常在菌叢とは何か、皮膚フローラとかゆみの関係

常在菌叢とは何か、皮膚フローラとかゆみの関係

常在菌叢とは何か、皮膚と腸のフローラがかゆみに深く関わっている

お風呂上がりに丁寧に洗っているのに、かゆみが悪化するとしたら驚きませんか?実は、洗いすぎで「かゆみを防ぐ菌」が減っているかもしれません。


この記事の3ポイント
🦠
常在菌叢(じょうざいきんそう)とは

皮膚・腸・口腔など体の各部位に常にすみ着く微生物の集団。皮膚だけで約1兆個・20種類以上が存在し、バリア機能とかゆみ抑制に深く関わっています。

🔬
かゆみの意外な原因は「菌バランスの乱れ」

表皮ブドウ球菌(美肌菌)が減ると黄色ブドウ球菌が増殖し、神経に直接働きかけてかゆみを引き起こすことがハーバード大学の研究で明らかになっています。

💡
腸と皮膚はつながっている「腸皮膚相関」

腸内フローラの乱れが皮膚のかゆみ・炎症を悪化させる「腸皮膚相関(gut-skin axis)」が注目されています。かゆみ対策は皮膚だけでなく腸内環境からもアプローチできます。


常在菌叢(じょうざいきんそう)の意味と体内での3大フローラ

常在菌叢」という言葉を初めて聞いたとき、何か特別なものに感じるかもしれません。しかし、これはあなたの体の皮膚・腸・口腔に今この瞬間も存在している微生物の集団のことです。


「常在菌叢(じょうざいきんそう)」とは、健康な人の体の特定の部位に日常的にすみ着いている微生物(主に細菌)の集合体のことを指します。英語では「ノーマルフローラ(Normal flora)」とも呼ばれ、近年では「マイクロバイオーム」という用語も同じ概念として広く使われています。つまり常在菌叢とは、体の外来から来た病原菌ではなく、もともと体と共生している菌の「生態系」そのものです。


ヒトの体における代表的な菌叢は、多い順に「腸内細菌叢」「口腔細菌叢」「皮膚細菌叢」の3つです。なかでも腸内細菌叢は最も研究が進んでおり、腸内には約1,000種類・100兆個もの細菌が存在すると言われています。これは人体を構成するすべての細胞(約37兆個)の約3倍近い数です。


皮膚細菌叢(スキンフローラ)については、一人の皮膚の表面や毛穴に約20種類・数百億個の常在菌がすみ着いていることが分かっています。皮膚の表面積は成人で約1.6㎡(ほぼ一畳分)あり、そこに約1兆個の細菌が均等にすみ着いていると推定されています。腸内の100兆個と比べると少ないように見えますが、これだけの菌が協力して皮膚のバリアを守っているのです。重要なのはその数より「バランス」です。


膨大な数の常在菌は、その機能から「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌(ひよりみきん)」の3種類に分けられます。日和見菌は普段は中立ですが、善玉菌が減ると悪玉菌側に加勢します。つまり、善玉菌が優勢なうちはかゆみや炎症が抑えられるということですね。


MSDマニュアル家庭版「常在菌叢」― 常在菌叢の基本的な定義と役割について、医学的に詳しく解説されています


常在菌叢の皮膚かゆみ抑制メカニズム:表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌の関係

かゆみが起きるしくみを考えるとき、多くの人は「乾燥」や「アレルギー」を思い浮かべます。しかし実は、皮膚の常在菌叢のバランス崩壊が直接かゆみの引き金になっているケースがあります。これは見落とされがちな視点です。


皮膚の常在菌の中でもっとも重要なのが「表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)」と「黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)」の2種類です。


表皮ブドウ球菌はいわゆる"美肌菌"で、次の3つの働きを持っています。


- 皮脂をリパーゼ(酵素)で分解し、グリセリン(保湿成分)と遊離脂肪酸(弱酸性成分)を作り出すことでバリア膜を形成する
- 黄色ブドウ球菌の定着を防ぐ酵素(セリンプロテアーゼ)を分泌する
- 活性酸素(肌の老化・炎症の原因)を消去する酵素を分泌する


