

かゆみが強い傷には、乾燥させる方が早く治ると思っていませんか?実は湿潤環境を保つ被覆材を使った方が、かゆみが約40%軽減されたという臨床報告があります。
創傷被覆材(そうしょうひふくざい)とは、皮膚の傷口を覆い、治癒を促進するために使用する医療材料の総称です。単純に「絆創膏の高機能版」というイメージを持つ方も多いですが、実際にはその機能は大きく異なります。
従来のガーゼは傷を乾燥させることで治癒を促すという考え方に基づいていました。しかし1960年代にGeorge Winter博士が発表した研究により、湿潤環境を保つ方が傷の治癒速度が約2倍速いことが証明されました。これは大きな転換点です。
現代の創傷被覆材は、この「湿潤療法(モイストヒーリング)」の考え方をベースに設計されています。傷口を適度な湿潤状態に保つことで、新しい細胞の移動を助け、痛みやかゆみを軽減することが目的です。
かゆみが生じる主な原因の一つは、傷が乾燥してかさぶたができる過程で神経末端が刺激されることにあります。つまり、適切な被覆材で湿潤環境を保てば、かゆみそのものを予防できる可能性があります。これは使えそうです。
また、被覆材には大きく分けて「一次被覆材(傷に直接当てるもの)」と「二次被覆材(一次被覆材の上に重ねるもの)」という分類もあります。一覧を確認する前に、この基本を押さえておくと選びやすくなります。
創傷被覆材は素材と構造によって6つの主要タイプに分類されます。それぞれの特性を知ることが、かゆみ対策の第一歩です。
① ハイドロコロイド系
代表製品はコンバテック社の「デュオアクティブ」やスミス&ネフューの「コムフィール」などです。内側のゲル化素材が傷の浸出液を吸収し、ゲル状になることで湿潤環境を維持します。
薄いフィルム層で覆われているため防水性があり、入浴中も使用可能です。浸出液が少ない~中程度の傷(擦り傷、褥瘡の初期など)に適しています。一般的な交換頻度は3〜7日に1回程度で、貼り替え回数を抑えられる点がかゆみの軽減につながります。
ただし、浸出液が多い傷には向きません。また、剥がすときに皮膚が引っ張られてかゆみが生じることがあるため、剥がす方向には注意が必要です。
② フォーム(ポリウレタンフォーム)系
代表製品はモルテン社の「メピレックス」やスミス&ネフューの「アルレビン」です。スポンジ状の構造が多量の浸出液を吸収し、外側への漏れを防ぎます。
吸収力が高いため、浸出液が中程度〜多い傷に適しています。フォームの柔らかな感触が傷周囲の皮膚への刺激を和らげ、圧迫感によるかゆみを軽減する効果も期待できます。交換頻度は浸出液の量によりますが、1〜3日に1回程度が目安です。
③ アルギン酸塩系
代表製品はコンバテック社の「カルトスタット」やスミス&ネフューの「ソーブサン」です。海藻由来の繊維から作られており、浸出液と接触するとゲル化します。
止血作用があるため、出血を伴う傷にも使用できます。大量の浸出液がある傷(深い褥瘡・感染創など)に特に有効です。これが基本です。ゲル化すると傷にほとんど付着しないため、剥がす際の痛みやかゆみが非常に少ない点が特徴です。
④ ハイドロジェル系
代表製品はコンバテック社の「インラプサール」などです。水分含有量が高いゲル素材で、乾燥した傷に潤いを補給する役割を担います。
壊死組織の自己融解を促進する効果があり、難治性潰瘍の管理で使われることが多いです。乾燥による皮膚のつっぱり感やかゆみを和らげる効果が高く、特に高齢者の皮膚乾燥に由来するかゆみには有効です。
⑤ ポリウレタンフィルム系
代表製品は3M社の「テガダーム」などです。極薄の透明フィルムで、防水性・透湿性を兼ね備えています。
傷の状態を外から視認できる点が大きな強みです。浸出液がほとんどない表皮損傷や、他の被覆材の二次被覆として使用されることが多いです。薄くて目立たないため、顔や関節部など動きが多い部位にも適しています。
⑥ シリコーン系(シリコーンフォーム含む)
