善した」「以前より楽になった」と回答した割合が97%を超えたという報告があります(東京新聞2025年5月報道)。また、カバノキ科花粉症の舌下免疫療法では、果物・野菜アレルギーの症状も連動して改善する可能性が複数の研究で示されています。
完治するわけではありませんが、日常生活の質は大きく変わります。
治療の流れとしては、まず医療機関でアレルゲン検査を受けて原因花粉を特定し、舌下免疫療法の適応かどうかを確認します。治療開始後は、毎日自宅で舌下に薬液を保持する手順を継続します。月1〜2回程度の通院で管理されるため、忙しい人でも続けやすい治療法です。
保険適用で月2,000〜3,000円(3割負担)程度が目安のため、経済的な負担も比較的小さいです。
「食べるたびに口がかゆくなる」という状況を、我慢や除去食だけで乗り越えようとするより、根本原因の花粉感作にアプローチすることで、食の選択肢を広げることができます。まずはかかりつけ医やアレルギー専門医に、免疫療法の相談をしてみることをお勧めします。
食物アレルギー診療ガイドライン2021(日本小児アレルギー学会)|PFASの診断・治療の指針と免疫療法の位置づけについて記載