資生堂の研究では、表皮ブドウ球菌の存在比率が高いほど肌水分量が高く、赤みが低いという相関が確認されています。また敏感肌の人は非敏感肌の人に比べて、皮膚常在菌叢の多様性が有意に低く、表皮ブドウ球菌も少ないことが判明しました。


逆に、悪影響を及ぼすのが黄色ブドウ球菌です。この菌はアトピー性皮膚炎の病変部で顕著に増殖しており、かゆみの大きな悪化因子として知られています。2023年にCell誌(ハーバード大学)に掲載された研究では、黄色ブドウ球菌が産生する「V8プロテアーゼ」が、皮膚の感覚神経に発現する「PAR1受容体」に直接結合してかゆみシグナルを発生させることが証明されました。これは非常に意外な発見です。


従来、かゆみはマスト細胞からのヒスタミン放出という免疫系の経路で起きると考えられていました。しかし、この研究では免疫系を介さず細菌が神経に直接働きかけることが明らかになり、抗ヒスタミン剤が効かないかゆみのメカニズムの一つとして注目されています。かゆみ治療の新しい可能性が見えてきたということですね。


AASJ「常在黄色ブドウ球菌は直接神経に働いてかゆみを引き起こす」― Cell掲載論文を京都大学名誉教授が解説。黄色ブドウ球菌とかゆみの最新メカニズムが詳しく分かります


資生堂「敏感肌では皮膚常在菌叢の多様性が低いことを発見」― 表皮ブドウ球菌と肌水分量・赤みの相関データが掲載されています


常在菌叢の乱れがかゆみを悪化させる:洗いすぎ・抗菌グッズの意外なリスク

かゆいから念入りに洗う、清潔にする。これはごく自然な行動です。しかし、それが逆効果になっているケースがあります。


皮膚の常在菌叢はデリケートな生態系です。過度な洗浄や抗菌石鹸の使用によって、善玉菌である表皮ブドウ球菌が失われると、黄色ブドウ球菌が一気に増殖しやすい環境が生まれます。アトピー性皮膚炎の患者でかゆみが悪化するサイクルの一因はここにあります。


具体的に菌叢バランスが乱れる主な原因を整理すると、次のようなものが挙げられます。


- 抗菌・殺菌成分入り石鹸の毎日使用(善玉菌ごと除去する)
- ナイロンタオルなどで肌を強くこする(物理的に菌叢を破壊する)
- 抗菌薬(抗生物質)の使用(腸内・皮膚双方の常在菌叢を変化させる)
- 極端な乾燥(表皮ブドウ球菌が棲みにくいアルカリ性環境になる)


ここで注意したいのは「無菌=良い」という思い込みです。完全な無菌状態の肌は、かえって外部の病原菌や刺激物に無防備になります。これが基本です。


では具体的にどうすればいいかというと、「菌叢を守る洗い方」を意識することが重要です。ポイントは、石鹸は泡立ててから指の腹で優しく洗い、すすぎ残しなく流すこと。強い抗菌石鹸は日常使いせず、弱酸性や低刺激タイプのボディソープを選ぶことが皮膚科医からも推奨されています。また、入浴後は10分以内に保湿剤を塗ることで表皮ブドウ球菌が好む「弱酸性・高水分」な皮膚環境を維持できます。


洗い方を変えるだけで菌叢のバランスが改善される可能性があります。これは使えそうです。


常在菌叢と腸皮膚相関(gut-skin axis):腸内フローラのかゆみへの影響

「お肌と腸は裏返し」という言葉があります。これは俗語のように聞こえますが、医学的な根拠のある概念です。


「腸皮膚相関(gut-skin axis)」とは、腸と皮膚が相互に影響し合う関係性のことで、1930年代に皮膚科学者のストークスとピルズベリーによって最初に提唱されました。現代の研究では、腸内細菌叢の乱れがアトピー性皮膚炎・ニキビ・乾癬などの炎症性皮膚疾患の発症や悪化に関与することが多くの論文で示されています。