代表製品はモルテン社の「メピレックス ボーダー」や「メピレックス ライト」です。粘着層がシリコーン素材であるため、皮膚への接着力はありながら、剥がす際の皮膚への刺激が最小限に抑えられます。
敏感肌・高齢者の薄い皮膚・小児の皮膚など、粘着剤によるかゆみや皮膚損傷(MARSI:医療関連皮膚損傷)のリスクが高い方に特に推奨されます。繰り返し貼り替えが必要な場面でも皮膚ダメージが蓄積しにくいです。
被覆材を選ぶ際に最初に確認すべきは「浸出液の量」です。これが選択の最重要指標になります。
浸出液が少ない(傷がほぼ乾燥している)場合はハイドロジェル系またはハイドロコロイド系が適しています。傷に水分を補いながら、湿潤環境を作り出す機能を持つためです。逆に浸出液が多い傷にこれらを使うと、ゲルが飽和して漏れ出し、周囲の皮膚が浸軟(ふやける)してかゆみが増すことがあります。
浸出液が中程度の場合はフォーム系やハイドロコロイド系が選ばれます。浸出液が多い場合はアルギン酸塩系が第一選択となることが多いです。
次に確認するのが「傷の深さ」です。表皮のみの浅い傷にはフィルム系・ハイドロコロイド系、真皮・皮下組織に達する深い傷にはアルギン酸塩系・フォーム系が使われます。深い傷に薄いフィルム材のみを使うと、内部で液体が溜まり感染リスクが高まるため注意が必要です。
かゆみの程度や原因も重要な判断材料です。
- 粘着剤刺激によるかゆみ:シリコーン系を選ぶ
- 乾燥・かさぶた形成によるかゆみ:ハイドロコロイド系・ハイドロジェル系を選ぶ
- 浸出液による皮膚の浸軟から来るかゆみ:フォーム系・アルギン酸塩系に変更する
- 感染に伴うかゆみ・熱感がある場合:被覆材の変更前に医療機関への受診が優先
また、貼る部位も選択に影響します。関節部や顔まわりなど動きが多い部位にはフィルム系・シリコーン系の柔軟なものが、踵や仙骨部のように圧迫がかかりやすい部位には厚みのあるフォーム系が推奨されます。
選び方に迷った場合は、まず傷の状態を3つの視点(浸出液量・深さ・かゆみの原因)で整理することが近道です。
被覆材の交換頻度は、多くの方が「毎日変えるほど清潔で良い」と思いがちです。これは大きな誤解です。
頻繁な貼り替えは皮膚バリア(角質層)を繰り返し損傷し、皮膚の保護機能を低下させます。特に粘着型の被覆材を毎日剥がし続けると、皮膚の薄い高齢者や乳幼児では表皮剥離が起きることもあります。これをMARSI(Medical Adhesive-Related Skin Injury:医療用粘着剤関連皮膚損傷)といい、日本でも看護現場での問題として注目されています。
基本的な交換頻度の目安は以下の通りです。
| 被覆材の種類 | 交換頻度の目安 |
|---|---|
| ハイドロコロイド系 | 3〜7日に1回 |
| フォーム系 | 1〜3日に1回(浸出液量による) |
| アルギン酸塩系 | 1〜2日に1回(浸出液量による) |
| ハイドロジェル系 | 1〜3日に1回 |
| フィルム系 | 3〜7日に1回 |
| シリコーン系フォーム | 3〜5日に1回 |
ただし、「被覆材が浮いてきた」「浸出液が漏れ出ている」「発赤・熱感・膿が確認できる」場合は、上記の期間内でも交換が必要です。感染が疑われる場合は医療機関へ相談してください。
剥がし方も重要です。
皮膚を保護しながら剥がすには、被覆材の端を持ってゆっくりと皮膚と平行に引き剥がすのが基本です。垂直に引き上げると皮膚を引っ張り、損傷の原因になります。また、剥がす前に濡れたガーゼや生理食塩水を使って端部を湿らせると、粘着力が和らぎ皮膚への刺激を減らせます。
シリコーン系被覆材の場合は、指で少し押しながら端をめくると、ほぼ抵抗なく剥がせます。これがシリコーン系の最大の利点です。
Minds診療ガイドライン|褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版):皮膚損傷の予防
被覆材を使い始めてからかゆみが増した、という経験はありませんか?これは傷の治癒過程によるかゆみではなく、被覆材の粘着剤や素材に対するアレルギー反応である可能性があります。
被覆材に使われる粘着剤の多くはアクリル系またはゴム系です。これらに対するアレルギーがある方は、貼った部位が赤くなったり、境界線に沿って蕁麻疹状のかゆみが現れたりすることがあります。かゆみが「傷の中心」ではなく「被覆材の端(粘着部分)」に集中している場合は、粘着剤アレルギーを疑うべきです。これが条件です。
確認方法としては、まず現在使用している被覆材の添付文書で粘着剤の素材を確認します。アクリル系粘着剤でかゆみが出た場合は、シリコーン系粘着剤の製品(メピレックスシリーズなど)に変更することで改善するケースがほとんどです。
ラテックス(天然ゴム)アレルギーがある方は、ラテックスフリー表示のある製品を選ぶことが必須です。多くの医療用被覆材はラテックスフリー設計ですが、念のため確認することを推奨します。
また、防腐剤や抗菌剤が配合された被覆材(ポビドンヨード含有タイプなど)も、皮膚感受性の高い方には刺激になることがあります。抗菌性の被覆材は感染創への短期使用を前提に設計されているものが多いため、感染がない通常の傷には使い続けると過剰な刺激になりえます。
医療機関では「パッチテスト(貼付試験)」を行い、特定の素材に対するアレルギーの有無を調べることができます。同じ被覆材を替えてもかゆみが続く場合や、かゆみが強く水疱が形成される場合は、皮膚科または形成外科への受診が賢明です。
かゆみの原因を「傷のせい」と決めつけずに、被覆材そのものが原因でないかを一度確認することが、長引くかゆみを解決する近道になることがあります。
日本皮膚科学会|接触皮膚炎(かぶれ)についてのQ&A:粘着剤アレルギーの基礎知識
創傷被覆材には「一般医療機器」として市販されているものと、「高度管理医療機器」として医療機関の処方・指示が必要なものがあります。この区別を知らないまま使うと、適切でない製品を選んでしまうリスクがあります。
市販品として入手できる主な製品には以下があります。
| 製品名 | 種類 | 販売元 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| キズパワーパッド(大判・ふつうサイズ) | ハイドロコロイド | ジョンソン&ジョンソン | 最も普及している市販ハイドロコロイド |
| ケアリーヴ 治す力 | ハイドロコロイド | ニチバン | 薄型でフィット感が高い |
| バンドエイド キズパワーパッド 靴ずれ用 | ハイドロコロイド | ジョンソン&ジョンソン | 踵・足指専用の形状 |
| テガダーム(3M) | ポリウレタンフィルム | 3M | 透明で目立たず、防水性が高い |
| ネクストケアウォータープルーフ | ポリウレタンフィルム | 3M | 入浴・水仕事にも耐える |
一方、医療機関での処方・使用が基本となる製品は以下のようなものです。
| 製品名 | 種類 | 主な適応 |
|---|---|---|
| デュオアクティブCGF | ハイドロコロイド | 褥瘡・下腿潰瘍 |
| メピレックス ボーダー | シリコーンフォーム | 高リスク皮膚・褥瘡予防 |
| カルトスタット | アルギン酸塩 | 大量滲出液を伴う創傷 |
| アクアセル(ハイドロファイバー) | ハイドロファイバー | 感染リスクのある深い創傷 |
| インラプサール | ハイドロジェル | 壊死組織の自己融解促進 |
市販のハイドロコロイド製品(キズパワーパッドなど)は、擦り傷や靴ずれ程度の浅い傷には非常に有効で、かゆみの軽減にも効果が高いです。しかし、傷が深い・感染している・糖尿病などの基礎疾患がある場合は、市販品での対応には限界があります。
医療機関では在宅での使用を想定した指導のもと、高機能な被覆材が提供されることも多いです。かかりつけ医や訪問看護師と相談しながら選ぶことが、最終的に最も効率よくかゆみと傷を管理する方法となります。
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