腸内フローラが皮膚に影響を与える経路は主に3つ考えられています。


- リーキーガット(腸もれ)経路:腸管バリアが弱まると細菌・毒素が血液中に流れ出し、全身性の炎症を引き起こしてかゆみや皮膚炎を悪化させる
- 免疫経路:腸内細菌叢が乱れると腸の免疫細胞が異常活性化し、皮膚の炎症反応が強まる(アレルギー症状の悪化につながる)
- 神経ペプチド経路(サブスタンスP):腸と皮膚の両方に存在するサブスタンスPが増加すると、皮膚のかゆみや血管拡張が起こりやすくなる


日本獣医生命科学大学の2026年の研究でも、成人のアトピー性皮膚炎の悪化と腸内細菌叢の乱れには性別差を超えた関連性があることが報告されています。腸内環境が乱れるとかゆみが悪化する、というのが原則です。


腸内フローラのバランスを整えるためのアプローチとしては、プロバイオティクス(善玉菌を直接摂取)とプレバイオティクス(善玉菌のエサとなる食物繊維などを摂取)の組み合わせが注目されています。例えば森永乳業のビフィズス菌M-16Vを摂取した研究では、アトピー性皮膚炎の乳幼児のビフィズス菌割合が増加し、症状緩和が見られたことも報告されています。


かゆみが皮膚と腸の両方に関係するなら、アプローチも2方向から考えられます。痒みに悩んでいる場合、まずヨーグルト・発酵食品・食物繊維を意識的に摂る生活習慣の見直しをスタート地点にしてみましょう。


国立市富士見台クリニック「腸皮膚相関(gut-skin axis)」― 腸と皮膚がつながる複数の経路・最新研究・サブスタンスPの役割まで網羅的に解説されています


常在菌叢を整えてかゆみを和らげる「マイクロバイオームケア」の独自視点:菌活スキンケアとは

従来のかゆみ対策は「保湿・ステロイド・抗ヒスタミン剤」が中心でした。しかし今、スキンケアに「菌叢バランスを整える」という新しいアプローチが加わりつつあります。


「マイクロバイオームケア」または「菌活スキンケア」と呼ばれるこの考え方は、皮膚の常在菌叢(スキンフローラ)を保護・育成することを目的とします。具体的には次の3つの方向性があります。


| アプローチ | 内容 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| プロバイオティクス配合化粧品 | 生菌または死菌・菌由来成分を配合 | 肌フローラのバランスを整える |
| プレバイオティクス配合化粧品 | 善玉菌のエサ(多糖類・オリゴ糖など)を配合 | 表皮ブドウ球菌を選択的に増やす |
| ポストバイオティクス配合化粧品 | 菌の代謝物(短鎖脂肪酸・乳酸など)を配合 | バリア機能を直接強化する |


資生堂は2020年に、サッカロミセス抽出エキスを含むプレバイオティクス成分を配合した基剤が肌水分量とキメを改善し、とくに菌叢の多様性が低い肌で効果が顕著だったと発表しています。菌叢の多様性が低い肌というのは、まさにかゆみや赤みに悩みがちな敏感肌・アトピー肌のことです。


こうした成分を選ぶポイントは「殺菌ではなくバランス調整」を意識することです。成分表で「乳酸桿菌発酵液」「ビフィドバクテリウム発酵液」「サッカロミセスエキス」などが記載されている製品がこのカテゴリに当たります。ただし、医薬品ではなく化粧品扱いのため、医療的な治療の代替にはなりません。


かゆみが続く・アトピーが疑われる場合は、まず皮膚科で菌叢に関連する検査や適切な治療を受けることが最優先です。その上で日常のスキンケアや食生活の見直しとして「菌活」を取り入れていくことが、かゆみを根本から和らげる近道になりえます。腸内と皮膚、両方のフローラを意識することが条件です。